マイナビニュース +Digital(プラスデジタル)をご覧の皆さん、こんにちは。ライターの工藤寛顕です。なんとこのたび、こうして僕の連載がスタートすることになりました!
以前からマイナビニュースさんではいくつかの記事を書かせていただいておりましたが、もともとポータブルオーディオ界隈で活動しているライターであるにも関わらず、なぜかコラボ物の調理家電をレビューしたり、PS5でモリモリ遊んだりと、僕の趣味嗜好に物凄くマッチした企画をたくさん提案いただいておりました。それだけに、僕自身のパーソナルな感覚にさらにフィーチャーした場を設けていただけるというのは本当にありがたいことです。今後ともよろしくお願いいたします。
この連載では、ジャンルに限らない「ちょっと気になった製品」「ちょっと気に入った製品」などをコラム的な温度感でご紹介していけたらと思うのですが、まずは第1回ということで簡単な自己紹介をお届けいたします。
アイドルゲームが、僕をポータブルオーディオの世界に連れ出した
僕がポータブルオーディオに興味を持ったのは、さかのぼること2000年代後半。某アイドルプロデュースゲームにめちゃくちゃドハマりしたことがきっかけでした。当時はまだハイレゾ文化も普及しておらず、スマートフォンも黎明期。iPodやウォークマンをはじめとするMP3プレイヤーがまだまだ盛り上がっていた時代です。かくいう僕も、2007年発売の「iPod nano」(第3世代)などを愛用してました。
ただ、当時の僕はオーディオというか音楽自体にそこまで興味がなく、音楽に触れるといったらレンタルCDを借りてくるか、ネットで公開されている低品質な動画を観る程度。イヤホンもiPodの付属品(EarPods以前の物)を適当に使っていました。
そんな中で出会った某アイドルプロデュースゲーム、そしてアイドル達。魅力的な楽曲群もさることながら、「アイドルと真剣に向き合う」という没入感のあるカルチャーに魅了され、いつしか本気で彼女たちをプロデュースしている気持ちになっていました。
そして僕は、その作品の音楽CDへとたどり着きます。今ほど多くはないにしろ、結構な量のCDが発売されており、当時中高生だった僕がすべてをそろえるのはハードルが高かったのですが、しかしそれと同時に、強烈な「ある想い」にも駆られていました。
それは「今の僕は、アイドル達に胸を張れるのか?」ということでした。 自分がプロデュースしているアイドルに向かって、「こないだの新曲のCD、レンタルで聴いたよ」と、「ネットに上がってた奴で聴いたよ」と言えるのか。そしてそれを言われたアイドル達はどんな顔をするのか――――。
いつしか僕は、そんな妄想めいた理念(妄想そのものだけど)を抱き、「いかに音楽を正しく、良い音質で楽しむか」の探求を始めることとなります。中でも「CDを無圧縮(orロスレス)でリッピングする」というマニアックな観点は、MP3全盛期を生きていた僕には衝撃的で、それが現在まで続くポータブルオーディオオタク的な思想の発端と、未だにCDを愛好している一因であることは間違いありません。
お金を貯めて買った、初めての“高級イヤホン”「IE 80」
その後もプレーヤーをiPod touchに変更したり、ポータブルヘッドホンアンプを重ねてみたりと試行錯誤を繰り返していくのですが、やがてひとつの運命的なイヤホンに巡り会います。それがゼンハイザーの有線イヤホン「IE 80」でした。
2011年末発売、当時のいわゆる“3万円クラス”の代表的イヤホンの1つであり、同社の得意とする深みのある低音と、1DD(ダイナミックドライバー1基)ならではのアタック感、そして安価なイヤホンとは一線を画する高解像度な表現力に胸を打たれた僕は、半年ほど家電量販店に通って試聴を続け(迷惑)、その間に貯めたお金でついに購入へと至るのでした。
初めて(当時でいうところの)高級機の世界に足を踏み入れた感動は今でもハッキリと覚えていて、たまにIE 80で音楽を聴くたびにあのときの興奮がよみがえってきます。また、同時に感じた「なんだかスゴイ物を手にしてしまったぞ」という恐怖にも似た高揚感は、今にして思えば、オーディオ沼への入り口の扉を開いてしまった合図だったのかもしれません。
この頃にはアイドルゲームの楽曲に限らず、色んな音楽を聴くことが趣味になっていました。ジャンルとしてはアニメソングやゲームソングが多めではあったものの、再生機器をアップグレードすることで、逆に音楽自体の関心が上がるというのは面白い感覚でした。たとえるなら、良いトースターを買ったからパン屋巡りに興味を持った、良いテレビを買ったから色んな映画を観るようになった、みたいな。自身の環境を普段の感覚よりちょっと良い物にしてみるというのは、それだけ世界が広がるということに直結するのかもしれません。
僕のオーディオライフを支えてくれる「IER-Z1R」
とにかく、そんなこんなで音楽とオーディオが好きになっていた僕は、大学卒業後に上京、イヤホンの専門店で5年ほど働くこととなります。そこではあまりにも日常的に多くのオーディオ機器に触れるため、かつての非日常的なぜいたく感はちょっとずつ失われていったのですが、その中でも特に印象に残っている機種を挙げるとするなら、それはソニーが2019年に発売した高級イヤホン「IER-Z1R」に他なりません。
幅広い層のユーザーが手に取りやすい製品を展開するソニーの“変態性”が垣間見える21万円という価格設定と、それに見合うだけの独創的で魅力的な本体設計、そして「空気感をも描く」と称される圧倒的な音像描写力。専門店スタッフとして数多くの製品に触れた中でも、ここまで恋焦がれたイヤホンは無かったかもしれません。例によって、社会人数年目という当時の僕には(というか今でも)少々厳しい価格ではあったものの、「きっとこれからのオーディオライフを支えるパートナーとなる!」という確信の元に購入し、今でも最も使用頻度が高いイヤホンとして愛用しています。
それから僕はお店を退職し、今はこうしてライターとして記事を書くのと同時に、実はアニメソングの作詞家としても活動しております。これも振り返ってみれば「音楽を良い音で聴いてみたい」というちょっとの背伸び、その積み重ねがあったからこそかもしれません。
「自分の感覚よりもちょっと良い物を手にする」ということは、その分だけ広い世界が見えるようになるということ、そしてその体験や感動は、のちの自分を形作るほどに、ずっとずっと心に残っていくものなのだと思います。
この連載では、そうした「背伸び」のきっかけになるかもしれないような、ちょっと良いじゃん、と思える製品や体験をご紹介していきたいと思いますので、どうぞお付き合いください。お相手は工藤寛顕でした。