クボタは、2030年までの長期ビジョン「GMB2030」と、2025年を最終年度とする「中期経営計画2025」を発表した。

  • クボタの完全無人トラクター「X tractor」と北尾裕一社長

    クボタの完全無人のコンセプトトラクターと北尾裕一社長

長期ビジョン「GMB(Global Major Brand)2030」では、「豊かな社会と自然の循環にコミットする“命を支えるプラットフォーマー”」をテーマに掲げ、スマート農業による「食料の生産性・安全性を高めるソリューション」、水環境プラットフォームによる「水資源・廃棄物の循環を促進するソリューション」、資源回収ソリーションによる「都市環境・生活環境を向上させるソリューション」という、3つの新たなソリューションへの取り組みを加速する。それぞれの分野で、様々なビジネスパートナーとエコシステムを構築し、トータルソリューションを提供することを目指すとともに、各事業分野が相互に連携し、作用しあい、シナジーを生み出すことで、長期ビジョンを達成することを目指すという。

とくに、スマート農業では、穀物や野菜、果樹の収量拡大のほか、作物品質の向上、生産性向上のためのセンシング技術や分析システムの提供、自動運転技術を取り入れた自動作業機械の開発、新たなAI自動管理システムを提供。高齢化の進展などによって、減少する就労人口の減少にも対応。さらに、データを活用することで、市場で求められる作物を、適切な時期に、適切な量だけ生産し、フードロス削減にも寄与するほか、作業の効率化や収量アップにより、農地拡大を抑制することでCO2排出量を削減するとともに、森林伐採の抑制に貢献することも目指すという。

  • GMB2030の実現に向けた事業展開

このGMB2030の実現に向けた実行計画に位置づけられているのが、「中期経営計画2025」である。

経営計画でDXを明確化、スマート農業事業で成長へ

クボタは中期経営計画2025の5年間を、GMB2030の実現に向けた土台づくりを完了する期間と位置づけ、「ESG経営の推進」、「次世代を支えるGMB2030実現への基礎づくり」、「既存事業売上高の拡大」、「利益率の向上」、「持続的成長を支えるインフラ整備」の5つのメインテーマに取り組む考えを示した。

2025年度には、売上高で2兆3,000億円(2020年度実績で1兆8,532億円)、営業利益は3,000億円(同1,753億円)、ROE11%以上を目指すほか、2021年~2025年の5年間累計で、営業キャッシュフローは8,800億円、フリーキャッシュフローは2,800億円、設備投資は6,000億円、研究開発費は4,000億円を計画している。

初年度となる2021年度には、売上高2兆500億円の見通しを発表しており、同社初の売上高2兆円突破をベースにした成長戦略となる。

  • 中期経営計画2025のメインテーマ

また、DXの基盤となるプラットフォームの整備や活用にも力を注ぐ考えを示す。

ここでは、営農支援システム「KSAS(Kubota Smart Agri System)」を活用した農機の自動化による省力化と、データ活用による精密化を軸にしたスマート農業を実現する「製品・サービス・生産現場変革」において、Google AppやMicrosoft Azureなどを活用。DXを通じた業務革新と基幹システムの標準化に取り組む「ビジネスプロセス変革」においては、Microsoft Azureを同社のグローバル標準として活用する一方、SAP S/4を基幹システムとして再構築し、グローバルでのデータの共通化、一元管理を実施。さらに、DXを通じた働き方改革を行う「コミュニケーション&コラボレーション変革」では、Google Workspaceを活用した社内コミュニケーションの拡充や、社内外でのコラボレーション推進により、時間や場所にとらわれずに働くことができ、積極的に価値創造できる機会と場を整備する。

中期経営計画のなかで、こうしたIT戦略に言及する企業はまだ珍しいが、裏を返せば、中期経営計画の実行において、DXが避けれては通れないことを肝に銘じていることの表れだといえよう。

  • 経営計画のなかでDX推進を明確にした

クボタの取り組みのなかで注目されるのが、自動運転農機の実用化だ。

クボタでは、「KSAS」を、経営栽培管理のプラットフォームとして、稲作を中心としたスマート農業一貫体系を実現。それを構成する製品やサービスを用意し、そのひとつとして、耕うん、田植え、収穫などの作業を、機械自らが行う自動運転機能を備えたアグリロボ(Agri Robo)シリーズをラインアップしている。

アグリロボは、圃場を一周することで、自動運転用のマップを作成。そのマップに従って、誤差が2~3cmという精度を実現しながら作業を自動で行う。また、「Go Straight」から命名したGSシリーズでは、その名の通り、直進作業を支援するもので、基準線を設定し、GS機能をオンにするだけで、基準線に沿って並行走行が可能になり、直進作業を自動でアシスト。農業機械に慣れていない人でも高い精度で農作業ができるほか、熟練オペレータにとっても、直進操作に関わるストレスがなくなり、身体への負担が少ないとの評価があがっているという。

クボタの自動運転を支える4つの技術

そのクボタの農機の自動運転は、「位置測位」、「ルート生成」、「車両の制御」、「安全確保」という4つの技術で成り立っているという。そして、一般公道を走行する自動車の自動走行とは異なるは技術が多数採用されているという。

たとえば、自動車の自動運転とは、こんな点が異なる。

農機は後ろや前に作業機が取り付けられているのが基本だ。トラクターは後ろに作業機が付き、コンバインでは前に刈り取り機がつくといった具合だ。当然、それらの作業機が決められた位置にあわせて動かないと、正しい作業ができない。また、農機が走行して作業をする場所は、畝が立てられていたり、耕すまではでこぼこであったり、雨が降るとぬかるんだりといったように、舗装した道路とは大きく異なる状況のなかにある。その結果、単にGPSで、位置を検出して走行するだけでは正しく動作しない。安定しない農地のなかで、トラクターが傾いて走行した際に、前後の作業機が、しっかりと直線で走行するなど、補正する技術が必要なのだ。熟練オペレータが、トラクターが傾いても、それを補正して、まっすぐ走行するのと同じ高度な運転技術を、自動運転で再現できなくてはならないのだ。

農機の自動運転を実現するクボタの4つの技術のうち、ひとつめの「位置測位」は、まさに、作業機が正しい位置で作業を行うための技術だ。

GPSを活用して、目標位置と機械が走行しているラインが、どれぐらいずれているかを計算し、IMUにより機械の位置ずれや傾きを認識し、目標ラインにあわせて修正を指示する。この傾斜補正によって、トラクターの傾斜でGPSの位置がずれた場合にも、それを目標ラインがずれたと認識して、作業機も位置補正をすることなく、作業機は作業したいエリアを走れるように、IMUが制御して、トラクターが正確な位置を算出し、走行することができる。

  • 農機ならではの「位置測定」技術

また、2つめの「ルート生成」では、作業者が運転して、圃場の外周を周まわるだけで、自動的にマップを作成できるという技術だ。あとは、このマップをもとに、自動運転で作業をしてくれる。ここでは、圃場のなかにある水口を自動的に避けて、効率的に田植えを行ったり、コンバインによる刈り取りでは、「匠刈り」と呼ぶ機能により、最適な経路を自動で選択して収穫作業を行い、タンクに籾が溜まると、重量をもとに籾を排出し、再び、排出地点から最適な経路の生成を行って作業を開始するといったことが可能だ。

刈り幅をもとに、圃場の真ん中の割り切れる場所に転回して刈り取ったり、作物が風でなびいていると、それに流されて斜めに刈ってしまったりという、熟練オペレータでも難しい作業を自動運転ならば簡単にやってのけるという。

3つめの「車両の制御」では、柔らかい土と硬い土で異なる曲がり方への自動対応や、タンクに籾を多く搭載した場合と、空の状態で異なる走行および転回にも自動対応することができるという技術だ。この技術によって、外周で水口を避けて植え付けた場合などでも、重なって走行する同じ場所に、多重で植え付けが行われないといった細かい制御も行っている。

そして、4つめの「安全確保」は、センサーやソナーを活用し、それらを最適な位置に配置。トラクターでは、レーザースキャナーにより、前方に赤外線を当て、障害物からの跳ね返りを受けて、それを検知して停止できるようにしている。砂ぼこりは障害物と判断せず、砂ぼこりや霧のなかに人がいた場合には、しっかり止まることができるようにしている。

  • トラクターが装備するセンサーやソナー。砂ぼこりの中の人間も検知して安全を確保できるようにしている

未来を拓く「GROUNDBREAKERS」へ歩みだす

クボタの農機の自動運転はすでに実用化されているが、この技術は、これからもさらに進化を遂げることになる。それは、長期ビジョン「GMB2030」と、2025年までの「中期経営計画2025」においても、自動運転の進化が重要な取り組みに位置づけられていることからも明らかだ。

クボタは、創業130周年を迎えた2020年1月に、未来の完全無人トラクターのコンセプトモデル「X tractor(クロス トラクター)」を発表。AIや電動化技術を活用することで、「完全無人」「完全電動」「車高可変4輪クローラ」という3つの特徴を持つトラクターを提案してみせた。そうした未来の実現に向けても、一歩ずつ進化が進められることになるだろう。

クボタの北尾裕一社長は、「日本の農業は、農業従事者の高齢化や離農、耕作放棄地の拡大など、様々な課題に直面している。日本の農家に育ててもらった企業として、こうした課題の解決に貢献したい」とし、「クボタは、1890年の創業当時、流行していた伝染病を人々から守るため、水道管の開発に挑戦し、国産初の水道用鋳鉄管の製造に成功した。それ以来、食料、水、環境の分野での課題解決に取り組んできた。解決すべき課題はたくさんある。人々の生活基盤を支え、命を支えるプラットフォーマーとして、新たなイノベーションを生み出し、より多くの社会貢献を果たしたい」とする。

そして、「農業機械に留まらず、農家に寄り添い、農業に関わる課題を解決する『農業トータルソリューション提供企業』を目指す」と宣言する。

  • クボタの北尾社長は、「日本の農家に育ててもらった企業として、日本の農業の課題解決に貢献したい」とする

クボタが2021月1月に開催したユーザーおよびパートナーを対象にした完全オンラインイベントのタイトルは、「GROUNDBREAKERS」だった。先駆者という意味を持つ。

北尾社長は、「大地を耕し、食を育む農家や農業は、いま、大きな転換点にあるが、ビジョンを描き、創意工夫をして、課題解決に挑戦する農家、未来を担っていく学生や、農業関連業界の人たちは、まさにGROUNDBREAKERSである。クボタは、農業を未来の形を作っていくGROUNDBREAKERSに寄り添い、課題を解決するソリューションを提供し、日本の農業を支える人たちを応援したい。クボタも、農業界のGROUNDBREAKERSとして、イノベーションを起こし、未来を切り開く最前線を、お客様とともに走っていきたい」と語る。

ITを活用し、DXを推進しながら、新たな長期ビジョンと新たな中期経営計画を推進することで、2025年のクボタ、そして、2030年のクボタが、農業界をイノベートする先駆者として、どんな形に進化するのかが楽しみだ。