2001年1月1日に、第1号機である「AQUOS LC-13C1/15C1/20C1」が発売されてから、ちょうど20年目を迎えたシャープの液晶テレビ「AQUOS」。2020年1月11日に成人の日を迎えた20歳の人たちは、国内で約124万人。AQUOSは、今年の新成人とともに歩んできた「同世代」の商品だといえる。前編では、これまでの20年間のAQUOSの歩みを追ってきたが、今回の後編では、これからのAQUOSの方向性を捉えてみたい。

  • 2001年1月1日に発売されたAQUOSの第1号機「C1シリーズ」

    2001年1月1日に発売されたAQUOSの第1号機「C1シリーズ」

ハタチのAQUOSがこれからの20年で目指すもの

AQUOSは、2020年9月に累計販売台数が5,000万台に達したところだ。

そしてAQUOSは、発売から20年間に渡り、国内トップシェアを誇る液晶テレビのブランドとして君臨している。

では、これからの20年間、AQUOSはどんな進化を続けるのだろうか。

シャープ 執行役員 TVシステム事業本部長の喜多村和洋氏は、「AQUOSユーザーを、テレビの次の時代に連れていくのが我々の責務である。8Kや5Gの活用、AIoT家電との連携、セキュリティの実現、教育利用、eコマースによる物品の購入など、生活のあらゆるシーンをサポートし、人々の生活において、一番のパートナーとなれるような提案をしていきたい」と語る。

そして、AQUOSの今後の方向性として、「テレビの視聴の変化への対応」、「コンテンツの変化への対応」、「家庭のスマート化への対応」の3点をあげ、「これからの20年も、顧客のーズの変化を的確に捉え、同時に新たなニーズを掘り起こす姿勢は変えない。それに向けた技術開発、商品開発を進めていく」とする。

  • シャープ 執行役員 TVシステム事業本部長の喜多村和洋氏

コロナ禍で激変したテレビ視聴への対応

1つめの「テレビの視聴の変化への対応」では、テレビ番組を見るというこれまでの利用シーンに加えて、ネットを通じて配信されるコンテンツの視聴や、アプリの利用などへの対応を強化していくとする。

喜多村執行役員は、「コロナ禍において、生活が大きく変化している。自宅で過ごす時間が増えたり、同居している家族と一緒に過ごす時間が増加したりする人が増える一方で、友人や知人と一緒に過ごす時間が減少している。そうしたなかで、シャープのAQUOSユーザーの利用動向を調べてみると、在宅時間の増加に伴い、ネット動画の視聴時間が増加していることが浮き彫りになっている」と語る。

ゴールデンウイーク期間を含む2019年5月には、1日1.08時間だったネット動画の視聴時間は、2020年5月に2.09時間へと増加。2020年6月は1.46時間、7月は1.48時間となり、いずれも前年実績を大きく上回っている。

「テレビの使い方が、放送を見るだけでなく、ネット動画を視聴するといった用途で増加していることがわかる」

  • ネット動画視聴時間はコロナ禍で顕著に増加

イベントの自粛要請などに伴い、アイドルやアーティトの大規模コンサートが中止や延期となる一方で、コンサートの有料オンライン配信が増えている。リアルの会場ではキャパシティの関係から、来場者数が限定されるが、オンライン配信ではこうした制限がなくなり、多くの人たちが参加できるため、むしろ収益性があがるという現象まで生まれている。なかには100万人以上が参加する有料オンラインコンサート配信の事例も生まれている。

さらにスポーツでも、完全ライブ中継が増加。女子プロゴルフでは、YouTubeのJLPGA公式チャンネルにおいて、第1組スタートから全組がホールアウトするまでを完全ライブ中継するといったことが行われている。

ネットによる視聴が増加する動きが見られており、それとともに、液晶テレビならではの大画面や高精細の表示によって、オンライン配信を楽しみたいというニーズが増えようとしているのだ。

また、ネットを通じて商品購入では、高画質のテレビで商品の映像を見たいといったニーズも生まれてくるだろう。

「AQUOSは、2017年からAndroid TVに対応。多彩なアプリやサービスに対応している。好きな時に、好きなコンテンツを、Android TVで楽しむといった提案も可能だ」とする。そして、「いまこそ、AQUOSが、巣ごもりエンターテインメントを担うことになる」とも語る。

もはや放送だけがコンテンツの時代ではない

2つめの「コンテンツの変化への対応」では、これまで触れたオンライン配信など、ネット上のコンテンツへの対応に加えて、LINEやFacebookをはじめとする、様々なSNSへの対応もあるが、AQUOSならではの特徴を生かせる提案として、自らが撮影したコンテンツを、より簡単に視聴できる環境を提案してみせる。

たとえば、5Gに対応したシャープのスマホ「AQUOS R5G」で、8K撮影を行い、それを5Gでその場からクラウドにアップロード。自宅の8Kテレビでダウンロードをして、8Kで視聴するという提案がそのひとつだ。海外旅行や国内の名所に行った際に、スマホで撮影して、その画像を家族に送ったり、離れて住んでいる両親に、孫の映像を8Kで送ったりといったことも可能だ。

  • 自ら8Kで撮って、それを皆で8Kで観るように

「個人の大切な映像こそ、より高画質で残し、高画質で見たいと考える。テレビとスマホの連携によって、8Kをより身近に使うことができる。これはシャープにしかできない提案である」とする。

これも、AQUOSの新たな提案であり、新たな役割だといえる。

スマートライフのパートナーになれる存在へ

3つめの「家庭のスマート化への対応」では、AQUOSを中心とした家電連携によって、利用者のスマートライフをサポートするといった提案につなげるという。

シャープは、液晶テレビ「AQUOS」のほかに、ヘルシオを中心とした調理家電や、洗濯機や冷蔵庫、掃除機と様々な家電製品、空気清浄などに搭載して、空気の質を高めることができるプラズマクラスターイオン関連商品、そして8Kに対応したスマホやPCなどを商品化している。

「テレビや白物家電、スマホ、PCを自社ブランドの製品だけで、トータルに提案できるのはシャープだけである。AQUOSを中心として、この強みを生かした提案を進めたい」とする。

  • COCORO HOME VIEWERで暮らしを見える化

COCORO HOME VIEWERを通じて、シャープのAIoT対応家電製品の動作状態を、液晶テレビの大画面で確認できるといったサービスを提供している。連携している対応機器は、エアコンや空気清浄機、洗濯機、ヘルシオおよびヘルシオホットクック、冷蔵庫、太陽光発電パネル、他社製の給湯器と幅広く、「AQUOSの大画面から、子供部屋のエアコンの室温を確認したり、洗濯機の運転状況やホットクックで作っている料理の出来上がり時間などを、リビングにいながら確認することができる」という。

こうした新たな提案は、様々な商品を持つシャープの特徴を活かせる分野だといえる。

新たな20年、AQUOS進化の2つの方向性

では、これから20年間のAQUOSの進化はどうなるのだろうか。

喜多村執行役員は、2つの観点からその方向性を示してみせる。

ひとつは、コミュニケーション機能の強化だ。

「これまでのようなテレビ放送の視聴だけでなく、ネットを介した利用が増えることになる。そこでは、テレビが、双方向のコミュニケーションを司る役割を果たさないといけない」と語る。

見たいものを視聴するという場合には、レコメンド機能を利用することも可能だが、よりインタラクティブにコミュニケーションを取れるようになれば、利便性はさらに高まる。また、ネットを通じて様々なものを購入したりするといった場合や、様々な機器とつながる場合も、テレビは重要な役割を果たすことになるだろう。そこでもコミュニケーションツールとしてのテレビの役割は大きいといえる。

「ネット動画だけでなく、様々なコンテンツを表現するためのアウトプットとしての役割が生まれる。そのために、テレビは、受動的なツールから、能動的にコミュニケーションを取ることができるものへと進化しなくてはならない。そこにAQUOSの挑戦がある」とする。

  • 2001年1月1日のAQUOSの広告。液晶テレビの軽さと薄さを象徴するように、吉永小百合さんが片手でテレビを持ち運んでいる。重く、大きかったブラウン管時代のテレビの常識を覆した

もうひとつの方向性については、「テレビの置き方がかわる」と表現する。

喜多村執行役員は、「これまでの液晶テレビは、リビングに用意された『テレビ置き場』に設置されることが多かった。テレビの置き場所はだいたい決まっていた」としながら、「だが、これからは、壁と同化したり、部屋のなかにある隙間などにもテレビが設置されたりする。生活スタイルのなかに溶け込めるようなスタイルが求められる」とする。

喜多村執行役員は、テレビが設置されたり、映像を見たりする場所は、リビングや書斎だけでなくなると指摘する。

たとえばテレビの用途が、テレビ放送を視聴したり、ネット動画を視聴するだけでなく、商品を購入するための窓口として利用したり、家電をはじめとして家のなかの状況を確認するためのツールとして利用したりする場合、リビングだけでなく、様々な場所でテレビを利用するシーンが増えてくる。

そうした意味では、いまのAQUOSに採用されている標準的な液晶パネルだけでなく、同社が現在開発中のシースルーディスプレイなども、AQUOSに採用されることになるだろう。

「スマホやタブレット、PCの利用も広がるだろうが、これらのデバイスは、中小型ディスプレイに留まっている。だが、液晶テレビは、大画面によって、感動を提供したり、臨場感を提供したり、情緒を育んだりといったように、中小型ディスプレイのデバイスには実現できない要素を持っている。AQUOSが目指すのは、スマホやPCと同じことができればいいということではなく、テレビだけが持つ大画面ならではの特徴を活かすことができる提案である。つまり、今後のAQUOSのポジションを考えれば、生活のパートナーとしての役割が増えていくことになる」とする。

AQUOSに込められた、新時代を切り開くDNA

長年に渡って、シャープを取材して感じるのは、AQUOSによって、シャープのブランド価値が大きく変化したということだ。

ブラウン管テレビの時代には、シャープは自らブラウン管を生産していないため、機能面での特徴が明確に打ち出せず、他社に先んじた提案ができないため、テレビのトップメーカーにはなりえなかった。「万年3位」というブランドでもあった。

だが、液晶テレビでは、液晶パネルを自ら開発、生産し、それがシャープのテレビのブランド価値を大きく高めた。亀山工場で生産した液晶パネルを使用した「亀山モデル」が、信頼のブランドとして高い評価を得たのは、それを象徴する出来事のひとつだろう。

「AQUOSは、商品企画の最高峰の社内会議と位置づけられたオンリーワン商品戦略会議で、審議をしながら進めてきた商品。シャープのこだわりが詰まっている商品」とする。

  • 亀山工場(左が第1工場、右が第2工場)。AQUOSでは「世界の亀山モデル」というフレーズも生まれた

創業者である早川徳次氏は、「他社に真似をされる製品をつくれ」とした。このシャープの原点ともいえる考え方は、AQUOSというオンリーワン製品を生み出し、それによってテレビのブランドを高めることにながった。

AQUOSによって、テレビのブランドを高まったことは、シャープのブランドそのものを高めることにつながったといえるだろう。それが他のコンシューマ製品にも波及している。 喜多村執行役員は、「これまでの20年間は、AQUOSブランドの信頼感を醸成するための助走期間であった。高画質化や、新たな放送への迅速な対応、顧客ニーズに応えた大型化といった取り組みを通じて、信頼を築くことができた。これからのAQUOSは、この信頼をベースに、世の中の変化に対して、先頭を切って対応していくことになる。半歩先をいく商品やサービス、技術の提案によって、生活スタイルの変化を牽引するテレビづくりをしていく。これがシャープのDNAであり、AQUOSのモノづくりである」と力強く語る。

そして、「AQUOSは、次の20年に期待してもらえるような商品を、業界の先頭を切って提案したい」と宣言する。

いよいよ成人を迎えたAQUOSは、これからどんな成長を遂げるのだろうか。日本の多くのユーザーから、その取り組みが注目されることになる。

なお、2021年4月からはじまる2021年度には、AQUOS誕生20周年記念のキャンペーンを実施するという。詳細な内容については、今後発表することになるという。20年目の第一歩として、その内容もいまから楽しみだ。