日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)は、同社の家電事業戦略について説明した。同社の谷口潤社長は、「グローバルアライアンスにより、ボトムラインを改善するとともに、オープンな協創を通じた成長投資により、ライフソリューションを強化する。2021年度には、調整後営業利益率は8.0%超、EBIT率は10.0%超を目指す。この目標達成には強い手応えを感じている」とした。
また、12月16日に発表したトルコのArcelik A.S. (以下、アルチェリク)との海外白物家電事業における合弁会社の設立については、「地域や製品の補完性があり、競争力を持った家電のサプライチェーンを、グローバルに構築できる」と述べた。
この合弁事業では、日立GLSは、新会社を設立し、日本国外の白物家電事業を移管し、株式の60%をアルチェリクに譲渡。2021年春の合弁会社設立を目指すことになる。日立GLSはこれまでにも、2015年10月に空調事業に関して、ジョンソンコントローズと合弁会社を設立、同様に株式の60%を譲渡している。今回も同様に、マイノリティの資本比率ながらも、日立ブランドを活用した合弁会社の設立となり、日立の家電事業におけるボトムライン改善に向けた勝ち筋の手法を、再び繰り出した格好だ。
「2015年10月に設立したジョンソンコントロールズ日立空調は、日立GLSの高い技術力とジョンソンのグローバルネットワークを融合し、事業を強化。省エネ、環境配慮といったビジョンの共有、地域や製品の補完性、日立ブランドの積極的な活用が成功につながった。2014年度には約7%だった日立の空調事業は、2019年度には約13%になっている」と谷口社長は語る。
また、2018年度には4.6%だった日立GLSの調整後営業利益率は、2019年4月の日立コンシューマ・マーケティングと日立アプライアンスの統合により、経営の効率化を実現。2019年度の調整後営業利益率は4.9%に改善し、2020年度上期は7.8%にまで上昇した。また、EBIT率は2018年度には6.1%だったものが、2019年度には7.5%に上昇。2020年度上期は8.4%となっている。
谷口社長が2021年度の調整後営業利益率は8.0%超、EBIT率は10.0%超という高い目標に対して「強い手応えを感じている」と断言するのも、これまでの経営体質改善の実績と、空調事業の合弁化による成功例をもとに、今回の海外白物家電事業の再編にも強い自信を持っていることが背景にある。
「8.0%という数字は、海外白物家電事業を除いた数字になる。保守的と言われるのではないかと思い、『超』という言葉を添えた」という言葉にも力がこもる。
日立製作所では、2018年度を最終年度としていた「2018中期経営計画」で、調整後営業利益率は8.0%を達成していたが、それに比べて、日立GLSの営業利益率は4.6%と出遅れていた。だが、日立製作所の2020年度上期実績が4.8%、通期見通しが5.0%であることに比べると、日立GLSは一転して牽引側となり、2021中期経営計画では大きく巻き返すことになる。日立製作所では、2021年度最終年度する「2021中期経営計画」において、調整後営業利益率10%の目標をおろしていないが、ここに日立GLSがどう貢献するのかが注目される。
では、新たなパートナーとなるアルチェリクとはどんな会社なのか。
日立とアルチェリク、「家族として協力する提携」とは?
アルチェリクはイスタンブールに本社を置く家電メーカーであり、1955年に設立。第1号製品として洗濯機を発売して以来、145カ国以上で事業を展開している。
「サスティナビリティでは共通のビジョンを持ち、日立GLSがASEAN、中東に強いのに対して、アルチェリクは欧州、南アジア、アフリカに強い。また日立ブランドがプレミアム製品であるのに対して、アルチェリクはマスブランドとしての製品展開を行っており、補完関係がある。競争力ある家電のサプライチェーンをグローバルに構築し、日立ブランドの家電をグローバルに成長させたい。このパートナーシップは力強いものになると考えている」と、谷口社長は述べた。
アルチェリクのハカン・ブルグルルCEOは、「今回、大手企業の2社が合弁会社を立ち上げ、末永く、家族として協力する提携を結んだ。アルチェリクは、トルコ最大の産業コングロマリットのひとつであるコチグループの1社で、世界8カ国で22カ所の生産拠点を持ち、3万5,000人以上の従業員がいる。この10年は急激な成長を遂げており、生産技術に関してはディスラプター(破壊者)と位置づけられている。また、サスティナビリティではグローバルリーダーであり、2019年、2020年にカーボンニュートラルを達成した。しかも、すべての生産施設で達成している。カーボンクレジットを購入したり、発行したりせずに達成している点も特筆できる」とし、「アルチェリクのグローバル展開は着実な投資によって拡大してきた。日立が持つ強いブランド資産や、アルチェリクが共有する道徳、倫理観を活用し、技術、ブランド、そしてアジア太平洋という地域をカバーするパワーハウスを構築できる。日立は同じ価値観、道徳観を持っている。パートナーとして選ぶことは簡単だった。長く続くパートナーシップの基盤になると信じている。新たな時代の幕開けになる。アジア太平洋地域における日立の立場を強化できるだけでなく、日立ブランドを真のグローバルプレミアムブランドに進化させる。生産技術、製品技術、イノベーションを持ち寄って活用していく。会社を大きく成長できるだろう」などと述べた。
日立GLSは、製造会社2社と販売会社10社の海外グループ会社12社を統合し、これをベースに合弁会社を設立する。従業員は約3,800人、売上高1,000億円超の規模となる。生産拠点や営業拠点は、今後棲み分けを行っていくことになる。
谷口社長は、「1,000億円強の売上規模をベースにして、今後、伸ばしていくことになる。白物家電事業は、地域のニーズへのフィティングが重要であり、ローカルのマーケティング機能、セールス機能が大切である。ここにおいては、独自ですべてを担うよりは、地域や製品の補完性があるパートナーとアライアンスを組むことが、アセットの有効活用につながる。独自で販売網を作るよりは、アルチェリクの販売網を活用する方が、メリットがある。投資効率が高くや短期間で展開でき、デリバリー力が高まる。また、白物家電はブランド力が大きな影響力を持つ市場である。アルチェリクにとってもプレミアムブランドが加わり、製品ラインアップが広がる。アルチェリクは日立ブランドを活かせる企業であると考えた。補完性のある最適なバートナーを選定することができた」などと述べている。
さらに、Lumada(ルマーダ)の海外展開についても視野に入れており、「Lumadaを活用したサービスやソリューションを提供するには、販売やアフターサービス網が重要である。アルチェリクとは、データの活用という点でも話を進めている。ミドルレンジやマスゾーンの家電製品からもデータを得ることができるようになることを期待している。Lumadaを世界に広げるスピードを速めるという点でもアルチェリクとの合弁会社は有効である」としたほか、60%の株式を売却することで、3億ドル(約315億円)を得るが、「これもLumadaソリューションに投資し、これを海外に広げていくことを考えたい」とした。
一方で、日立GLSの谷口社長は、「生活者のQoLを向上するという役割は変わらない」としながらも、「成長に向けたトランスフォーメーションを行っていく」と語る。
「オープンな協創による事業創生と、グローバルアライアンス強化による事業拡大に取り組んでいく。オープンな協創では、Lumadaによって、必要な食材のストックをサポートするコネクテッド家電、家事や活き活きとした暮らし、心をサポートする家族型ロボット、再生医療の導入を容易にするクリーン環境ソリューションといった領域で事業を成長させる。また、グローバルアライアンス強化では、アルチェリクとの合弁会社設立により、日立ブランド製品の海外での販売拡大、ソリューション事業の海外展開を加速する」とした。
アフターコロナに活かす「家庭生活の向上に奉仕する」姿勢
会見のなかで、日立GLSの谷口社長は、65年前の同社家電製品の新聞広告を示しながら、「『家庭生活の向上に奉仕する』という姿勢は、いまも変わらず、生活者のQoLに貢献することを目指している。この魂をもとに、事業環境の変化に応じて事業戦略を変化させている」と語った。
その上で、「日立には、家電で88年、空調では68年の歴史がある。近年は、家電のコア技術、空調のコア技術を生かしながら、コネクテッド分野を伸長させており、新たな付加価値を提供している。国内では、家電では約30%、空調では約15%という高いシェアを誇っており、ASEANでも高いシェアを誇っている。100カ国以上に家電、空調事業を展開している。また、信頼、技術力、耐久性などが評価されている。ベースには、地域に密着したアフターサービス網があり、顧客満足度も約90%というレベルでの評価を得ている。この基盤を使いながらどう成長するのかが命題である」とした。
また、「新型コロナウイルスの影響を受け、生活スタイルが大きく変化。これを日立GLSは事業機会として拡大の足がかりにしたいと考えている」とし、「注目している社会環境の変化は、eコマースの伸長、内食需要の増加、高齢者の小世帯化、パンデミックへの不安、バイオや再生医療などの医療の高度化である。そこから、食、住、健康の3点から導出した将来の暮らしの姿に事業機会がある」とした。
ここではそれぞれの分野での協創事例を示した。
食の分野では、コネクテッド家電を活用した食材ストック管理ソリューションを提供するという。ニチレイフーズと検討を進めている新たなサービスでは、2021年2月に発売予定の日立GLSの1ドア冷蔵に搭載する発注提案機能を利用。食材の在庫状況をもとにユーザーに食材発注を提案し、欲しい食材を常にストック。フードサプライヤーは安定した販売を確保でき、日立GLSはオンライン発注によるリカーリングサービスを確立できるという。
「残量検知機能とスマホ発注機能を連携することで、家のなかでいつも使っている定番品ともいえる食材の在庫を気にするといった、『見えざる家事』から解放する提案になる」とした。今後は、サブスクリプションモデルとしての提供も検討していくという。
住の分野では、家族型ロボット「LOVOT」を開発したGROOVE Xとの資本業務提携を紹介した。日立GLSのアフターサービス網を活用して、GROOVE Xの事業を強化。「家電の機能的な価値と、LOVOTの感性的な価値で生活者のQoLを向上することができる。家庭での活き活きとした暮らし、心を楽しくサポートするといった価値を提供できる」とした。
健康の分野では、導入が容易なCPC(細胞培養加工施設)ソリューションに日立GLSが取り組んでいることを示しながら、再生医療等製品に関してバイオ3Dプリンタで展開するサイフューズ、創薬研究やiPS細胞研究などにおいて自動化装置を開発するローツェライフサイエンスと協創。「日立GLSが、東京・日本橋に設置している再生医療イノベーションセンタにおいて、パートナーの各装置を組み合わせて、運用を検証。日立GLSのCPCモジュールに要素技術を組み込んで事業を拡大する。医療機関や製薬メーカーが、安全で高度な医療環境を容易に構築できることを支援する。リモート監視やAIを活用した予兆診断なども提供する」とした。
「日立グループのなかにおいて、生活者の日常生活にダイレクトなインタフェースを持っている企業が日立GLSである。生活者の暮らしをデジタルで把握することで、新たなサービスを提供する。これが成長戦略のひとつである。いくつものソリューションを組み合わせたり、困ったときに支えるアフターサービスも提供できる。故障の予兆診断や、ソフトウェアをアップデートすることもできている。すでに、空調IoTソリューションとして、『exiida遠隔監視・予兆診断』では、リカーリングビジネスの成果があがっている。Lumadaと生活家電の親和性は高いと考えており、そこに向けた開発も進めている。こうした取り組みによって、世界中の生活者のQoLを向上させていくことが、日立GLSの社会における役割であり、使命である」と述べた。
日立GLSが取り組んでいるコネクテッド家電も、いよいよサービスと連携した提案が本格化するフェーズに入ろうとしている。製品戦略の強化と、経営体質の強化という両輪が回り始めてきた。