情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)は、2000年4月に創設されてから、20年目の節目を迎えたことにあわせて、このほど、報道関係者を対象に、これまでの取り組みなどについて説明した。

「情報」の研究開発を推進してきた日本の拠点

今回取り上げるNIIは、日本における情報学に関する総合研究や、学術情報流通のための先端的な基盤の開発、整備を目的に設立した大学共同利用機関法人。情報学における基礎論からAIやビッグデータ、IoT、情報セキュリティといった幅広い先端テーマで、長期視点の基礎研究、ならびに、社会課題の解決を目指した実践的研究を推進している。1976年に、東京大学に設立された情報図書館学研究センターが発端に、その後、文献情報センターへの改組を経て、1986年4月に設置された学術情報センターを前身として設立した。2004年には、統計数理研究所、国立極地研究所 国立遺伝学研究所とともに情報・システム研究機構となり、大学共同利用機関法人としての活動を開始した。

NIIは基本理念として、「研究」と「事業」を活動の両輪に位置づけて、それをベースに情報学(Informatics)の研究を行ってきたのが特徴だ。

  • 日本で唯一の「情報学」総合研究所、NIIが歩んだ20年

    「研究」と「事業」を両輪に位置づける

現在、「事業」では学術コンテンツ事業、学術ネットワーク事業に取り組んでおり、その一方で、「研究」では、情報学プリンシプル、アーキテクチャ科学、コンテンツ科学、情報社会相関という4つの研究系において、15の研究施設を持っている。また、総合研究大学院大学情報学として、大学院教育を実施している。

国立情報学研究所 副所長/特任教授の安達淳氏は、「当時、文部省は情報に関する研究機関を作りたいと考えており、そこで生まれたのがNIIである。設立当時は、情報学という言葉があまり使われていなかった。京都大学大学院情報学研究科で使用したのが初めてであり、NIIは2番目である」とし、「1990年代に、米国全土にインターネットを張り巡らす国家情報基盤プロジェクトであるナショナル・インアォメーション・インフラストラクチャ(NII)という言葉が使われたが、その後、米国ではNIIという言葉が広がらなかった」などと、エピソードをまじえて振り返った。

  • 国立情報学研究所 副所長/特任教授の安達淳氏

現在、NIIには、390人の構成員がおり、常勤教員のうち、女性比率が21%、外国人は特任研究員では32%、教員では8%となっているほか、42歳未満の若手研究者は32%となっている。

「国の組織であったときは定員が決まっており、最大で約160人だったが、大学共同利用機関法人になった2004年以降は定員がなくなり、徐々に増員した。だが増員の中心は、ポスドクと呼ばれる3~5年間という有期/短時間雇用職員や大学生であり、年間の研究費によっても人数が増減している」とする一方、「人材の多様性には努力をして取り組んできた。コンピュータ分野では女性研究者が少ないなかで21%を雇用している。だが、有期雇用の若手研究者が正規雇用されないということが問題になっているのはNIIでも同じである。この改善に向けて支援を行い、活性化したいと考えている」と述べた。

また、論文数についても説明。「NIIによる論文数は、20年間に渡って、順調に伸びている。引用数で上位10%に入る論文も、ここ数年は50前後で推移している。海外の研究者と共著となる国際共著論文数も年間200程度に達している。また、日本の情報学研究機関による論文数という点で見ても、日本の主要な情報関連研究機関と肩を並べるぐらいには成長してきた」とした。

世界中とつながる学術情報ネットワーク

NIIの取り組みとして欠かすことができないのが、学術情報ネットワーク「SINET」である。

SINETは、日本全国の大学や研究機関などの学術情報基盤として、NIIが構築、運用している情報通信ネットワークであり、大学、研究機関などに対して、先進的なネットワークを提供するとともに、多くの海外研究ネットワークと相互接続しているのが特徴だ。

2016年4月から本格運用が開始されたSINET5は、日本国内のすべてを100Gbpsのネットワークで有機的につなぎ、東京-大阪間では400Gbpsを実現。ハイレベルな学術情報基盤を構築しており、現在、全国910機関以上が利用している。

SINETの前身となる学術情報ネットワークの運用を開始したのは1987年であり、1992年に、SINETの名称で運用を開始。1999年時点では、135Mbpsで結んでいたという。

2002年からは、光伝送技術を利用することで、14拠点を最大10Gbpsで接続したSuper SINETを並行して運用。2007年に運用を開始したSINET3によって、ノードを34都道府県に配備し、東京-大阪間を40Gbpsで接続。IPサービスだけでなく、L2VPN(Virtual Private Network)やQoS(Quality of Service)制御などにも対応する形でサービスを拡張した。

そして、2011年からスタートしたSINET4では、ノード配備を全47都道府県に拡大。札幌から福岡までを40Gbpsで結ぶことに成功した。

このとき、データセンターにノードを設置したり、各回線の二重化をしたり、コアノード間の冗長経路の確保などを実現。この仕組みが、2011年3月の東日本大震災の発生時に、ネットワークが途切れることなくサービスを継続させることにつながった。

「それまでは東北大学の研究施設のなかにSINETの機械が設置されており、そこから岩手大学などの周りの大学につなげていた。東日本大震災の直前に、これを仙台市内のデータセンターに移行した。東北大学や岩手大学のキャンパスではコンピュータが止まり、インターネットが利用できなかったが、北海道大学は本州とつながって運用することができた。ネットワークが、すべての活動に必要なインフラとしての性格が強まるなかで、SINET4は、信頼性の高い、安定性の高ネットワークとして運用された」などと述べた。

SINET5でも、2016年4月の熊本地震や2018年7月の西日本豪雨などでは光ファイバーが切断したこともあったが、全体のネットワークとしては、動き続けることができたという。

また、SINETの国際回線の強化も進んでいる。現行のSINET5では、ロサンゼルス-ニューヨーク間を100Gbps回線で接続しているほか、東京-アムステルダム間も100Gbps回線で接続。さらに、アムステルダム-ニューヨーク間も100Gbpsで接続している。

「SINETは、地球を1周する形で100Gbpsの回線を運用している。太平洋の回線が切れた場合にも、欧州回線で国際接続を維持できる。スイスのCERN(欧州原子核研究機構)での膨大な実験データを、転送するといったことにも利用されており、素粒子物理学の研究者からは、『欧州が極めて近くなった』と評価を得ている」という。

なお、次期SINETについては、「予算要求をしており、2021年以降、新たなネットワークに移行することになる。接続サービスの機能を強化することがポイントになる。大学のキャンパス同士をつないだり、クラウド事業者とつなぐという需要の増加に対応したり、研究プロジェクト単位での閉じたネットワークの構築機能などを強化する。また、無線とつながったネットワークを強化する」とした。

一方で、研究者が電子ジャーナルなどにアクセスするための学術認証(学認)フェデレーションへの登録が242機関に増え、国際無線LANローミングであるeduroamの参加機関数は282機関に達していることも示した。

「eduroamによって、参加している国内の大学や、世界の研究所においても、学認の仕組みを使って、そのまま無線LANに接続できる」という。

また、学認クラウドとして、導入支援サービス、ゲートウェイサービス、オンデマンド構築サービスを提供。Amazonやさくらインターネットといった事業者のサービスを利用しやすくしているという。「SINETは、20以上のクラウド事業者とつなぐことができ、セキュリティを高め、通信料負担での効果がある」という。

さらに、学術コンテンツの取り組みについても説明。「全国の大学図書館のどこに、どんな本があるのかという情報を、CiNii Booksで提供している。ここには、約1400の参加機関があり、書誌1218万件、所蔵1億4500万件の情報を管理している」という。また、科学研究費助成事業データベースであるKAKENでは、85万件にのぼる科研費補助金の採択課題、成果情報を一括検索することが可能であり、「どんな研究者が、どんなテーマで、いくらの費用を使って、どんな論文を書いたのかがわかる。研究者の個人情報の塊のようなデータベース」であるとした。

今日、改めて重要度を増す「情報学」の貢献

NIIでは、情報学における基礎論から人工知能、ビッグデータ、IoT、情報セキュリティロボティクス、5Gといった最先端テーマまで、幅広い研究分野において、長期的な視点に立つ基礎研究や、社会課題の解決を目指した実践的な研究を推進している。また、コロナ禍において、大学の遠隔教育の推進を下支えする役割も担ってきた。

  • これまでのNIIの主な成果

今後、情報学の観点から、Society5.0にどんな貢献をしていくのかにも注目される。

なお、NIIでは、2020年12月3日に20周年記念式典をホテルオークラで開催し、NTTの澤田純社長や、NIIの喜連川優所長、NTTの澁谷直樹副社長、インターネットイニシアティブ(IIJ)の勝栄二郎社長、KDDIの高橋誠社長、LINEの出澤剛社長によるパネルディスカッションなどが予定されている。

また、12月4日午前11時からは、「設立20周年記念フォーラム」を、東京・虎ノ門のCIC Tokyoで開催し、次期SINETやデータ共有などをテーマにした5つのセッションが行われる。 いずれもオンラインでの配信が予定されている。

さらに、NIIでは、「国立情報学研究所20年の歩み」を発刊し、これまでの取り組みをまとめている。