シャープが、2020年9月15日に創業108周年を迎えたのにあわせて、ショールームの再編、強化に取り組んでいる。

ひとつは、リアルな展示を行うショールームとして、シャープ本社がある大阪・堺のグリーンフロント堺にある堺ディスプレイプロダクト(SDP) 事務棟1階および2階の「堺SHOWROOM」を強化。もうひとつは、2020年6月に開設したオンライン型ショールームの「e-SHOWROOM」の訴求を本格的に開始した。

いずれもBtoBを中心とした展示内容としており、同社が目指すソリューションビジネス拡大のための戦略的拠点に位置づける考えだ。

  • コロナ禍に、あえて「リアル」のショールームまで強化したシャープの狙い

    シャープの2つのショールーム

同社では、「コロナ禍において、従来のビジネススタイルだけでは困難なケースが生じているが、シャープの事業を、より多くの人たちに知ってもらうために、リアルとウェブの両方で、ショールームの取り組みを強化していく。リアルの堺SHOWROOMを、8つの重点事業分野の新製品およびソリューションによる新たな価値を体験できる場にするとともに、情報の発信基地に位置づける。また、ウェブのe-SHOWROOMは、e-SHOWROOMサイトと、ウェビナーサイトで構成し、オンラインを通じて、情報を発信していく。これらを通じて、8つの分野における事業変革の具体的進捗を示す場に位置づけたい」としている。

シャープでは、「8K+5GとAIoTで世界を変える」という事業ビジョンを掲げる一方、「8K+5G Ecosystem」と「AIoT World」の実現を推進。これに向けて、2020年度に入ってからは、これまでシャープが得意としてきた事業分野である「Smart Home」、「Entertainment」、「Smart Office」に加えて、新たに「Health」、「Education」、「Security」、「Industry」、「Automotive」のあわせて8つの事業領域にも取り組む姿勢を明らかにしている。

  • シャープの8つの事業領域

今回の2つのショールームの強化も、ここで打ち出している8つの重点事業分野における取り組みを示す場に位置づけている。

リアルとウェブ、共通の目的と異なる活用法

リアルのショールームとなる「堺SHOWROOM」では、「展示した商品や技術、ソリューションを実際に体験でき、理解と共感を通じて、来場者のビジネスや、シャープのビジネスに活かしていくことを目的としている」と位置づける。

  • 堺SHOWROOMの入口に置かれたディスプレイ

グリーンフロント堺は、来場するには事前登録が必要であること、最寄りの私鉄や地下鉄の駅からはバスなどを乗り継がなくてはならないなど、一般ユーザーが来場するのが難しい場所にある。つまり、製品を見せることが目的ではなく、BtoBを目的としたショールームとして活用することになる。

展示エリアは2フロアに分かれており、2階にはキッチン、サニタリー、リビングなどに分類したSmart Homeの製品、ソリューション、技術を展示。1階には、残りの7つの事業領域にわけて、合計で60以上のソリューションを展示している。そのうち、25件が、9月17日に新規に追加した展示となっている。

  • シャープ製不織布マスクも展示している

たとえば、8Kインタラクティブミュージアムでは、文化財活用センター、東京国立博物館との共同研究プロジェクトを紹介。重要美術品である「大井戸茶碗 有楽井戸」の8K画像コンテンツを、茶碗型コントローラーで操作するといった展示も行った事例をもとにした文化財鑑賞ソリューションを展示している。

  • 8Kインタラクティブミュージアム 文化財鑑賞ソリューション

  • 文化財鑑賞ソリューションでは茶碗を回しながら体験できる

また、カメラを通じて、非接触で体温や血圧などを測定できる開発中の非接触バイタルセンサーや、120型の8Kディスプレイを使ったシアターシステム、プロジェクターを4台使用した150型シアター、入場制限用カウントサイネージ、介護施設支援ソリューション、GIGAスクール構想向けのタブレットPCおよび充電保管庫、各種8K映像ソリューション、ドローンによる検査ソリューションなど、幅広いソリューションを展示している。

  • 非接触バイタルセンサー

  • 120型の8Kディスプレイを使ったシアターシステム

  • 4Kプロジェクターを4台活用した150型8Kシアター

  • 小型8Kビデオカメラを搭載したドローンから映像データをIP配信する

一方、ウェブのショール―ムとなる「e-SHOWROOM」は、オンラインならではの手軽さを生かして、製品やソリューション、技術などを、ショールームおよび展示室形式を再現。実際の対面の場と変わりなく理解してもらうことを目指したものだ。

  • シャープ e-showroom

「実際に、堺SHOWROOMに来られない人たちを対象に、ウェブ上に用意したショールームが、e-SHOWROOM。堺ショールームの展示内容とリンクしながら、動画などを用いて、ソリューションやシステムなどを紹介している」とする。

  • e-SHOWROOMではオンライン上での新展示や参考展示も行っている

e-SHOWROOMでは、エンターテイメントや医療、教育などのソリューションを中心とした「8K+5G」、AIとIoT、クラウドにつながる機器を中心に、人に寄り添うパートナーとしての役割を担う「AIoT」、創業者である早川徳次氏の「まねされる商品をつくれ」という精神を受け継いだ独自技術を中心とした「Innovation」の3つのカテゴリーで情報を発信している。

  • e-SHOWROOMは3つのカテゴリーに分けて展示している

今後は、より深いコミュニケーションを行うために、ウェビナーサイトの準備も進めているほか、同サイトを通じた継続的な情報発信にも努めるという。

「以前から、展示会や商談会といった場を、デジタルトランスフォーメーション(DX)したいと考えていた。コロナ禍において、展示会や商談会が中止になったことで、より早急にウェブでの展示を実現することが必要となり、プロジェクトの実行を加速した」という。

ソリューションカンパニー移行に欠かせないショールーム

シャープの戴正呉会長兼CEOは、堺SHOWROOMのリニューアルと、e-SHOWROOMのコンテンツ拡充が、同社のソリューション事業の強化に大きな役割を果たすと期待している。

  • シャープの戴正呉会長兼CEO

戴会長兼CEOは、「今後、シャープが、ソリューション事業の展開を加速していくうえでは、様々なステークホルダーに、当社が生み出す新たな価値を実際に体験してもらい、共感を得て、協力関係を構築していくことが極めて重要である」とし、「足元ではコロナ禍によって、グローバルショーをはじめとした様々な展示会や商談会が縮小傾向にあるが、そうしたなかにおいて、今回強化したオフラインとオンラインの二つのショールームである、堺SHOWROOMと、e-SHOWROOMを効果的に活用することで、引き続き、シャープの最先端の取り組みを広く訴求していきたい」と語っている。

戴会長兼CEOは、「シャープは、8つの事業分野において、新たなソリューションを次々と生み出す企業へと転換する。創業108周年を機に、ソリューションカンパニーへと本格的に舵を切っていく」としている。

たとえば、新たに発表した健康、医療、介護分野への取り組みにおいては、8K映像技術を活用した「スマート医療ソリューション」や、医師と患者をつなぐ「オンライン診療ソリューション」、各種技術や商品を医療や介護現場向けに応用した「医療介護従事者サポートソリューション」を展開する考えを示しており、ソリューションを軸にした事業展開を推進する姿勢をみせる。

こうしたソリューションカンパニーへの移行は、同社が2021年度から進める中期経営計画の肝になるのは明らかだ。

戴会長兼CEOは、9月18日に、社員に向けて発信したCEOメッセージで、「社員一人ひとりが従来のハードウェア中心の発想を捨て、創意をもって、ハードウェアとソフトウェア、サービスを組み合わせたシステム、さらにはソリューションを創出していくという強い意志を持つことが不可欠である。各事業責任者は先頭に立って社員の意識改革をリードするとともに、事業変革のスピードをさらに加速してほしい」と語り、ソリューションカンパニーへの転換に取り組む姿勢を強調した。

そして、「こうした取り組みを通じて、一日も早く、事業ビジョンである『8K+5GとAIoTで世界を変える』を具現化する」との意思も示した。

「堺SHOWROOM」と「e-SHOWROOM」の活用と進化は、ソリューションカンパニーへの転換を目指すシャープ変革のスピード感を推し量れる場にもなりえるだろう。