シャープは、家電事業などにおいて、「AIoT」という言葉を使っている。
AIoTとは、人工知能周囲の環境や人の行動を学習する「AI」と、モノのインターネットサービスを連携する「IoT」を組み合わせたシャープによる造語で、同社の登録商標でもある。
AIoT機器を通じて人の生活を学習し、AIが最適な提案を行い、人が主役となるスマートライフを実現するものであり、具体的な目標として、安心で健康な暮らしの実現や、家を快適で楽しい空間にすること、家事労働を軽減し、充実の時間を増やすことを掲げている。
ロボホンとともに発表された「AIoT」
同社が、「AIoT」という言葉を使い始めたのは、2015年である。国内最大の家電見本市だったCEATEC JAPAN 2015の開催前日、会場となった幕張メッセの記者会見で初めて公にした。
このときの記者会見では、AIoTとともに、モバイル型ロボット「RoBoHoN(ロボホン)」も発表。世間の注目はロボホンに集中したが、シャープブースでは、「ココロプロジェクト」をメインテーマに据え、クラウドに接続して、人工知能化することで、機能や動作が快適になる新たな家電群を参考展示。ハードウェアを提供してきたが家電メーカーが、クラウドサービスを一体化し、それぞれのユーザーにあわせた機能やサービスを提供できる、新たな家電の世界を提案する大きな一歩となった。
2016年からは、AIoTに対応したCOCORO+家電の販売を開始。シャープのクラウドプラットフォームである「AIoTクラウド」に接続できる機種の拡大やサービスの拡充、さらには機器同士の連携、他社サービスとのつながりを強化。2020年9月15日時点で、COCORO+対応家電は、累計で11カテゴリー、436機種となり、COCOROMEMERSの会員数は400万人を超えたという。2020年度末には、500機種以上に拡大する予定だ。
シャープ 専務執行役員 スマートライフグループ長兼Smart Appliances & Solutions事業本部長の沖津雅浩氏は、「AIoTによるスマートライフの実現が、さらに加速している」と意義込む。
AIoT家電が実現したスマートライフ
では、AIoTに対応したCOCORO+家電は、ユーザーにとってどんなメリットをもたらしているのだろうか。
AIoT対応家電で、すでに実現している具体的な例を見てみよう。
たとえば、洗濯乾燥機では、クラウドを通じて、1日の気象情報を常に入手し、天気に合わせ洗濯方法をアドバイスする。晴れの日には、「洗濯ものを外に干すと気持ちよく乾きます」と音声で知らせてくれるため、乾燥機能を使うことなく、電気代の節約につなげることができる。
また、エアコンでは、クラウドAIが利用者の好みに合った温度を学習するとともに、気象情報や部屋の広さ、行動パターンなどに合わせて最適制御。省エネで快適な空間を作り出す。
冷蔵庫では、開閉回数を確認して、電気代を抑える使い方をアドバイス。さらに、冷蔵庫やヘルシオ、ホットクックなどは、毎日の悩みである今日の献立も、家族の好みを学習するとともに、クラウド上で増え続けるメニューのなかから、新たなお勧めを選んで提案するといったことを行ってくれる。
お勧め機能は、さらに進化している。
利用するスーパーをCOCOROHOMEアプリに登録しておくと、冷蔵庫やヘルシオ、ホットクックが、お店の特売情報を知らせてくれるとともに、特売情報に合わせた食材を使ったお勧めレシピを提案してくれる。提案メニューに合わせた買い物メモも簡単に作成でき、スマホを持ってお店に行けば、買い忘れや間違いがなく、効率的に、短時間に買い物を済ますことができる。
そして、液晶テレビでは、よくみるテレビ番組をもとに、お勧めの番組情報を教えてくれたり、その他のAIoT対応家電の状態をテレビの大画面で確認することができる。冷蔵庫と洗濯乾燥機の連携では、キッチンで料理を作っていても、離れた浴室の洗濯乾燥機で洗濯が終了したことを、キッチンの冷蔵庫が教えてくれるといったことも可能だ。
また、AIoTは、安心、健康という点でも効果を発揮している。
プラズマクラスターエアコンや空気清浄機が、天気予報やお客様の生活パターンに合わせて最適モードで自動運転するだけでなく、プラズマクラスターイオンが部屋の隅々まで届くように気流を自動的に制御し、1日中安心して過ごせる、健康的な暮らしをサポートする。
また、離れて暮らす高齢の家族の安否確認にも利用できる。日常生活のなかで、冷蔵庫の扉を開閉したり、テレビや空気清浄機の電源を入れたりすると、離れて暮らす家族のスマホにその情報が伝わり、いつもと変わりがない生活をしていることが伝わる。
スマホから家電に声や文字で伝言も送ることもできるため、家族のつながりもサポートできるというわけだ。
ニューノーマル時代の新サービスにも有望
離れて暮らす高齢の家族の見守りにも使えるといった事例からもわかるように、AIoT対応家電の特徴のひとつに、使用者のデータを収集できるという点がある。
これらのデータは、個人が特定されない形で、大阪・堺のデータセンターに蓄積。家電の利用状況を知ることができる。
実は、AIoT対応家電から収集されるデータから、新型コロナウイルスの感染拡大後の生活の変化を知ることもできている。
同社によると、緊急事態宣言以降、AIoT対応家電が消費する電気代が、前年同期に比べて15%増加。ヘルシオホットクックでは、午前11時~午後1時までの昼の時間帯の使用回数が増えていること、これまで土日に洗濯する割合が高いユーザーの70%以上で、平日の洗濯が増えていることがわかったという。
シャープの沖津専務執行役員は、「これらのデータから、ニューノーマル時代の暮らし方において、3つの傾向があることがわかる」と指摘する。
1つめは、在宅時間が増加していることだ。自宅で空調家電や調理家電の使われる時間が増え、おうちの中での家族の過ごし方も変わってきているのがわかる。
2つめは、購買行動の変化。不用意な人との接触を避けるため、オンラインショッピングや宅配サービスの利用が加し、買い物を短時間で効率的に済ませたいという要望も高まっている。
ちなみに、シャープでは、、宅配ミールキット「ヘルシオデリ」を提供している。これは、ヘルシオなどで簡単に調理ができる食材セットで、メニューのなかには、有名シェフが監修した本格的な料理も楽しめるセットも用意している、緊急事態宣言発直後の4月には、前年同月比3倍という伸びをみせた。
下ごしらえした食材や調味料などがセットで自宅に届くため、ホットクックなどに入れるだけで、有名レストランの味を自宅で楽しめるという手軽さなどが受けた。
このように、外出を減らしたい人にとって、自宅に居ながら、注文したり、簡単に調理ができたりする家電やサービスの利用が増えているのだ。
そして、3つめには、安心、健康意識の向上だ。除菌など、部屋全体の衛生意識の高まりのほか、洗濯も、「週末のまとめ洗い」から、「毎日のこまめ洗い」へと傾向が変化しており、家電製品の使い方にも変化が見られいるという。
実は、AIoTは、こうしたデータを活用した新たなサービスの創出が大きな特徴となっている。
しかも、AIoTが接続するクラウド「AIoTプラットフォーム」は、コネクテッド・プラットフォームズ(相互接続)という考え方を基本にしており、他社との連携を前提としたコンセプトにしている点が見逃せない。
多くのクラウドサービスの場合、巨大な単一プラットフォーム上に、サービスや機器を接続する方式を採用するが、AIoTプラットフォームでは、事業者ごとに保有し、運用しているプラットフォームを相互に接続する考え方を採用している。ここでは、ウェブAPIを用いることで、各社が独自に構築したクラウド同士でも容易にやり取りを行なうことを目指している。この仕組みを活用することで、各社の機器とプラットフォーム、サービスが相互に連携して、生活課題を解決することになる。
「LIFE UP プロモーション」が早期普及のきっかけに?
そして、こうした相互連携によるデータ活用の取り組みを具現化した一例が、シャープの100%子会社であるAIoTクラウドを幹事会社とする「AIoTクラウドコンソーシアム」の取り組みだ。これは、経済産業省が実施している「LIFE UP プロモーション」の一環となる。
ここでは、シャープ、ジュピターテレコム(J:COM)、KDDI、ノーリツ、セコムの5社が参画し、AIoTクラウドとKDDIがプラットフォーム事業者として、生活データを集約し、各種サービスとの連携を可能にするデータプラットフォームを提供。シャープ、J:COM、セコム、ノーリツがサービス事業者として、収集した生活データを活用して、家事負担の軽減や日常的な見守りサービスなどを提供することになる
たとえば、セコムとの連携例では、セコムみまもりホンのオプションとして、シャープのAIoT対応家電から生活データを収集し、見守る側、見守られる側の双方に負担の少ない日常的な見守りサービスを提供する。セコムみまもりホンの位置情報と、テレビの視聴状況を組み合わせて、離れて暮らす高齢の家族の生活状況を把握。利用者や家族からの緊急通報をもとに、セコムが現場に駆けつける急行要請もできるサービスとして提供している。
このほどシャープでは、AIoTクラウドコンソーシアムとして取り組む「LIFE UP プロモーション」において、「スマートライフ家電キャンペーン」を実施することを新たに発表した。
対象となるAIoT対応家電を購入し、ネットワークに接続し、対象のクラウドサービスに加入。1カ月以上サービスを利用すると、空気清浄機や一部エアコンを購入した場合には、購入店の5,000円分のギフトカードをプレゼント。テレビやエアコン、冷蔵庫、洗濯機の場合には1万円分のギフトカードをプレゼントする。そして、ヘルシオおよびホットクックの購入者には、3,000円相当分のヘルシオデリ特選ギフトをプレゼントするという。
シャープ 常務兼シャープマーケティングジャパン取締役副社長兼ホームソリューション社社長の宮永良一氏は、「このキャンペーンを、一人でも多くの人に知ってもらうために、店頭、ウェブ、オンラインイベントなどのプロモーションを実施する。店頭展示やウェブバナー、自社サイトを活用した告知も行う。さらに、よしもと芸人によるライブ配信も予定している」とする。
そして、このキャンペーンを通じて、AIoT対応家電のネット接続率を高める狙いがある。 同キャンペーンは昨年も実施しているが、「昨年の第1回キャンペーンでは、40%だったインターネット接続率を、期間全体で70%にまで引き上げることができた。今回は、接続率80%を目指し、スマートライフの早期普及を進める」とした。
ユニークなのは、今回のキャンペーンが、シャープが創立108周年を迎えた2020年9月15日にスタートし、108日間となる12月31日で終了。そして、キャンペーンの購入対象となる家電が108商品というように、「108」という数字にこだわっていることだ。
ちなみに、108種類の対象商品は、液晶テレビAQUOS 8K、AQUOS 4K、4K有機ELテレビ、プラズマクラスターエアコン、プラズマクラスター冷蔵庫、プラズマクラスター洗濯機、プラズマクラスター空気清浄機、ウォーターオーブンのヘルシオ、ヘルシオ ホットクックのほか、今後発売する新製品で構成される。
シャープの「108」へのこだわりを感じるキャンペーンともいえる。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、おうち時間が増加したことで、家電の利用も増えている。そうした新たな生活を、AIoT対応家電の進化と連携がサポートしてくれそうだ。