シャープが今月、同社ICTグループの取り組みについて改めて説明している。

同社は9月11日にスマートフォン AQUOS の新製品である「AQUOS zero5G basic」など4機種を発表した。そのオンライン会見の席上、同グループを担当するシャープの専務執行役員 ICTグループ長の津末陽一氏が言及した。

  • シャープはソリューションカンパニーに、本格始動したICT事業の今

    ニューノーマル時代へ、ソリューションカンパニーに生まれ変わると宣言する津末専務執行役員

津末専務執行役員は、そこで「シャープのICTグループは、ニューノーマル時代に向け、お客様の豊かな生活をサポートするソリューションカンパニーに生まれ変わる」と宣言した。

シャープを構成する3つの事業、その1つがICTグループ

シャープは現在、テレビシステム事業や複写機などのビジネスソリューション事業を担当する「8Kエコシステムグループ」と、家電を担当するSmart Appliances & Solutions(SAS)事業、ECサイトのCOCORO STOREなどを担当するCOCORO LIFE、太陽光発電システムのシャープエネルギーソリューションなどで構成する「スマートライフグループ」、PC事業を行うDynabook、スマホ事業を行うAQUOSスマートフォン、クラウドサービスのAIoTクラウド、そして、新たに取り組む健康、医療事業で構成する「ICTグループ」の3つの事業グループを持つ。

津末専務執行役員は、「ICTグループは、シャープが保有する8K信号処理、5G通信、AI、クラウド技術と、豊富なICT機器やサービスを有機的に組み合わせ、シャープ以外の事業者とも連携しながら、仕事や学び、暮らしといったお客様の生活をより豊かにする特徴的なソリューション提案を加速していくことになる」と述べる。

ICTグループはソリューションとして、3つの取り組みを展開する。

1つは、働き方改革ソリューションである。

ここでは、ビジネスチャットとビデオ会議を実現する同社独自のLINC Bizや、クラウドサービスのdynaCloud、そしてdynabookブランドの堅牢軽量モバイルPC、5Gスマートフォンや5Gルーターによる「スマートオフィス」、現場向け作業支援ソリューションのVision DE Suiteなどによる「現場DX」、LINC Biz mobilityや、eSIM搭載GPSモジュール端末、ドライブレコーダーによるソリューションを組み合わせた「テレマティクス」の3領域から事業を展開。「スマートオフィスでは先進的なオフィスやテレワーク環境を実現し、現場DXでは、最前線の現場をDXでサポート。テレマティクスでは、運送業務の効率化や見える化を実現するソリューションを提供していく」という。

Vision DE Suiteは、モバイルエッジコンピューティングデバイス「dynaEdge DE100」とインテリジェントビューア「AR100」向けに開発された、Windows 10環境で動作する作業支援ソリューションで、新製品となるバージョン3を、9月11日に発表したところだ。Microsoft Teamsに対応する機能を新たに搭載。現場作業において「dynaEdge DE100」の5ボタンキーを使ってMicrosoft Teamsを簡単に操作できるようになった。オフィス・テレワーク、文教、現場、テレマティクス、ヘルスケア・医療の5つの市場に対して、デバイスとクラウドサービスを融合させたサービスとして、Vision DE Suiteを提供する考えを示している。

  • Windows 10環境で動作する作業支援ソリューション「Vision DE Suite」

また、テレマティクス分野では、GPSモジュールとLTE通信サービス、端末管理クラウドサービスをワンパッケージで提供するテレマティクスサービス「LINC Biz mobility」により、運送用トラックや営業車などの業務用車両を保有する企業、事業者を対象にサービスを提供。車両の運行情報などを可視化することで、効率的な運送業務の推進を支援する。LTE通信サービスでは、ソラコムのSORACOM Air forセルラーを活用。シャープが開発した車両管理ソリューションや温湿度管理ソリューションと組み合わせた提案も進めていくという。

2つめが文教ソリューションだ。

ここでは、Dynabookが教育分野向けに用意した2in1デタッチャブル端末「dynabook K50」と、「dynabookオリジナルアプリ」に加えて、学校現場におけるアカウント設定やPC設定支援などを行う「dynabook GIGA構築支援メニュー」を用意。「政府が推進するGIGAスクール構想に、端末、アプリ、サービスをワンストップで対応するGIGAスクールパッケージを提供している。さらに、GIGAスクール構想の実現に欠かせないのがネットワークであり、学校に最適なネットワーク環境設備に向けて、ローカル5Gシステムの開発にも取り組んでいる」(津末専務執行役員)と述べる。ここでは、学校まるごと5G化の提案も進めていくという。

文教ソリューションの主力製品となるGIGAスクールパッケージは、日本マイクロソフトとの連携によって製品化したもので、中核となるdynabook K50は、10.1型のディスプレイを搭載。ノートPCと同様に画面を完全自立させ、キーボードによるタイピングを可能としたほか、タブレットとして持ち運び適した利用も可能になっているのが特徴だ。フロントとリアに搭載したカメラにより、観察授業や社会科見学など、屋外での学習にも効果を発揮する。また、大容量バッテリーにより、16時間の連続駆動や、30分間の充電で6時間稼働するお急ぎチャージにも対応するなど、授業を止めないための工夫が盛り込まれている。Dynabookでは、「先生の声を活かし、実践で磨いた、安心、高機能、高性能を実現している」としている。

そして、3つめが、コミュニケーションおよびエンターテイメント分野である。

ここでは、8K+5Gスマートフォンや8Kテレビ、コンテンツダウンローダーによる「8Kコミュニケーション」、Dynabookが開発した8K映像編集PCシステムなどを活用した「8K映像編集ソリューション」、他社サービスと連携した「スマートライフサービス」を提供する。

津末専務執行役員は、「暮らしをもっと豊かにすることを目指し、簡単で、感動をもたらす8Kコミュニケーションに加えて、機動的な8K映像の編集ソリューションにより、映像エンターテイメントの高度化に貢献。家庭の様々な機器とサービスをつなぎ、安心で快適なスマートライフを実現するプラットフォームの連携支援にも取り組んでいく」と語る。

5G AQUOS、Dynabook、AIoTのシナジーで生まれ変わる

9月11日に発表したAQUOSスマートフォンでは、5G対応製品のスタンダードモデル「AQUOS zero5G basic」と、「AQUOS sense5G」を投入する。これにより、今年の3月、他社に先駆けて発売したハイエンドモデルの「AQUOS R5G」とあわせて、3機種の5G対応製品を揃えることになる。

  • 5G対応AQUOSスマートフォンを新たに2機種投入し、入門モデルから高性能モデルまでカバーする5Gラインナップを揃えた

製品発表の会見でシャープ 通信事業本部パーソナル通信事業部の小林繁事業部長は、「仕事、学び、暮らしのソリューションのなかで、5Gは重要な役割を担う。5Gを広めることで、世の中をもっと楽しく、生産的にしていくことがシャープの使命である。エンターテイメント、ビジネス、コミュニケーションの体験が革新できる」とし、「シャープは、『5Gノーマル化』を宣言する。あとから振り返って、今日から5Gが普通になったといってもらえるようにしたい」と述べた。AQUOS sense5Gの開発を担当したシャープ通信事業本部パーソナル通信事業部商品企画部の清水寛幸課長も、「日常生活に役に立つ『普通の5G』がこれから求められる。AQUOS sense5Gでは『みんなの5Gスマホ』である」として、5Gを一気に普及させる姿勢を示した。

  • 3機種の5G対応スマートフォンを「みんなの5Gスマホ」と表現し、「5Gノーマル化」を宣言する小林事業部長

また、9月10日に発表した「コンテンツダウンローダー」は、AQUOS 8K向けのアプリで、スマートフォンで撮影した8K動画を、クラウドストレージのGoogleドライブにアップロード。AQUOS 8Kに同アプリをインストールしておけば、接続した外部ストレージに、8K解像度のまま動画をダウンロードできるため、鮮明で迫力のある8K映像を、大画面テレビで手軽に楽しめるようになる。

  • 5Gの高速データ転送を活かしたAQUOS 8K向けのアプリ「コンテンツダウンローダー」

さらに、スマートライフサービスでは、独自のAIoTプラットフォームと、他社製品および他社サービスを連携した取り組みを開始。大阪ガス、ノーリツ、リンナイのガス給湯器、および大阪ガスの家庭用燃料電池「エネファーム」と、相互のプラットフォーム連携を図り、シャープの「COCORO HOME」アプリを通じて、外出先のスマホから風呂を沸かしたり、帰宅時に複数の家電と給湯器をまとめて操作したりといったことが可能になるほか、関西電力の見守りサービスに、シャープの冷蔵庫や空気清浄機などの家電データの提供を開始することで、離れて暮らす家族の状況を知らせることなどができる。

また、経済産業省が実施している「LIFE UP プロモーション」においても、AIoTクラウドコンソーシアムとして参加。プラットフォーム連携によるサービス利用の促進を図る。これに準拠したスマートライフ家電キャンペーンの特典の詳細は、まもなく発表される予定だ。

津末専務執行役員は、「シャープのICTグループは、AQUOS、Dynabook、AIoTクラウドの3つの事業をつなぎ、プラットフォーム化することで最大限の事業シナジーを発揮することを目指す。誰もが、手軽に、良質に、多様に体験できるソリューションを提供し、ニューノーマル時代に向け、お客様の豊かな生活をサポートするソリューションカンパニーに生まれ変わる」と述べた。

9月8日には、ICTグループに、新たに健康、医療、介護を担当する事業も加わることが明らかにされ、同グループの事業領域はさらに拡大することになった。

ソリューションビジネスによって、事業成長を描くICTグループの取り組みは、シャープにとって、新たな事業モデルを確立するための挑戦になる。