小田急電鉄は、MaaS(Mobility as a Service)アプリ「EMot(エモット)」のサービスを本格化。今後追加する新たな機能について発表した。また、アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)では、同サービスがAWSクラウドで稼働していることを明らかにした。
MaaSは、出発地から目的地までの移動ニーズに対して、最適な移動手段などをひとつのアプリで提供したりするほか、生活サービスや観光サービスとも連動したりする。移動を単なる手段としてではなく、利用者に対する一元的なサービスとして捉えるものだ。
小田急電鉄のMaaSアプリ、具体的に何ができる
小田急電鉄が提供しているMaaSアプリの「EMot」は、基本機能として、一般的な鉄道やバスを対象にした経路検索に加えて、タクシーやシェアサイクルなどを組み合わせた経路検索が可能となっている。連携しているアプリやサイトへの遷移、モビリティの予約、決済、保有している定期券情報、購入した電子チケットを考慮した経路検索を可能とする「複合経路検索サービス」を実現している。複合経路検索サービスは。現在、17社と連携を行っている。
また、フリーパスなどの企画券や、生活サービス施設などの電子チケットの購入のほか、ショッピングなどに応じて、無料で交通機関などが利用できる特典チケットの発行、フリーパスなどと連携した優待施設情報の取得といったサービスを提供する「電子チケット発行」の機能を持つ。
小田急電鉄 経営戦略部 次世代モビリティチーム 統括リーダーの西村潤也氏は、「2019年10月にスタートしたEMotは、日々の行動の利便性をより高めることができ、新しい生活スタイルや、観光の楽しみ方を見つけられるアプリである。複合経路検索機能や電子チケット機能によって、行き方を変えるだけで、いつもの道が新しくなったり、移動することで心や経験が豊かになり、生き方が変わったりする。小田急電鉄では、2018年に複々線を完成させ、『新しい小田急』へと変革することを目指しており、そのためには、リアルな事業とデジタルな顧客接点の融合が肝要であると考えている。その点で、EMotは、重要な役割を担う」と位置づける。
さらに、「交通事業者は、単に利用客を取り合うだけという時代は終わり、利用者にとって、最適な交通サービスを提供することが重要であり、そのためには、様々な事業者が開発するMaaSアプリや、自治体が提供するサービスとも連携する必要がある。海外でのサービスとの連携によって、海外から訪れる観光客などにも利用してもらえる環境を作りたい」と開かれた連携の重要さを語る。
EMotでは、箱根エリアの8つの乗り物が自由に乗り降りでき、箱根周辺の温泉や観光施設など、約70のスポットが優待、割引料金で利用できる「デジタル箱根フリーパス」を販売。商業施設の「新百合ヶ丘エルミロード」では、2,500円以上の買い物をすると、新百合ヶ丘駅を発着する小田急バスの往復無料チケットを提供するといったデジタルチケットサービスを提供している。また、1日1回、駅構内の店舗で、「おだむすび」や「箱根そば」などを食べることができるサブスクリプション型デジタルチケットも提供している。
さらに、今回は新たな4つの機能も紹介した。
1つめは「チケット譲渡機能」だ。代表者のEMotアカウントで乗車券などのチケットを複数購入して、他のEMotアカウントに1枚ずつ譲渡できるもので、「これまでは改札の前に集まった参加者に乗車券を渡すといった形だったが、当日購入した乗車券をデジタルでスマホに配信し、ロマンスカーのなかで集合するということも可能になる」という。
2つめが、「リアルタイム運行情報」だ。電車やバスでの運行情報をスマホに表示するほか、将来的には小田急線の車両の混雑予測も表示する予定であり、新型コロナウイルスの感染防止のために混雑した車両を避けたいという場合にも有効だ。
3つめは、温浴施設「箱根湯寮」向けの電子チケットの発行。通常の入浴料金と同じ1,500円で、700円相当のレンタルタオルセットが無料で利用できる電子チケットだ。
4つめが、AIを活用した「周遊プランニング機能」。ユーザーが任意に選択した複数のスポットを周る最適な周遊プランを、AIが自動で提案。複合経路検索によって、周遊プランに沿った形で移動をサポートするという。同機能は年内に提供する予定だ。
「MaaSを通じて、幅広いパートナーと連携しながら、会いたいときに、会いたい人に、会いに行ける、次世代のモビリティライフを社会に生み出したい。新型コロナウイルスの感染拡大が続いているが、安心して気軽に外出できる新しい移動サービスの実現につなぎたい」という。
「駅すぱあと」のヴァル研究所が開発協力
EMotを支えるデジタル基盤となっているのが、ヴァル研究所が開発協力したMaaS プラットフォーム「MaaS Japan」である。
経路検索や通勤費管理などができるヴァル研究所の「駅すぱあと」の基本機能を活用。外部サービスを積極的に利用することも考えており、ヴァル研究所 執行役員CTOの見川孝太氏は、「MaaS Japanでは、APIの公開により、外部サービスからの利用も想定している。API連携により、サービス価値の向上や新たな市場開拓も行いたい」と説明。
そしてAWSの採用については、「MaaS JapanにおいてAWSを採用したのは、ビジネスを実現するための速度を優先したこと、今後の変更に柔軟に対応できること、サービスのスケールにあわせてスケールできるプラットフォームであることが理由だ」とする。また、ヴァル研究所は2012年からAWSを利用しているため、「知見やノウハウを蓄積している。最も使い慣れたクラウドであることも理由のひとつである」とした。
AWSクラウドは、2006年からクラウドサービスの提供を開始。世界24カ所のリージョン、76のアベイラビリティゾーンで運用されており、毎月数100万の企業が利用。日本では数10万社が利用している。
アマゾンウェブサービスジャパン 技術統括本部長 執行役員の岡嵜禎氏は、「すでに、MaaSプロバイダーやデータプロバイダーなど、MaaSを取り巻く様々な領域で、AWSの活用が進行している」と話す。
例えばティアフォー社では、自動運転の中核となるIoT基盤に、マネージドサービスのAWS IoT Coreを採用。コンテナサービスとサーバーレスの特徴を生かして、自動運転プラットフォームの構築を効率化しているほか、トヨタ自動車では、モビリティサービスプラットフォームにAWSを活用しており、ビッグデータの蓄積や利用基盤の強化を図っている。また、ゼンリンデータコム社では、オンプレミス環境で稼働していた1800台の仮想マシンを、VMware Cloud on AWSに移行。車載カメラやドライブレコーダーから取得した動画や静止画から、道路交通標識や看板を認識して、地図情報の自動更新システムを稼働させたり、道路上の落下物や障害物を認識して、リアルタイム通知システムとして運用している事例がある。
MaaSにおけるAWSの広がりは勢いを見せており、岡嵜氏は背景として、「MaaSの領域において、AWSクラウドの活用が推進されているのは、マネージドサービスによって、インフラ管理をオフロードでき、コア領域に集中できること、使った分だけの料金の支払いで済むため、アイデアをすぐに形にできること、拡張性を持ったスケーラビリティを持っていることがある。また、セキュアなデータ連携や、グローバルに展開できるフットプリント、豊富な技術情報や数多くの技術者が利用しているため、学習コストの最小化を生むというメリットも特徴である」と述べ、、そして「こうした特徴があるため、MaaSに関連する数多くのサービスがAWS上で稼働している。さらに、AWSが提供する約175の技術やサービスを活用できるようになっており、MaaS エコシステムを支えている。2020年中には、MaaSのリファレンス実装をテンプレートとして提供するAWS Connected Mobility Solution (CMS)を投入する」など展望を紹介した。