日本の空港における出国手続きおよび帰国手続きで、顔認証ゲートが導入されるようになってから、ずいぶんとストレスがなくなった。海外出張や海外旅行をする際、パスポートを置いて、顔認証を行い、照合すると、ゲートの扉が開いて通過できるようになる。この間、平均15秒。日本人旅行者が次々とゲートに吸い込まれるようにして、出国したり、帰国したりしている。

この顔認証ゲートを開発したのがパナソニックだ。すでに日本人の海外旅行客の8割が、パナソニックの顔認証ゲートを利用し、厳格かつ円滑な出帰国手続きを行っている。そこには、パナソニックが持つ世界最高水準の精度を持つ顔認証エンジンが活用されているのに加えて、家電事業などで培った、日本のメーカーらしい「おもてなし」の姿勢が反映され、誰もがスムーズにゲートを通過できるように工夫されている点が見逃せない。

  • パナソニックが開発した顔認証ゲート

顔認証ゲート導入で確実に便利になった実感

出国および入国を管理する法務省出入国在留管理庁が、顔認証技術を活用したゲートを最初に設置したのは、2017年10月18日。まずは、羽田空港国際ターミナルの帰国手続きに3台の顔認証ゲートを導入した。その後、成田国際空港、中部国際空港、関西国際空港、福岡空港国際線ターミナルの5つの空港にも導入。2019年度には新千歳空港に導入したのに続き、2020年度には那覇空港にも導入する予定で、全国7つの空港に、帰国手続きおよび出国手続きをあわせて、203台の顔認証ゲートが設置されることになる。

  • 羽田空港に設置された最初の3台

  • 成田国際空港に設置された様子

さらに、2019年7月からは、外国人の出国手続きにも顔認証ゲートの利用が開始されており、増加する訪日外国人の手続きの合理化にも貢献している。対象となっているのは、観光や出張などで来日した短期滞在外国人で、日本人が手続きを行う顔認証ゲートと同じ装置を使っている。いまでは、出国手続きに関しては、日本人と外国人が同じ顔認証ゲートを利用して手続きを行う環境が整っているというわけだ。このように機能を進化させることができるのも、パナソニックの顔認証ゲートの特徴だ。

顔認証ゲートは、1人ずつゲートに入り、パスポートを所定の位置に置くと、パスポートに内蔵されているICチップから顔画像データを読み出し、続いて本人確認のためICチップの顔画像と、顔認証ゲートに内蔵されたカメラで撮影した顔画像を照合。本人確認ができると、ゲートの扉が開いて入出国ができるようになるというものだ。

ここでは、NISTコンペティション(IJB-A)で評価されたパナソニックの世界最高水準の顔認証技術を採用。顔認証エンジンは、複数のディープラーニング構造を融合した特徴量抽出と、撮影環境に合わせた類似度計算手法とを組み合わせた独自のアルゴリズムを採用して高い認証精度を実現。旅行者の経年変化や化粧、表情、バスポート写真の画質などにも対応しており、素早く、厳格に認証することができるという。

顔認証ゲートでは、審査官と直接会話をすることがなく、短時間で手続きが終わることから、ストレスなく通過できるのが特徴だ。筆者自身も年間10回ほどの海外取材を毎年こなしているが、ここ数年は日本での出国や帰国の手続きでの待ち時間が劇的に減った。しかも、出帰国を含めて50回近くは利用しているのに、パスポートを読み取らなかったり、写真が撮影されなかったりといったトラブルにあったことがない。海外の空港ではデシタル化された装置を入出国手続きの際に利用することがあるが、残念ながら、何度かトラブルにあっている。

いつもスムーズに日本に帰国できるため、日本の空港では、手荷物が出てくるかなり前に手荷物引渡場に到着することができるというのが、ここ数年のいつもの様子だ。

家電メーカーの「おもてなし」が活きた好事例

実は、顔認証ゲートは、最先端の顔認証技術を採用している点だけが特徴ではない。

そこには、家電メーカーとしてユーザビリティにこだわり続けてきたパナソニックらしい配慮が随所に盛り込まれている。まさに、日本の家電メーカーならではの「おもてなし」の姿勢がみられる装置になっている。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社イノベーションセンターマーケティング統括部総括担当の窪田賢雄氏は、「初めての人でも、高齢者の人でも、その場で使い方に迷うことがなく、間違えにくく、使いやすいゲート装置を実現しました。そして、入出国審査場は、ただでさえ、緊張感がある場所。ストレスを感じないようなデザインも採用しています」と話す。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社イノベーションセンターマーケティング統括部総括担当の窪田賢雄氏

たとえば、顔認証ゲートのボディには明るい白のカラーを採用。入口へ誘導するための矢印や、進入を禁止するマークは特に大きく表示するようにした。さらに、大きなコーナーRを使用するなど、丸みを多用したやさしさを感じるデザインを採用したのも、手続きを行う人たちに威圧感や緊張感を与えないための配慮のひとつだ。ゲート入口の手前側は出口部分よりも幅を広く取り、入りやすくしているのも同様の理由による。そして、顔認証ゲートの全長は145cmとコンパクトにしており、これも装置そのものの威圧感をなくすことにつながっている。

  • 顔認証ゲートには、明るい白のカラーを採用。入口は出口部分よりも幅を広く取っている

  • 大きなコーナーRを使用している

  • 入口へ誘導するための矢印や進入を禁止するマークを大きく表示

また、パスポートを置く場所は、パスポートリーダーとしての機能を果たすが、左右逆に置いても読み取ってくれる。また、ページのヨレなどでパスポートの一部が少し浮いていても、リーダーに押し付けずに読み取ってくれる。

  • 顔認証ゲートに入ると「パスポートを置いてください」と表示される

  • 顔認証ゲートに入り、パスポートをリーダーの上に置く様子

  • パスポートを置くとICチップから顔画像データを読み出す

  • 読み出しが終わるとパスポートの周りが光る

パスポートが認証されると顔写真の撮影となるが、撮影を指示するメッセージは、利用者それぞれの身長を考慮して見やすい場所に表示。また、写真を撮影する際にカメラが見えると緊張感が高まるため、ハーフミラーを施すことでカメラのレンズが見えないようにし、目の前には自分の顔が映るようにしている。そのため、カメラを意識することなく、自分の顔を自然と眺めている間に写真が撮影される。

  • 続いて写真を撮影。ハーフミラーを施し、カメラのレンズが見えないようにしている

「自分の顔を見ているのが一番安心する、という配慮」だと、パナソニックの窪田氏は笑う。

当然、ハーフミラーにすれば、撮影の際には暗くなるというデメリットが生まれるが、様々な技術的アプローチでこれを解決し、最適な形で撮影できるように工夫をしている。ここには、パナソニックがカメラ事業で培った光学技術などが活かされている。ハーフミラーの採用は、安心して利用してもらうことを最優先したこだわりのひとつだ。

  • ゲートにはPanasonicのロゴが入っているが、ゲートの方を向くタイミングには開いた後であり、このロゴを見る人は意外と少ないようだ。なので、この装置がパナソニック製と気づかない人は多いだろう

さらに、手荷物を持った人が、それを置けるスペースを用意したり、キャリーバッグを持っている人が、自分の手前に安心しておけるようにくぼみをつけたり、バックパックを持った人が、後ろにある隣の顔認証ゲートの背面に引っかからないように装置の裏側にも丸みを持たせたデザインを採用するといった配慮も行われている。

  • キャリーバッグを持っている人が、自分の手前に安心しておけるように、くぼみをつけている

  • 肩にかけたバックパックが隣の顔認証ゲートの背面に引っかからないように装置の裏側にも丸みを持たせたデザインを採用

パナソニックでは、顔認証ゲートの開発に向けて、ユーザビリティ向上に向けた実験を何度も繰り返してきた。

東京・有明のパナソニックセンター東京に、実験用の装置を何台も設置して、入出国審査場を疑似的に再現した。様々な荷物を持った人、様々な身長の人や体型の人、老若男女が次々と顔認証ゲートを通過する実験を行ったり、多数の人が動いた際に、利用者同士が接触したり、キャリーバッグがぶつからないようなレイアウトの検証を行ったりした。また、認知心理学の専門家の協力を得て、あらゆる人が迷わずに操作できるUIの実現に向けての改良も加えていったという。

「とくに、高齢者の視点での使いやすさを追求したのです。顔認証ゲートに入った後、自然にパスポートを置いて、指示に従って、あまり視点を動かさずに顔写真の撮影を行い、パスポートを取り忘れることなく、ゲートを通過するといった、スムーズな流れを実現するようにしました。音声案内をあえて使わなかったのも、画面の文字での案内に音声を加えてしまうと、情報が多くなり、かえって混乱する可能性が高いと判断をしたためです」と説明する。

これらはまさに、100年の歴史を持つ家電メーカーとして、ユーザビテリィを追求し続けてきたパナソニックのDNAが活かされている部分だといえる。

もちろん、共連れなどの不正通過検知でも最先端技術を活用して、それらを防止する対策も施している。想定される数々の不正対策にもしっかりと対応。円滑な手続きだけでなく、厳格な手続きが共存している。

また、パナソニックが実現した顔認証ゲートの「コンパクト」な設計が、様々なメリットを生んでいる。

羽田空港や成田国際空港では並列型に顔認証ゲートを設置しており、そこに多くのゲートを集中して設置しているが、関西国際空港や中部国際空港では、審査場の人の流れや施設スペースに合わせて縦型の配置になっている。それにあわせて、並列型では導入されていない、左向きにリーダーやカメラなどを配置した装置も用意している。コンパクト化することで、それぞれの場所にあわせた柔軟なレイアウトを可能にしている点も見逃せない。

急増する訪日外国人に対応しうる有望な一手

周知のように、訪日外国人は急拡大している。政府では、年間3000万人に達している外国人観光客を、東京オリンピック/パラリンピックが開催される2020年には年間4000万人に、2030年には年間6000万人にすることを目指している。

これから倍増することが見込まれる訪日客の増加に伴い、審査官を増員したり、手続きエリアを増やしたりするのにも限界があるのが実態だ。その点でも、顔認証ゲートの導入は有効となる。

従来の有人ブースでは、審査官が左右に配置され、それぞれの列に並んだ人の手続きを行うというスタイルが多かったが、そのスペースがあれば、顔認証ゲートを並列型で並べても、明らかに2台以上の顔認証ゲートが設置できる。さらなるスペースの有効利用や合理化に寄与することができそうだ。

これまでに紹介してきたように、現時点では日本人の出帰国手続きでの導入と、外国人観光客の出国手続きでの導入に活用しており、顔認証ゲートの導入により、結果として窓口数が増加し、手続きにかかる待ち時間を大幅に減らしながら、厳格な審査が行えるようになっている。

そして、顔認証ゲートの設置によって手の空いた審査官を、急増している外国人観光客向けの入国審査にあてることができるようになる。

パナソニックが開発した顔認証ゲートは、日本の最先端技術と、日本のおもてなしが融合した装置であり、それによって、スムーズな出帰国手続きを実現。訪日外国人の増加にも対応する重要な装置となっているのは明らかだ。