NECは、学校、事業者、家庭をつなぐ教育プラットフォーム「Open Platform for Education」の提供を、2020年度から開始すると発表した。
また、Open Platform for Educationに接続する学習用端末として、Chromebookの「NEC Chromebook Y1」を商品化する。
クラウドによるプラットフォームを活用することで、教育系出版社などの学習コンテンツ事業者、自治体、学校、塾、家庭をつなぐことで、教育分野におけるデジタル化を支援することになる。
具体的には、約1000社の教育系出版社と取引実績を持つ日協販との協業や、語学などのコンテンツを持つ事業者とも提携。教育のデジタル化に対応した学習者向け教材やコンテンツを提供するほか、採点支援や授業支援などの教員向けツールも提供。NEC独自の指導・学習支援サービス「協働学習支援サービス」も利用可能となる。
NEC 第一官公ソリューション事業部 初中等・教育産業マーケット担当の田畑太嗣部長は、「NECは、PC-9800シリーズの時代から、学校現場に多くのPCを導入し、現在でも約4割のシェアを持つ。デジタル教科書の事業者とつなげば、スムーズに新たなテクノロジーを使ってもらえるのではないかと考え、今回の教育プラットフォームの提供を開始することにした」と、取り組みの発端を説明する。
加えて強みとして、「コンテンツ企業との幅広いタイアップにより、教員の要求に合致した教育コンテンツを提供できること、NECの認証技術を活用することで、シングルサインオンで利用でき、教育ダッシュボードにより学習データの一元管理ができるといったメリットを提供できる。また、NEC Chromebook Y1の提供により、プラットフォームから端末まで、フルレイヤー連携が可能になるほか、協働学習支援サービスによってグループ学習を可視化し、アクティブラーニングに対応できる」と述べる。
さらに将来に向けては、「コンテンツ事業者に対してもマーケットプレイスを提供でき、決済機能も提供したいと考えている。今後、協業パートナーを拡大して、子供たちが社会のなかでより良く生きていけるような21世紀の教育の場づくりを推進する」という。
Open Platform for Educationの柱となる協働学習支援サービス
Open Platform for Educationは、Chromebook以外にも、Windows搭載PCの利用も可能となっている。
そして協働学習支援サービスは、今回のOpen Platform for Educationのなかで重要な柱になる。
協働学習支援サービスは、「子供一人ひとりを伸ばすための学習データの分析、活用によって、子供たちの『やる気スイッチ』を発見し、伸ばす教育を実現。ラーニングアナリティクスを取り入れた新たな教育を実現する」と位置づける。
グループ学習中の発話をマイクデバイスで収集し、その音声データをAIが分析して、話者の特定や内容をタイムラインでテキスト化。感情などの情報を教員へフィードバックできる。
これにより、「子供のたちの感情変化を色で表現し、その割合を表示することができるほか、学習キーワードの出現回数、発話数、沈黙時間、割り込み回数などの様々な分析が可能であり、グループや生徒、児童の様子を、データに基づいて振り返ることも可能になる。これらのデータから、子供一人ひとりの能力、特性、変化、成長などを見つけて、伸ばすこともできる。これまで見逃してしまっていた発言を拾うことができ、その結果、子供が良いことを言っていることを見つけ、発言を誉めて、学習意欲を高めることができる」という。
協働学習支援サービスは、2018年12月から、京都大学学術情報メディアセンターの緒方広明教授と連携し、未来型教育京都モデル実証事業を進めており、AIを活用して子供の特徴を捉えて、発話を可視化。エビデンスに基づく教育の実現を目指した取り組みの成果を検証している。
NEC PCのノウハウを総動員したChromebookを投入
一方、「NEC Chromebook Y1」は、OSにChrome OSを搭載し、11.6形ワイド液晶ディスプレイ、最大10時間駆動のバッテリーを備えたChromebookだ。筐体サイズは、290(W)×204(D)×20.35(H)mmで、重量は約1.35kg。4つのUSBポート(Type-Cを2基、USB3.0ポートを2基、microSDカードスロット、ヘッドフォンおよびヘッドフォンマイクと、一通りの機能を揃えている。
特徴的な360°回転する液晶ディスプレイにより、授業内容にあわせて、ノートPCスタイル、スタンドスタイル、テントスタイル、タブレットスタイルの4つのスタイルで利用できるほか、防滴設計のキーボードおよびタッチパッドの採用、75cmの高さからの落下試験をクリアする堅牢性を実現。最長5年間の保証サービスを用意しているほか、バッテリー交換や設定代行サービスなどの保守メニューも用意した。
「NECがこれまで培ってきたPCのノウハウを活用し、『教育分野にはこれだ』といえる製品を用意した。学校のなかで一日利用していても十分なパッテリー駆動時間を有しており、4つのスタイルで利用できる点も特徴である。また、小学校ではキーボード入力の練習も行うため、その際にも最適なキーボードも採用している。この教育専用端末を提供できるのは、NECならでは」(田畑部長)。
教育分野におけるChromebookの導入率は、米国では約6割強、全世界でも5割に達しているが、日本ではまだまだ少ない。だが田畑部長は、「将来的には、日本でもChromebookの構成比が5割程度に達するのではないか」と考えを述べていた。
関係者間のマッチング不足解消はNECの得意分野
今、日本の教育現場は大きな転換点にある。
2019年4月からのデジタル教科書の併用開始や、2020年度から小学校を皮切りにした学習指導要領の改訂などにより、プログラミング学習や外国語教育が導入されほか、2019年6月からは、学校のICT環境の整備を後押しするために、学校教育情報化推進法が施行され、教育分野のデジタル化が推進されているところだ。
「学習指導要領の改訂では、初等、中等段階から、新たな時代に必要となる資質、能力を育成する必要性が盛り込まれ、さらに、学習評価の充実も盛り込まれている。これまでの教育で重視された、生きて働くために必要とされる知識、技能の習得に加えて、未知の状況にも対応できる思考力、判断力、表現力などの非認知スキルの育成が重視されている。また、質の高い教育を実現するためには、先端テクノロジーを利用することが不可欠であり、これは教員の働き方改革にも貢献することになる」(田畑部長)。
だが、その一方で、現場ではいくつもの課題があると指摘する。
課題とは、田畑部長によれば「デジタル教科書が各社から発売され、edtechに多くの事業者が参入し、先生向けの働き方改革ツールも続々と登場している。だが、学校現場においては、edutechに関する製品や現状に関する情報が入ってこない、入ってきたとしても比較ができない、導入が決定したとしても、教員に負担がないように、いつ導入するのか、どれを使うのかといった選定ができない」といったものだという。
田畑部長は、「いわば、事業者と学校現場のマッチング不足が課題となっており、この課題はこれからさらに大きくなるだろう」と見ている。
今回のOpen Platform for Educationは、こうした課題を解決するものになるはずだ。
田畑部長は、「学校現場では、Wi-Fiの整備率がまだ4割に留まっている。文科省では、100%の導入を目標にしており、これを整備していく必要がある」としながらも、「2025年には生徒、児童に1人1台の環境が整うことになる。その際にも、教育プラットフォームおよび端末を含めたフルレイヤーでも4割のシェアを獲得したい」と述べた。
教育分野で実績を持つNECが、教育現場と事業者をつなぐことで、教育現場の転換をどう支援していくのかが注目されることになるだろう。