パナソニックは、ルームエアコンや空気清浄機、A2W(Air to Water=ヒートポンプ式温水給湯暖房機)などを担当する空質空調社と、小売店向けの冷凍/冷蔵ショーケースをはじめとした「食のサプライチェーン」を支える事業を行うコールドチェーンソリューションズ社の事業戦略について、両社の社長を務める片山栄一社長が、それぞれに説明を行った。
とくに、空質空調社については、2024年7月から、同社社長に就任してから、片山社長による事業説明は初めてのこととなった。
成長路線を進むコールドチェーンソリューションズ社と、構造改革に取り組む空質空調社という、フェーズが異なる2つの事業の舵取りを、片山社長が同時に推進することになる。
パナソニックの空質空調、グローバル化の課題
空質空調社は、6つの事業を擁し、ルームエアコンやコマーシャルエアコン、A2Wといった大手空調企業との競合領域と、空質機器やデバイス、環境エンジニアリングといった非競合領域の事業で構成している。売上げの約7割が競合領域、約3割が非競合領域となっている。
中期経営計画の最終年度となる2024年度の当初計画は、売上高1兆円、調整後営業利益555億円、EBITDA835億円としていたが、これを下方修正し、2024年度見通しは売上高で8900億円、調整後営業利益が170億円、EBITDAは510億円としている。
片山社長は、「低収益化が進み、計画に対しては4%の乖離がある。欧州のA2Wへの投資負担の増加、空質空調融合商品の負担増、ルームエアコンの国内生産回帰への投資負担などが利益率の悪化要因となっていた。また、2024年度上期は2桁の増収となったが、それに対して調整後営業利益率が低いのは、収益性が低い製品が増収のドライバーとなっていたことが原因である。下期は欧州事業の回復と、非競合事業の成長が貢献し、固定費削減効果も出始めており、増益が見込める」と述べた。
過去3年間に渡る売上伸長率が低く、収益性が悪化している理由については、「日本への依存度が高く、米国やアジアなどの高成長市場での比率が低い。しかも、開発リソースの半分が日本に割かれている。トップラインを伸ばすビジネス構造になっておらず、固定費のアロケーションがミスマッチを起こしている」と指摘した。
空質空調社では、地域軸経営による意思決定の迅速化や事業成長の加速を目指してきたが、競合他社に比べて事業規模が圧倒的に小さく、それを地域に分散して競争力を強化するといった方針は、ハードルが高いチャレンジになると判断。2024年7月以降、商品軸の競争力強化を考え、事業軸をグローバルに最適化する方向へシフトしているという。
一方、2025年度からの次期中期計画については、業界ポジションを意識した事業戦略と、位置づけの明確化を進め、A2W事業および空質機器事業については、キラーコンテンツの作り込みによる「再別化戦略」、ルームエアコンとコマーシャルエアコンでは、開製販のグローバル化を推進する「グローバル戦略」、エンジニアリングおよびデバイスは、成長市場を取り込む「顧客戦略」に取り組む考えを示した。
A2W事業では、2030年度の欧州市場全体の需要見通しを、当初の半分となる300万台と想定。「それでも、年平均成長率は13%増という高い伸びとなる。強みとなる技術を生かしたT-CAP(高暖房モデル)や業務用ビッグA2Wによる商品力に加えて、自然冷媒の採用、他社との協業を柱にして、シェアを引き上げ、早期に2桁の利益率を確保する」と述べた。
A2W事業では、北米市場において、新たにヒートポンプ式温水給湯暖房機事業に参入することを発表。北米最大の給湯機メーカーであるAOスミスとの協業により、2025年から、製品を順次投入していくことになる。「この協業は、販売ルートを持たない北米で、パナソニックの技術を生かしながら成長を描く戦略になる」と語った。
空質機器(IAQ)事業は、「差別化戦略の中核事業になる」と位置づけ、日本、中国、米州でのトップシェアを獲得しながら、市場全体を上回る成長を狙う。「地域ごとにライバル企業が異なる事業でもある。換気ニーズを把握し、差別化技術をレバレッジすることで、高収益と高成長を両立する」と述べた。
開発を進めてきた空質空調融合システムがいよいよ市場に投入できるほか、ナノイーによる空間全体浄化技術や、ソルトフリー軟水化技術を活用した製品によって差別化を推進し、販売ルートの強みを組み合わせて、高収益化を目指す考えを示した。
ルームエアコン事業とコマーシャルエアコン事業では、開製販により世界をつなぎ、基盤事業に相応しい収益貢献度を目指す姿勢を強調。地域別戦略を推進し、技術優位性にこだわったローカルフィット製品の投入により、高い成長率を確保する考えを示した。ルームエアコンは、グローバルの基幹事業に位置づけている。
「この事業は、収益性の低さと、事業規模が小さいことが指摘されているが、高い収益をあげている地域と、まったく低い地域に大きく2分できる。高収益の地域や領域に絞れば、利益を出せる枠組みがあると考えている。規模で劣っていても同等の収益性を出せる領域を徹底的に選び、経営資源を集中的に投下する。これ以外に戦える道はない。地域と顧客属性の絞り込みにより、開発効率を高め、マザー工場の稼働率を引き上げ、高収益地域の利益率を全体に波及させていく」と語った。
また、エンジニアリング事業とデバイス事業では、「省エネ規制や冷媒規制の加速で、環境商材の事業機会が増大している。パナソニックの環境技術を評価しているお客様を、ひとつずつ積み上げることが勝ち筋になる」と述べた。
パナソニックグループでは、ROICがWACCを下回る「WACC割れのROIC」にある事業を課題事業と位置づけており、空質空調社はそのなかに含まれる。
「パナソニックホールディングスの企業価値を毀損する深刻な状況にある。一刻も早く、状況を改善しなければならない。次期中期計画の初年度である2025年度時点で、あまりにも達成の確度が低いということになれば、徹底的に固定費を削減し、目標を達成する枠組みを考えたい。商品戦略やチャネル戦略、アライアンス戦略、そして、オーガニックな成長により、大幅な採算性改善に取り組む」と意気込みをみせた。
その上で、「空質空調社は、規模において、グローバルの同業他社と戦う戦略は現実的ではない。だが、空調業界における立地はいい。この立地にふさわしい収益性を実現することが目指すべき唯一の視点である。空質空調社の6つの事業の交点に勝ち筋があり、コールドチェーンソリューションズ社とのシナジーも大きな領域になる。顧客、生産、技術をつなぎ、収益力を強化する。鍵は『フォーカス』になる。徹底的に戦う場所を選び抜くことが、次期中期計画で最も注力する部分になる。さらに、デジタル、デザインに加えて、親和性の高い企業とのソフトアライアンスも重要な戦略になる」などと述べた。
片山社長は、2026年度までに、ROIC7%を目指し、WACC超えを達成。2030年度には営業利益利益率8%以上を目指す考えも示した。
パナソニックのコールドチェーン、収益性と成長性を伴うNo.1企業へ
一方、コールドチェーンソリューションズ社は、冷凍/冷蔵ショーケースや、業務用冷凍/冷蔵庫、製氷機、業務用洗浄機などを主要な商材とし、スーパーやコンビニ、外食、食品加工業、物流業向けに事業を展開している。
中期計画で掲げた2024年度の売上高は4000億円、調整後営業利益は210億円、EBITDAは300億円であり、この数字は2023年度にほぼ達成。2024度上期実績は、売上高が2874億円、調整後営業利益は162億円、EBITDAは232億円となっており、さらなる増収増益を視野に入れている。収益性については、同社発足以来、約4ポイントの改善が進み、米州および日本でのシェアアップが売上げ増に貢献している。
片山社長は、「2022年4月に、コールドチェーンソリューションズ社が発足した際には、設備やITへの投資不足、度重なる組織や戦略の変更、ハスマン買収によるシナジーの創出不足という課題があったが、これらの課題は改善しつつある。設備やITの近代化が進み、新製品の一貫した販売施策により、シェアが向上している。ハスマンと国内事業との連携により、CO2冷凍機の技術移管や、デジタル分野でのシナジーが出せている」と述べた。
コールドチェーンソリューションズ社が展開している市場は、CR(Commercial Refrigeration)分野と呼ばれ、日本の厨房機器メーカーよりも、米国および欧州企業が競合の対象になる。「競合他社に比べても、収益性や成長性において、この3年間で、一歩抜きんでた」と自己評価した。
ショーケース事業については、各地域で既存重点顧客や成長有望顧客にターゲットを絞り込み、米国では3.3ポイント、日本では2.0ポイントのシェアアップを実現。さらなる事業成長に向けた仕込みとして、メキシコ工場の拡張による生産能力の向上および生産性改善に加えて、2024年9月からは、新型スーパーショーケースの販売を開始。販促用トレーラーを導入して、新型ショーケースの移動展示会を積極的に実施している。
冷凍機・サービス事業については、冷凍機が日本および欧州での旺盛な自然冷媒需要を取り込み、小型ノンフロン(CO2)冷凍機が伸長。米州ではプロパンに加えて、ノンフロン(CO2)冷凍機事業の拡大に新たに着手した。また、サービス事業では、米州および日本を中心に、高い市場稼働台数を活かしサービス事業の規模拡大を進め、収益性の改善につなげているという。社内トレーニングセンターの設置や、IoTメンテサービスの機能強化、産学連携の育成プログラム推進などにより、サービス人材の育成、確保にも取り組んでいるところだ。
なお、冷媒については、今後、CO2冷媒に置き換えることを改めて説明。「CO2は温室効果ガスだが、大気中に放出された際の温室効果は、フロンより圧倒的に低い。循環して使用する冷凍機においては、環境貢献度が高い冷媒である。CO2冷媒に置き換えることで、温室効果ガスを大幅に削減できる」とした。
また、厨房機器事業については、「主たる事業領域ではない」としながらも、「インバウンドの影響もあり、国内では好調な市場になっている。2025年4月から、新型業務用冷凍冷蔵庫を発売する。業界トップクラスの省エネ性能を持っており、現在、3位のポジションからの向上を狙う。小売業界に対して、ショーケースや冷凍機との一体提案を進める」と語った。
コールドチェーンソリューションズ社の次期中期計画の骨子についても説明した。
ROICは10%水準を維持し、販売および利益を拡大。重点戦略の実行により収益力を高め、2030年よりも前に、2桁の利益率の実現を目指す。
重点戦略として、強みとなる小型ノンフロン(CO2)冷凍機をグローバルに展開する「差別化戦略」、機器データの有効活用でサービスによる付加価値を高める「ネットワーク戦略」、機器とサービスの連携強化で顧客エンゲージメントを向上させる「補完財戦略」を掲げ、「自然冷媒、デジタル、機器とサービスの一体化がドライバーになる。差別化戦略、ネットワーク戦略、補完財戦略によるハイブリッド戦略で高収益化を目指す」と述べた。
冷凍機では、現在、13%の世界シェアを持っており、これを2030年には20%に拡大することを目指すという。「米州において、自然冷媒の需要が高まること、ハスマンが自然冷媒戦略を推進することでシェアを高めていく。日本で実績を持つ小型ノンフロン(CO2)冷凍機のグローバル展開を加速し、欧州では、ポーランドの冷凍機メーカーのArea Cooling Solutionsを買収し、環境配慮型製品の需要拡大に向けた現地対応を図る」とした。
デジタル化では、故障検知の自動化と、フィールドエンジニアの派遣指示の自動化により、現場対応を迅速にし、店舗のダウンタイムの最小化を実現。ウェブを通じたパーツ販売事業の拡大や、電子棚札事業の推進による店舗内の生産性の向上などを行う。
機器およびサービスの一体化では、ショーケースと冷凍機、サービスを連携したソリューション提案を推進し、強固なビジネスモデルを構築するという。
「日本において、ショーケースと冷凍機の両方を、トップクラスで事業展開しているのはパナソニックだけである。また、米州ではサービスの強みが発揮できているのはパナソニックだけだ。ショーケース、冷凍機、サービスの3つの事業を持つ強みを生かす」としている。
片山社長は、「コールドチェーンソリューションズ社は、CR業界で、グローバルNo.1企業になっているが、網羅性や価値の創造、収益性では改善の余地がある。すべての視点でNo.1といわれる会社になり、食に関わるすべてのお客様の事業経営に貢献したい」と語った。