パナソニックグループのコーポレートショールームである東京・有明の「パナソニックセンター東京」が、2024年12月25日午後5時20分、オープンから22年4カ月の歴史に幕を閉じた。これまでに191カ国から累計1420万人が来館。海外からの来館者が3割を占めたという。
同日午後5時から、パナソニックセンター東京の1階 アトリウム ステージで行われた閉館セレモニーでは、500人以上の来館者や、パナソニックグループの関係者などが集い、閉館を惜しんだ。閉館を迎えると、涙を流す子供たちの姿があったのが印象的だった。
挨拶に立ったパナソニックセンター東京の児玉比佐子所長は、「本日、22年間の営業を終えて閉館となる。開館当初は、パナソニックグループの環境への取り組みや、ユビキタスネットワーク社会の実現を目指す姿を示し、イーユーハウスやエコアイディアハウスの設置、子供たちの理数離れを防ぐためのミュージアムであるRiSuPia(リスーピア)の開設、オリンピックやパラリンピックに関する発信などを行ってきた。近年ではAkeruE(アケルエ)やPanasonic GREEN IMPACT PARKを館内にオープンした。多岐に渡る活動を通じて、子供から大人まで、幅広い人たちに来館し、楽しんでもらった。多くの方々に感謝申し上げる」と語り、「パナソニックグループ創業者の松下幸之助の言葉に、『お客様大事』がある。この言葉には、お客様に喜びを与えることを存在価値とし、お客様を大事にする心から発展が生まれるという意味が込められている。パナソニックグループの社員が遵守するのは当然だが、パナソニックセンター東京で働く派遣社員や業務委託事業者、アルバイトなど、一緒に働く仲間全員が、来館者に快適に過ごしてもらい、喜んで帰ってもらいたいという思いで運営してきた。これが実現できたことを誇りに思っている」と振り返った。
22年間の間に実施したイベントは約1600件に達し、国賓や首相、大臣の来館は92人。学校や教育団体の来館は約2万4000件、約60万人に達した。
2011年3月11日の東日本大震災発生時には、隣接する東京ビッグサイトで開催された展示会の出展者や来場者が帰宅できなくなったため、宿泊所として開放したエピソードも残る。また、東京臨海副都心まちづくり協議会に参加し、清掃活動やハロウィンイベントなどにも協力し、地域貢献も果たしてきた。
パナソニックグループでは、今回の閉館の理由として、「2022年4月から事業会社制導入による経営体制の変更を受け、今後のパナソニックグループとしてのコーポレートショールームの運営の在り方を検討した結果である」とし、検討および準備期間を経て、今回のタイミングでの閉館になったと説明している。
大阪・梅田に開設していたパナソニックセンター大阪は、2022年2月に閉館している。
パナソニックセンター東京の最終日となった12月25日は、通常通りに、午前10時からオープン。常設展示である1階のPanasonic GREEN IMPACT PARKや、2階および3階のAkeruE(アケルエ)を見学、体験できたほか、フィナーレイベントとして、「パナソニックセンター東京のユニフォーム着用 スタッフなりきりフォトスポット」、「パナソニックセンター東京にメッセージを書きに行こう!」、「パナソニックセンター東京の歴史を見てみよう」などの特別コーナーを用意。「パナソニックセンター東京 クイズラリー」では、パナソニックセンター東京に関わる5問のクイズに答えた参加者にオリジナルグッズをプレゼントした。
さらに、パナソニックセンター東京の思い出の品を配布するイベントや、記念に残るグッズや有名テーマパークのチケットなどが当たる大抽選会を開催。会場は大きな盛り上がりをみせた。
パナソニックセンター東京は、子供たちが技術や環境などを学ぶことができる体験型ショールームであるとともに、パナソニックグループの総合情報受発信拠点と位置づけ、2002年9月にオープン。りんかい線の国際展示場駅から徒歩2分の場所に、北棟と南棟からなる4階建ての本棟と、2階建ての別棟で構成。敷地面積は1万5847平方メートル、延床面積は1万5789平方メートル。本館南棟を展示エリアとし、展示面積は3247平方メートルの規模となっていた。
2004年にはパナソニックセンター東京に改称し、全館を改装。2005年には来館者が100万人に到達したのに続き、オープン10周年を迎えた2012年には500万人に達した。2014年にはTechnics リスニングルームを開設。2015年にはWonder Life-BOXをオープン。2017年には来館者が1000万人に到達した。夏休みなどには子供向けイベントを開催し、毎年人気を博していた。
2019年には、おもてなし認証2019「紫認証」を取得。2020年にはパナソニックグループ初のCO2ゼロショールーム化を達成しており、純水素型燃料電池を稼働させ、水素エネルギーで発電した電力を同センター内で活用している。
1階の展示エリアではパナソニックグループの企業活動や製品、技術、未来の姿を反映した様々な展示を行い、2023年3月からは、1階の展示を「Panasonic GREEN IMPACT PARK」にリニューアル。子供たちが、地球温暖化問題について学べる展示と、その解決に向けてパナソニックグループが取り組んでいる事例を紹介してきた。
2階および3階フロアは、2006年から2020年まで、理数の魅力に触れ合うことができる体験型ミュージアム「RiSuPia(リスーピア)」を開設。14年間で約460万人が来場した。2021年4月からは、「RiSuPia」を発展させた「AkeruE(アケルエ)」をオープンし、理数の魅力に加えて、エンジニアリングやテクノロジー、アートといったSTEAM教育の考え方を融合させた施設へとリニューアルしていた。RiSuPiaは、当時の中村邦夫社長が、「子供たちの理系離れを解決したい」という思いから開設したものだ。また、AkeruEは、ギリシャ語でひらめき力を意味するEurekaを逆から読んだもので、子供たちの知的好奇心とひらめき力を育む場と位置づけている。
本館北棟のイベントスペースや別棟の有明スタジオでは、社内イベントの開催や、関係者および取引先向けイベントの開催、新製品の発表会見のほか、大阪で開催される定時株主総会を中継し、株主が視聴できる会場としても利用された。
なお、本館南棟4階には、パナソニックグループのB2B向け展示エリア「Panasonic Group Solutions Showroom」がある。今回の閉館に伴い、2025年3月に、東京・汐留のパナソニック東京汐留ビル1階に移転し、パナソニックグループの歴史や最新のソリューションの紹介、未来像などを体感できる場としてリニューアルオープンする予定だ。ただし、一般には公開しない。
パナソニックグループでは、「自社拠点の有効活用やお客様および利用部門の利便性、立地などを総合的に検討した結果、汐留に新たなグループショールームを移転することになった」としている。
汐留の周辺には、同じ汐留ビルに、パナソニック エレクトリックワークス社による住設関連のパナソニック ショウルーム 東京や、浜離宮にあるパナソニックコネクトのサプライチェーンを中心としたB2Bショールーム「Customer Experience Center」、虎ノ門のパナソニック インダストリーの共創拠点である「Innovation HUB TOKYO」があり、これらの拠点を通じたグルーブ間の連携も期待される。
過去のパナソニックセンター東京の様子
閉館後、パナソニックセンター東京の児玉比佐子所長が取材に応じてくれた。
児玉所長は、「22年4カ月という長きにわたり、多くの方々に支えられたきたことに感謝する」と述べ、「一般のお客様に対しては、パナソニックグループの活動を知っていただくための役割を果たし、B2Bの来館者に対しては、パナソニックグループに対する信頼感や期待を醸成する場になった。また、パナソニックセンター東京は、RiSuPiaやAkeruEを通じて、子供たちに、理数の楽しさを伝えることに力を入れてきた。修学旅行で訪れた生徒や、両親と一緒に来館した子供たちが、理数の楽しさに触れ、数学が好きになったと言ってくれる子供がいたり、RiSuPiaを体験したことで、パナソニックの社員になったりといったケースもあった。さらに、TECHNITOによるモノづくり体験を通じて、アイデアを形にしたり、作ったものを自分で販売したりといった例も生まれている。加えて、パナソニックセンター東京に来館した子供たちには、環境問題を身近に感じてもらっている。将来、自分が大人になったときの地球を考え、理解してもらい、いまできる行動として、家のなかの電気をこまめに消したり、ペットボトルのリサイクルに協力してくれたりといったことにもつながっている。パナソニックセンター東京で体験したことを、自分の将来に生かしてほしい」と語った。
多くの技術者やデザイナーを擁するパナソニックグループだからこそ実現できた子供向け体験施設としての役割は、パナソニックセンター東京ならでは大きな特徴だったといえるだろう。だが、パナソニックセンター東京の閉館で、パナソニックグループにこうした役割を果たす施設が無くなるのは残念だ。