Airbnb Japanは、日本での事業戦略について説明。Airbnb Japan 代表取締役の田邊泰之氏は、「日本にとって、大切なツールとしてAirbnbを活用してもらえる環境を作りたい。より多くの市町村にAirbnbを理解してもらい、ゲストとなる利用者にもメリットを理解してもらうことが重要である。ホームシェアリングの浸透により、地方の活性化にもつなげたい」と基本方針を示した。
Airbnbが日本で事業を本格化したのは2013年。すでに10年強を経過している。
当時は、欧米では口コミでAirbnbのメリットが広がり、利用者が増加するなか、日本をはじめとするアジア地域での利用者が増えないことが課題になっていた。
とくに日本では、言語の壁もあり、国内の利用者がなかなか増えない状況にあった。だが、その一方で、海外の利用者に最も人気があるのが日本であり、それに対応するために、まずはホストを増やすことに注力したという。全国各地で情報交換を行う場を設定し、ホームシェアリングのメリットなどを訴求。ホスティングをした人たちを中心に口コミで、Airbnbの魅力が伝わっていったという。2017年には、日本が、グローバルで最も多い旅行先になったという。
その後、日本国内のユーザー拡大に本格的に着手する計画を打ち出したが、コロナ禍では旅行需要が大幅に減少。さらに、訴求の機会に捉えていた東京オリンピックが、1年延期になるとともに、無観客で開催されることが決定したことで、マーケティングプランの大幅な見直しを迫られることになった。
Airbnb Japanの田邊代表取締役は、「宿泊先として、多くのホストが登録されている。今後は、それを利用する日本の人たちを増やしていくことになる。2025年には、大阪・関西万博をはじめとして、大型イベントが日本で開催される。都市部への旅行だけでなく、多くの宿泊先を持つ強みを生かして、地方への旅行も促進したい。暮らすように『エアビー』してもらい、様々な地域を訪れる分散型の旅を推進していきたい」と述べた。
こうした事業方針にあわせて、Airbnb Japanは、2024年10月から、広告展開を強化する。 YouTubeやNetflixなどのオンラインストリーミングサービスのほか、テレビや屋外看板などで広告を展開する。友人や家族同士が、週末に集まって、家を借りて、わいわいするといった提案を強化していくことになるという。
「東京オリンピックの開催時に、CM展開を計画していたが、それが行えなかった。改めて、Airbnbを利用する人たちを増やすことに力を注いでいく」としている。
<参考>Airbnb Japanが放映しているCM
宿泊先いろいろ日本いろいろ リンダリンダ編
https://www.youtube.com/watch?v=p5vjJCfjECo
宿泊先いろいろ日本いろいろ 君はともだち編
https://www.youtube.com/watch?v=sKan1l2Os6E
自治体や企業と連携、空き家や古民家を再生、移住や定住も視野
Airbnbでは、自治体などとの積極的な連携協定を結んでいる。この活動は今後も強化していくことになるという。
「地方自治体との連携により、地域の活性化や空き家の利活用、古民家の再生などの活用をしてきた。地域にあったホームシェアリングの活用を模索し、長期滞在による地元への経済効果の促進、交流型観光の促進を進め、将来的には、移住や定住にもつなげることができる」と期待する。
すでに、沖縄県石垣市や読谷村、北海道十勝清水町、東京都墨田区、長野県飯田市や辰野町など、多くの自治体と連携協定やパートナーシップを締結。2024年4月には、愛媛県と地域資源を活用した観光促進と、地域社会や経済の活性化のために包括連携協定を締結。6月には、北海道釧路市および釧路と連携協定を結び、交流型観光の促進を通じて、地域経済の活性化を目指している。また、8月には、新潟県佐渡市と連携協定を締結し、二地域居住や交流型観光による長期滞在の推進を目的として、地域の活力向上と賑わいあふれるまちづくりを目指しているところだ。さらに、大阪・関西万博に向けて、関西観光本部と包括連携協定を結び、インバウンド旅行客をターゲットに、ホームシェアリングを活用した交流型観光と広域周遊を推進。関西の自治体および経済団体などと連携することになるという。
「十勝清水町では、町の職員でも、人材が足りていない職業では副業を認めており、そのなかにホームシェアリングも含まれている。町長がホストとして家を提供しており、町の話を町長から直接聞くことができるという体験も可能だ。長野県辰野町では、住民が一緒になって古民家を再生して安く提供したり、飯田市では自治体の予算により、Airbnbスクールを開催し、ホームシェアリングの普及に取り組んだりしている例がある。地域の観光資源を有効に活用するためのラストワンマイルとして、Airbnbをインフラとして活用してもらいたい。ホームシェアリングを通じた地域活性化につなげるといった動きが顕在化しているが、地方自治体では、まだAirbnbが知られていないケースもあり、説明不足を反省している。ホームシェアリングが地域経済を活性化したり、70歳の高齢者でもビジネスができたりすることを知ってもらいたい」などと述べた。
また、2024年6月には、良品計画と協業し、家を貸し出すホスティング向けのスターターキットを用意。多くの問い合わせがあったほか、同社自ら所有する物件を改修し、Airbnbのサイトに掲載し、人気のリスティングになっている事例もある。
「日本の企業とともに、ホームシェアリングを普及させ、地域を活性化したい。良品計画との協業は、そうした取り組みのひとつになる」と位置づけた。
日本のユニークな利用傾向、若者以外、観光以外の利用も拡大
Airbnbは、全世界220以上の国と地域に、新たな旅を提案する宿泊プラットフォームとして展開。800万件以上の物件が利用でき、これまでに延べ20億人のゲストが利用しているという。
こうしたなか、日本においては、ユニークな利用傾向が出ていることを明かす。
非都市部の宿泊予約数は前年比32%増加。Z世代の宿泊増加率が27%になったり、アクティブシニア層が15%増加したりという状況にあるという。
「日本では幅広いユーザーに使われ始める段階に入ってきた。2024年上半期だけで、国内1270市町村でゲストが宿泊しており、主要都市を訪れるだけでなく、様々な場所に宿泊する分散型観光を、Airbnbが支援できている」と自信をみせる。
また、利用者がリスティングから選ぶ基準として、「旅の目的地に近い立地」との回答が85%を占めており、そのなかには、観光地を目的とするだけでなく、「朝、走りたい公園が近くにある」、「夜に食事をしたい商店街がある」といった理由があがっており、目的地の意味が多様化していることがわかる。
他のサイトと比較して、Airbnbを選択した理由としては、「利便性の高い立地」が55%、「自分たちだけのプライベートな空間」が50%、「宿泊料金の節約」が49%となっているという。「1人あたりの宿泊代金を抑えながら、楽しい時間を過ごすことに対して、価値を見出す傾向にある」とも指摘した。
説明会で田邊社長は、自らがAirbnbを利用した際の体験についても説明した。
長野県辰野町に宿泊した際に、ホストとの対話のなかから、話題に最適な近所の住人が次々と呼ばれ、3時間後には、田邊社長が泊まる家のリビングには10人以上の人たちが集まり、楽しく会話をした経験があったという。
「初めて行った場所で、初めて会った人たちと話をしたが、まるで故郷に帰ってきたような、親戚の家に泊まったような体験をした。家の前の畑に植えてある新鮮な野菜を食べることもでき、地元の人しか行かないような店で、地元ならではのおいしい鍋も食べることができた。こうしたすばらしい旅の体験を、もっと多くの人に伝えたい」と述べた。
さらに、Airbnbの創業者などが、1年間、世界中を回りながら仕事をしている例を紹介。田邊社長も、千葉県いすみ市に1週間滞在し、仕事をした経験があるという。「欧米の拠点とのコミュニケーションがあるため、深夜や早朝に会議が入ることが多く、勤務時間が午前9時から午後5時というわけにはいかない。そこで、オンとオフを自分でコントロールし、すぐにビーチを散歩できる環境や、一人キャンプができる状況を作った。仕事の効率があがり、最高の時間を過ごすことができた。新しい働き方が体験できた」と振り返った。Airbnb Japanの社員も、働く場所を決めずに、全国を転々としながら勤務している例があり、オンラインミーティングでも、国内外の様々な場所から社員が参加しているのが日常になっているという。
今年の冬、日本の旅行トレンドは? アプリ機能も強化
一方、2024年冬の日本の旅行トレンドについても触れた。
同社によると、冬の旅行での検索傾向では、1グループあたりの平均旅行者数は3人で、人気カテゴリーは、「人気の旅行先」のほか、「ビーチ」、「国立公園」、「ゴルフ」、「子供と一緒に」が上位に入っているという。また、日本の旅行者の人気アメニティでは、「Wi-Fi」、「洗濯機」、「無料駐車スペース」、「フルキッチン」、「エアコン」の検索が多いという。
「ほかの人がどんなところに行っているのかといったことを参考に、旅行先や宿泊先を選ぶ人が多い。また、地方での利用が増加しているのに伴い、クルマで旅行に出かける人が増えている。長期滞在をする人も増加しており、地元の食材を購入し、調理したいというニーズが増えていることが反映されている」
日本人に人気の旅行先では、日本では、札幌、東京、松本が上位となり、海外都市では、ローマ(イタリア)、ロヴァニエミ(フィンランド)、パタヤ(タイ)が入り、国ではフィンランド、オーストリア、アラブ首長国連邦が上位となった。一方で、日本への旅行に高い関心を持っている国や地域では、米国、韓国、台湾、オーストラリア、シンガポールが多いという。
一方、同社では、2024冬季アップグレードとして、50項目を超えるゲスト向け機能の追加や強化を発表した。検索から予約まで、よりパーソナライズしたAirbnbアプリとして利用できるようになる。
同社では、年2回のペースで、グローバル規模でアプリのアップグレードを行っており、今回は、「補助ホストネットワーク(Co Host Network)」以外の多くの機能が、日本でも展開済み、あるいは展開予定となっている。
新たに追加した「ウェルカムガイド」は、初めてAirbnbを利用するゲストのためのアプリ向けガイド付きツアーで、スマホ画面のなかに、もうひとつのスマホ画面が表示され、操作方法をアニメーションで教えてくれる。「日本では新たなユーザーが増加している。初めてAirbnbを利用する人にとって役に立つ機能である」とした。
検索機能の強化も今回のアップグレードでは大きな進化だという。おすすめの旅行先や、おすすめのフィルターなどを、検索の利用に応じて提案。最適な物件を検索できるようになる。「セルフチェックインがしたい、長期滞在をしたい、洗濯をしたいといったこれまでの履歴をもとにしたおすすめを提案する」という。
リスティングのハイライト機能では、検索内容にあわせて、リスティングの関連情報をハイライトして表示。「6人の参加者のうち、2人が子供であるという検索内容にあわせて、ベビーベットがある宿泊先を表示するといったことが可能になる。多くのリスティングのなかから、最適な物件を見つけやすくなる」とした。
日本独自の機能として、週末の2泊3日の利用を提案するローカライズを行っている。「海外の利用者は1週間単位で宿泊先を探すことが多いが、日本の利用者は週末の短期間の利用が多い。日本の利用にあわせて機能を用意している」と述べた。