NECは、GIGAスクール構想第2期に向けた学習者用端末の新製品として、「NEC Chromebook Y4」を発表した。GIGAスクール構想第1期で、約160万台のPCを出荷したNECが、その実績をもとに、「安全、安心、壊れにくい」をコンセプトに設計した教育分野向けChromebookとなる。2025年2月に出荷を開始し、2028年度までに200万台の出荷を目指す。開発および生産は、NECパーソナルコンピュータが担当。政府補助金の5万5000円以内で提供できるという。
NEC スマートデバイス統括部 上席プロフェッショナルの加藤賢一郎氏は、「GIGAスクール構想 第1期で培った経験をもとに強化した新モデルの投入ととともに、スムーズな導入や運用、利活用を支援する周辺サービスを強化する」と語り、「NECは、国が掲げるGIGA スクール構想の実現に向け、学びの主役になる子どもたちや先生に加えて、学びに関係する人々を支えることで、教育のデジタル化を推進する」と述べた。
NEC Chromebook Y4は、360度回転するコンバーチブルデザインで、CPUにインテルプロセッサーN100を採用。4GBメモリや32GB eMMCを搭載し、Wi-Fi 6Eにも対応。同一筐体でのLTEの選択も可能だ。
今回の新製品では、これまでの経験をもとに、教育現場で使用する際の安全性の強化に力を入れているのが特徴だ。
砂やほこり、異物が入りやすい開口部は、2つのUSB Type-Cポートやオーディオジャックといった最低限の仕様とし、鉛筆を机の上に置いていても、芯がポートに刺さらない高さになるように設計。右利きの利用者が多いことを考慮し、ポート類はすべて左側が集中させている。
また、サブボードの設計変更により、マザーボードからの電源供給を不要とする回路にしたことで、ショートが起きにくく、発煙および発火に結びつきにくくしたほか、すべての電源ケーブルに保護回路を追加したり、ヒンジ部のケーブルを噛みこまないように設計にしたりといった工夫を施している。
さらに、これまでのGIGAスクール端末の修理では、トップカバーが43%、液晶パネルが24%となり、全体の6割以上を占めるなど、落下による破損が多いことに着目。TPU(熱可塑性ポリウレタン)を一体成型したことで、端末外周は、ゴムのような弾力性と、硬質プラスチックのような強さを実現。さらにゴム足には4つの円形サイズと、ひとつの横長タイプを用いることでゴム足の設置面積を拡大して、机から滑りにくい構造とした。また、ゴム足が取れてしまったという問い合わせが多かったことから、ゴム足の交換を可能にしたという。
筐体表面は、グリップ感があり、持ちやすく、傷が目立ちにくいテクスチャーを採用したほか、従来の黒色の筐体カラーから、グレーの筐体カラーに変更。「従来導入していた端末と新たな端末を、ひと目で区別がつきやすくしてほしいという現場からの要望も反映した」という。
キーボードはキートップ外れや隙間への異物の挟み込みを抑制した設計へと変更。端末底面のネジには脱落防止リングを追加し、ネジ外れやネジの紛失を防止したという。さらに、販売店などでもバッテリー交換を可能にしており、内部基板をカバーでブロックしたセパレート構造を採用。バッテリーそのものもケースで覆っている。「従来モデルでも、バッテリー交換が可能であったが、エンジニアが専用工具を使って交換する仕組みとしていた。新製品では、ひし形ネジを使用したものの、販売店でも取り外しができるようにしており、交換のための作業工数が少なくて済む設計としている」という。
一方で、学校で発生するトラブルに対処するため、使用環境を想定した品質試験として、加圧試験、加圧振動試験、繰り返し角落下試験などを新たに追加。従来の試験内容も強化しているという。
「PCと教科書などが入り、加圧された状態となったカバンを自転車のカゴに入れて移動したり、ランドセルのなかに入れて走ったり、投げたりといったように、ビジネスシーンでの利用とは異なる使い方があり、それに起因する故障も多い。落下試験だけでなく、圧力とともに振動を与えるといった試験を増やし、学校現場での使用時に耐えうる耐久性を確認した」という。
さらに、同社が強化したのが、周辺サービスである。
既存端末を無償で回収したり、有料で買い取りしたりといったサービスを用意。その際にデータ消去作業を実施し、消去した証明書も発行する。また、NECと協力した企業の倉庫などを利用して、出荷前のキッティング作業を実施。出荷台数が集中した際にも柔軟性をもちながら作業対応ができる体制を敷いている。学校への納品時には、充電保管庫への収納や、ACアダプタの交換作業なども行う。さらに、補助金では最大15%までの予備機を保有することが可能であり、NECパーソナルコンピュータ群馬事業場のインフラを利用して、保管、修理、MDMの再登録までを一元管理する体制も敷いた。そのほか、1年生から利用しても最後まで利用できるように、最大6年間の延長保証を用意し、物損にも対応。ヘルプデスクのGIGAスクール運用支援センターにより、端末やアプリの問い合わせや、活用相談にも対応する。
周辺サービスの追加は、第1期と第2期では、求められる要素が異なる点が背景にある。
NECの加藤氏は、「第1期は、これまで経験がない学習者用端末の1人1台の整備が優先され、ネットワークや充電保管庫などの使用環境を最初から整備する学校が大多数だった。さらに想定外の使用環境により、トラブルが多発し、それへの対応が求められた」とする一方、「第2期は、すでに環境が整っているなかで、学びを止めないスムーズな入れ替えが求められ、同時に学習状況の見える化と利活用が重要となっている。さらに、県による共同大量調達への出荷対応や、既設端末のリユースや処分の問題にも対応する必要がある。この点では、すでに多くの問い合わせがある」とする。
現在の教育現場の状況を捉えた周辺サービスを整備したというわけだ。
だが、NECでは、GIGAスクール構想第2期に向けて、いくつかの戦略転換が見られる。
ひとつめは、Chromebookへのシフトが鮮明になったことだ。
NECでは、GIGAスクール構想第1期では約160万台のPCを出荷したが、これはWindowsとChromebookを合計した数字だ。それに対して、第2期では、Chromebookだけで、2028年度までに200万台の出荷を目指すことになる。
NECでは、第1期のChromebookの出荷台数を明らかにしていないが、約7割がChromebookと見られており、そこから逆算すると第2期のChromebookの出荷台数は、第1期との比較で約1.8倍の出荷規模が想定される。教育現場におけるシェア拡大という点でも意欲的な数字だ。
NECでは、今後、GIGAスクール構想第2期向けのWindows PCを「VersaPro Eシリーズ」として投入する予定だが、Windows PCの出荷比率は縮小することになりそうだ。
2つめは、端末の入れ替え時のサービスを強化した点だ。
先に触れたように、既設端末の引き取りや買い取り、出荷前のキッティング、予備機運用サービスなど、新たな端末を導入する際の現場での困りごとを解決することで、シェア拡大を図ることになる。
しかし、これらのサービスを強化する一方で、これまで提供してきたサービスを停止している。
NECでは、第1期においては、独自の学習eポータルである「OPE (Open Platform for Education)」を展開し、学習者向けの専用IDを拡大することで、端末の利用促進などにつなげ、これを差別化要素のひとつにしてきた経緯がある。だが、同社では、2024年に入ってからOPEの新規受付を停止し、さらに現在の契約者についても、2024年度中までをサポート期間としている。GIGAスクール市場における大きな戦略転換といえる。
また、第1期では、クラウド教育プラットフォームの提供や、端末設定ツール、学習用プログラミング教材などをセットにした「GIGAスクールパック」を提案していたが、今回はこうしたパックは用意していない。第1期において、すでに導入が一巡したツール群でもあり、こうした点からも、第2期ならではのニーズを捉えて、端末の入れ替え時のサービス強化を図ったことがわかる。
「現場の声を反映した安全性と堅牢性、耐久性を強化」と、「生徒の学びを止めないスムーズな入れ替え」が、NECのGIGAスクール構想第2期におけるキーワードとなりそうだ。この施策が、教育分野におけるNECのシェア拡大にどうつながるかが注目される。