シャープは、2019年8月1日付で組織を再編するとともに、同社の事業ビジョンのひとつである「AIoTWorld」をさらに加速させる方針を示した。

これまでの機器中心の事業体制から、ソリューション、サービスを中心とした事業体制への移行を図るものであり、堺データセンターを活用したAIoTプラットフォームにおいては、「プラットフォーマーを目指す」と宣言した。同社にとって、ソリューションカンパニーへと大きく舵を切る第一歩ともいえる体制づくりになる。

2019年8月1日に行われた2019年度第1四半期連結業績の会見において、シャープの代表取締役兼副社長執行役員・野村勝明氏が明らかにした。

  • シャープ 代表取締役兼副社長執行役員の野村勝明氏

シャープ再編後の基本戦略を紐解く

シャープでは、8月1日付で、「スマートライフ」、「8Kエコシステム」、「ICT」の3つの事業グループに組織を再編したことを発表しており、今回の会見では、新体制での基本戦略について説明した。

新体制では、スマートライフには、HE(Health & Environment=健康および環境)事業やカメラモジュール事業、子会社のシャープエネルギーソリューションやシャープ福山セミコンダクター株式会社などが含まれ、8K エコシステムには、テレビシステム事業やビジネスソリューション事業、ディスプレイデバイス事業、研究開発事業などが含まれる。また、ICTには、通信事業やAIoT事業、COCORO LIFEサービス事業のほか、子会社のDynabookなどが含まれる。

野村副社長は、「スマートライフでは、国内と海外のHE事業を統合し、AIoT機器およびサービスのグローバル展開を加速。加えて、HE事業の傘下にB2B事業の拡大のための専任組織を設置する。また、8Kエコシステムでは、8K+5G Ecosystem戦略のさらなる強化を進めており、今後、組織再編を行うほか、COCORO OFFICE サービス事業の拡大に向けて、ビジネスソリューション事業本部と国内/海外販売会社とのプロジェクト体制を構築する。さらに、ICTでは、AIoT技術を活かしたCOCORO LIFE サービス事業の将来の分社化を見据え、新組織としてCOCORO プラス準備室を設置。さらに、AIoTプラットフォームを軸とした他社との協業を加速すべく、将来の分社化を見据えて、組織体制を再編する」と説明する。今後、この3つの事業グループが相互に連携し、One SHARPで事業変革を進めていく方針という。

さらに、「AIoT機器事業」、「COCORO LIFE サービス事業」、「COCORO OFFICE サービス事業」、「AIoTプラットフォーム事業」の4つの事業領域の拡大に取り組むことについても説明した。

ここでは、「AIoT機器事業は、対応機器を順次拡大し、単なる道具ではなく、さまざまなサービスと連携し、暮らしのパートナーとなる製品を提供。COCORO LIFEサービス事業では、機器のためにサービスを提供するだけでなく、サービスのために機器を提供する発想を持ち、AIoT技術を活かした特長的なサービスで、スマートライフを実現する。また、COCORO OFFICEサービス事業では、B2BやB2Gにおいて、顧客企業に合わせたサービスを提供し、スマートオフィスを実現することになる」とし、「シャープでは、機器メーカーやサービス事業者に、AIoTプラットフォームを公開しており、これにより、AIoTプラットフォームを軸に他社とWin-Winの関係を築き、大きなスパイラルでAIoT市場を拡大していく」と発言した。

AIoTプラットフォームは、堺データセンターのインフラを活用。シャープが持つ白物家電やテレビ、健康機器、HEMSといった「つながる家電」と、スマホ、ロボホン、複合機、BIGPADなどを連携する。さらに、他社のドアホンや宅配ボックス、UTM、オフィス用機器といった機器も、堺データセンターに接続させ、その上で、COCORO OFFICEサービス、COCORO HOMEサービスを提供のほか、警備会社や運送会社、介護事業、小売事業などの異業種企業が提供する各種サービスも、COCOROサービスプラットフォーム事業として提供することを考えている。

野村副社長は、「機器メーカーやサービス事業者との連携も加速していくことになる。シャープは、AIoTプラットフォームにおいて、プラットフォーマーを目指しており、様々な企業とのアライアンスを考えている。これは、スピードをあげてやっていく」などと述べる。

直近業績の不調、縦割りから横のつながりシフトへ

シャープの戴正呉会長兼社長は、個別のインタビューに応じ、「これまでのシャープは、テレビの会社、家電の会社、あるいは液晶パネルの会社といったイメージがあり、縦割りの組織であった。これからは、横でつながり、ソリューションを提供することを目指す。機器事業だけでなく、サービスやプラットフォームソリューションといった事業でも、売上げ、利益を創出することを目指す」としている。

今回の発表は、それに向けた体制を明確に示したものだといえる。

一方、シャープが発表した2019年度第1四半期(2019年4~6月)の連結業績は減収減益になったものの、強気の姿勢を崩さなかった。

売上高は前年同期比3.5%減の5149億円、営業利益は41.1減の146億円、経常利益は34.5%減の139億円、当期純利益は34.7%減の125億円となった。

減収減益の結果になったものの、シャープの代表取締役兼副社長執行役員の野村勝明氏は、「厳しい事業環境は継続し、季節性から売上高は第4四半期を下回っている。だが、体質改善が進んでいることもあり、営業利益率および最終利益率が、2018年度第4四半期を上回るなど、業績は2018年度第4四半期を底に回復基調にある。2016年度第3四半期以来、11四半期連続での最終黒字となる。さらに、6月21日までにA種種類株式を全数取得、消却するなど、資本の質も着実に向上している」と総括する。

あわせて、「厳しい事業環境が継続すると考えているが、回復基調にある。2019年度第2四半期以降、着実な業績の伸長に取り組むとともに、引き続き、財務体質の改善や株主価値の向上を進め、さらに信頼される企業を目指す」と今後の姿勢を示した。

セグメント別の業績を見ると、スマートライフの売上高が前年同期比11.1%減の1806億円、営業利益は前年同期比11.4%増の62億円。国内外でエアコンや冷蔵庫、洗濯機が伸長するなど、健康・環境機器は好調に推移したが、カメラモジュールやセンサーモジュールなどの販売が減少した。

野村副社長はこれについて、「白物家電は、国内はAIoT関連商品が堅調であり、海外では各地域に対応ローカルフィット商品が好調。一方で、カメラモジュールやセンサーモジュールは、米中貿易摩擦の影響が出ており、ここは赤字になった。また、ビジネスソリューションでは、複合機の販売が順調である」とした。

8Kエコシステムの売上高は前年同期比9.8%減の2625億円、営業利益は前年同期比53.6%減の65億円。PCやタブレット向けのパネルは伸長したが、スマートフォン用パネルの販売が減少。さらに、中国などでテレビが前年同期を下回り、車載向けパネルは顧客の需要変動の影響を受けた。

「テレビは、中国、欧州での経済減速が影響し、販売が減少して赤字。だが、日本およびASEANのテレビ事業は黒字となっている。ディスプレイは米中貿易摩擦の影響で在庫調整があり、とくに車載向けが減少している」という。

ICTは、売上高が前年同期比69.5%増の965億円、営業利益が前年同期比0.1%増の73億円。新商品発売時期の違いや、キャリアの料金体系変更の影響などがあり、通信事業の売上げは前年同期を下回ったが、Dynabookの新規連結効果などにより、大幅に伸長した。

「Dynabookの連結効果が出ており、2018年度第4四半期以降は黒字になっている」という。

貿易摩擦への対応迫られ、今後の見通しは?

一方、2019年度通期の業績予想は据え置き、売上高は前年比10.4%増の2兆6500億円、営業利益は18.8%増の1000億円、経常利益は37.7%増の950億円、当期純利益は7.8%増の800億円としている。

野村副社長は見通しについて、「第2四半期以降は、スマートライフにおいては、カメラモジュール、センサーモジュールが、特定顧客の新製品の需要では改善に向かう。また、白物は底堅く推移するとみており、国内では消費増税前の駆け込み需要にも期待している。ここでは、新製品投入も貢献し、スマートライフでは、すべての事業で売上げ増を見込んでいる。また、8Kエコシステムでは、ディスプレイデバイスが伸びるだろう。だが、車載向けパネルは米中貿易摩擦の影響を受けるとみている。8Kの販売に関しては、医療分野のほか、インフラ、セキュリティ分野に向けて、カメラやモニターの販売を強化することになる。ICTは、スマホ事業においてミドルレンジの販売強化および法人向けスマホの販売を強化する。Dynabookは、ラインアップ拡充するとともに、Windows 7のサポート終了に伴い、Windows 10の取り込みを行っていく」とした。

なお、シャープでは、2020年2月を目標に、ベトナムに新工場の運営会社を設立することを発表した。新工場では、空気清浄機、液晶ディスプレイ、電子デバイスの生産を行うことになる。

野村副社長は、「米中貿易摩擦の第4弾への対応を視野に入れたものである。顧客からのリスク排除の要求に対応したものになる」と述べた。

また、話題となっている堺ディスプレイプロダクトの子会社化の検討については、「8K+5Gの競争力強化に向けて検討をしているものだが、子会社化は決まったものではない」と述べるが、「中国企業の10.5世代に対抗するには、IGZO技術を活用して、テクノロジーアップ、バリューアップ、クオリティアップを図る」と含みを持たせた。