MM総研が、全国の自治体を対象にした調査によると、「GIGAスクール」構想第二期の調達方針を決めている市区町村のうち、57%がChromeOSを選択していることがわかった。ChromeOSが過半数を占めるという驚きの結果となった。また、iPad OSは28%となり、Windowsは15%に留まっている。
同第一期の導入実績では、ChromeOSのシェアは42%であり、今回の調査では、そこから15ポイントも上昇することになる。iPad OSは、第一期での29%の実績からは1ポイントの減少とほぼ横ばい。それに対して、Windowsは第一期の29%から14ポイントも減少している。WindowsのシェアをChromeOSが浸食する格好だ。
購入予算の影響も大きかった地殻変動
同調査は、2024年7~8月に、全国1741のすべての市区町村への電話調査を実施。1279の市区町村から有効回答を得ている。そのうち、OSごとの調達予定台数を回答した796市区町村を集計。約367万台の端末のシェアをまとめている。
MM総研では、「第二期の補助金額である5万5000円以内に収める形で、本体と周辺機器や端末管理ソフト(MDM)を導入する必要があるため、クラウドと処理を分散することで端末価格を比較的安価に抑えやすいChromebookを選択していると考えられる」と指摘。さらに、Windowsについては、個人市場での平均出荷単価が10万円を超え、AI活用への対応で、さらに平均単価は上昇することがマイナス要素になっていることを示したほか、「前回導入のWindowsパソコンの起動に時間がかかる」、「OS更新に時間や手間がかかる」などの指摘があり、「Windowsでは、予算内で調達できる端末のハード性能や運用面について、教育委員会から課題があげられている。Windows陣営には、解決策の丁寧な説明が必要だろう」と提言した。
また、別の設問では、今回の端末更新で、OSを切り替える市区町村は12%に達していることもわかった。
都道府県主導により、3つのOSを比較したという市区町村は、約7割にのぼり、GIGA第二期で、「OSを切り替える」の回答が12%、「検討中もしくは未定」は24%となっており、「OSを切り替えない」との回答は64%となっている。
なかでも、Windowsを採用していた393市区町村で、「OSを切り替える」との回答が21%となり、全体よりも9ポイント高い。ここでもWindows離れが進みそうなことが浮き彫りになっている。
OSを切り替える理由としては、これまで小学校と中学校で異なるOSを利用していたが、これを市区町村内で一本化するためという回答もあったという。
また、すでに採用するOSを決めている市区町村は73%となっており、そのうち、ChromeOSが37%、iPad OSが21%、Windowsが13%と、複数OSの採用が3%(四捨五入の関係で73%にはならない)。やはりChromeOSのシェアが高い。なお、「検討中・未定」あるいは「どれでもよい」など、OSを決めきれていない市区町村が27%となった。「検討中や未定が3割近くとなったのは、調査時点で都道府県からの共通仕様書が示されていないことをあげる市区町村が多かったため」と理由を説明している。
1000万台規模の端末整備、Googleの積極姿勢が目立つ
GIGAスクール構想第二期全体では約1000万台の端末が整備されると想定されている。今回の調査で、調達方針を決めている自治体は約367万台と、まだ3分の1程度の水準であることを捉えると、先行的な指標と見ることもできる。だが、関係者の声を聞くと、ChromeOSは、この勢いを維持することになりそうだ。
その背景にあるのは、Google Educationが、教育分野に対して、も積極的な施策を開始し、それが評価されている点だ。
同社では、GIGAスクール構想第二期向けに、「Google for Education GIGA スクールパッケージ」を用意。Google Workspace for EducationとGoogle GIGA Licenseに加えて、GIGA スクール サポートパックを組み合わせて、Chromebookの継続的な利用提案とともに、WindowsやiPadを導入していた教育現場に対して、Chromebookへの入れ替えを提案する活動を加速している。
具体的には、現状の環境を確認して、更新を行う「継続導入サポート」のほか、これまでChromebookを使用したことがない学校を対象に、端末貸出や実証をサポートするための「トライアルサポート」、Google Workspace for Education環境の初期設定やアカウントの作成、移行支援を行う「新規導入サポート」、現状把握から研修計画立案までを支援し、各種ニーズに合わせた研修を提供する「Kickstart サポート」、第一期端末の無償回収や処分を行ない、更新を行ないやすくする「リサイクルサポート」などを用意している。
ChromeOSを導入するハードルを下げる各種施策を準備しており、シェア拡大に向けた体制が整っている。
これに対して、日本マイクロソフトでは、GIGAスクール構想第二期に向けて、どうしても弱腰の姿勢を感じざるを得ない。
実際、公共事業を担当しているパブリックセクター事業本部において、GIGAスクールを担当していた文教営業統括本部は解消され、地方自治体などを担当する公共・社会基盤統括本部に統合。体制が強化されたとはいえない状況にある。
また、2024年5月に、東京・有明の東京ビッグサイトで開催された「第15回EDIX(教育総合展) 東京」の特別公演では、日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏が講演。その際に、「Windowsは端末の管理が大変だという声を、現場から数多くもらった。OSのアップデートなどにより、Windowsが原因となって学びを止めていたという指摘があり、GIGAスクール構想を支える企業の1社として本当に申し訳なく思っている。ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」と、教育関係者を前に深々と頭を下げて陳謝するシーンが見られるなど、教育現場での運用における問題が大きいことを裏づけている。
日本マイクロソフトの佐藤氏は、「GIGA 端末をもっと使いやすく」という観点から改良を加えていることを強調。OSのアップデートについては、更新プログラムのダウンロードサイズを最大4割削減しているほか、授業を中断しないように、適切なタイミングで、スムーズにアップデートが行えるようにしていること、推奨設定の告知を徹底することで起動が遅いという課題を解決する提案を進めていることなどを示しながら、「日本マイクロソフトは、日本に根ざし、長年に渡って日本の教育を良くしていきたいという思いで活動をしてきた。今回の第2期に向けても、大きな改善をしている」と説明している。
教育現場向けの体制強化が進まないなかで、日本マイクロソフトが示す対策やメッセージが、教育現場にどこまで浸透できるかが課題といえる。
一方、iPadについては、「最新機種や周辺機器が、いずれも値上がり傾向にあるため、MDMを含めた調達価格を、複数年にわたり予算内に収めていけるのかが懸念されている」(MM総研)と指摘している。
アップルでは、第10世代iPadの価格を、2024年5月に1万円値下げし、5万8800円としている。他の端末の値下げ幅に比べて大きいこともGIGAスクール構想第二期を視野に捉えた価格設定であることがわかる。第一期で導入したiPadを下取りし、それによって第二期の導入を促進するという動きもみられており、これが5万5000円以内という予算内に収めるための施策のひとつになりそうだ。300万台規模の第10世代iPadを国内市場に安定的に供給できるかどうかも鍵になるだろう。
浮かび上がる「供給体制」への懸念
MM総研の今回の調査においては、91%の市区町村が、共同調達で端末を更新する意向であることもわかった。
GIGAスクール構想第二期では、政府の負担で都道府県に基金を創設し、補助金を交付する方式をとり、都道府県ごとの共通仕様書をもとに共同調達することになる。
「多くの都道府県は市区町村の要望を尊重しながら取りまとめ、なるべく共通化する形で共通仕様書の作成を進めている」
なお、オプトアウト(不参加)を表明した市区町村は4%であり、その理由として、「政令市や特別区など人口規模が大きい」、「調達時期が合わない」、「LTE モデルなど独自の要件がある」などがあがっている。
共同調達をする上での課題としてきは、「端末の価格が高騰している」との回答が48%を占めた。前回の調達時と比べて、円安の影響などによって端末の単価が上昇していることに加えて、キーボードカバーやペンなどの周辺機器を購入する予算が足りないとの回答も多かった。
調達予定の端末単価は、政府補助金の範囲内である5万5000円以内とする市区町村は71%を占めた。5万6000円以上は15%となっており、そのなかでは6万円台が多い。最大では8万円台を想定しているとの回答もあった。
そのほか、調達における課題として、「3つのOSを適切に比較できていない」という声があがっていたほか、「共同調達の内容が確定されておらず先行きが不透明」、「県の統率力に疑問を感じている」、「(共同調達の)協議会中で、県と考えの違いがあった」など、共同調達プロセスに不安を感じる市区町村の声が多かったという。
MM総研では、今回の調査をもとに、端末の供給体制の懸念を指摘している。
調査結果からわかったのは、2025年度に更新が集中し、全体の68%がこの1年で更新されるということだ。2026年度の更新は21%となっている。
「2025年度には、企業や官公庁や自治体で稼働している法人パソコンの主力OSであるWindows 10の延長サポートが終了するため、法人市場でもパソコンの更新需要が集中する。さらに、共同調達で案件が大型化、広域化することで、前回の調達を支えた地域販社が入札に参加しにくい状況にある」と指摘する。
法人向けPCの更新に、システムインタグレータやディストリビュータが追われる一方、製品の給料力や与信の観点から大規模な販社に調達が限定されることから、導入が本格化するのに従い、現場では混乱が起こることが想定される。
「全国規模の販売店や通信事業者など大手サプライヤーに絞られる可能性も高い」と指摘する。
MM総研では、GIGAスクール構想第一期で端末を納品した事業者43社に聞き取り調査を実施したところ、「共同調達に応札する」と明言したのはわずか4社に留まったという。
応札を決めていない事業者の間からは、「供給体制が組めずに応札できない」、「与信なども考えると自社の規模では参加資格がない」、「一部の大手だけが参入できる」などの声があがっているという。また、応札できる規模の事業者においても、相対的に収益を確保しやすい法人向け案件を優先する可能性があると指摘している。
GIGAスクール構想は、IT業界にとっては、「利益なき繁忙」を生む温床になっているとの指摘もあるが、それは今回も変わりそうにない。そして、それを避けるためにGIGAスクール構想向けの案件が後回しにされるようだと、教育現場の端末整備は遅れることになる。GIGAスクール構想の構造的課題は、導入が本格化するにつれて、改めて浮き彫りになりそうだ。