来年の東京オリンピックまで1年となる節目の2019年7月24日、東京・有楽町の東京国際フォーラムで、東京2020組織委員会による「東京2020オリンピック1年前セレモニー」が開催された。
東京2020組織委員会会長の森喜朗氏、東京都の小池百合子知事、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長をはじめ、約5000人の関係者が参加して、盛大に行われた同セレモニーのオープニングパフォーマンスの演出に採用されたのが、パナソニックの空間映像演出システム「高速追従プロジェクションマッピングシステム」である。
津軽三味線の兄弟奏者である吉田兄弟による演奏と、北京オリンピックの新体操代表の坪井保菜美選手による新体操の動きを交えたダンスパフォーマンスに、パナソニックの高速追従プロジェクションマッピング技術を組み合わせた演出を披露した。
坪井選手が持っているスティックには、実際にはリボンが取り付けられていない。スティックの動きにあわせてプロジェクターがリボンの映像を投影することで、実物のリボンでは表現できない異空間の演出を実現してみせた。
プロジェクションマッピングでスポーツ演出や競技支援が可能に
パナソニックは、オリンピックおよびパラリンピックのワールドワイドパートナーとして、対象カテゴリーにおける最新の技術や製品、ソリューションの提供によって、大会運営をサポートしている。
プロジェクションマッピングは、空間演出手法として世界各地で利用されているが、そのなかでも近年は、人や物体の動きに追従するプロジェクションマッピングへの関心が高まっている。この「追随型プロジェクションマッピング」では、ランダムに動く対象物の動きや位置情報を高速に検出し、その動きにあわせられるよう画面の描画速度を高めたプロジェクターにより、映像を投影する。物体の動きに遅延なくあわせた空間演出が可能になる。
パナソニックが開発中の高速追従プロジェクションマッピングシステムは、業界最速の追従性能を実現しており、対象物の位置の検出から、映像送出までの遅延時間は、従来技術の10分の1以下となる0.0016秒だ。この追従性能の高さから、スポーツ分野での演出や競技支援などの用途にも活用できる技術として注目を集めている。
このシステム、具体的には、赤外線の照射によってマーカーを960fpsで高速撮影し、さらに撮影画像をもとにマーカー位置を1000分の1秒で算出。マーカーの位置をもとに、1920fpsでコンテンツを瞬時に投影することができる。PCを介さない処理と高速プロジェクターの組み合わせにより、高速追従性能を実現しているのが特徴だ。
システム全体は高速度カメラ、赤外線ライト、高速フロジェクターで構成。内部での演算処理が可能になっている。プロジェクターの明るさは2万7000ルーメン、投射距離は5~12メートル、画面サイズは100~300インチ。同時に2個までのマーカーを検出することができる。また、赤外線を活用することで、奥行きまでの検出ができる3Dセンシングが実現できるようになったことで、ひとつのプロジェクターで、物体と背景に別々の映像を投射することも可能になった。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社メディアエンターテインメント事業部 ビジネスソリューションセンター プロジェクト推進部の浅井宏建主幹は、「静止物へのマッピングはすでに見慣れている人も多く、目新しさに欠けている。いまでは動体へのマッピングがトレンドとなってきている。とくに、アトラクションや演劇、コンサートなどで、ダンサーをはじめとする人の動きに追随した演出ツールとして期待が集まっている」と開発の背景を前置きし、今回のシステムについて、「高速追従プロジェクションマッピングは2015年から開発を行っており、PCで処理する部分などで苦労をした。従来は、ダンサーが練習を重ね、映像にあわせてダンスをしていたが、高速追従プロジェクションマッピングでは、ダンサーが自由に踊ることができる。スポーツとの親和性も高い」と紹介した。
同社は2019年3月にも、東京・有明のパナソニックセンター東京で開催された東京2020の500日前イベントで、ダンス、卓球、サッカーを題材にしたプロジェクションマッピングを披露している。ダンサーの手袋のマーカーに反応したり、ボールに巻いたマーカーに反応して、ゲームを楽しくプレイできるような演出を行い、ダンスやスポーツと組みあわせたプロジェクションマッピングの可能性を提示していた。
また同社は、コンテンツの品質を高めることへの取り組みも強調する。クリエイティブ会社との連携を推し進めているといい、「パナソニックは、人が動く際に映像内容を変えることで、新たな体験価値が提供できると考えているが、その際にはコンテンツが大切である。リアルタイムにコンテンツを変更できる技術力を兼ね備えたクリエイティブカンパニーとの連携が大切である」(同 浅井主幹)と話している。
この日は、デジタルアートを手掛け、パナソニックと連携しているMoment Factory チーフイノベーションオフィサーのドミニク・オーデット共同創業者もかけつけ、「Moment Factoryの本社はカナダ・モントリオールにあり、2年前に渋谷に拠点を開設した。その時点からパナソニックとの連携を開始し、拡張型スポーツ(オーギュメントスポーツ)分野での取り組みを行っている。当初は、プロジェクターの遅延が問題となっていたが、パナソニックの技術によってそれが解決され、我々はそれに向けてコンテンツの開発を進めた。テクノロジーと融合したスポーツを楽しんで欲しいと考えている」などと述べた。
パナソニックは、今回の東京2020オリンピック1年前セレモニーや前述の500日前イベントでも、Moment Factoryとの協業によって、コンテンツを制作している。
オリンピックでイノベーションを加速したいパナソニック
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の古宮正章副事務総長は、「ちょうど今日が東京オリンピック開幕の1年前になる。東京オリンピック・パラリンピックでは、史上最もイノベーティブな大会を目指している」と語っている。
では、イノベーティブとはなにか。古宮氏は、「それを走りながら考えてきた。たとえば、メダルに使用する金属は、スマホのリサイクルなどによる都市鉱山から調達し、表彰台もマイクロプラスティックで作るといったようにサスティナビリティの面でもイノベーティブな取り組みを行っている。また、マスコットも子供たちの投票で決めたが、これも社会プロセスの変革という点でのイノベーティブである」とする。
そして、「大切なのはテクノロジーであり、大会を契機にして新たなテクノロジーを広げていきたい。パナソニックの高速追随プロジェクションマッピングは大会全体を盛り上げてくれる技術として注目している。そして、パナソニックの技術は、これから1年でさらに進化していくだろう。ますます期待したい」と述べた。
今回、セレモニー会場となった東京国際フォーラムにおける、高速追従プロジェクションマッピングシステムのリハーサルの様子も公開された。
会場では計3台の高速追従プロジェクションマッピングを使用しており、それとは別に1台をバックアップ用として配置したという。設置を開始したのは7月21日夜。そこから調整などを行って、本番に臨んだという。実際には、1日程度で設置および調整はできるというが、セレモニー全体でのリハーサルなども同時に進めたため、調整を行える時間が限定されたともいう。
前出の浅井主幹は、「東京オリンピック・パラリンピックが目指すイノベーティブな大会の実現に貢献したい。東京オリンピック・パラリンピック以降も、超高輝度、高精細大画面表示への対応のほか、ホログラムやメッシュスクリーンへの対応、ムービングプロジェクションへの対応、さらには、AIの活用などにも取り組んでいく」と話す。パナソニックにとって東京2020は、大規模なテクノロジー開発の好機と位置づけられているのだ。