パナソニックコールドチェーンソリューションズ社は、コールドチェーン事業の取り組みなどについて説明した。

コールドチェーンは、生産地から食卓に至るまで、食品などを冷たい状態で輸送する仕組みを指し、内食および外食を対象に、産地から農協や漁協、食品加工業(プロセスセンターやセントラルキッチン)、物流事業者、食品小売(スーパーマーケットやコンビニエンストア、ドラッグストアなど)、飲食業(ファストフードやファミリーレストラン、カフェ、食堂、病院など)を対象に、冷凍冷蔵装置などをソリューションとして提供。具体的には、コンビニエンスストアやスーパーマーケットに設置する冷凍冷蔵ショーケースのほか、業務用冷凍冷蔵庫や製氷機、業務用食洗機などの厨房機器、冷凍機、飲料ディスペンサー、ソフトクリームフリーザー、コンビニ向け電子レンジ、コーヒーディスペンサーなどを開発、製造、販売している。

パナソニックコールドチェーンソリューションズ社では、国内事業はコールドチェーン事業部が担当、海外は子会社の米国ハスマンが中心に事業を行っている。国内事業比率は約25%となっており、そのうち約半分が小売業向けのショーケース事業となっている。

  • 国内外でナンバーワンを追う、パナソニック冷凍冷蔵ソリューションの大泉拠点

    パナソニック組織体制におけるコールドチェーンソリューションズ社

  • コールドチェーンは、生産地から食卓に至るまで、食品などを冷たい状態で輸送する仕組み

2023年度業績は、売上高は前年比13%増の3960億円、調整後営業利益は同80億円増の203億円。2024年度見通しは、売上高が前年比1%増の4000億円、調整後営業利益は7億円増の210億円としている。今後、海外での事業成長を見込んでいる。

海外事業の強化に向けて、2024年7月に、ポーランドの冷凍機メーカーであるArea Cooling Solutions Sp. z o.o.(Area Cooling)の全株式を取得することを発表。欧州における冷凍機事業の基盤を強化し、グローバル展開を加速する考えだ。

Area Coolingでは、インバーター制御の冷凍機やCO2冷媒冷凍機などに投資を行っているほか、パナソニック製コンプレッサーを使用するなど、パナソニックの冷凍機との技術的親和性がある。買収には、コンプレッサーおよび空調および冷凍機部品の代理店販売事業は含まれないが、欧州事業の基盤強化の早期実現につながると判断した。

Area Coolingとパナソニックは、冷凍機事業において、リソースの相互活用およびシナジー創出により、欧州の顧客ニーズに適応した製品の開発や、欧州での現地生産、パナソニック製冷凍機の欧州市場への浸透を図る。

  • グローバルNo.1を目指し、海外展開を加速

パナソニック コールドチェーンソリューションズ社 副社長兼コールドチェーン事業部長の土屋康之氏は、「海外でパナソニックのCO2冷媒が高い評価を得ており、とくに欧州市場で高いニーズがある。現状は日本で生産し、輸出をしているが、この体制では追いつかなくなった。そこで欧州での生産を開始する。さらに詳細なシナジーについてはこれから検討をしていく。今後は、ハスマンとの連携により、ショーケースと冷凍機のセットで、グローバルCO2冷媒のナンバーワンを目指す」と述べた。

  • パナソニック コールドチェーンソリューションズ社 副社長兼コールドチェーン事業部長の土屋康之氏

パナソニックのコールドチェーン事業の強みは、ショーケースと冷凍機の両方を製造、販売し、店舗コントローラにより、それぞれを最適な状態に調整して稼働させるトータルソリューション提案が行える点に加え、ナノイーXを搭載したスーパーショーケースをラインアップしている点、CO2冷媒用ノンフロン冷凍機を提供できる点にあるという。さらに、無人受け渡しやセルフレジなどの非対面での接客が可能なスマートショーケースの開発や、集合住宅向けの冷凍冷蔵宅配ボックスにも取り組んでいるという。

  • ナノイーXを搭載したスーパーショーケースをラインアップ

加えて、小規模な企業でもレトルト食品を作ることができる小型高温高圧調理機の「達人釜」、厨房で再加熱用として利用する業務用マイクロウェーブコンベクションオーブン、冷凍食材を高品質で解凍できる解凍保冷庫なども製品化している。

さらに、現在は、ソリューションサービスにも注力。日本では店舗向け遠隔データサービス「エスクーボ」、オセアニアではショーケースの遠隔監視を行う「Case Connect」、米国では大型スーパーマーケトットのショーケースの遠隔監視を行う「Store Connect」および小型フォーマット店舗向けの「One Connect」を提供している。「今後は、グローバルで接続することで、様々な顧客のデータを解析しながら、新たな事業につなげたい」とした。

  • 各国市場でソリューションサービスにも注力

コールドチェーンソリューションズ社の主要開発、生産拠点となるのが、群馬県大泉の大泉拠点である。敷地面積は約79万平方メートルで、東京ドーム17個分の広さを持つ。現在、4200人が勤務している。

もともとは、戦前となる1942年に、中島飛行機小泉製作所が開設された場所で、零戦の製造などを行っていた。1945年に米軍が駐留し、1959年に米軍から返還された際に、三洋電機の東日本エリアの製造拠点として、東京三洋電機をこの地に設立。1986年には三洋電機と東京三洋電機が合併。2012年に三洋電機がパナソニックグループ入りし、新たな拠点としてスタートを切った。現在は、コールドチェーン事業のほかに、パナソニック空質空調社の設備ソリューション事業の拠点にもなっている。

  • 中島飛行機小泉製作所の広大な跡地につくられた大泉拠点

コールドチェーン事業の始まりは、旧三洋電機で、1960年にアイスクリームストッカー「SCR-040」を開発、販売したことである。アイスクリームの保存に必要なマイナス16℃以下の低温を、冷蔵庫用の高性能コンプレッサーと精密な自動温度調整器との組み合わせで実現した。対面販売からセフル方式の買い物スタイルを提案した商品ともいえ、同年10月には6000台を完売し、翌年には3万台を販売する大ヒット商品となった。

  • 旧三洋電機で、1960年にアイスクリームストッカー「SCR-040」を開発、販売したことがはじまり

また、1963年には米ウェーバーと大型ショーケースに関する技術提携を行い、1964年にはエアカーテン方式スーパーショーケースを発売し、ショーケースを何台でも連結できるモデルを日本で初めて商品化した。今年は、ショーケース事業を開始してから60周年の節目にあたる。

さらに、1984年には氷温ショーケースの第1号商品を発売。2010年にはCO2冷媒を使用したノンフロン冷凍機を発売。スーパーやコンビニエンスストアのほか、食品工場や冷凍冷蔵倉庫にも導入され、2024年5月には、CO2冷媒採用ノンフロン冷凍機の累計出荷台数が2万5000台を突破した。現在、小型ショーケースのノンフロン化を推進しているという。2016年には米ハスマンを買収して海外事業拡大の足がかりを作った。

大泉拠点の製造工程、詳しく見てみる

コールドチェーンソリューションズ社の大泉拠点における製造工程では、一品一葉のモノづくりが行われている。

源泉工程となる板金加工では、曲げ加工で1日8000枚の生産能力を持つほか、レーザー複合機による大板ネスティング工法を採用し、小型部品などを対象に24時間の板金加工が行える体制を構築しているという。

曲げ加工が終わった板金は塗装工程に入り、まずは洗浄して乾燥。塗装ブースのなかで塗料を吹き付けたあとに190℃の温度で焼き付けを行い、検査機や目視で仕上げの確認を行う。塗料は48色の粉を混ぜ合わせて作り出す。7~8割が白塗装だが、納入先のコーポレートカラーなどにあわせた塗装も行う。塗装が終わると、天面や背面部分を加工し、発泡工程で断熱材を注入する。

組立工程では、全体の約70%を占める標準機種構成による生産ラインと、ニーズにあわせてサイズを1cm単位で設計する特注機種構成があり、それぞれが独立した形で生産を行っている。多段形と平形は別々のラインで作られており、9月~11月の繁忙期には1日100台の生産規模になるという。

トップ、ボトム、バックの3種類の筐体を、フレームをもとに組み合わせることになる。工程の最初では、本体を寝かせた形で組立を行い、熱交換器やファンなどの下回りの部品を取り付けた後に本体を起こして、各種部品を組み込む形になる。REシリーズの生産開始にあわせて、低床や上部スペースの変更などに最適な生産方法を取り入れてるほか、ビスが少なくなり、作りやすくなっているという。

側板についても顧客の要望に応じて、形状を変更したり、ガラスを使用したり、パネルの色を変えたりといったことが行われ、なかには片方だけ取り付けたりといったこともあるという。側板は重量が約20kgに達するため、吸盤付きのアームロボットを使い、作業者への負担を減らしている。最後にガラスや棚などの部品を取り付けて完成させる。

また、冷凍冷蔵ショーケース向けのハイブリッド生産ラインを3本構築し、同一ラインで多機種の製造を可能にしている点も特徴だ。ショーケースは、機種ごとに搭載部品や作業工程などが異なるため、それぞれに最適化したラインで生産していたが、ハイブリッド生産ラインでは、複数の機種を生産できるため、繁忙期に活用するなど、需要変動にあわせた生産が可能になっている。

特注機種構成の生産ラインでは、従来は、組み立てるショーケースの台車と、組立部品が置かれた台車を手で押しながら作業を行うスタイルだったが、現在では、AGVを導入し、組立製品と部品台車が並行して移動し、組み立て作業を行うようになっている。

組み立てが終わると、検査工程に入る。電流値検査や外観検査、LEDによる照明点灯検査などのほか、冷凍機を内蔵したショーケースは、工場内で全量の稼働検査を実施。冷凍機を外部接続するものは、冷凍機と接続できる場所に移動させて検査する。そののちに梱包し、出荷することになる。

また、大泉拠点の広大な敷地には複数の建屋があるため、それらの建屋に部品を搬送するための自立走行型無人搬送車「MAMORU」を導入。従来は、フォークリフトで運んでいたために免許を持っている人に運転が限られていたが、無人搬送車では、人やトラックが通る屋外の道路を自動で走行することができ、省人化にも貢献している。

なお、大泉拠点のなかには、CCSトレーニングセンターを設置している。社員や委託会社、施工会社、代理店を対象にコールドチェーン製品の知識や技能の習得の場として利用。新入社員への教育や、技術伝承のための取り組みも行われるという。

  • 群馬県大泉のパナソニックコールドチェーンソリューションズ社 の大泉拠点

  • レーザー複合機による大板ネスティング工法を採用した機械

  • 板金加工を行っているところ

  • スーパーショーケースの組立工程。棚の取り付けを行っている様子

  • 同一ラインで多機種の製造を可能にしているハイブリッドライン

  • 最終検査を行っている様子

  • 完成したスーパーショーケース

  • 出荷前のスーパーショーケース

  • 自立走行型無人搬送車「MAMORU」

  • CCSトレーニングセンターを設置している

  • 社員や来客がくつろげるスペースも用意している

  • リーグワン初代王者となったパナソニックワイルドナイツのモニュメントも設置されている

スーパーショーケース「REシリーズ」の出荷を開始

一方、パナソニックコールドチェーンソリューションズ社では、7月18日、群馬県大泉町のコールドチェーン工場において、スーパーショーケース「REシリーズ」の出荷式を行った。

REシリーズは、2015年に発売したEVシリーズ以来、9年ぶりのモデルチェンジであり、陳列作業にも最適化した突起のないフラットな「デザイン」、連携制御や所要冷凍能力の低減により、冷凍設備全体で電気代を約15%削減した「省エネ」、最上段の陳列スペースの拡大により庫内容量を9%拡大した「大容量」、冷凍食品の需要増加に対応して、冷凍用ショーケースのラインアップを拡充した「冷凍強化」が特徴となっている。さらに、業界初となる真空断熱ガラスをショーケースの扉に採用しており、扉ガラスのヒーター通電制御により33%の省エネが実現できる。同技術はプラズマテレビの技術を生かしたものだという。また、ニーズにあわせたカスタマイズが可能であり、多段形、平形、リーチインの3種類をベースに、標準機種だけで1303機種をラインアップ。様々なニーズに対応できるようにしている。

  • 「REシリーズ」は電気代を約15%削減する「省エネ」も特徴

REシリーズに刷新した理由を、消費動向の変化、冷凍冷蔵商品の多様化、環境への対応など、冷凍冷蔵ショーケースに対するニーズの変化を捉えたためと説明する。

具体的には、新たな冷媒を採用することでの環境への配慮や、電気価格の高騰に対応した省エネ性の追求のほか、より多くの商品を展示できるように大容量化することで商品陳列作業の頻度を減らし、労働力不足に対応するといった提案も行う。従来のEVシリーズと連結した利用はできないが、店舗改装の際の入れ替えや、新規出店の店舗への導入を進めるという。「リーディング企業として、新たな時代に対応した製品を先行して投入した」と述べた。

なお、REシリーズには、Reliable(信頼)、Refine(洗練)、Real(本当)という3つの意味を込め、20歳代の若手社員が考案したという。

REシリーズは、6月から受注を開始しており、今回が初めての出荷となる。

  • REシリーズの冷蔵多段形スーパーショーケース「CPW-RE9065」

  • REシリーズの冷蔵セミ多段形スーパーショーケース「CPS-RE5065」

  • 業界初となる真空断熱ガラスを扉に採用した冷凍リーチインショーケーススタンダード「FLD-RE9277L」

  • REシリーズの冷凍平形スーパーショーケース「TVQ-RE068KFLM」

  • REシリーズにはナノイー発生器が搭載されている

  • ショーケースの上部にはナノイーXのロゴが入る

  • パナソニックの特徴のひとつとなる店舗コントローラ

出荷式で挨拶したパナソニック コールドチェーンソリューションズ社の土屋事業部長は、「大泉でコールドチェーン事業を開始して60年を経過した。セルフ方式のスーパーマーケットの日本での広がりとともに、エンドユーザーの声を反映しながら事業を継続してきた。新たなREシリーズは、開発、製造、販売部門が、数年をかけて、これからの流通を見据えて開発した商品である。コールドチェーン事業は、日本の食文化のライフラインを守る事業である。この業界のトップ企業として発展していきたい」と述べた。

また、製造会社であるパナソニックAP空調・冷設機器 共同社長の木村和昭氏は、「コールドチェーンは、様々なお客様がおり、寒暖差も激しいなかにあり、難しい事業である。投資を進め、フレキシブルに届けられるように努力をしている。REシリーズではデザイン、利便性に優れるとともに、作りやすく配慮してもらっている。ナンバーワンを継続していく」と話した。

パナソニック産機システムズ コールドチェーン事業本部長の鎌田秀樹氏は、「REシリーズは、2024年2月のスーパーマーケットトレードショーで公開し、多くのお客様から評価を得た。その後、北海道から九州までをキャラバンし、お客様や施工業者にも良さをわかったもらうための活動を行った。省エネ性能や店舗運営の効率化に貢献すると確信している。開発、製造した事業部に恩返しするためには、日本全国にたくさん売っていかなくてはならない」と語った。

  • 出荷を待つREシリーズの第1号機

  • 最後にパナソニック コールドチェーンソリューションズ社コールドチェーン事業部の土屋康之事業部長がロゴマークを貼付した

  • 取り付けられたロゴマーク

  • 梱包作業を行う

  • 梱包作業が完了した

  • フォークリフトで第1号機を持ち上げる

  • トラックに積み込む様子

  • REシリーズの積み込みが完了

  • トラックの荷台を閉める

  • いよいよ第1号機が出荷

  • トラックは社員の拍車に見送られた出発した

  • トラックを見送る(左から)パナソニック産機システムズ コールドチェーン事業本部の鎌田本部長、パナソニック コールドチェーンソリューションズ社コールドチェーン事業部の土屋事業部長、パナソニックAP空調・冷設機器の木村共同社長

  • 出荷式後に参列者で記念撮影を行った

<動画>社員による三三七拍子で出荷式を盛り上げた

  • 挨拶するパナソニック コールドチェーンソリューションズ社 副社長兼コールドチェーン事業部長の土屋康之氏

  • パナソニックAP空調・冷設機器 共同社長の木村和昭氏

  • パナソニック産機システムズ コールドチェーン事業本部長の鎌田秀樹氏

<動画>テープカットを行う(左から)太田治工の岩本潤子社長、パナソニックAP空調・冷設機器の木村和昭共同社長、パナソニック産機システムズ コールドチェーン事業本部の鎌田秀樹本部長、パナソニック コールドチェーンソリューションズ社コールドチェーン事業部の土屋康之事業部長、三井倉庫ロジスティクスの石川輝雄社長