シャープの戴正呉会長兼社長

シャープの戴正呉会長兼社長が、テレビ向けなどの大型液晶ディスプレイを生産する「堺ディスプレイプロダクト(SDP)」の子会社化を検討していることがわかった。さらに、同社事業のBtoB比率を50%に高める時期を、2021年度と明確に定めた。ほかにも、社内改革として年2回の賞与を年4回へ増やす方針にも言及した。

7月16日、大阪府堺市に社員寮「シャープ堺匠寮 創意館」が完成し、その開所式に出席した戴会長兼社長が、国内取材陣の取材に応じたものだ。

  • シャープ堺匠寮 創意館のテープカットの様子

  • シャープ堺匠寮 創意館

8Kの競争力強化に、強いシャープを取り戻したい

戴会長兼社長は、SDPの子会社化の検討について、「2010年頃の強いシャープを取り戻したい。そのためには、コーポレート宣言である『Be Original.』の姿勢が大切であると考えている」と前置きしながら、「可能であれば、(SDPの株式を買い戻して)シャープに取り戻したい。シャープが推進している8K+5Gエコシステムの競争力強化につなげることができる。いまのSDPでは、IGZOプロセスを使えない。取り戻したら、SDPでもIGZOパネルを生産し、競争力を取り戻せる。バリューアップ、テクノロジーアップ、クオリティアップができる」とした。

戴会長兼社長は、「私は、シャープの社長になってから、2年半に渡って、SDPには関与しなかったが、2019年1月から関与し、約半年間にわたり、事業改革を進めてきた。改革はまだ進めることができる」などと話す。だが、「子会社化したいという希望はあるが、株主からの意向、第三者の評価、独禁法の問題もあり、簡単にはいかない」と、あくまでも検討段階であることも強調した。

  • シャープはSDPの子会社化の検討に入った

また、一部報道にあった太陽光パネルの生産を行っている奈良県葛城市の葛城事業所、家電の修理などを行っている大阪市の平野事業所の閉鎖については、検討を行っていることを認め、「平野事業所は、55年以上の古い建物であり、耐震性の問題もあり、危険である。壊さなくてはならない」と指摘。「シャープには、製造拠点が多く、それらを残していてもコミュニケーションが難しくなるだけである。合理化やスピードアップのためには集中させなくてはならない。八尾工場は広く、交通も便利である」と、八尾事業所に集約することを示唆。「2拠点の閉鎖については、私の個人の意見だけでなく、経営戦略会議を通して決定したい」と述べた。

また、他の拠点の閉鎖の可能性については、「減らすだけでなく、活用も考えたい。たとえば、堺工場をもっとうまく使えないかということも考えていく。社内には、マイナスマネジメントだけでなく、プラスマネジメントを推進するように言っている」などと述べた。

中国減速、日韓関係、台湾総統選など、シャープ改革に影響は?

戴会長兼社長は直近のビジネス環境の情勢変化について、次のように述べている。2019年10月の消費増税による影響については、「短期間の影響だけだろう」と冷静に捉えており、より影響の大きな課題として、「心配しているのは、中国企業からのダンピングである」と指摘した。

商品事業においては、現在のBtoCが65%、BtoBが35%の構成比をいずれも50%にする考えを示していたが、今回、2021年度という時期を明確に示した。

「この3週間、幹部たちと議論をして、2021年度という目標を明確に決めた。一方でデバイス事業は、ODMやOEMビジネスであり、顧客からの影響が大きく、業績予測を把握しにくい。シャープはブランド企業、商品事業を行う企業になりたいと考えている」と説明する。

シャープは、7月1日から、事業推進体制を「Smart Business」、「8K Ecosystem」、「ICT」の3つの事業グループに再編している。「先週土曜日に社内でAIoTの勉強会をし、共通意識を持った。今週土曜日も、8K+5Gエコシステムの事業化について話をし、組織再編についてお互いに理解を深める。2019年10月までに事業を明確化できる。その時点で、事業方針を発表したい」との考えを示した。

シャープでは、米中貿易摩擦の影響により、PCおよび複合機における中国の生産体制の移管を発表しているが、「現在、複合機は、タイと中国で生産をしている。米国向けの製品は、新機種からタイで生産を行うことになる。量産試作のところからタイで生産をするのでコスト面でも影響がない」と発言。「Dynabookは、米国への輸出比率が10%しかない。これも影響はない」とした。

また、中国国家統計局の発表で、中国の2019年4~6月のGDPが6.2%と減速したことについても、「シャープへの影響はない」と述べた。

さらに、日本政府による韓国向け半導体材料の輸出規制については、「社内で検討をしたが、液晶とは関係がなく、有機ELにも関係がない。半導体には影響するが、半導体はシャープの中心事業ではない。シャープへの影響はない」と断言した。

台湾総統選の国民党予備選挙で、鴻海精密工業の郭台銘前董事長が敗れたことがシャープの経営に対してどんな影響を及ぼすのかとの問いについては、「シャープは、私が中心になって、経営改革を進めてきた。2016年4月2日から、3年以上を経過しているが、堺本社に、郭前董事長が訪れたのは一度しかない。たとえば、これからシャープのアドバイザーとして関与することもない」とした。また、戴会長兼社長が自身の出身地である台湾宜蘭県で、郭氏の予備選に関する応援演説を行ったことについては、「私の故郷で、応援を一日だけ行った。そのイベント自体は大成功であったが、政治のことはわからない」と答えた。

進めてきた「信賞必罰」をさらに加速

一方で、これまで6月と12月に支給している年2回の賞与を、四半期ごとに年4回の支給にすることを検討していることにも言及した。シャープでは、業績に貢献した社員には、多くの賞与を支給する「信賞必罰」の仕組みを導入しており、この考え方をさらに加速するものになる。

戴会長兼社長は、「半年で評価するのは期間が長すぎる。業績がいいとか、悪いとかを社員が感じていない。社員が業績の意識を高めることが狙いになる。信賞必罰をさらに徹底し、スピードアップと効率アップも狙う。経営戦略会議や人事評価委員会での議論が必要であるが、まずは日本でやって、海外拠点にも展開することになる。この施策は、鴻海では一部に採用しているが、シャープオリジナルの施策になる。これから検討に入るところである」とした。

なお。この日、開所式を行った社員寮「シャープ堺匠寮 創意館」については、「大変うれしい。創意館と誠意館が揃い、シャープの経営信条を、社員が覚えるようになった」と語った。

同社では、今回開所した創意館に並ぶ形で、2018年6月に、「シャープ堺匠寮 誠意館」が完成し、社員が入居している。シャープの経営信条は「誠意と創意」であり、それにちなんだ寮名となっている。創意館には、大阪市西田辺の早春寮に入居している社員が入居することになり、7月中には満室になる予定だ。誠意館と創意館をあわせて、384室の寮となる。早春寮については、「築55年を経過しており、閉鎖することにした。今後の使い道については検討していくことになる」と語った。