パナソニックが、ミャンマーでの事業拡大に力を注いでいる。2015年3月に、ヤンゴン市内にショールームをオープン。さらに、ミャンマー最大の量販店であるWai Yanや、ミャンマー第2の都市であるマンダレーを中心に積極的な販売活動をするMYO THEIN Electronics、スーパーマーケットのOceanを展開するシティマートといった販売店との連携を強化している。
ヤンゴンのショールームは、2フロア構成となっており、1階にはテレビや冷蔵庫、洗濯機、調理家電などのBtoC商品を展示。修理を行うサービスセンターも設置している。また、2階には太陽光パネルや蓄電池、セキュリティソリューションなどのBtoB商品を展示。小売やホテル、オフィスなどのシーン展示を行っているのが特徴だ。そして、ショールームには、ミャンマー支店も併設している。
一方で、BtoBに関しても、ODAを活用した大型プロジェクトに連動した提案活動を加速させるという。パナソニック アジアパシフィック ミャンマー支店の前田恒和支店長は、「2035年には、ベトナムと同等規模となる売上高5億米ドル(約560億円)を目指す。それに向けて、いまはブランディングを強化していくフェーズにある」と話す。
前田支店長は、「(ヤンゴンのショールームは)BtoCおよびBtoBの双方を展示するとともに、サービスセンターの役割を持ち、さらに支店機能も同じ場所にあるのが特徴。パナソニックのミャンマーにおけるビジネス拡大の重要な拠点になる」と語る。
パナソニックは2013年、ミャンマー市場に再参入し、今年で5年目の節目を迎える。前田支店長は、再参入時から参画していたメンバーだ。
「この5年でミャンマーの経済や生活は大きく変化した。5年前を知っていても役には立たないほど変化したが、5年間の変化を知っていることが、私自身の強みになる」と前田支店長は語る。市場変化が速いミャンマーにおいて、変化にあわせた手を打ち続けてきた。
「ミャンマー流のビジネスを徹底的に学び、パートナーとも緊密な関係を築いた結果、現在では、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジといった商品で、ナンバーワンの市場シェアを獲得している。また、直営のサービスセンターでは、48時間以内での修理比率が70%を超えている。代理店に運営委託しているサービスセンターでも、一定数量の修理用パーツを確保することを義務づけており、今後、48時間以内での対応率を高めていきたい」と話す。
ミャンマーでの売上高は非公表だが、セキュリティカメラやPBX、デジタルサイネージなどを中心としたBtoB事業の構成比は約2割。残りの8割が、エアコン、冷蔵庫、炊飯器、テレビといった家電を中心としたBtoC事業で占める。
なぜミャンマーでのパナの認知度は高いのか
ミャンマーにおけるパナソニックの認知度は、意外にも高い。
それは、パナソニックが過去に、いくつもの工場をミャンマー国内で稼働させていた経緯があるからだ。
「パナソニックは、1964年に、ラングーン(現在のヤンゴン)に、ラジオ工場を建設。その後、配線器具や照明、冷蔵庫、炊飯器などを国内で生産。最大時には5つの工場を稼働させていた。2007年に、旧松下電工の配線器具工場を閉鎖してから、ミャンマー国内にパナソニックの工場はなくなったが、長年にわたる工場の稼働によって、パナソニックのブランドは広く浸透している」(前田氏)
今回のミャンマー取材では、ヤンゴン市から、クルマと船を乗り継いで片道5時間の無電化村を訪れる機会を得たが、その村で暮らす16歳の男の子も、「電気が届いていない自分の家ではパナソニックの製品を使う機会はない。だが、日本のメーカーであり、品質がいいことは知っている」と語ったのには驚いた。
この村には、このほど、パナソニックが、同社の創業100周年記念事業のひとつとして、HIT太陽光電池パネルと蓄電システムを組み合わせた「パワーサプライステーション」1基と、太陽電池パネルとニッケル水素電池、直管形および電球形LEDランプで構成する「エネループソーラーストレージ」を100台寄贈。男の子は、「パナソニックが電気を持ってきてくれたことはうれしい。夜遅くまで集中して勉強ができる」と喜んでいた。
すでに、1万5000台以上のソーラーランタンをミャンマー国内の無電化地域に寄付したり、タイ王国のMFL財団や三井物産のプロジェクトでも、無電化村にパワーサプライステーションを提供したりといったような動きがある。
こうした活動も、パナソニックのブランド認知が高い理由のひとつになっている。
エアコンシェアトップの中国企業に対し巻き返せるか
市場シェアという観点でみれば、普及に加速がつき始めたエアコンでは、中国のチゴが4割強のシェアを獲得しており、パナソニックと三菱電機が、15%以下のシェアで2位と3位を争っている。また、普及率が15%程度まで高まってきた冷蔵庫では、主力となる1ドア冷蔵庫でパナソニックが7割以上という圧倒的シェアを獲得し、冷蔵庫市場全体でも約25%のシェアを獲得しているという。また、電子レンジや洗濯機でもトップシェアを獲得。乾電池市場においても圧倒的シェアを獲得している状況にある。
「エアコンは生活必需品になりつつあるが、国内の普及率はまだ20%程度。巻き返せる余地はある。また、電子レンジではトップシェアを獲得しているが普及率はまだ低い。電子レンジをどうやって活用するのか、これによってどんな調理ができるのかといった啓蒙活動から始めていく必要がある」とする。
マンダレーに本拠を持ち、マンダレーおよびヤンゴンにそれぞれ2店舗ずつを展開する家電量販店のMYO THEIN Electronicsでも、啓蒙活動の必要性を訴える。
MYOは、マンダレーの電気街にある主力店舗の近くに、8階建てのビルを建設。1階~5階までを売り場として、2019年初めには、グランドオープンする予定だ。
新店舗では、高価格帯の家電製品の展示を行う一方で、売り場を利用して、週に1回のペースで家電の使い方を教える場を用意。さらに、6~8階フロアには、事務所エリアのほか、社員向け研修センターを設置。来店客に対して、家電の使い方やメリットを説明できる店員を増やし、市場に向けた啓蒙活動を行う体制を作ることになる。
「新店舗は、プレミアム家電を中心にした展示を行う。販売の対象になるのは富裕層だが、まだ家電を買うことができない人にも数多く来店してもらい、家電とはどういうものかを知ってもらいたい。その点では、販売店というだけでなく、博物館といえるような役割があるともいえる。それによって家電による憧れの生活を想起してもらうことも大切な要素だと考えている」と、MYO THEIN Electronicsのミョウ・ティンCEOは語る。
パナソニックの前田支店長も、「ミャンマーでは多くの店舗がダンボールの箱に入ったままで家電を販売しているが、見えたり、触ったりできる商品を買いたいという消費者が増えている。しっかりと説明できるスタッフを育成し、商品を見てもらいながら、機能や使い方を説明できる環境を増やすことで、家電の販売に弾みをつけることができるだろう」とする。
家電の普及に向けた啓蒙活動は、これからますます重視されそうだ。
パナソニックにとっては、VIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)+タイが、ASEANおよびアジア、オセアニアにおける重点市場になっており、ここにミャンマーは含まれていない。
だが、前田支店長は「将来の成長性を捉えると、ミャンマーは、次代の重点市場になることは明らかで、パナソニックにとって、いまから力を入れるべき市場のひとつに位置づけられている」とする。
電化地域が遅れているのがどう影響するか
現在、ミャンマーにおける1人あたりのGDPは約1300米ドルであり、経済の中心であるヤンゴンだけでみても2000~2500米ドルという水準だ。だが、2023年~2024年にかけて、1人あたりのGDPは3000米ドルに到達するといわれており、これをきっかけに家電の普及率が高まるとみられる。
前田支店長は「ベトナムでは、1人あたりのGDPが3000米ドルに達した時点で、自動車が一気に普及し、家電ブームが訪れた。それと同じことが起こる可能性がある」と予測する。
だが、ベトナムとミャンマーとの違いは、電化地域の比率だ。
ミャンマーは最も電化が遅れている国で、ヤンゴン管区でも、電気が通っているエリアは75%以下。ミャンマー全土ではわずか35%に留まる。
「家電ブームの到来には、どこまで電化地域が広がるかにかかっている」と前田支店長が語るのもうなずける。
パナソニックでは、2035年には、現在のベトナムと同等規模となる売上高5億米ドル(約560億円)を目指しており、そこにおいては、BtoCの成長が牽引役になるとみている。調査会社によると、2017年のミャンマーの家電市場全体で約1億4000万米ドルの市場規模である。パナソニックは、2035年度の目標とはいえ、それを大きく上回る目標を立てており、数値目標がいかに意欲的なものかがわかる。
パナソニックは、そうした高い成長を遂げると予測される市場において、代理店との連携を強化していく考えだ。
現在、家電製品を取り扱うルートは、一般家電店ルート、スーパーマーケットおよび量販店ルート、ショールームによる販売に分かれる。パナソニック製品の場合、一般家電店ルートが約65%を占め、スーパーマーケットおよび量販店ルートが約30%、ショールームが約5%という構成比だ。
だが、一般家電店ルートでは、ミャンマー支店を通さずに、タイや中国から輸入されたパナソニック製品の販売が主流になっており、正規ルートよりも安く販売されている。
タイや中国から輸入された製品については、国内における保証が受けられないこと、修理費用は正規品の2倍の設定となっているにも関わらず、製品価格の安さで選んでしまう購入者が多いのが実情だ。
前田支店長は、「サービスに価値を感じるユーザーが少しずつ増えているのは明らか。また、パナソニックと手を組んで、ビジネスを拡大したいという代理店が増えてきている。現在、約20社の代理店があるが、カテゴリーによってはまだ増やしていきたい。とくに、スーパーマーケットおよび量販店ルートとの連携を強化したいと考えており、3年後には、この販売比率を5割程度にまで引き上げたい」とする。
正規代理店を通した健全な販売ルートを目指す
ミャンマー最大手の量販店であるWai Yanを展開するTMWグループのカイン・テッ・ルイン(Khine Thit Lwin)エグゼクティブディレクターは、「パナソニックの強みは、テレビから洗濯機、冷蔵庫、小物家電まで、さらに、高価格から低価格まで幅広い製品ラインアップを揃えているのが特徴であり、加えて、認知度も高い。品質が高いというイメージも強く、多くの人が手に入れたいと考えている。家電の購入層が広がっていくのに伴い、パナソニックの家電を取り扱うことは重要な戦略になる」と語る。
ただ、その一方で、タイや中国から輸入される低価格のパナソニック製品を減らさなければ、正規販売店において、健全なビジネスが成り立たないとも指摘する。これはパナソニック製品だけに限定した話ではないが、今後、解決していくべき課題のひとつであるのは確かだ。
前田支店長は、これからのパナソニックが連携を強化する代理店の条件として、資金力があること、ミャンマー全土に商品を届けることができるディストリビューション力があること、付加価値を提供できるエンジニアリング力が持つことを挙げているが、「最近になって、経営トップが持つハングリー精神や、ミャンマーを発展させたいという強い意識も重視したいと考えるようになった」とも語る。
さらに、前田支店長は、ブランディングの強化にも取り組む姿勢をみせる。
「いまはブランディングを強化していくフェーズにある。2023年以降に訪れる家電ブームに向けて、販売網の整備と強化、そして、安心して利用できる家電製品として、国内におけるパナソニックの認知度を高めたい」とする。
ミャンマーにおいてパナソニックは、中長期的な視点で地盤を固めることが、今後の爆発的な成長につながるとみており、すでにそれに向けた準備を進めようとしている。まず注目なのは5年後の2023年、パナソニックはミャンマー家電ブームの中心にいるだろうか。