ソニーグループは、「事業説明会 2024」を開催し、デジタルカメラや薄型テレビ、スマホ、ヘッドホンなどを展開する「エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)」分野の事業戦略について説明した。

ソニーグループの上席事業役員であり、ソニー 代表取締役社長兼CEOの槙公雄氏は、「2024年度は、技術の差異化による強い事業基盤をもとにした収益軸事業の領域拡大と、成長軸事業の展開加速に、これまで以上に注力する」との方針を示した。また、「ET&Sは、クリエイションテクノロジーを強みに、クリエイターとともに、新たなエンタテインメントを創造し、感動に溢れる未来を共創する」との基本姿勢を打ち出した。

  • ソニー 代表取締役社長兼CEOの槙公雄氏

    ソニー 代表取締役社長兼CEOの槙公雄氏

成果と方針、エンタテインメントを創造するET&S事業

説明では、まず2023年度の成果について振り返った。

槙社長兼CEOは、「イメージング分野やサウンド分野を中心にソニーならではのテクノロジーで新たなエンタテインメントを、世界中の多くのクリエイターと共創しており、2023年度も多くの感動を創出してきた」と前置きし、「フォトグラフィやビデオグラフィに加えて、シネマクリエイターの裾野を広げるシネマラインやVLOGCAMなど、コロナ禍に需要が創出された新たなカテゴリーがイメージングの領域を広げ、多様な動画クリエイターを生み出している。また、世界初のグローバルシャッターを搭載したα9Ⅲは、国際イベントを通じて新たな感動体験を世界に発信している。サウンドでは、MDR-MV1のサウンドクオリティが多くのアーティストから高い評価を得て、楽曲制作で利用されている。スポーツでは、Hawk-Eyeが国際的イベントを通して判定支援で利用されているが、それに留まらず、フィジカルとバーチャルの架け橋となる新たな映像体験によって、世界に感動を届け、ファン層の拡大に貢献しはじめている。クリエイティビティとテクノロジーの力で世界中に感動を届ける取り組みを加速できた」と述べた。

  • 2023年度のトピックス

2023年度は第4次中期経営計画の最終年度にあたったが、3年間累計営業利益は5798億円(第3次中期経営計画では2917億円)、年平均営業利益率は8.0%(同4.6%)、3年間累計営業キャッシュフローは6883億円(同466億円)の実績となった。

  • 2023年度は中期経営計画の最終年度でもあった。経営数値の実績

「コロナ禍における需要の変動、サプライチェーンへの影響など、事業を取り巻く環境が大きく変化するなかで、構造変革への取り組みや、事業の成長創出に向けたリソース投下を拡大しながらも、累計営業利益は前中計に比べて約2倍、累計営業キャッシュフローは約1.5倍となった。2023年度の営業利益の8割以上をクリエイションに関わるビジネスから創出している点も特徴である」と総括した。

ET&S分野の2024年度経営方針として、「人を軸とし、社員一丸となって、未来を共創するという目標に向かって企業文化を醸成し、その上で『収益軸』と『成長軸』の2軸の事業構造を確立する」と述べ、収益軸事業と成長軸事業のそれぞれの取り組みについて説明した。

収益軸事業では、テレビとスマホによる「構造変革・転換」分野と、レンズ交換式カメラやサウンドなどによる「領域拡大」分野で構成している。

  • エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)事業のポートフォリオ

テレビとスマホは「構造変革・転換」

「構造変革・転換」分野では、「収益水準の向上と、ボラテリティの低減を行い、リスクをコントロールする」と述べ、地域動向に則した販売体制への再編、事業規模に応じた製造拠点の最適化、設計リソースをプラットフォーム化することで成長軸へのリソースシフトを柔軟に行える設計体制の構築を進めるという。

テレビについては、シネマクリエイターとの共創により、クリエイターの制作意図の忠実再現をテーマとしたディスプレイ開発を進める考えを示した。

「テレビ事業は規模を膨らませることなく、収益水準を中心にしたオペレーションを行う。生産規模も追わないため、事業所の再編も進める。2023年度のテレビ事業は赤字にはなっていない。今後3年間も黒字化を予定している。変化に対するリスクコントロールをしっかりと行っていく」と述べた。

また、スマホでは、クリエイターからのコンテンツ即時納品の要求に応えるために、データ通信端末としての位置づけを強化。イメージング機器との連携により、事業転換を加速するという。

  • テレビとスマートフォンは「構造変革・転換」分野と位置付け

カメラとサウンドは「領域拡大」

「領域拡大」分野では、「収益軸のコアとして、安定収益基盤を強化し、事業領域を拡大させ、さらなる成長を目指す」とし、レンズ式交換カメラやシネマカメラを中心としたイメージング事業では、リアルタイムにAIを活用し、クリエイターの意図を理解したオートフォーカスの追尾を実現。真正性を付加して、一瞬を切り取るテクノロジーを軸に、イメージング領域の多様化を進め、事業を拡大するという。

「フォトグラフィでは決定的瞬間を捉えるスピードや精度に優れた撮影技術など、リアルタイムテクノロジーに重きを置くことで、表現できなかったクリエイションの幅を実現する。ビデオグラフィでは忠実な映像表現からエモーショナルな撮像表現へと変化が進み、大判イメージセンサーを搭載したカメラにより、被写界深度をコントロールした撮像が国際的なイベントでも使われ始めている。シネマトグラフィではトップクリエイターのクリエイティビティを引き出す新たなテクノロジーの開発だけでなく、知見を活用して次世代クリエイターにも対象を拡大していることになる」と述べた。

  • α9Ⅲに搭載されているグローバルシャッター方式のイメージセンサー(左)とAIプロセッシングユニット

さらに、交換式レンズのラインアップを広げ、リカーリングビジネスを強固なものにするほか、ソフトウェアの価値を加えて、事業モデルを進化させ、リモートや3Dコンテンツ、ライブストリーミングなど、イメージング領域全体に収益性が高いソリューション事業を拡大し、安定収益基盤の盤石化を図る考えを示した。

「イメージキャプチャー時のリアルタイム性を重視し、真正性技術により信頼性を高め、独自センサーの開発を通じて、これまで捉えることができなかった撮像を可能にし、クリエイターのクリエイティビティを高めることを狙う」という。

イメージング事業では、2026年度までの年平均売上成長率で8%増を見込んでいる。

  • イメージング事業はハードウェアの強みを活かしエコシステムを強化

サウンド事業では、没入感がある立体的な音場を体感できる360 Reality Audioの制作において、リアルタイムにクリエイターの意図を可視化、反映することで、立体音響コンテンツのクリエイションの幅を広げ、領域拡大を進めるという。

「ヘッドホン市場でのシェア拡大に向けて、アーティストとの共創によるブランディング強化と、技術開発投資を行う。ゲーミングカテゴリーでも事業の拡大に向けて、eスポーツのプロ選手やチームとの共創による商品力の強化、ブランド価値向上を推進する。スタジオ向けのプロカテゴリーの開拓を加速し、サウンド事業の拡大を推進する」と語った。 サウンド事業は、2026年度までの年平均売上成長率で7%増を見込んでいる。

  • サウンド事業も「領域拡大」。ゲーミングカテゴリーでも事業の拡大を目指す

成長事業としてスポーツやライフサイエンス領域

一方、成長軸事業は、スポーツ事業、ビジュアルソリューション事業、ライフサイエンス事業、ネットワークサービス事業で構成している。

「人材を含めた投資の加速により、事業ポートフォリオのシフトと、成長軸事業の展開を加速させる」とした。

スポーツ事業ではトラッキング技術によって取得した動態データを、リアルタイムにビジュアライズするテクノロジーとともに、新たなスポーツエンタテインメントコンテンツを創出するという。「判定支援からデータビジネスへと進化し、新たなスポーツエンタテインメントへと発展させる」と述べた。

判定支援では、世界の主要サッカーリーグのVARにおいて、Hawk-Eyeが70%のシェアを獲得するなど、25以上の競技、90以上の国と地域で、200以上のパートナーに使用されているという。また、取得データの商用化においては、スポーツリーグとの戦略的パートナーシップを結び、2022年に買収したBeyond Sportsのビジュアライゼーションテクノロジーを駆使し、リーグが目指すファン層の拡大に向けて、エンタテインメント性を強化する。さらに、ライブネットワーク空間でのコミュニティの創出や、スポーツの体験価値向上に向けて、成長の可能性を広げる事業運営を行う。

スポーツ事業は、2026年度までの年平均売上成長率で17%増と大幅な成長を見込んでいるが、「パートナーとの戦略的提携が見込まれており、すべての数字を示すことができていない。パートナーシップの全体像がわかり次第、示したい」と述べた。

  • スポーツ事業は年平均売上成長率で17%増と大幅な成長を見込んでいる

ビジュアルソリューション事業においては、リアルタイムでのレンダリング技術と、ボルメトリックキャプチャーによる空間再現技術を活用し、リアルとバーチャルが融合した映像制作を進化させていく。

バーチャルプロダクションのクリエイションテクノロジーをコアに、音響技術や空間コンテンツ制作といったテクノロジーやサービスを組み合わせ、クリエイターと新たな映像クリエイションを共創し、事業成長を加速させる。また、ソニーPCLによるコンテンツ制作やサービスをさらに強化し、映画、ドラマ、ミュージックビデオ、CMの制作力を増強。リアルタイムソリューションなどの新たなコンテンツエンタテインメント市場を開拓していくという。さらに、クリエイションの進化に向けて、トータルワークフローソリューションシステムを提供するサービスも用意する。

ビジュアルソリューション事業は、2026年度までの年平均売上成長率で20%増を見込んでいる。

  • ビジュアルソリューション事業も20%増の高成長を見込む。クリエイターと新たな映像クリエイションを共創

ライフサイエンス事業は、世界最高レベルの解析能力を持つフローサイトメーターをベースに、顧客層の拡大を目指すほか、膨大なデータ解析を容易にするクラウドソリューションを提供することで、癌や免疫といった複雑なメカニズムの解明に貢献。食品やエネルギー分野での社会課題解決に向けた研究用途にも広げていくという。2026年度までの年平均売上成長率は25%増を見込んでいる。

ネットワークサービス事業では、NUROの累計会員数が、2024年3月末に150万件を突破。会員数は年平均成長率で20%超を目指す。会員基盤の強化に加えて、10G化の推進や付帯サービスの拡充により、ARPUを向上させる。また、パートナー連携を多角的に進め、新たなサービス領域での成長を加速させるという。2026年度までの年平均売上成長率で10%増を見込んでいる。

  • 「成長軸事業」に位置付けられたライフサイエンス事業とネットワークサービス事業

先端テクノロジーを活かし新たな事業機会を

一方で、事業機会創出にも取り組む。ここでは、インキュベーション、共創、研究開発の3点をあげる。

インキュベーションでは、空間コンテンツ制作ソリューションなどのリアルタイムクリエーションテクノロジーを強みとする新規事業を創出。その第1弾となった2024年1月の発表では、シーメンスとの協業により、工業デザイン分野での利用を進めることを明らかにしている。

  • シーメンスとの協業により、工業デザイン分野での利用を進める空間コンテンツ制作ソリューション

共創では、モーションキャプチャーやボリュメトリックキャプチャーなどの技術を活用し、音楽分野とのグループシナジーを強化し、リアルとバーチャルを融合した空間演出型ライブエンタテインメントの開発を進める。

研究開発においては、2023年4月に、エンタテインメントの未来を創造するテクノロジーに関わるエンジニアが、ソニーグループのR&Dセンターから、ソニーに合流し、技術開発研究所を発足している。空間コンテンツの品質を高める技術や、仮想空間で、大人数でライブエンタテインメントを楽しむための通信技術の開発を進め、テクノロジーの社会実装を進めるという。

  • R&Dで培ったテクノロジーの社会実装を加速

一方、サステナビリティへの取り組みでは、環境において、2023年度に主要な事業所で100%再生可能エネルギーでの稼働を実現。2024年度はテレビを中心に使用時の消費電力の削減、ソニーが開発した再生材の利用拡大を進めているという。アクセシビリティでは、2025年度までにほぼすべての商品化プロセスにインクルーシブデザインを取り入れ、企画構想段階からアクセシビリティを必要とする当事者のニーズを商品開発に生かす。DE&Iでは、多様な社員が活躍できる環境づくりを進めていることを強調した。

事業ポートフォリオのシフトはさらに加速する

第5次中期経営計画の最終年度となる2026年度に向けた経営数値目標についても言及した。売上高は2023年度の2兆4537億円に対して、ほぼ同程度を想定。テレビを中心にした収益軸事業は、規模を追わない計画を進める一方、イメージングやサウンドは領域を拡大させることになる。成長軸の事業に関しては、今後3年間で売上高を1.5倍に拡大するという。「ソリューション事業とネットワーク事業が成長を牽引することになる。一方で、テレビとスマホについては動向を厳しく見ている。ET&S分野全体で、事業ポートフォリオのシフトを加速する」と述べた。

  • 経営環境の課題認識として挙げられた項目

また、営業利益率は2023年度の7.6%を、2026年度に9%に引き上げる。前年度に発表した計画では、2024年度および2025年度に営業利益率10%を目標にしていたが、今回の発表では、実質的には下方修正した格好になる。

  • 営業利益率は実質的には下方修正した格好

槙社長兼CEOは、「成長投資拡大に向けた費用や、さらなる経営環境変化に備えた一時的費用を織り込みながらも、採算構造を改善させる。目標は営業利益率9%だが、2027年度以降に向けて、10%を計上できる事業構造を目指す。また、3分の1以上を成長軸の事業から創出することを目指しとていく」と語った。

一時的費用を除くと、2026年度の営業利益率は10%近い水準になるという。