パナソニック くらしアプライアンス社は、白物家電事業戦略について説明した。
パナソニック くらしアプライアンス社の堂埜茂社長は、「2024年度までの中期計画をコロナ禍の巣ごもり需要をベースに組み立て、アフターコロナの需要変化を完全に読み違えた。また、明らかともいえる商品競争力の劣後により、シェアがダウンした。国内白物家電事業は、建て直しが必須の状況にある」と危機感を募らせた。
2021年度に国内トップシェアだった冷蔵庫は2023年度は2位に落ち、電子レンジは1位から2位に、炊飯器は2位から3位に落ちた。一方で、強い商品力を誇るドライヤーやドラム式洗濯機は首位を維持している。
2023年12月に現職に就任した堂埜社長は、直近3年間はパナソニック 中国北東アジア社の社長を務めており、「私が中国・北東アジア社で強力に推進してきたグローバル標準コストの導入を全商品に展開し、中国勢に負けない価格競争力を実現する。さらに、差別化技術を織り込んだ『愛される商品』の陣容強化を図る」との方針を打ち出した。
中国勢の台頭で競争が激化、新販売スキームの成否は?
パナソニック くらしアプライアンス社では、中期計画の基本方針として、価値観の多様化や、先進国における高齢化の進行、サステナビリティへの対応といった社会課題を捉え、社会の変化に対応した新商品の連打や、それを支える技術開発の強化、商品の省エネ性能の進化および資源循環型の事業経営を行うことを掲げ、なかでも日本地域へ重点投資を行い、事業の基盤固めを行う方針を打ち出している。また、2025年度以降に海外重点地域においで収益の柱を確立する考えを示している。
だが、中期計画の2年目が終了した2023年度までの成果は厳しいものとなっている。
国内白物家電事業は、為替などの外部環境の悪化や、総需要の読み違えに加えて、シェアダウンが影響。また、海外白物家電事業も総需要の読み違えや、構造改革による一時費用などの影響で、いずれも減益になった。公表値に対しても未達という状況だ。
シェアダウンの要因について、堂埜社長は、「主要因は中国勢の日本市場での台頭」とする。
中国勢とは、日本のブランドを使用しながらも中国メーカーがバックにいる大手日本企業(シャープや東芝ライフスタイルなど)や、中国のODMをフル活用している日本の中堅メーカー、流通各社のプライベートブランド品などが含まれる。とくに、洗濯機、冷蔵庫、調理商品で、中国勢のシェアが増加していることを指摘する。
一方、堂埜社長は、指定価格制度による新販売スキームの導入や、コストダウンによる外部環境悪化の打ち返し、実需に連動したSCMプロセスを導入により、営業キャッシフローが良化。体質改善が進んだことをプラス要素にあげる。
新販売スキームでは、2023年度実績で販売金額構成比が38%にまで拡大。ナノケアヘアドライヤーなどのビューティー商品やオーブンレンジでは新販売スキームによる実販が45%以上となり、冷蔵庫、掃除機、洗濯機では30~45%、炊飯器では30%以下となっている。
ナノケアヘアドライヤーでは、新販売スキームの対象製品では、発売から約1年半に渡って価格が下落することなく推移。それに対して、対象外のドライヤーは約40%も実売価格が下落したという。限界利益率が10数%高まり、在庫処分費用も削減。2年間の利益効果は100億円規模に達したという。
だが、堂埜社長は、「この政策は、他社に負けない商品力が前提となって、効果が発揮されるものであり、カテゴリーによっては効果が出なかったものもある」とし、「ナノケアドライヤーは、約5万円という価格であっても価格が下がらないのは、パナソニックの商品がオンリーワンであるためだ。しかし、電子レンジは、約13万円の価格設定で多機能な商品を用意したが、需要につながらず、価格を下げざるを得ないという失敗例もあった。掃除機や炊飯器もシェアが3位以下になっており、その価格と機能では『愛された商品』にはなっていないことが示された。これを立て直す必要がある。愛されるオンリーワンの商品を作っていくことが大切である」とした。
また、パナソニックの品田正弘CEOも、「新販売スキームを導入してから3年を経過した。2022年度までは賛否があったが、2023年度はほぼすべての流通、チャネルにおいて、理解が得られ、高い評価を得ている。販売店の粗利が増え、在庫負担がなくなりキャッシュフローの改善にも貢献できている。スキームに対する腹落ちが得られてきた」と振り返りながら、「商品レンジの拡大を求める声も多く、全カテゴリーに展開してほしいという要望もある。だが、新販売スキームは、商品ライフサイクルを伸ばし、高付加価値商品に対して展開していくものである。販売金額に占める割合の上限は50%とみており、利益に占める割合は6~7割になる」とした。
さらに、「商品力がないモデルは淘汰される。新販売スキームに見合う商品力強化をすべてのカテゴリーで進めることが重要である」と述べた。
品田CEOは、新販売スキームによって、商品力を持たない商品をふるいにかけるという意図があったことにも言及。「新販売スキームの対象商品では、3年間に渡り1円も値下げをしなかった商品がある一方で、発売から1カ月で価格を下げなくてはならない商品もあった。ふるいにかけて、お客様に支持される商品を、すべての事業体が作れるようにしたい」と語った。
なお、国内白物家電全体では、限界利益率は2021年度から0.3%良化。固定費は減価償却を除くと良化。実需連動SCMでは、販売機会損失の軽減や、在庫流動性の向上などにより、流通在庫の22%削減と、即納率99%を実現できたという。
「健全ではない満足感」を脱し、「健全な危機感」を持つ
こうした過去2年間の取り組みを踏まえて、2024年度は、総需要の想定を見直すとともに、「ボリュームゾーン攻略に向けた価格競争力の強化」、「プレミアムゾーンの盤石化を目指した愛される商品陣容の強化」、「新販売スキーム商品の拡大」、「さらなるコスト削減による外部環境悪化の打ち返し」、「実需連動SCMプロセスの拡大」の5点に取り組む。
とくに、「ボリュームゾーン攻略に向けた価格競争力の強化」では、堂埜社長が中国・北東アジア社で強力に推進してきたグローバル標準コストの導入を全商品に展開。堂埜社長は、「中国勢に負けない価格競争力を実現し、劣後していた商品競争力を改善する。それを行った上で、パナソニックの強みである差別化技術を織り込んだ『愛される商品』の陣容強化を図る」とした。
具体的には、顧客にとって不要な機能を大胆に取り除くことで、コストダウンにつなげるとともに、顧客にとってわかりやすく、使いやすい商品に生まれ変える。価格差や機能差の明確化を図るとともに、必要な商品仕様を研ぎ澄ました引き算の商品企画を実現するという。
また、原価構築については、日本の過去の常識を排除して、中国大手メーカーの商品を徹底的にベンチマークし、これらメーカーの部品や材料を採用することや、可能な限りその部品やモジュールをラインアップ間で共用化していく取り組みを進めることになる。
「直近3年間の中国での白物家電事業において、日本側の常識をことごとく排除して、原価構築の新たな考え方を徹底的に導入した。その結果、中国・北東アジア社は、中国メーカーと価格で伍して戦えるような体質に変革することができた。これを、日本市場においても聖域なく導入していく」と述べ、「これを高速実現するために、私は中国から呼ばれたのではないかと思っている」とも述べた。
堂埜社長も、以前は、日本で白物家電を担当していたが、「白物家電は、パナソニックグループ全体の調整後営業利益の約20%を占めており、そこまでやらなくても儲かるという慢心があり、『健全ではない満足感』があった。中国では日本のようにシェアが高くなく、中国勢はデジタルを使ったモノづくりをしてくる。生き残るにはすべてのやり方を変えなくてはならないという『健全な危機感』を持っている。3年ぶりに日本に戻ってきて感じたのは、『健全な危機感』がないという点である。危機感を持ったトップとして、現場を回り、納得、説得をしながら、愚直に取り組んでいく」との姿勢を示した。
堂埜社長によると、中国メーカーは、70点でもスピードをあげて前に進まないと踏みつぶされるという危機感があり、リスクを全体で取るという文化を持っているが、日本では設計、開発、生産、販売のそれぞれのステージゲートで100点を取り、それに達するまで膨大な時間を使って、次にバケツを渡すという方法であることを指摘。「開発、製造、販売の人たちがスモールチームを作り、権限を持って、一気通貫でモノづくりを行うME(マイクロエンタープライズ)の組織や、アメーバ型の組織が必要である。そこにグローバル標準コストを武器として組み合わせる。いまは超属人的に取り組んでいるが、組織が自走する形にしながら、中国式のやり方を取り入れていく」と述べた。
すでに、グローバル標準コストを導入した商品開発を日本でスタートしており、5ドア冷蔵庫では、強みとなる機能に特化した引き算の商品企画と、自社基準の改定やグローバル標準部材の採用により、冷却システム仕様の見直しや多重安全設計の最適化を実現。部品調達においては、グローバル最安サプライヤーの横展開により、2024年度発売商品は原価を20%削減できると試算している。また、オーブンレンジでは、設計仕様を見直し、冷却やヒーターなどの主要部品の共用化および部品点数の削減を実施。電子部品や鋼材の調達においても、グローバルソーシングを活用することで、同様に20%の原価低減ができるという。
2024年度は、グローバル標準コストで129億円のコスト削減効果を見込んでいる。
「2024年度は代表的な商品から取り組むが、設計段階から取り入れる必要があるため、下期に出てくる商品が対象になる。そのため刈り取り効果はまだ少ない。2027年度までに、この概念を設計、調達に取り入れ、これができない商品はディスコンし、SKUの削減にもつなげる」とし、「グローバル標準コストの大胆な導入により、戦え抜ける基礎体力をつける。まずは中国勢との価格競争から逃げない体質にすることを最優先に取り組む」と宣言した。
さらに、「グローバル標準コストの導入だけでは、中国勢に追いつくことはできても、勝つことはできない」とし、「価格競争力をつけた上で、パナソニックが持つ差別化技術に裏打ちされた魅力ある商品を連打していく。価格競争力があるからこそ、商品価値が際立つ」と述べた。
グローバル標準コストは、新販売スキームの対象商品にも展開するという。
計画によると、2024年度は新販売スキームの構成比を41%にまで上昇させ、洗濯機では販売金額構成比を45%以上にまで引き上げる。
また、実需連動SCMでは、現在、量販店1社とドラム式洗濯乾燥機を中心に3カテゴリーで実施しているが、2024年度は、エアコンや冷蔵庫、レコーダーをはじめとした8カテゴリーに対象商品を広げたり、協業する量販店を新たに3社に拡大したりする計画だ。2024年度末には、量販店ルート売上高全体の7割以上で導入し、キャッシュフロー改善効果として100億円を見込んでいる。
「顧客接点強化モデルへの転換」と「海外市場での販売成長」を進める
堂埜社長は、これまでの中期計画の進捗を振り返り、「過去2年間は心配をかけた。中期計画の最終年度となる2024年度に、体質を大きく改善し、資本市場の信頼回復に努める」と述べ、「2024年度は、グローバル標準コストの導入などによる体質改善施策で、外部環境の悪化や減販損を跳ね返して増益を目指す。3年累積営業キャッシュフローも公表値の2000億円を目指す。体質良化にはこだわって経営を進めていく」と、強い意思を見せた。
一方、2025年度からの次期中期計画については、「詳細はこれから検討する」としながらも、「顧客接点強化によるビジネスモデルの転換」と「海外成長市場での販売成長」の2点に取り組む考えを示した。
ひとつめの「顧客接点強化によるビジネスモデルの転換」では、DXや生成AIなどをフル活用し、顧客とダイレクトにつながる接点を強化および拡充する。これにより、D2C(Direct to Consumer)の物販構成比を拡大し、より少ない流通マージンによる販売で、収益性向上を目指す。
さらに、生成AIなどを用いた顧客分析により、ロイヤルカスタマーを具体化。そこに向けたサービスの提供拡大を目指す。また、購入後のサービスについては、デジタルに加えて、リアルでのきめ細かいコミュニケーションを差別化の源泉に位置づけ、パナソニックショップや大規模なCSネットワークを活用するという。
「D2Cのビジネスモデルを実施する上で、リアルの接点は、他社に対する大きなアドバンテージになる。デジタルとリアルの接点を活用することにより、より高収益な事業構造へとビジネスモデルを転換していく」と述べた。
また、「CX(顧客接点強化)でターゲットとしているのはZ世代と、元気なシニア層となる。Z世代にはD2Cを通じて、適切な価格で、パナソニックの素晴らしい商品を届ける。ここでは購入後に得られる収益も期待している。元気なシニア層には、パナソニックにとってのロイヤルカスタマーであり、ダイレクトに結びつくことが大切になる。付随サービスにも加入してもらい、QOLを高めてもらう関係を構築したい。ただし、顧客接点強化では朝令暮改で意思決定をしていきたい」と述べた。
2つめの「海外市場における販売成長」では、「いまのパナソニックには、中国や韓国のプレーヤーと伍して戦えるレベルにない。アジアにおいては、商品ラインアップ、価格競争力ともに劣後している。この状況をスピーディーに打破するため、中国・北東アジア社の商品やリソースを動員し、日中亜共同の多国籍軍によって、商品のラインアップと価格競争力の建て直しを図る。次期中期計画の終了時点では、売上高で1.5倍、直材費では25%の削減を目指す」とした。
白物家電事業は、厳しい事業環境にあるが、中期計画の最終年度となる2024年度に、どれだけ体質を改善できるかが、2025年度以降の次期中期計画の発射台とゴールの位置を左右することになりそうだ。