ダイキン工業は、代表取締役社長兼COOに、竹中直文専務執行役員が就任すると発表した。十河政則社長は、代表取締役会長兼CEOに就任する。2024年6月27日に開催する定時株主総会および取締役会で正式決定する。

また、井上礼之取締役会長は名誉会長に就き、グローバルグループ代表執行役員として、CEOおよびCOOをサポートするという。

  • ダイキン工業の次期社長、竹中直文氏

    ダイキン工業の次期社長、竹中直文氏

社長就任は「青天の霹靂」

竹中次期社長は、「2024年は、100周年の節目の年を最高業績で迎えられることをうれしく思っているが、その節目に社長に就任する責任の重さに身が引き締まる思いである。これまでの経営陣が築き上げてきた強みは、先見性がある経営判断と実行力である。また、独自性の追求やFUSION経営の推進、人を基軸に置く経営も、ダイキン工業の強みである。これらをしっかりと継承し、その上で、変化に対して、進化を続けられるように、現場の第一線に入り込み、実行のスピードと成果の創出を加速させることに全力を尽くす。同時に、グローバル9万8000人の従業員一人ひとりが、誇りとやりがいを持って、挑戦し、成長できる会社を目指したい」と抱負を述べた。

竹中次期社長は、1964年1月生まれの60歳。1986年4月にダイキン工業に入社し、2003年12月に空調生産本部企画部企画担当部長兼空調開発企画室開発企画担当部長に就き、2004年6月には空調生産本部企画部長兼企画部原価企画担当部長、2009年5月には空調営業本部事業戦略室長、2011年4月には空調営業本部副本部長事業戦略担当兼事業戦略室長を務め、2012年6月に専任役員SCM担当、空調営業本部副本部長事業戦略担当、同本部事業戦略室長委嘱に就任した。その後、2014年6月に専任役員SCM、物流担当、空調営業本部副本部長事業戦略担当、同本部事業戦略室長委嘱となり、2017年6月に常務専任役員SCM、物流担当、空調営業本部副本部長(事業戦略担当、同本部事業戦略室長委嘱)となった。2018年6月には常務執行役員SCM、物流担当、空調営業本部副本部長(事業戦略担当、同本部事業戦略室長、東京支社長委嘱)に就任。2020年6月に常務執行役員人事、総務担当に就き、2021年6月に専務執行役員 人事、総務担当となっていた。

2024年4月、十河社長に社長室に呼ばれ、社長就任の打診を受けたという。

「第一声は、『嘘でしょう。冗談はよしてください』と返答したぐらいに驚いた。青天の霹靂というのはこういうことなのかと思った。たじろいでいると、十河社長から、間髪言わさずに、『立場が人を育てる。これまでの経験を強みにし、厳しく、衝突を恐れず、挑戦に次ぐ挑戦、改革に次ぐ改革に邁進せよ』という言葉をもらった。自問自答し、覚悟を決めた」とする。

また、「井上会長、十河社長も、人事部門出身であり、4年前に人事部門に異動してから、毎日指導を受けてきた。人事部門では、いい思い出はまったくない」と笑う。

「もともと技術者としてダイキン工業に入社した。自分の力で新しいものを生み出したいという思いが入社の理由だった」と振り返る。23年間に渡り、工場に勤務。その後、営業、SCM、人事といった幅広い業務を担当。「課題解決ばかりを担当してきた」としなからも、「現場に対する思いを大切にする力は人一倍であると自負している。また、壁を作るのが大嫌いである。様々な仕事を経験したことで、全体最適で物事を捉え、そこに向けて最善を尽くすことができる。社員の力を引き出すことを大切にしたい」と語る。

さらに、「素直な心を持って、人の意見を聞くことを心がけている。自分でいうのもなんだが、謙虚だとは思っている。ただし、人の意見を聞いても、自分でどう意思決定するのかが大切である。過去最高業績を更新し、全社が一丸となって、さらなる成長発展を目指す、かつてない勢いが社内に溢れている。現場に入り、聞く耳を持ち、課題を認識し、経営のスピードをあげていく」と語った。

国内営業を担当した2009年は、国内空調事業が惨憺たる状況だったという。

「機構や体質の改革に挑んだ結果、V字回復を果たし、その後の持続的な成長につなげることができた。このときに、価格に対する大切さ、戦略的価格政策の重要性を身に染みて経験した。また、一人ひとりを動かす難しさや現場主義の大切さ、リーディングカンパニーとしてどうすべきかといったことも学んだ」とする。

創業100周年、変化の時代に勝つ舵取りを

新社長としての方針としては、「まずは、2024年度の業績を達成することが第一義である。COOとして、現場を知り、意見を聞き、その上で議論し、意思決定をする。高い目標とテーマを設定し、実行することが、業績目標の達成につながる」とする一方、「既存事業の収益力を高めること、環境課題解決を進めることが重要である。また、既存のビシネスモデルだけでは大きな成長は見込めないという危機意識もある。価値の高いソリューション事業や、デバイスの回収および再生に代表される循環型ビジネス、サーキュラエコノミーなど、いまの時代に求められる事業を経営の柱にしなくてはならないと考えている。変化を先読みして、新たなことにトライし、実行しながら変化する。さらに、外部との共創を強化し、新しい技術、新しい商品、新しいシステム、新しいビジネスへの進化に取り組む」と述べた。

一方、ダイキン工業の十河政則社長は、社長交代をはじめとする新たな経営体制への移行理由を次のように語る。

「創業100周年を迎えたダイキン工業が、次の100年に向かい、さらなる成長発展へのスタートを切る節目の年に、新たな経営体制へと移行することで、従来の延長線上では答えが出ない変化の時代に立ち向かいたいと思っている。これからの企業には経済価値の創出に留まらずに、環境価値、社会価値を追求し、社会課題を解決していくことが求められている。サステナブルな社会への貢献とグループの成長の両立に向けて、総力をあげて挑戦していく」

  • 新たな経営体制への移行の理由を語るダイキン工業の十河政則社長

自らの会長兼CEOの就任については、「最大の役割は、CEOとして、人を基軸とした経営や、FUSIONに代表される経営戦略モデルを継承し、時代の変化にあわせて進化していくことである。従来の延長線上ではない創造的破壊の精神で、新たな価値を生み出し、確実に成果に結びつけていくことで役割である」と述べた。

また、COOを復活させたことについては、「先々の見通しが不透明で、変化が激しい時代においては、新たな経営課題を着実に事業現場に落とし込み、実行のスピードを一段と加速させる業務執行責任の役割が必要だと考えた。これからの企業経営においては、現場の第一線に入り込んで、経営と現場をしっかりと一体化させ、挑戦力と実行力を高めることが重要である」と説明。「次期社長の選任においては、数年前から候補者を選抜し、検討を進めてきた。理念や人基軸の経営を理解、実践して、継承できることは当然のことであり、その上で事業の成長や発展を担うことができる人物であることを要件とした。また、人事諮問委員会にも答申し、アドバイスを得て選考した」と経緯を説明する。

その結果、竹中氏を次期社長に選んだ理由を3つあげた。

ひとつめは、理念や人基軸の考え方をはじめとする独自の強みを継承していける人物であること。「誠実であり、人の話をしっかりと聞き、自らの行動に生かしていける人物である」と評した。2つめは、生産、開発、SCM、販売など、事業運営の豊富な経験があること。「新たな挑戦を着実に事業現場に落とし込み、実行し、強化に結びつけるCOOの役割に適している」としている。そして、3点目は、人事部門を統括し、コーポレートマネジメントに従事するとともに、大阪・関西万博事務局での活動を通じて財界との人脈づくりを進めてきた実績だ。「経営幹部としての力量においても、確かであると評価した」と語る。

「変化の時代に勝ち続けるためには、新たな事業、商品、サービスを生み出し続けることが重要である。持ち前のたくましい実行力を発揮するものと期待している」と述べた。

実は、約4年前に、竹中次期社長を、人事部門に異動させたのは、将来の社長登用への布石だったことも明かす。先にも触れたように、井上会長、十河社長も人事部門出身であることからも、それが裏づけられる。

十河社長は、「人事の仕事は極めて難しい。経営トップには、前面の理、側面の情、背面の恐怖を、バランスよく使い分ける必要があり、その能力があるかを見た。制度と仕組みを作っただけでは、それは生きない。人はなにか、ということを理解しなければ制度や組織は生きないものである。また、人を引っ張っていくには、人の話を聞きとる力が必要である」とし、「竹中氏は、人を見る力があり、人の力を引き出すことができる。これは、人が好きだということが根底にないとできない。人と交わり、交流することが好きな人物であることを感じた」と語る。

人を基軸とした経営を進めるダイキン工業にとっては、人事部門の経験は不可避といえる。

  • 十河社長から竹中社長へ、次の100年に向けたバトンが渡される

なお、今回の経営体制の変更では、サステナビリティ時代でのさらなる成長に向けて、基盤強化を図るべく、取締役会の構成を変更するとともに、多様性の確保に向けたダイバーシティ経営を推進するために、さらなる女性役員の増員を図るという。「FUSION 25の目標を完遂し、さらなる成長発展に向けて、体質改革、構造改革、価値創出といったテーマに徹底して取り組むべく、執行体制の強化を行った」と狙いを述べた。

一方、役員に就任してから約45年を経過し、経営の舵取りを約30年間に渡って執ってきた井上会長は、名誉会長の立場でCEOとCOOを支援するという。

十河社長は、名誉会長に就任する井上氏の今後の役割について、「真の多国籍企業にふさわしいコーポレートガバナンスを構築し、培ってきた強みや競争力の源泉を、次世代に継承し、グループの求心力を高めていく役割を担ってもらう」と説明する。

現在、ダイキン工業では、世界170以上の国と地域で事業を展開しており、海外売上高比率は84%に達している。グループ会社は370社以上となり、グループ従業員数は9万8000人となっている。

「従業員が、世界各地で活躍し、成果を創出することで、遠心力を高めていく。その一方で、求心力を強めなければグループがバラバラになる。独自のダイバーシティマネジメントのもとで築き上げた理念やノウハウにより、求心力の要、精神的支柱になってもらう」とした。

十河社長は、井上会長について、「売上高、営業利益、時価総額は大きく伸ばした功績が注目されるが、企業文化を培ってきたのがなににも代えがたい大きな功績である」とする。

2年後のFUSION 25の終了を待たずに、100周年という節目で、井上会長が退いたのは本人の強い意志だったことも明かす。

100周年という節目を過去最高業績で迎えたダイキン工業が、次の100年に向けてスタートするための新たな体制を整えたのが、今回の経営体制の刷新の意味だ。その評価は、2024年度の過去最高業績の更新という高いハードルからスタートすることになる。