リコーは、最新AI技術などを活用したDX実現のための価値共創拠点として「RICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO」(以下、RICOH BIL TOKYO)を、2024年2月1日に、リニューアルオープンする。それに先立ち、内部の様子を報道関係者に公開した。
企業や自治体などにおける顕在課題に対して、課題解決につながるソリューションやユースケースを提案するだけでなく、ビジネスデザイナーやDXコーディネーターなどの専任デジタルエキスパートが、潜在課題のヒアリングやビジネスデザイン、実装までを一貫して伴走し、支援する拠点に位置づけている。また、リコーのEBC(Executive Briefing Center)としての役割も担い、顧客やパートナー企業の経営トップとの対話の場としても活用する。
リコーでは、年間360社の来場を見込み、新たな価値創造と社会実装の実績として2028年度までに100件の成果を目指す。また、20人の活動コアメンバーと、50部門との連携を推進。この取り組みを拡大することで、2028年度までに、リコーグループ内で、100人のビジネスプロデューサーおよびビジネスデザイナーの育成を計画している。
今回のリニューアルオープンにあわせて、「RICOH BIL TOKYOエグゼクティブアドバイザー」という新たな肩書もついたリコー 代表取締役会長の山下良則氏は、「顧客接点の多くは、販売会社であるリコージャパンや、保守サービス部門が中心となっていたが、RICOH BIL TOKYOでは、リコーの技術部門や経営幹部も一緒になって、お客様やパートナーと共創を行う場にしたいと考えている。対話や会話をしながら、気がついていない課題に気づいてもらうこと、課題解決や改革の鍵を握る経営幹部とリーダーシップについての考え方や姿勢を共有すること、そして、AIをはじめとした最新技術の活用について検討する場にしたい」と述べ、「リコーは、デジタルサービスの会社に向けて、軸足を移している最中だが、お客様との対話で気がつくことが多く、それによって、先手を打つことができる。リコーにとってもRICOH BIL TOKYOは大切な共創の場になる。私自身、この拠点で執務を行う時間を多くしたいと考えている」と述べた。
RICOH BIL TOKYOは、2018年に、リコージャパンの田町事業所に開設し、これまでに860社が利用した実績を持つ。だが、リコーのデジタルサービスによって解決できた課題は56%に留まり、残りの44%は既存のデジタルサービスの範囲では解決が困難であったり、価値を実現できずにPoC止まりに終わったりしてしまったという。
リコー リコーデジタルサービス ビジネスユニット カンパニープレジデントの入佐孝宏氏は、「これらの解けない課題を解決することが、リコーが目指す『はたらくに歓び』を実現することになる。そのためには課題をしっかりと聞くことができる共創の場が必要であり、同時に解けない問題を、AIなどの新たな技術を使って解決することが必要になる。AIと共創の掛け合わせで、新たな価値と創造を生み出す場が、新たなRICOH BIL TOKYOになる。日々、進化していく拠点になる」とした。
また、リコー リコーデジタルサービスビジネスユニットAIインテグレーションセンタービジネス共創推進室の菊地英敏室長は、「これまでの拠点では、共創のきっかけづくりしか作れずに、既存のテクノロジーやソリューションで解決できる範囲の提案に留まっていた。新たな拠点では、デザイン思考型ワークショップなどを通じて、仮説の因数分解とソリューションアイデアの検討、アジャイル開発体制によるラピッドプロトタイピングを通じた価値検証、顧客接点における価値創造の加速、デジタル人材の育成や再配置など、一気通貫で、共創プロセス全体をカバーできるようになる。これまではシナリオを単発で語っていたが、これをシナリオ群として提案することができるようになり、社会課題の解決につなげることができる。解決が困難だった44%の比率を引き下げることにもつながる」と述べた。
新たなRICOH BIL TOKYOは、JR品川駅港南口から徒歩6分の品川シーズンテラスの18階にあり、約1000平方メートルを使用。従来は、一部屋だけを使用した16坪(約50平方メートル)の規模であったことに比較すると大幅に拡張したことがわかる。
リコーの菊地室長は、「新たなRICOH BIL TOKYOは、創造力を掻き立てる拠点になる。また、お客様の対話から、新たな問いを生み出せる拠点にしたい」と語る。
RICOH BIL TOKYOのロゴは、山をイメージしており、施設内の部屋などにも、登山に関する言葉が使われている。共創DXの実現を登山にたとえ、ビジョンに共感する人とともにパーティーを組み、未踏の山の頂を目指し、経験から道筋をつけたり、新たなルートを開拓したりし、目の前に開けた景色を見て、さらに、次の登山につなげるというサイクルを表現し、演出しているという。
RICOH BIL TOKYOの様子を見てみよう。
リコーでは、顧客接点力を活かした100以上の業種別顧客価値シナリオを用意しているが、RICOH BIL TOKYOでは、業界ごとに25件以上の顧客価値シナリオを紹介。建設業におけるファシリティマネジメントの無人化を目指す画像認識AI技術や、クラウド型の業務改善プラットフォーム「RICOH kintone plus」、自然言語処理AIでデータ分析を行うサービス「仕事のAI」を活用した営業ワークフロー改善の事例など、来場する業種業務に合わせて解決事例を紹介しながら、顧客固有のソリューションの共創につなげる。
具体的には、建設では、「デジタルツインを活用した現場調査・維持管理」、「デジタルツインを活用した現場の安全衛生管理」、「ベクトル検索を活用した建設図面/工程作成支援」、「プロジェクションマッピングを活用した墨出し作業効率化」、「遠隔臨場検査」をデモストレーションできるようにしているほか、流通では「視聴データ計測を活用した販促コンテンツの棚サイネージ配信」、「AIカメラ+インカムを活用した店舗異常検知と作業者間コミュニケーション」、「Chatbot Service + OpenAIを活用した商品POP生成」、「働くAIを活用したパレットトラッキング」を展示している。また、ヘルスケアでは、「第六感デバイスを活用した要介護者との円滑なコミュニケーション」、「ケアマルシェによるセンシングデータを活用した介護記録作成支援」、「画像AI+LLMによる介護帳票電子化と介護記録の分析」を展示。製造では、「デジタルツインを活用した食品製造の衛生チェック」、「360°LiveStreaming工場の遠隔監視」、「ベクトル検索を活用した設計技術相談」を、自治体向けには「AI-OCR + kintoneを活用した申請書提出ワークフローの省力化」、「独自LLMを活用した議会答弁案の生成」を紹介できるようにしている。
また、業種を超えた共通的な顧客価値シナリオとして、「リコー社内実践の知見を活かしたプロセスDX」、「仕事のAI + kintoneを活用した営業ワークフロー改善」、「仕事のAIを活用したVOC分析」、「表情認識技術を活用した休職/離職の未然防止」、「表情認識技術+O365データを活用した職場環境改善施策の提案」、「AIエージェントを活用した営業活動の自動化」、「Chatbot Serviceによる問い合わせ回答自動化」、「音声インカムをエッジデバイスとした現場業務改善ソリューション」を展示している。
リコーの菊地室長は、「製造業のお客様に対して、建設業やヘルスケア、自治体などで活用している技術を紹介するなど、異なる業種の事例などからアプローチし、新たな解決手法を発見してもらうといったことも積極的に行う。偶然性や創造性を生かし、経営者の問いに向き合うことを大切にしていきたい」と語った。
さらに、パートナーとの共創拠点としても活用することで、リコーグループだけでは実現できなかったソリューションを創出し、顧客への新たな提案も進めていくという。
たとえば、サトーとのパートナーシップでは、同社社員が経営への提言を行うために、全社員が毎日提出している127文字の「三行提報」を、リコーの「仕事のAI」を活用して重要な提案を選定。10人が毎日1.5時間かけていた作業時間を半減するとともに、人と同じ水準で選ぶことができるようになったという。
また、BIPROGYとの現在進行中の取り組みとしては、施設管理を行うファシリティマネジメント関連ソリューションに、リコーの画像認識AIを組み合わせ、設備情報を自動抽出し、設備点検や報告業務の無人化を図るケースがあるとした。
一方、リコーの入佐カンパニープレジデントは、「リコーらしいAI」について言及。「リコーは、画像認識や空間認識、自然言語の領域で、AIの強みを発揮できる。路面性状検査システムでは、人には見えない道路のひびを見つけて、予防保全を行うことができる。また、画像情報だけで簡便に空間が認識できたり、360°カメラのTHETAを利用した点群データによる空間認識を可能にしたりといった実績もある。そのほか、与信判断向けAIや企業内テキストデータを活用して分析を行う『仕事のAI』、バーチャルヒューマンのアルフレッドによるメタバース空間での自動接客も実現している」と述べ、「これらのAIを実現するために、リコーでは、デジタル人材の育成に投資している。現在、AI開発人材は300人以上となっている。生成AIや機械学習などのAI開発ができる人材、プロンプトやアノテーションなどのデータ開発ができる人材、AIを組み込んだアプリケーションを開発できる人材を有しており、これらをリコーの人的資本として活用し、お客様の価値創造につなげていく。また、AIの基盤技術を提供するだけでなく、AIをより身近にものとして業務に組み込めるように支援をしていく」と語った。
事例として、生成AIによるkintoneアプリの開発について説明。「RICOH kintone plusでは、ノーコードにより開発が可能であるが、より使い込んでいくには専門的な開発スキルが求められる。生成AIとの組み合わせによって、テキストベースでプログラムが組めるようになる」とした。RICOH kintone plusによる生成AIの活用では、現在、100社弱とPoCを行っており、ユーザーは、「案件管理アプリを作ってください」、「金属加工業向けに必要な項目を追加してください」などと、自然言語で対話するだけで、業務アプリを開発できるようになるという。
新たなRICOH BIL TOKYOは、これまでのリコージャパンの事業所内から、独立した場所へと移転し、共創プロセス全体へと対象を広げたことで、営業的な色彩が薄れ、「共創」の観点からの取り組みを加速しやすくなったともいえる。
また、これまでは共創のきっかけづくりやPoCまでの取り組みで終わっていたものが、実装をより重視した拠点へと進化したことも大きな特徴だといえる。
そして、顧客との共創だけでなく、パートナー企業との共創に向けた取り組みを加速する拠点としての役割も果たすことになる。
リコーの山下会長は、「RICOH BIL TOKYOのリニユーアルにあたり、富士通やKDDIの共創拠点を訪問したが、時田社長(富士通)や高橋社長(KDDI)と話をして感じたのは、自らが成長の途上段階にあるという意識がないと議論にならず、その意識を持つことの大切さを知ったことだった。そこで、私自身が、ここ(RICOH BIL TOKYO)に席を置かなくてはならないと考えた」としながら、「1社だけの共創拠点では、やはり営業っぽくなる。たとえば、富士通やKDDIの共創拠点とつなげ、輪になれば、世の中が変わり、日本が元気になる。そうした拠点にしていきたい」と述べた。
山下会長が描くRICOH BIL TOKYOの進化の姿のひとつには、共創拠点同士が共創するという新たな挑戦が含まれているようだ。