日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)は、茨城県日立市の同社多賀事業所の様子を報道関係者に公開した。多賀事業所は、洗濯乾燥機やクリーナー、オーブンレンジ、炊飯器などを生産している拠点で、2023年11月から発売したドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム BD-STX130J」では、15年ぶりに生産ラインを新設。従来のセルライン方式からコンベアライン方式に移行するといった取り組みにも挑んでいる。指定価格制度の対象製品の生産拠点でもある多賀事業所の取り組みを追った。
日立GLSの多賀事業所は、1939年に日立初の電気製品の量産工場として操業した生産拠点だ。2024年には85周年を迎える。
東京ドーム約7.5個分の広さとなる47万800平方メートル(約14万坪)の敷地に、50以上の建屋があり、そのなかには戦前からの建屋も残っているという。ちなみに、同社では、多賀事業所の広さを、ロボット掃除機「ミニマル」に換算すると、960万個分に達するという表現も用いている。
当初は、扇風機などの生産を行い、1954年からは掃除機の生産を開始。一時期は、計測器や自動車部品、産業用インクジェットプリンター、ワープロ、レーザービームプリンターなども生産していた。2006年にはドラム式洗濯乾燥機第1号機を多賀事業所で生産し、2017年からはロボット掃除機「ミニマル」の生産も行っている。
現在は、洗濯乾燥機、衣類乾燥機、クリーナー、空気清浄機、オーブンレンジ、炊飯器、IHクッキングヒーター、ポンプ、LED照明器具を生産。敷地内には、家電のサービスパーツの製造や高機能プラスチック、再生プラスチックの生産を行う日立アプライアンステクノサービスもある。
今回、生産ラインを公開したのは、11月から出荷を開始したドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム BD-STX130J」および「BD-SX120J」」のために新設した生産ラインと、コードレススティッククリーナーやロボット掃除機などのクリーナーの生産ラインだ。
洗濯乾燥機の組立工程は、これまでの第1工場、第2工場に加えて、新たに第3工場を設置し、2023年10月から稼働。多賀事業所で、洗濯乾燥機の生産ラインを新設したのは、2008年以来、15年ぶりとなる。
また、洗濯乾燥機用モーターやステンレス層、外枠成形などの生産工程も多賀事業所内にあり、それらの部品を集約して、組立を行う体制になっているのが特徴だ。
現在、多賀事業所では、月4万台のドラム式洗濯乾燥機を生産しているという。
既存の第2工場では、セルライン方式を採用。11個のセルラインにおいて、3人が1チームとなって組立作業を行っている。どの作業者同士を組み合わせると最も速く生産ができるといったことも、データをもとに自動計算し、全体の出来高を向上させているという。
それに対して、新設した第3工場は、コンベアライン方式を採用しているのが特徴だ。外槽部品にモーターを組み込んだ部品をベースにして組立作業を開始するラインと、再生プラスチックによる台座と、ヒートポンプユニットを組み込んだところから組立を開始する2つのラインを途中で統合し、最終組立はひとつのラインで行う。作業が煩雑なところは一部ラインを迂回させながら、タイミングをあわせているという。
日立グローバルライフソリューションズ 常務取締役の豊島久則氏は、「長年に渡り、セルラインによる生産を極めることを目指して、生産改革を行ってきた。からくり装置を用いることで作業の効率性を高め、少量多品種への対応や、生産数量の変化、年1回の新製品投入にも柔軟な対応を可能にしてきた。これはある程度の域にまで達成している」としながらも、「だが、第3工場でコンベアライン方式を採用したのは、将来の自動化と、それによる生産コストの引き下げ、2~3年後の省人化を視野に入れたものとなる」と説明。「セルライン工程では、一人で多くの作業を行うため、自動化が難しい部分がある。そこで、自動化を進めるにはコンベアライン方式が適していると考え、新たなチャレンジを開始した。自動化に適したラインを構築でき、それがうまくいけば、他の製品にも横展開していきたい」と語る。
2023年10月からスタートし、まだ試行錯誤を繰り返している段階であり、豊島常務取締役も、「コンベアラインは、しばらくやっていなかったこともあり、順調に各工程が流れず、どこかが止まると、後ろの方に影響するといったことも起きている。慣れない部分では苦労しているところもあるが、いまはトラブルを解決しながらやっている」と、毎日のように改善作業を進めていることを明かす。
その一方で、第3工場の生産ラインでは、自動化に向けて、二次元バーコードで管理する部品数を増やす取り組みも開始しているという。
これまでにも、ヒートポンプユニットや風アイロンユニット、再生プラスチックによる台座、ダイレクトドライブのメインモーター、液晶パネルといった主要部品は、二次元バーコードで管理していたが、この対象部品数を増やして、適正在庫量や部品品質などを管理している。二次元バーコードで管理するデータは約1年間保存するという。
さらに、検査工程におけるIoTの活用も促進。ネジ締め管理トルクシステムにより、シーズヒーターの取り付けの際に発生する水漏れを抑制したり、ドア開力測定管理システムによって、適正な力でドアが開閉できるように設定したりといったことも行っている。
加えて、生産ラインの増強と設備の合理化により、生産能力を向上しており、生産時に使用するエネルギーも削減しているという。多賀事業所では、生産高100万円に対する消費電力という指標を用いており、洗濯乾燥機の生産ラインにおける2023年度実績は、2019年度に比べて27%削減したという。
日立グローバルライフソリューションズの大隅英貴社長は、「久しぶりに新たな生産ラインを立ち上げたが、2022年度モデルを生産しながら、多賀事業所が一丸となって、新ラインを短期間で稼働させることができた。立ち上がりは合格点と評価している」と手応えを示す。
一方、クリーナーの生産棟では、スティッククリーナー、キャニスター式クリーナー、ロボット掃除機を生産しているが、スティッククリーナーの需要拡大にあわせて、2023年度は、生産量の半分以上をスティッククリーナーが占めているという。現在、4つの生産ラインが稼働。生産高に対する消費電力量は、2019年度比で36%削減できているという。また、組立棟の隣には、クリーナーに使用するモーターやコードリール、プラスチック成型を行う生産棟がある。
スティッククリーナーの組立は、スマートトレイセルと呼ぶ方式を用いているのが特徴だ。トレイには、組立に必要な部品がセットされており、作業者の前方からトレイごと部品を供給。一人の作業者が組立を完了させるという仕組みだ。
また、ロボット掃除機の組立ラインでは、上部に設置されたカメラで作業者の動きを捉え、部品の付け忘れなどを認識し、不具合を発見することができるという。
日立GLSでは、2023年11月から、指定価格制度を開始している。
指定価格制度とは、メーカーが販売店の在庫リスクについて責任を持ち、売れ残った商品の返品を可能にする一方で、対象製品の販売価格はメーカーが指定し、値引き販売ができないように、どの店舗でも同一価格で販売されるというものだ。パナソニックが先行した制度で、日立GLSは2社目になる。
日立GLSにおいて、指定価格制度の対象製品の第1弾となったのが、2023年11月から出荷を開始したドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム BD-STX130J」および「同BD-SX120J」だ。先に触れたように、これらの製品は、新設した生産ラインで作られている。
そして、第2弾が、12月から出荷を開始した紙パック式コードレススティッククリーナー「かるパックスティック PKV-BK50L」である。これも、多賀事業所で生産される製品だ。
日立GLSの大隅社長は、「指定価格制度がうまくいっているかどうかを話すには時期尚早である」と前置きしながらも、「ドラム式洗濯乾燥機の予約販売台数は、旧モデルに比べて大幅に増加した。また、販売を開始してからも、好調な売れ行きを維持している。価値がしっかりと詰まっている商品であれば、指定価格でも購入してもらえるという手応えを感じている」とする。
実際、「ビッグドラム BD-STX130J」および「BD-SX120J」の評価は高い。
「量販店からは、『いよいよ最強機種を出してきた』と言われている。これまでは、ヒートポンプを搭載していなかったため、消費電力の観点では遅れをとっていた。だが、新製品では、ビッグドラムの特徴である、しわになりにくい、短時間に加えて、省エネが加わり、『らく はや きれい。しかも省エネ』による、戦える商品を用意できた。これからが勝負である」と自信をみせる。
これまでは、毎年1回の新製品投入サイクルになっていたこと、流通在庫の状況が把握しにくいこと、競合製品の市場価格戦略の影響を受けやすい状況にあったことから、生産体制も、それにあわせたものを追求してきたといえる。実際、セルライン方式では、年1回のモデルチェンジへの対応や、流通在庫や競合メーカーの動きを捉えながら、生産数量の変化にも対応しやすい。
だが、指定価格制度が浸透することにより、新製品投入サイクルが2年に1回になったり、市場価格や流通在庫のコントロールが可能になったりすれば、コンベアライン方式による生産に移行することも可能であり、同時に、自動化がしやすく、コスト削減を図った生産体制の確立も可能になるといったメリットも生まれやすい。
当然、この生産体制で得られたノウハウは、第2弾となる紙パック式コードレススティッククリーナーや、2024年以降、拡大する計画の指定価格制度対象製品でも生かされることになるだろう。
多賀事業場の生産ラインの進化は、指定価格制度の取り組みとも連動するものだといえる。生産現場の新たな挑戦と、販売現場の新たな挑戦が交わっているのが、いまの日立GLSの状況だといえる。