白物事業などを行う日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)は、「環境レポート2023」を発刊するとともに、同社の環境経営戦略について説明を行った。同社・大隅英貴社長は、「ホームソリューションでは再生プラスチックの使用率向上に注力する一方、空調ソリューションでは、環境配慮型製品やサービスの提供に力を入れている。また、製造拠点および開発拠点における環境配慮にも、重点的に取り組んでいる」と説明。「日立グループ全体では、グリーン、デジタル、イノベーションで成長戦略を描いている。日立GLSでは、人々のQoL向上とサステナブルな社会を実現することで、日立ブランドの価値向上に貢献していく」と述べた。
再生プラスチックの利用、循環型社会の実現に重要
日立GLSでは、ホームソリューションにおける再生プラスチックの利用は、循環型社会の実現に向けた重要な施策のひとつに位置づけている。
使用済みとなった家電を回収し、グループ会社である関東エコリサイクルにおいて、分解し、プラスチック材料ごとに仕分けして粉砕。さらに、日立アプライアンステクノサービスにおいて、異物を除去して純度を高め、品質を安定化させる添加剤を加えて造粒し、日立GLSで、家電の部品として再利用されることになる。
具体的には、素材メーカーとの検証により、製造過程に洗浄工程と塩水選別工程を独自に設定。これにより、不純物を除去し、褐色だった原材料を、透明感のあるGPPS(汎用ポリスチレン)に再生し、冷蔵庫のドアポケットなどの内装部品に利用しているという。
また、洗濯乾燥機では、プラスチック部品の色を、白からグレーなどに変更することで、再生プラスチック材を使用する際に生じる黒い炭化物を目立たなくしており、ドラム洗濯乾燥機や縦型洗濯乾燥機の台枠、洗濯機カバーなどの大型プラスチック部品に、再生プラスチックを使用している。
さらに、コードレススティッククリーナー「PV-BH900SL」では、プラスチック素材の40%に再生プラスチックを使用。デザイン段階から、再生プラスチックを利用することを前提に設計を行い、入手しやすさや高い質感を維持できる再生プラスチックを積極的に活用したという。また、製品の廃棄やリサイクル時に、異物混入の原因になりやすい塗装や印刷などの二次的加工を極力排除し、ロゴなどは刻印とすることで、リサイクル性にも配慮したという。
「スタンド部分などに再生プラスチックを使用しており、質感が求められる部分や強度が求められる部分には、新たなプラスチック素材を使用している。きめ細かい工夫により、再生プラスチックの使用率を高めている」(日立GLSの大隅社長)という。
なお、PV-BH900SLは、環境に配慮したモノづくりとデザインが評価され、グッドデザイン金賞やiF Design Award 2023、Red Dot Design Award 2023を受賞している。
再生プラスチックを家電に使用する場合、強度の観点で使用できない部分が多いという。「独自の技術によって、いかに強度を保つ再生プラスチックを作り上げるかが今後の鍵になる」(日立グローバルライフソリューションズ 常務取締役の豊島久則氏)とする。
調理家電では、再生プラスチックの耐熱性に課題があったりするため、使用率はまだ少ないのが実態だ。また、冷蔵庫でも製氷室のように直接口に入れるものをそのまま冷やす部分には、再生プラスチックが使用できないという課題もある。
だが、再生プラスチックの使用は、家電メーカーにとって、今後、重要な意味を持つと、日立GLSの大隅社長は指摘する。
日立GLSの大隅社長は、「環境への取り組みは家電メーカーにとって、直接的な競争力にはなりにくく、競合他社に勝つための武器にはなりえない。だが、日立GLSは、パーパスを起点にして、環境に配慮する姿勢を示しており、そこに共感したお客様が、日立の家電を選んでもらっているケースもある。再生プラスチックを採用したコードレススティッククリーナーは、昨年は当社ECサイトに限定して販売したが、限られた販売ルートでも好調であったため、今年のモデルでは幅広い販売ルートへと拡張した。再生プラスチックを利用した製品の販売数量は着実に増えている」とする一方、「日立グループ全体が、プラネタリーバウンダリーになることを重要な概念のひとつに位置づけており、それに貢献することや、サステナブルな事業を行うことが求められている。今後は、その取り組みが当たり前になってくるだろう。日立GLSは、そこにしっかりと取り組んでいる。人々の豊かさの追求や、グリーンのコンセプトを大切にし、人々に寄り添うという姿勢に共感してもらいたいと考えている。日立GLSは、そのために愚直な取り組みを継続していく」と述べた。
家電の製造工程で進める環境対策、物流でも貢献
ホームソリューションにおける白物家電の製造工程における環境への取り組みにも言及した。
製造工程においては、プラスチック部品の成型時に不要材が発生することが多く、この不要材料の再利用は大きな課題となっている。たとえば、洗濯機で使用する大型プラスチック部品を生産する際には、ゲートランナーと呼ぶ不要材が残る。これは、溶融したプラスチックを金型内の製品部へ導く流路が残ったもので、流路で固まったプラスチックは、成形終了後に製品と切り離し不要材となる。日立GLSでは、このゲートランナーを粉砕し、プラスチック材料として再利用する取り組みをすでに開始。さらに、不要材が発生しないホットランナータイプの金型への切り替えを推進する取り組みを進めているという。
また、冷蔵庫の廃棄において、ガラス扉のガラス材を水平リサイクルするためにガラス研磨システムを開発。ウレタン研磨機と塗装研磨機を通すことで、ガラス面のウレタンと塗料を除去し、溶かして再利用できるようにした。この工程は関東エコリサイクルで行われており、1日400枚の処理が可能になっている。
加えて、サプライヤーとの協業により、生産時にCO2排出量が少ない再生鉄の安定確保と製品への適用を開始。これまでは、鉄くずをスクラップ業者に売却し、新材を鋼材メーカーから購入していたが、現在は、鉄くずを電炉材メーカーに売却し、それと同量の再生鉄を電炉材メーカーから購入する仕組みに変更。冷蔵庫では、筐体補強や扉内部の補強、冷凍室扉枠の増強、野菜室扉枠の増強などに再生鉄を利用している。
「ごみを出さずに、徹底的に再利用していくという考え方を前提としている」(日立GLSの大隅社長)との姿勢を示した。
また、バリューチェーンという観点からの環境への取り組みについても説明した。
2023年11月に発売したドラム洗濯乾燥機「ビッグドラム BD-STX130J」、「同BD-SX120J」では、冷蔵庫やエコキュートなどで培ったヒートポンプの技術を、初めて洗濯乾燥機に搭載。前年度モデルに比べて、消費電力は約30%減、使用水量は約25%減になっている。
冷蔵庫では、冷蔵室と、冷凍室および野菜室を、独立した冷却システムによる設計を採用。冷蔵室専用冷却器の温度を高くできるため、エネルギーの消費を抑えることができる。オーブンレンジ「MRO-W10B」では、長期使用に向けた様々な工夫を施し、庫内の汚れ防止、プレートの取り外しの容易性など、お手入れのしやすさを実現。部品点数の削減などにより解体性にも配慮したという。
さらに、日立グループやパートナーとの連携により、トラックの輸送距離の削減や、トラックの台数削減の取り組みも行っている。
これまで、海外で生産した家電は、東京港で陸揚げされたのちに、栃木県の配送センターに一度入庫し、取引先のそれぞれの倉庫に配送していたが、取引先の倉庫が湾岸地区に集中していることから、パートナー企業の千葉県市川市の倉庫に入庫し、そこから取引先の倉庫に配送する仕組みへと移行。約200kmの輸送距離が約25~30kmに削減したという。また、日立GLSと同じセクターにあるエレベータやエスカレータ事業を行う日立ビルシテスムの事業所が隣接していることから、共同配送を実施。トラックの上部に家電を積載し、下部にはエレベータ用保守部品を積載することで、トラック1台あたりの積載率を高め、運転台数を削減できたという。
資源循環型ビジネス、省エネ性能でもリードする
また、日立GLSでは、リファービッシュ品(メーカー再生品)やアウトレット品の販売、レンタル事業やサブスクリプションモデルの展開を行っており、高度循環社会の実現に向けた取り組みを積極化している。
リファービッシュ品は、顧客が開梱した時点や、短期間使用後に、外観や性能に一部不具合が発生した際に、メーカーに返品され、工場で再生したものであり、内外観を点検、清掃したのちに、運転試験を実施し、梱包箱も交換し、購入から1年間のメーカー保証をつけて販売している。
日立GLSでは、同社オンラインストアにおいて、リファービッシュ品やアウトレット品を販売しており、これも環境への貢献につながるとしている。
こうした取り組みは、Lumadaの資源循環型ビジネスドメインナレッジとしてソリューション化されている。
使用済み家電を回収し、解体や破砕の際に再資源化率を向上。廃プラスチックとなったものを、リサイクルメーカーとの連携により、物性安定化と高品質化を図り、ペレット化して、再生プラスチックとして、製造拠点に供給。また、再生プラスチックの使用率を高めるために、設計時点からリサイクル性を考慮したり、解体の容易性を追求した環境配慮型製品を拡大したりしている。さらに、リファービッシュモデルやサブスクリプションモデルの投入により、リカーリングビジネスの立ち上げにつなげるという仕組みを実現している。
一方、業務用空調機器などを扱う空調ソリューションにおいては、環境配慮型の冷凍・空調機器を販売。業界トップクラスの省エネ性能を持つ店舗およびオフィス用エアコンを商品化。低GWP冷媒を採用して、環境負荷を低減したチラーユニットも提供している。また、空調IoTソリューション「exiida」を通じて、遠隔監視や予兆診断のほか、電力コストを最適化するデマンド制御運転も実現している。
「exiidaでは、日常の運転を監視しながら、AIを通じて、故障につながる変化を検知し、安定稼働をサポートするほか、フロン排出抑制法で定められた簡易点検を、遠隔地から行えるようにサポートする。簡易点検サポートは、既存の機器にも導入できる。さらに、exiidaに加えて、日立グループが持つ環境対応ソリューション、就業者ソリューション、ビルIoTソリューションなどを組み合わせることで、ゼロエミッションビル(ZEB)に向けたビジネス展開を加速できる」(日立GLSの大隅社長)とした。
日立GLSでは、製造・開発拠点のアップデートが進む
日立GLSにおけるもうひとつの環境への取り組みが、製造拠点および開発拠点におけるカーボンニュートラルへの挑戦となる。
日立GLSでは、国内では、冷蔵庫などの生産を行う栃木市大平町の栃木事業所、洗濯乾燥機や掃除機などの生産を行う茨城県日立市の多賀事業所がある。
これらの拠点においては、HICP(日立インターナルカーボンプライシング)制度を利用して、エネルギー効率が高い機器に置換えを推進。直近では、2021年度に多賀事業所の製造工程にエアーコンプレッサー自動制御システムを導入し、前年度比で約9%のCO2排出量を削減した。また2022年度は、多賀と栃木の両拠点においてインバーター空調機、アモルファス変圧器、4.8tクレーン、高天井用LED器具などを導入、CO2削減効果は年間971トンに達したという。製造拠点ではEVフォークリフトの導入も進めており、これによるCO2削減効果は年間520トンになるという。また、東京・愛宕の本社で利用している空調や照明などのすべての電力を、再生可能エネルギー由来に切り替え、年間約660トンのCO2排出量削減を見込んでいる。
今回の説明会は、日立GLS多賀事業所で行われ、同事業所内にある日立アプライアンステクノサービスが、2023年度に導入した新たな再生プラスチック生産設備も公開した。
同社では、2002年度から、リサイクルプラスチック材の製造を開始。長年培ったコンパウンド技術とリサイクル技術の融合により、経済性に優れたリサイクル材料を製造し、幅広い製品分野へのニーズに応えているという。
新たな再生プラスチック生産設備では、前処理として、納品された廃プラスチックに混入しているウレタン、粉塵、砂塵などの軽い異物を風力によって選別。この風力選別を行うことで、ペレット時の異物混入量を低減し、再生プラスチックとして使用する際の量産性と品質性能の向上を図ることができる。
選別した粉砕プラスチック材は、必要な物性を得られるように混合。溶融混錬を行う。ここでは、3段階のろ過フィルターを通じて、溶融しないゴムやシリコン、紙屑などを除去する。単軸押出機により、溶けた形で、ひも状となった樹脂は、冷却水槽で固形化し、造粒装置で粒状にカットする。さらに、振動ふるいにより、サイズを選別して、粒性の均一化を図ることになる。その後、金属を含有しているペレットを除去。さらに、CCDカメラを用いて、色相選別を実施。炭化物が入ったペレットを除去することになる。こうした選別を繰り返すことで、成形品の品質向上につなげることができるという。最後に良品だけを選別し、キャッチャータンクに詰められて、自動計量、自動梱包を行い、出荷されることになる。
新ラインの立ち上げにより、2023年度の再生プラスチックの生産量は、2020年度の5倍に拡大するという。今後も生産量を拡大することで、再生プラスチックの使用率向上につなげる考えだ。
また、日立アプライアンステクノサービスによる高機能性プラスチックの取り組みについても説明した。高機能性プラスチックは、部品の用途にあわせて、材料を配合し、評価、認定を行い、製造し、ペレットとして納品。この技術進化が再生プラスチックの生産にもつながっている。
1975年に物性改善を開始したことをきっかけに、1995年から高機能プラスチック材の生産を開始。高剛性、耐熱性、難燃性、抗菌性、耐傷性、耐汚染性、ガラス強化など、様々な機能を持った高機能性プラスチックを製品化している。
このように日立GLSでは、製品設計や開発から生産、輸送、販売、利用時、廃棄、再利用という製品ライフサイクル全体に対して、環境のアプローチを行っている。自社工場で生産を行うからこそ、行える環境対策も少なくない。日立GLSの環境への取り組みは、ライフサイクル全体で進化を遂げている。