日立ジョンソンコントロールズ空調は、白くまくんブランドのルームエアコンの生産拠点である栃木事業所の様子を公開した。栃木市大平町にある栃木事業所は、エアコンのほか、日立グローバルライフソリューションズの冷蔵庫も生産しており、約80年の歴史を持つ開発、生産拠点である。エアコンの生産ラインの様子を中心にレポートする。
日立ジョンソンコントロールズ空調 栃木事業所は、1944年1月に、茨城県日立市の多賀工場の栃木工場部として設置したのち、1945年1月に分離独立し、日立製作所栃木工場として操業を開始したのが始まりだ。
東京ドーム約20個分となる約29万坪の敷地を誇り、日立ジョンソンコントロールズ空調のルームエアコンの開発、生産拠点に加えて、日立グローバルライフソリューションズの栃木事業所として、冷蔵庫などを生産。さらに、家電リサイクルを行う関東エコリサイクルも敷地内にある。
歴史的なエアコン生産の拠点、今は国内生産回帰の最前線に
エアコンは、1952年に、この栃木事業所において、国産初のウインド形ルームエアコンを開発したのが最初であり、第1号機は京都の都ホテルに導入されたという。それ以来、70年以上に渡って、開発部門と製造部門が同じ敷地内で一体化し、質の高いモノづくりに挑んでいるのが特徴だ。現在、ルームエアコンでは室内機、室外機、圧縮機の開発、生産を行っている。
1961年には日本初のヒーター付ヒートポンプ式冷暖房エアコンを発売。1967年には温度を下げずに湿気を除くドライ機能を世界で初めて搭載したほか、1993年には世界初となる熱リサイクル方式の「カラッと除湿」を採用。1996年にはインバーターを採用するとともに、電圧幅を広く使えるPAM 制御によって、ハイパワーと省エネを両立した世界初の「PAMエアコン」を商品化した。また、2004年には世界初の給・排、気流制御システムを搭載したフレッシュ給排白くまくんを発売するなど、世界初の商品が栃木事業所から相次いで生まれている。日立独自の凍結洗浄も、栃木事業所で開発されたものだ。
2015年10月に、日立アプライアンス(現・日立グローバルライフソリューションズ)と、米国ジョンソンコントロールズが、合弁会社の日立ジョンソンコントロールズ空調を設立し、日立のルームエアコン事業を移管。その後も、エアコンの開発、生産は栃木事業所で継続的に行われている。ここ数年は、日立のモノづくり技術に加えて、ジョンソンコントロールズがグローバルに展開する厳格な製造基準を導入。製造オペレーションとプロセスの標準化などにも取り組んでいるという。
2023年10月から出荷を開始しているフラッグシップモデルの新製品「白くまくん プレミアムXシリーズ」も、栃木事業所で開発、生産されているほか、寒冷地向けエアコンの「メガ暖白くまくん」や、天井カセットタイプおよび壁埋込みタイプのハウジングエアコンの生産も行っている。
なお、ルームエアコンの生産拠点は、インド、中国、マレーシア、台湾にもあるが、栃木事業所が生産の中核拠点となっている。
日立ジョンソンコントロールズ空調 ヴァイスプレジデント兼日本・アジア地域ゼネラルマネジャーの泉田金太郎氏は、「栃木から日本を元気にしたい。そのために、地域経済や社会への貢献をより推進していきたい」と語る。
日立ジョンソンコントロールズ空調は、2023年4月に、国内向けルームエアコンの国内生産比率を、2022年度の30%から、2024年度には50%以上にする方針を発表。中国で生産していたスリムエアコンの生産を栃木事業所に移管し、3月から室外機、4月から室内機を生産している。また、生産ラインの拡張に数億円を投資。2023年の繁忙期には約200人の追加雇用を行い、地域経済の拡大にも貢献している。
さらに、栃木事業所における国内および栃木県内からの調達を強化。「現在、栃木事業所で購入している全部品件数のうち、2023年度中には、栃木県内の取引先から購入する件数を45%、日本国内の取引先から購入する件数は70%にする。また、2024年度中には、日本国内の取引先への発注金額を、2022年度と比較して約10%増加することになる」と語る。
ルームエアコンには、約800点の部品が使用されており、その7割が、日本での調達になる。
「国内生産によるリードタイムの短縮と、国内調達を中心としたダブルソーシング体制により、ルームエアコンの安定供給を目指す」と述べた。
また、日立ジョンソンコントロールズ空調 栃木事業所では、地域社会への貢献にも力を注いでいる。
ひとつめは、学校を対象にした工場見学の積極的だ。すでに、近隣小学校向けに工場見学プロジェクトを開始。夏休みには一般の親子を対象にした工場に親しんでもらうためのイベント開催も企画しているという。
2つめは、生活の役に立つ知識からトリビアまで、エアコンに関する様々なトピックスを分かりやすく解説し、情報を発信する「白くまくんアカデミー」の開催だ。2024年から栃木市の地域住民向けに実施し、いかにエアコンをうまく使ってもらうか、空調をどう考えていくべきかをレクチャーしていくという。さらに、日立ジョンソンコントロールズ空調の社員のなかから、技能五輪選手などが講師役を務めたり、OBにもボランティア講師として参加したもらう形で、一般向け講座を実施することも検討しているという。
3つめは、栃木市のふるさと納税返礼品にエアコンを提供。栃木市で行われる地域イベントの景品にもエアコンを寄贈するといった貢献だ。また、2024年度は、数10台から100台のエコアンを栃木市に寄贈する予定であり、「エアコンの価格上昇などを背景に、買い替えにくいという状況に対しても地域貢献をしていきたい。Made in Tochigiを通じた取り組みを様々な形で進化させたい」(日立ジョンソンコントロールズ空調の泉田氏)としている。
「戦艦大和と同じ大きさ?」の工場規模でエアコンを生産
では、栃木事業所のエアコンの生産ラインの様子を紹介しよう。
エアコンの生産は、第5工場で行われている。
第5工場は東西312m、南北100mの規模を誇るが、これは、戦艦大和と同じ大きさだという。実際に、当時は戦艦大和を意識して建屋を設計したという逸話が残っている。
西側にはPCM加工ライン、鋼管加工エリアのほか、最大850tクラスをはじめとした27台の射出成形機を設置した部品加工ショップを設置。ここで板金加工、樹脂成形、鋼管加工などが行われる。北側には熱交換機組立ラインがあり、それらを集約して、中央部分に室内機と室外機の組立ラインを設置している。室内機の組立ラインは、プレミアムモデル、標準モデル、ハウジングモデルの3ラインを用意。室内機に使用する部品を組み立てるキャビネットセル、おそうじセル、ツユサラセルも隣接する形で設置されている。また、室外機の組立ラインは5ラインを設置しており、そのうちプレミアムモデルのラインは1ラインとなっている。組立が完了すると試験が行われ、梱包ラインに送られ出荷されることになる。繁忙期には約1,200人が勤務するという。
なお、開発中の製品などを検査する騒音試験室なども第5工場のなかに用意されている。