デル・テクノロジーズは、NVIDIA H100 GPUを搭載したサーバー「PowerEdge XE9680」などにより、生成AIの開発や運用を支援するハードウェアのラインアップを強化しているほか、2023年7月には、オンプレミス環境で生成AIモデルを構築する新しいソリューション「Dell Generative AI Solutions」を発表。さらに、米国では、Validated Design for Generative AIの提供を開始するなど、AIビジネスに注力する姿勢を示している。

  • デルのAIビジネスを追う、マルチLLM時代に活きる「ならでは」の強み

    デル・テクノロジーズのAIビジネスの進め方とポートフォリオ

デル・テクノロジーズ DCWソリューション本部シニア・ビジネス開発マネージャー兼AI Specialist / CTO Ambassadorの増月孝信氏は、「デル・テクノロジーズは、NVIDAとの25年に渡る協業の実績があり、強力な関係をもとに、新製品の投入タイミングや受注後のリードタイムでの優位性を提供できる。デルのハードウェアは、標準AIベンチマークでも高い性能を発揮しているだけでなく、GPUを含む在庫を最適に保持しており、障害対応にも迅速に対応できる点が強みである」としたほか、「国内外のAIエコパートナーとの連携により、生成AIにおいてもその関係が進化させている。デル社内でのAI活用の知見を製品に生かすることもできる」などと述べた。デルのAIビジネスへの取り組みを追った。

  • デル・テクノロジーズ DCWソリューション本部シニア・ビジネス開発マネージャー兼AI Specialist / CTO Ambassadorの増月孝信氏

「AI in」「AI On」「AI with」「AI for」の4つの取り組み

デル・テクノロジーズでは、AIへの取り組みを、同社製品にAIを搭載する「AI in」、同社製品を活用してAIを実現する「AI On」、AIエコパートナーとの連携によってAIを提供する「AI with」、同社社内でAIを活用する「AI for」の4つに分類する。

  • 「AI in」「AI On」「AI with」「AI for」の4分類

ひとつめの「AI in」としては、デルのPCやワークステーションに搭載されているDell Optimizerがあげられる。AIを活用して、インテリジェントな充電機能とバッテリー持続時間管理機能を搭載。利用環境やユーザーの利用特性を学習して、画面の明るさやCPUパフォーマンス、オーディオなどを調整し、消費電力を最適化することができる。また、のぞき見検出機能では、モバイル環境などにおいて背後から登録されていない視線を検出すると、Safe Screenがオンになり、不正な閲覧を防ぐことができる。これもAIを活用した機能である。

  • デル製品にAIを搭載する「AI in」

また、ストレージのPowerMaxシリーズでは、機械学習エンジンにより、I/Oプロファイルに基づいて、適切なメディアタイプに自動的にデータを配置することで、高い性能と効率化を実現している。

2つめの「AI On」は、デルの製品を利用したAIへの取り組みとなる。

  • デル製品を活用してAIを実現する「AI On」

ここでは、これまでProject Helixと呼んでいた「Validated Design for Generative AI」について説明した。米国では2023年7月31日からサービスを提供。今後、国内でも提供を開始することになるという。

  • Validated Design for Generative AI

NVIDIAとの連携により、同社が持つアクセラレーター技術とAI ソフトウェア、学習済みモデルおよび専門知識に、デル・テクノロジーズのサーバーやストレージなどの基盤技術、管理を行うソフトウェアやサービスを組み合わせて、スケーラブルなフルスタックソリューションを提供。エンタープライズ企業に対して、モデル開発から導入までを支援することになる。また、Dell Validated Design for Generative AI Inferencingとして、NVIDIAを使用した生成AI推論用の検証済みアーキテクチャーを、デル・テクノロジーズが提供。本番環境に大規模言語モデルを導入する際の課題に対処するためのデザインガイドになるという。

デル・テクノロジーズ DCWソリューション本部シニア・システムエンジニア AI Specialistの山口泰亜氏は、「生成AIの導入の際に、どんなハードウェアが必要なのか、どの程度のパフォーマンスが必要なのか、どんなソフトウェア群が必要なのかといったことがわからない企業が多いのが実態である。Validated Design for Generative AIでは、ホワイトペーパーを通じて、最適な構成を示すことができるようになっている」と語る。

  • デル・テクノロジーズ DCWソリューション本部シニア・システムエンジニア AI Specialistの山口泰亜氏

また、デル・テクノロジーズでは、サーバー製品として、6Uサイズに、NVIDIA H100を8個搭載したPowerEdge XE9680を、2022年11月から発売。空冷サーバーながら最高35℃までの稼働をサポートし、生成AIの開発や運用環境をサポートしている。また、H100を4個搭載したPowerEdge XE8640や、インテル Data Center Maxシリーズを4個搭載した水冷サーバーのPowerEdge XE9640を用意しているほか、ストレージでは、オールフラッシュモデルによる性能向上と高速化、大容量を実現。データセットに高速にアクセスして、複数モデルの構築や学習、テストに最適化するなど、生成AIの活用に最適化したハードウェアを用意している。

  • デル・テクノロジーズの最新サーバー製品群

東京・大手町の同社本社には、AI Experience Zoneを設置し、これらのAIおよびデータアナリティクスに最適化した製品ポートフォリオを紹介したり、具体的な操作および運用イメージを体験したり、検証や評価作業の支援環境を用意している。

  • 大手町の本社に設置した「AI Experience Zone」

また、AI Experience Zoneでは、H2O.aiが公開したオープンソースのLLMファインチューニングツールであるH2O LLM Studioのデモ環境も用意しており、既存学習済モデルと独自データから、ファインチューニングをノーコードで実施する様子も体験できるようにした。

  • AI Experience ZoneではH2O LLM Studioのデモ環境も用意

3つめの「AI with」では、AIエコパートナーとの連携によってAIを提供することになる。

  • AIエコパートナーとの連携によってAIを提供する「AI with」

国内においては、日本独自のAIエコパートナープログラムとして「Dell de AI(デル邂逅=であい)」を展開。AIビジネスを展開しているパートナーと、AIをビジネスに活用したい顧客とのマッチングサービスであり、コンサルティングフェーズから、AIの活用領域に沿った提案までを行えるようにしている。

最後の「AI for」は、デル社内でのAI活用の事例であり、社内DXにおいて、各部門でAIを採用。社内で利用した経験や実績をもとに、製品やサービスへのフィードバックも行うという。

  • デル社内でAIを活用する「AI for」

現在、1チーム5人程度のデータサエンティストが在籍するプロジェクトチームが40チーム以上あり、900以上のAIおよび機械学習プロジェクトが、営業部門や製造部門、マーケティング部門、人事部門など、あらゆる部門で推進されているという。

増月氏は、「デルでは、デジタルファーストとヒューマンセントリックを軸としたDell Digital Wayに基づいて社内DXを推進している。これは、企業文化の変革への取り組みに位置づけている」とし、「IT部門はコストセンターとしてウォーターフォール型の開発を行い、サイロ化された12以上の環境が存在していた。また、データエンジニアの作業の8割がインフラ環境のメンテナンスやデータ整備に割かれていたという課題もあった。この体制を一新し、製品開発チーム体制へと再編。それらのチームが、それぞれの社内プロジェクトを自律的に推進し、アジャイル開発を行える体制へと移行した。Dell Digital Cloudの上で、DevOps やCI/CD によるパイプラインの標準化を行い、APIやUXを標準化するためのマーケットプレイスも用意した。さらに、全体のプロジェクト管理を行えるダッシュボードも用意し、社内DXを推進している」という。

こうした社内における新たな開発体制を構築した上で、デル社内での生成AIの活用を促進しているという。

  • 生成AIを社内で活用

2022年11月から、Dell Digital Cloudのポータルを通じて、社内の開発者がChatGPTを利用できる環境を整備。CI/CDによるパイプラン設計におけるコード生成やテスト、ドキュメント生成に活用しているという。

また、研究部門では、Digital Humanに注力しており、AIによって開発された「クララ」が、表情豊かに会話するとともに、相手の感情や様子を認識しながら、自然なコミュニケーションを行えるようにしているという。今後、顧客向けサービスや教育分野、マーケティング分野での利用を想定している。

  • 研究部門ではDigital Humanに注力。AIによる自然なコミュニケーションを目指し開発している「クララ」

増月氏は、「AIはユースケースが決まらないと、AIモデルが選択できず、必要なデータもわからない。まずはユースレースを決めて、それに対するロードマップを策定して、アプローチを開始するようにしている」という。

日本でも進む生成AI分野における協業の事例

一方、デル・テクノロジーズによる生成AI分野における協業の事例についても説明した。

同社とDenvr Dataworksは、生成AIを使用する組織向けに、LLMトレーニングと推論のためのクラウドソリューションを提供。Dell PowerEdge XE9680サーバー上のDenvr Dataworksソリューションを使用して、数1,000億パラメータを含むデータセットを管理できるという。また、米テキサス州アマリロ市では、デル・テクノロジーズとともに、政府やコミュニティーサービスの詳細を求める住民と対話するために、生成AIを使用したデジタルアシスタントを開発しているという。

さらに、日本では、サイバーエージェントが開発した独自の日本語大規模言語モデルにおいて、デル・テクノロジーズのPowerEdgeサーバーを採用。「極予測AI」において、大規模言語モデルを活用した広告コピー自動生成機能を実装して、サービスを開始しているという。今後は、Dell PowerEdge XE9680を採用することにより、従来比5.14倍の性能向上と、アルゴリズムの最適化で10数倍の性能向上を期待しているという。

  • サイバーエージェントとの取り組み

一方、増月氏は、生成AIの特徴についても説明。「従来のAIは、データを分析し、識別と予測を得意としていたが、生成AIは創造的な探索やコンテンツ生成が可能になっている。従来AIも、生成AIも進化しており、双方の特徴を生かし、組み合わせて利用することが大切である。新たなAIが登場したいまこそ、AI活用を再考する時期である。だが、国内では、生成AIはなにができるのかといった問い合わせがまだ多い。この状況が変われば、日本でも一気に生成AIが活用されている」と指摘した。

また、生成AIには、Open AIやGoogleなどのように一から生成AIを開発する「基本トランスフォーマーモデル」と、汎用の生成AIを活用したり、自分たちなりにカスタマイズして利用する「事前学習済みモデル」があるとし、「GPT-3.5が登場したときには、NVIDIAのA100 GPUを1,024個搭載したシステムで、34.5日をかけて、言語モデルを開発したという。A100を4個搭載したサーバーは1台2,000万円規模であり、これが256台必要になる。金額換算すると数10億円の投資が必要になる。また、大量のデータを用意する必要がある。基本トランスフォーマーモデルの開発に投資ができる企業が限られ、少数派である。多くの企業は、GPUリソースが最小限で済み、カスタマイズするためのデータが少なくて済む事前学習済みモデルでの利用になる」と述べた。また、「大規模言語モデル(LLM)や汎用サービスは百科事典であるのに対して、事前学習済みカスタムモデルは専門書のようなものであり、特化した使い方ができる。百科事典と専門書を使い分けるように、生成AIもユースケースを前提にどう使いわけるかが重要なポイントになる」と定義した。

  • 生成AI開発のスタートポイントのイメージ

このように、デル・テクノロジーズは、AI ビジネスに向けて、「AI in」、「AI On」、「AI with」、「AI for」の4つの観点からアプローチしている。そして、これまでのビジネスの基本姿勢がそうだったように、新たなテクノロジーの導入の敷居を下げるための仕掛けづくりを、AIの分野において進めようとしていることがわかる。

近い将来には、マルチLLMと言われる時代が到来するのは明らかだろう。そのときには、デルが長年に渡って追求してきたITの選択肢の提供と、ITのシンプル化といった取り組みが、ここでも重要なキーワードになる。今後、マルチLLM時代において、デルがどんな取り組みを打ち出すのかが、いまから気になる部分である。