日立製作所が開催した年次イベント「Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPAN」は、4年ぶりのリアル開催となった。オンライン配信は行わず、東京・有明の東京ビッグサイトにおいて、基調講演や特別セッション、ビジネスセッションを行ったほか、展示会場では、最新のテクノロジーや社会イノベーション事業の取り組みの紹介や、ミニステージにおける説明などが行われ、2023年9月20、21日の2日間の会期中に、60以上のプログラムが実施された。本稿では、展示会場のなかから注目された展示を中心にレポートする。

25回目を迎えた今回のHitachi Social Innovation Forum 2023 JAPANは、東京・有明の東京ビッグサイト会議棟を使用して開催された。基調講演や各セッションは、会議棟7階の国際会議場と、6階の各会議室を使用。展示会場として、1階のレセプションホールを使用するという構成だ。

展示会場は、「サーキュラーエコノミー」、「脱炭素・カーボンニュートラル」、「産業・都市のDX」、「幸せな生活・ウェルビーイング」、「サステナブル経営」、「イノベーション創生」の6つのテーマで展示。体験型展示を含めながら、日立製作所のビジョンや将来像を示したほか、社会イノベーション事業で注力している各種ソリューションなどを横断的に紹介していた。

  • 日立製作所が年次イベントで見せたビジョン、最新テクノロジーとイノベーション

    Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPANが開催された東京ビッグサイトの会議棟

  • 国際会議場やレセプションホールを使用して行われた

  • 展示会場の入口にはPOWERRING GOODのメッセージが掲示されていた

  • 展示会場の様子。6つのテーマで展示が行われた

  • 6つのテーマごとにエリアが設けられている

なかでも多くの関心を集めたのが、「イノベーション創生」のエリアだ。

ここでは、生成AI関連の展示が行われ、終日、多くの来場者が訪れ、黒山の人だかりとなっていた。

鉄道車両や設備の保全において、メタバース空間上に保守現場を構築し、生成AIや日立が持つ検査データ組み合わせて、保守現場の変革を行う「インダストリアルメタバースによる鉄道設備保全の高度化」のほか、日立製作所社内に設置したGenerative AIセンターを通じた日立グループ内のユースケースの紹介や、若手データサイエンティストがChatGPTの業務への活用術を実演する「生成AIがもたらすインパクト 生産性の革新と新しい働き方」を紹介。さらに、Lumada Solution Hubの活用とともに、生成AIなどのAIテクノロジーを活用することでシステム開発の効率化を加速し、DX推進のスピードアップを支援する「Lumada×Generative AIによるシステム開発の革新」、GlobalLogicによる生成AIやメタバース、Web3.0を活用したイノベーションを展示した「パーパスドリブンにデジタルイノベーションを加速 ~生成AI・メタバース・Web3.0~」、ベテラン職員の技術継承や希少事象についての対応の迅速化が可能になる「オペレーション・リコメンデーションシステム」を展示した。

また、環境と人に配慮したサステナブルなテレワークブースと位置づけた「環境と人に配慮したサステナブルな日立テレワークブース」、上流コンサルティングからシステムインテグレーション、運用、監視までをワンストップで提供する「グローバル向けゼロトラストセキュリティ導入支援」、クラウドストレージサービスであるHitachi Virtual Storage Platform on cloudと、オンプレミス向けを組み合わせたハイブリッドクラウドプラットフォームを提供する「日立のハイブリッドクラウドソリューション EverFlex from Hitachi」に加えて、欧米を中心に約30社へのグローバル企業への導入実績を持つHitachi Application Reliability Centers(HARC)を、2023年6月から、日本でも提供を開始したことを紹介した「DXを新たな局面に SRE手法を用いたクラウドネイティブ運用」を展示した。

HARCは、アドバイザリー、デザイン、運用管理、クラウドコスト管理の4つのサービスで構成したマネージドサービスで、ITのモダナイズを支援することになる。日立ヴァンタラとの連携や、Lumada Innovation Hub Tokyoの活用により、SREに基づいた日立独自の評価指標によってスコア化し、目指す姿とのギャップを明確にしい、変革に向けたロードマップを策定。信頼性の高いシステム環境の実現と、アジリティを持つ組織体制への変革、クラウドコストの最適化などを提案する。

  • 「イノベーション創生」のエリアは終日多くの人が来場していた

  • 「インダストリアルメタバースによる鉄道設備保全の高度化」の展示では、東武鉄道のスペーシア Xの内部を、CADデータをベースにメタバース空間上に構築し、保守履歴なども蓄積。生成AIを組み合わせて保守現場の変革を行う。産業分野での幅広い展開を想定している

  • 「生成AIがもたらすインパクト 生産性の革新と新しい働き方」では、ChatGPTの業務への活用術を実演。製品マニュアルを学習したAIが、コールセンターに難しい質問が来た場合に、オペレーターを支援する。同社の若手データサイエンティストが直接説明をしていた

  • 日立テレワークブース。独自の特許技術により天井部分が開口していながらも、外からの音が入らず、内部の音が外に出ない構造となっている。落合陽一氏が率いるピクシーダストテクノロジーズが開発した独自の吸音設計技術「iwasemi(イワセミ)」を扉部などに採用しているのも特徴だ

一方、「サーキュラーエコノミー」では、日立ハイテクサイエンスのリサイクルプラスチックに関する分析技術と自動計測による「サーキュラーエコノミー実現に向けた機器分析と自動計測」、製品単位の環境負荷物質を精緻に算定および可視化し、温室効果ガスの削減に向けたアプローチを支援する「サプライチェーンにおける脱炭素の推進を支援するEcoAssist-Pro/LCA」を展示した。

「脱炭素・カーボンニュートラル」のエリアでは、体験型ジオラマを通じて、「2050年のカーボンニュートラルを実現する日立のエネルギーシステム」を紹介したほか、カーボンニュートラル施策の考え方からエネルギー利用の高度化、設備管理業務の高度化などの具体的な事例を紹介する「GX×DXによるマネージドサービスを活用したカーボンニュートラルの取り組み」、各種データを活用することで、運用業務や設備稼働の効率化を図り、エネルギー管理・設備管理の業務を一元的に提供する「脱炭素に貢献するエネルギー&ファシリティマネジメントサービス(EFaaS)」、国際基準に則り、CO2換算排出量を算定、可視化して一元的に管理する「炭素会計プラットフォームサービス Persefoni」を展示した。

また、日立パワーソリューションズによるAIとドローンを用いた風力発電のブレード点検システムを紹介した「風力発電設備の安全性向上と安定稼働を支援するブレードトータルサービス」、顧客との協創により形成したカーボンニュートラルのフラッグシップモデルを紹介する「お客さまとの協創によるカーボンニュートラル社会実現に向けた取り組み」、海外で実証事業を進めている電圧・無効電力オンライン最適制御システム(OPENVQ)により、送電ロスを抑制し、CO2排出量削減に取り組む「海外での送電系統の電圧・無効電力オンライン最適制御システムの実証運転を開始」、光ファイバーケーブルによる通信および制御を通じて、変電所の監視、運用を高度化する「脱炭素社会の実現に貢献するデジタル変電所の取り組み」を展示。また、日立エナジーでは、SF6(六フッ化硫黄)ガスを使用しないポートフォリオである「EconiQ」の超高圧変電装置への移行を推進するカーボンニュートラルの実現を支援するソリューションEconiQ」と、3Dモデルを活用したプロジェクトの品質向上ソリューション「BIM (Building Information Modeling)」の適用や、デジタルツインソリューション「IdentiQ」などによる「HVDC変換所のデジタルソリューション ~設計・建設からO&Mの改革~」を展示した。

また、日立GEニュークリア・エナジーでは、革新大型軽水炉Highly Innovative-ABWR、高経済性小型炉BWRX-300、軽水冷却高速炉RBWR、小型ナトリウム冷却高速炉PRISMの開発などの「日立の新型原子炉開発」について紹介した。さらに、有害度低減を実現するプロセスの全体像と日立の取り組みについて紹介した「放射性廃棄物の有害度低減に向けた日立の取り組み」、福島第一原子力発電所のような高放射線環境下で実現可能な遠隔作業ロボットによる「柔構造作業ロボットの筋肉ロボット」のデモストレーションも行った。

  • 「脱炭素・カーボンニュートラル」の展示エリア

  • 2050年カーボンニュートラルを実現する日立のエネルギーシステムのジオラマ

  • CO2換算排出量を算定、可視化し、一元的に管理する炭素会計プラットフォームサービスのPersefoni

  • 柔構造作業ロボットの「筋肉ロボット」。放射線に弱い電子部品を使わず、水圧シリンダをはじめとした水圧駆動方式を採用。福島第一原子力発電所のような高放射線環境下でも稼働する。機器の組み立てや吊り荷の玉掛作業といった人間が行うような複雑な作業が行える「柔らかい動作」が特徴だという

「産業・都市のDX」では、様々な観点からの展示が相次いでいた。

日立産機システムでは、「Superアモルファス奏」により、微生物によって分解される大豆油を絶縁油として使用し、環境負荷低減に取り組む「産機機器でのサーキュラーエコノミー」、社会インフラ設備の運用、管理といったバックオフィス業務の可視化や自動化を行うことで業務効率化を実現する「設備管理ソリューション」、社会インフラ保守において、設備の老朽化や、熟練作業員の減少といった課題に対して、データを活用した施工自動化、業務DX化を実現する「データ駆動型DXで社会課題を解決する日立の社会インフラ保守サービス」、通信回線品質が安定しない通信経路を多重化、冗長化し、経路障害による通信ダウンタイムを極小化し、高信頼な通信を実現する「無線通信高信頼化ミドルウェア NX Dlink/RED」、EVのバッテリーを活用し、停電時にエレベーターやポンプなどのビル設備に給電できる「V2Xシステム」を展示した「カーボンニュートラルに貢献するEV・バッテリー活用でレジリエントな街づくりへ」をデモストレーションした。

さらに、取り扱い商品や物量の変化に応じて、自由にロボット構成やレイアウト変更ができる「物流センター省力化に向けたロボティクスSI」、デジタルを活用して製造業、流通業向けの課題解決に提案する「不確実性の時代を変革の好機に ~日立が描く産業の未来~」、エッジとクラウドのサービス連携により、安全で、効率的なIoTデータマネジメントを提供する「IoT向けハイブリッドクラウド接続ネットワーキング」、自社の実例や数多くの顧客に対するDX推進で培ってきたデータ利活用の技術やノウハウをユースケースとして横展開する「お客さま業務/IT部門向けデータ利活用による各種DXのススメ」、受託開発で培ったノウハウをメニュー化して、最適なエンジニアリングサービスを提供する「メニューベースエンジニアリングサービス」を展示した。

また、地域創生・スマートシティの観点から、「地域振興(観光DX)」、「次世代店舗(店舗DX)」、「データ利活用(業務DX)」など、13種類のソリューションを一堂に展示。これにより、観光客の誘致や、地域経済活性化、店舗での省力化やサービス向上などを実現している事例も紹介した。

  • EVのバッテリーを活用し、停電時にエレベーターやポンプなどのビル設備に給電できる「V2Xシステム」

  • 自由にロボット構成やレイアウト変更ができる「物流センター省力化に向けたロボティクスSI」のデモストレーション

  • 地域創生・スマートシティの展示では、13種類のソリューションを一堂に展示した

  • 観光DXのひとつとして展示した無人スマート店舗の CO-URIBA。生体認証による自動決済やパーソナライズされた広告表示などが可能になる

  • 施設環境を可視化するT*Plats。観光施設などからのニーズが高いという

  • 福島県玉川村と行っている「手ぶらキャッシュレス実証事業」の事例。お勧めのお土産を紹介してくれる。感情分析サービスとも連動している

  • 上部のカメラで、ディスプレイの前にいる対象者の性別や年齢のほか、表情から感情を推測する

  • 感情分析サービスは、音声や表情、しゃべり方から相手の状況を推定し、コールセンターのオペレーターに最適な対応方法を提案。利用者の満足度向上に貢献できるという

  • 店舗DXの事例として紹介された東武ストアのケースでは、セルフレジで生体認証を行うだけで、TOBU POINTの付与や利用、クレジットカード決済などが行えるようになる。2023年度中に導入する

  • 業務DXでは、エリア・データ連携基盤などを展示。たとえば、データをもとに、自店舗で購入している顧客が近隣の店舗にも寄ることが多いことがわかったため、これまでは競合と考えていた近隣店舗同士が共同キャンペーンを実施して、集客率を高めるといった提案が行えるという

  • 「お客さま業務/IT部門向けデータ利活用による各種DXのススメ」では、製造DX、環境DX、研究DX、調達DXに加えて、新たに保守DXを提案。保守DXでは、AIを活用して最適な人員配置や、画像データや音響データにAIを使うことで、不具合の発見や故障予兆を実現できる。また、障害受付時にもテキストAIを活用して業務の簡素化が可能になる。これらのDXは、Hitachi Intelligent Platformを活用しており、Lumadaのユースケースを横展開したものとなる

  • 製造DXでは、部品単体から製造工程を経て、製品になる流れを可視化。製品に不具合が発生した際には、部品まで辿ることができ、同様の部品を使用した製品をすぐに特定できる。デモストレーションでは1週間で6万個の部品を使用し、3500個の製品を作り上げた場合を例にしていた

「幸せな生活・ウェルビーイング」では、企業や健保の健康経営、自治体の職員および住民の健康増進、QoL向上のための行動変容を支援する健康支援アプリなどを提供する「健康支援サービス」、北海道において人口の約7割にあたる約370万人の健診結果やレセプトデータなどの健康・医療情報を集約し、保健事業推進に役立たせる「北海道の全世代型予防・健康づくりを支援する健康・医療情報分析プラットフォーム」、八王子市や府中市における介護予防事業の結果評価の実証などに取り組んでいる「自治体やスタートアップとの協創を通じたEBPMビジネスプラットフォーム」、日立の秘匿情報管理サービスである匿名バンクや、安全なデータ流通をクラウドで実現する個人情報管理基盤サービス、患者の情報を管理する患者レジストリサービスなどの「セキュリティと実用性を兼ね備えたパーソナルデータの利活用」、働く女性のライフステージごとにあわせた健康支援を行う「リシテア/女性活躍支援サービス」、生化学自動分析装置やDNAシーケンサ、エキスパートパネル支援サービスなどによる「がんゲノム医療による患者のQoL向上」を展示した。

そして、「サステナブル経営」では、日立ソリューションズによる製造業を中心とした企業のサプライチェーンにおける脱炭素活動のPDCAをトータルに支援する「サプライチェーン脱炭素支援ソリューション」、環境情報管理のEcoAssist-Enterpriseにより、環境情報の一元管理と計画立案などを支援する「サステナブル経営の進化を環境情報の見える化からアシスト」といった展示を行った。

なお、開催初日には、日立製作所の小島啓二社長兼CEOによる「日立がめざすイノベーションの未来 ~AI新時代の持続的経済成長~」と題した基調講演が行われた。小島社長兼CEOは、「生成AIは、IT活用の歴史を、紀元前と紀元後に分けるほどの巨大なインパクトを持っている。行動、情報、科学を強力にアシストし、イノベーションを生み出す力を高めることになる。日立は生成AIを効果的に活用することで、企業の潜在力をフルに引き出すことを目指す」と語ったほか、「日本国内には、経済成長が難しいというあきらめにも似た空気が広がっている。日本が持っているイノベーションを起こす力を高めることで、成長を実現できると確信している」などと述べた。

今回は、4年ぶりのリアル開催での年次イベントとなったが、基調講演の開始30分前には会場の前には長い列ができるなど、リアル開催に対して、来場者が高い関心を寄せていることを示す内容となっていた。

実は、Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPANの初日となった9月20日は、NECがオンラインで同社年次イベント「NEC Visionary Week 2023」を開催し、日本IBMも年次イベント「Think Japan 2023」を、都内のホテルで開催。3社の社長による基調講演が1日に重なるという、IT業界としては異例の事態となっていた。だが、いずれのイベントも多くの聴講者が参加しており、盛り上がりをみせた。

先行きの不透明感がさらに増すなかで、IT業界のリーダー企業から、解決のヒントを得ようという機運が感じられた1日でもあった。

  • 開催初日には、日立製作所の小島啓二社長兼CEOによる基調講演が行われた

  • 「NEC Visionary Week 2023」で講演する森田隆之社長兼CEOによる基調講演の様子

  • 日本IBMも年次イベント「Think Japan 2023」の基調講演に登壇した山口明夫社長