ソニーグループは、サステナビリティ戦略について説明。アクセシビリティの推進に向けて、障がい者などと一緒に商品やサービスを検討し、その声を反映するインクルーシブデザインを2025年度までに、製品の商品化プロセスに取り入れていくことを示した。すでに、ミラーレス一眼カメラの新製品「α7C II」では、視覚に障がいがあるユーザーの操作をアシストする音声読み上げ機能などを搭載。Sony Interactive Entertainment(SIE)では、PS5用アクセシビリティコントローラーキット「Accessコントローラー」を開発し、障がい者が、より簡単に、快適に、長い時間ゲームを楽しむことができるようにしているという。同社のサステナビリティへの取り組みを追ってみる。
ソニーグループでは、毎年、サステナビリティに関する説明会を開いており、吉田憲一郎会長兼CEOが、2018年にCEOに就任して以降、今年で6回目となる。
冒頭、ソニーグループの吉田憲一郎会長兼CEOは、「感動の社会的意義」という観点から説明。「エンタテインメントは、いつの時代も人々に求められており、ゲーム、音楽、映画、アニメ、スポーツといった感動コンテンツは、人々の生活に豊かさをもたらし、社会において重要な役割を果たす。また、エンタテインメントは分断ではなく、人と人を結びつける力がある」と定義。その具体的な例を示した。
Sony Picturesのアニメーション映画であるスパイダーバースシリーズでは、「誰でもヒーローになれる」というコンセプトで作品を制作し、人種や性別に関係なく、誰もがヒーローとしての力を持つストーリーであり、多様性の大切さを表現。音楽ユニットYOASOBIとSDGsこどもユニットのミドリーズの楽曲である「ツバメ」では、「ともに生きる」ことがテーマになっていると紹介した。
また、視覚障がいのある人たちのクリエイティビティの可能性を広げる製品の展開や、映像の制作現場のアクセシビリティの向上など、テクノロジーを通じてクリエイターを多面的に支え、インクルーシブな社会の実現に貢献していることも強調した。
「感動を創るのは人であり、感動する主体も人である。今後も、感動が持つ社会的意義を世の中に広めるため、約11万人の社員とともに、グループの持続的な成長に加え、社会価値を創出していきたい」と宣言した。
また、サステナビリティ担当役員であるソニーグループ 執行役専務の神戸司郎氏は、「ソニーが、世界を感動で満たすためには、安心して暮らせる社会や健全な地球環境があることが前提となる。これまでの6年間の取り組みを振り返ると、経営層が想定した以上に、社員がアクセシビリティやインクルーシブなデザインに積極的に取り組んでいる手応えがある。こうした取り組みが、ソニー製品の使いやすさや機能の改善にもつながり、顧客開拓につながるという考えが広がっている」と述べた。
今回の説明では、アクセシビリティの向上を通じて、様々なユーザーやクリエイターのニーズに応える取り組みについて時間を割いた。
ソニーグループ サステナビリティ推進部 シニアゼネラルマネジャーのシッピー光氏は、「アクセシビリティとは、年齢や障がいなど、個人の特性や能力、環境にかかわらず、商品やサービス、コンテンツを利用できることである。世界人口の6人に1人を占める約13億人が、障がいや年齢などによって、なんらかの制約を抱えている状況にある」と前置きし、「ソニーグループでは、『誰もが感動を分かち合える未来を、イノベーションの力で』をテーマに、グループ全体でアクセシビリティを推進している。また、ソニーでは、2025年度までに、すべての製品の商品化プロセスにインクルーシブデザインを取り入れる。現時点では、各事業にアサインされている責任者が、指標や基準を検討しているところである。商品開発の初期段階からインクルーシブデザインに取り組むことになる」という。また、2022年度から、インクルーシブデザインの社員研修も実施しており、1,000人を超える社員が受講していることも明らかにした。
すでにいくつかの事例がある。ソニーが2023年8月に発表したフルサイズミラーレス一眼カメラ「α7C II」では、メニューや操作キーなどを読み上げ、視覚に障がいがあるユーザーの操作をアシストする「音声読み上げ機能」や、液晶モニター画面が見づらいユーザーのための1.5倍、2倍、2.5倍に拡大する「メニュー画面拡大表示機能」を搭載した一方で、ソニーのデジタルスチルカメラ サイバーショット「DSC-HX99」と、目に影響がないほどの微弱なレーザーを網膜に投影するQDレーザーのビューファインダー「RETISSA NEOVIEWER」を組み合わせて、ロービジョンの人たちが見えづらい環境を、見える状況に変えることができる世界初の網膜投影カメラキット「DSC-HX99 RNV kit」を日本と米国で発売したことを紹介した。
ソニーの木井一生副社長は、「製品、サービスのアクセシビリティを高め、より多くの人たちにクリエイティビティを発揮してもらえるようにテクノロジーの面から貢献していく」と発言。ソニー イメージングエンタテインメント事業部の大島正昭事業部長は、「ソニーでは、世界のすべての『撮影したい』という意欲がある人に、快適な撮影体験を提供する商品やサービスの提供を目指している。音声読み上げ機能は、2021年にソニーが世界で初めて、α7Ⅳの北米向けモデルに搭載したものであり、現在、国内外10言語に対応している。また、網膜投影カメラキットは、メガネやコンタクレンズを装着していても見えにくいロービジョンの方々にも、クリエイティビティを発揮できる機会をひとつでも多く創出したいという思いから開発した。すでに、盲学校の生徒にも使ってもらうための取り組みを進めており、これをきっかけに写真部ができた盲学校もある」などと述べた。
網膜投影カメラキットにより、ビューファインダーを使うのが難しく、カメラの使用を諦め、スマホにしていたロービジョンの人たちが、カメラを使うきっかけになった例もあるという。
また、SIEでは、あらゆるPlayStationユーザーが、ゲームを楽しみ、喜びや感動を共有できるように、コンソールやゲームタイトル、周辺機器のアクセシビリティを高めていることを紹介し、その一例として、社外の専門コンサルタントや、障がいがあるゲーマーを支援する慈善団体との連携により、PS5用アクセシビリティコントローラーキット「Accessコントローラー」を開発したことに触れた。Accessコントローラーは、ゲーマーのニーズに合わせて様々なさまざまカスタマイズが可能で、障がいのある人が、より簡単に、快適に、そして長い時間、ゲームを楽しむことができる。また、1台のDualSenceワイヤレスコントローラーに加えて、2台のAccessコントローラーを同時接続し、プレイヤーのコンディションに応じて、コントローラーを自由に選択できる。
さらに、PlayStation Studiosでは、視覚、聴覚、運動障がいのあるゲーマーをサポートするアクセシビリティ機能を搭載したゲームタイトルを制作。Naughty Dog リードゲームデザイナーのエミリア・シャッツ氏は、「仮に、必要な情報が画面上にしか表示されていない場合、視覚に障害があるプレイヤーにはアクセシビリティが配慮されていないと考えられる。開発者として、アクセシビリティ機能の開発から始めたのは一部のプレイヤーに特別なニーズがあり、プレイするのに障害になると気がついたからである」とコメント。ハイコントラストモード、トラバーサルアシスト、オートピック、ナビケセーションアシストなどをゲームタイトルのなかに用意したという。これらのゲームタイトルの開発には障がいを持つ開発者も参加している。
また、PS5本体のハードウェア設定では、ズームや色補正、文字の大きさ、音声読み上げ、クローズトキャプション、ボイストランスクリプションなどの幅広いアクセシビリティ機能を導入。アクセシビリティ機能を網羅する新しい音声プラットフォームを構築したという。
UXデザイナーのブライアン・パーソンズ氏は、「障がいがある人は、社会において制約を受けてしまうことが多いのが現状だが、だからこそ、障がいがある人も同じ世界観で体験できる製品を作りたい。アクセシビリティをPlayStationのDNAに組み込むことが重要である」と述べ、アクセシビリティリードのマーク・フレンド氏は、「PS5をプレイしたい人たちにとっての障壁を、これまで以上に下げる方法を見つけるために、アクセシビリティコミュニティの意見にしっかりと耳を傾ける。やることはまだ多い」と語った。
一方、世界的な社会課題への取り組みとして、ソニーグループが2020年に設立した1億ドルの「新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金」と「Global Social Justice Fund」の2つのグローバル基金の活動について報告した。
「新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金」では、これまでに、全世界5,600以上の団体を支援し、基金の約80%の使途が確定したという。具体的には医療機関などへのフェイスシールドの寄贈、ロボットプログラミング教材であるKOOVの寄贈、2,500人以上のクリエイターやアーティストへの支援などを行っている。
「Global Social Justice Fund」では約95%の使途が確定。ソニーグループのエンタテインメント事業会社が連携し、市民の社会参加や刑事司法改革、教育、多様性の推進などの分野において、3年間で70カ国以上、500を超える団体を支援してきたという。
新たな取り組みとして、国際連合児童基金(UNICEF)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、セーブ・ザ・チルドレンと、3年間のパートナーシップを締結して、約1,500万ドルを拠出することを発表。新型コロナウイルス感染症により、深刻化あるいは顕在化した社会課題への取り組みを支援するという。
インクルーシブな社会づくりを支援する取り組みについても説明した。
ソニーグループのファウンダーの一人である井深大氏は、「常識と非常識がぶつかったときにイノベーションが産まれる」と語り、多様性の重要性を示唆していたことに触れながら、多様な価値観やバックグラウンドを持つ人材が活躍できるインクルーシブな職場および社会の実現を目指した取り組みを示した。
具体的には、Sony Music Groupが、音楽業界の次世代リーダー創出を目指すSony Music Group Global Scholars Programを開始し、世界各地の奨学生50人に対する支援を発表したほか、Sony Interactive Entertainmentでは、2021年にPlayStation Career Pathwaysを創設し、ゲーム業界での活躍を目指す意欲的な黒人や先住民族の大学生を対象に、奨学金やメンタリング、キャリア支援を行っていること、Sony Pictures Entertainmentでは、映像ディレクターを目指す将来有望なクリエイターへの支援を目的としたDiverse Directors Programを実施していることを紹介した。
さらに、「ジェンダーギャップが社会課題となっている日本においては、中長期的な視点で、女性エンジニアの育成と成長を支援する取り組みを産学連携で進めている」とし、2022年度からは、奈良女子大学工学部と提携し、中学生から大学生までを対象とした女性エンジニア養成プログラムの一環として、AIやプログラミングに関するワークショップを実施していることを示した。
また、ソニーグループでは、ソニー・太陽や、ソニー希望・光において、ヘッドホンの開発やAIの開発において、障がいがある社員が活躍していることも紹介した。
なお、ソニーグループは、障がいのある人のインクルージョンに焦点を当てた世界経済フォーラムのイニシアティブ「The Valuable 500」に署名した500社のうちの1社であり、国内唯一のIconic Leaderに選出され、障がいがある人たちの活躍推進に取り組んでいるという。
環境への取り組みについては、ソニーグループの神戸執行役専務が説明した。
ソニーグループでは、2010年に発表した長期環境計画「Road to Zero」を発表。「気候変動」「資源」「化学物質」「生物多様性」の4つの視点から、2050年には環境負荷をゼロにすることを目指している。この計画は、5年ごとに設定を見直しており、2022年には、温室効果ガス(GHG)排出量ネットゼロの達成目標年を、10年前倒して、2040年に設定しなおした。
また、環境中期目標である「Green Management 2025(GM2025)」では、2022年度末時点での進捗は、約6割の項目において順調に推移していると自己評価。「GM2025では、製品1台当たりの年間消費電力量を、2018年度比でさらに5%削減する目標を掲げている。足元では、製品の大型化や高性能化、多機能化の影響により、約3.9%増加したが、今後は製品使用時の消費電力を抑制する技術をさらに多くのモデルに適用し、目標達成を目指す」と発言。4K液晶テレビでは、1台あたりの年間消費電力量を2022年度までに2013年度比で約55%削減した例を示した。
資源循環においては、使い捨てプラスチック包装材の削減に向けて、ソニーが開発した再生素材「オリジナルブレンドマテリアル」を、商品の個装カートンに採用。36個の新機種で、プラスチック包装材を廃止したという。また、ET&S(エンタテインメント・テクノロジー&サービス)事業分野では、新規設計する小型製品におけるプラスチック包装材の全廃を、2023年度中に達成できるとしている。
さらに、ソニーグループの事業所における再生可能エネルギーの使用比率を、2025年度までに35%以上に引き上げる目標に対しては、太陽光発電の導入や電力会社からの再エネ電力の購入、再エネ証書の利用などに取り組んでおり、2022年度のソニーグループの再エネ電力率は、2021年度の14.6%から29.7%へと倍増。「2030年の再エネ電力100%という目標達成に向けて順調に推移している」と総括した。
また、2022年度から実施している「パートナーエコチャレンジプログラム」では、ソニーグループの環境活動、省エネ活動のノウハウをサプライヤーに提供。今後は、中国を含め、て、対象地域の拡大を図る予定だという。
そのほか、2020年に創設したコーポレートベンチャーキャピタル「Sony Innovation Fund:Environment」では、水資源やバイオマスプラスチック、気候変動、エネルギーに関する6社のスタートアップ企業に、約3億円を出資。投資先の1社であるCruz Foamでは、エビなどの甲殻類の廃棄物から、キチンという高分子を抽出し、発泡スチロールの代わりとなるバイオマス梱包材を開発し、ソニー製品の梱包材として使用することを検討しているという。
ソニーグループの神戸執行役専務は、「ソニーグループは、責任と貢献の2つの軸で環境への取り組みを推進していく。環境は喫緊の課題であるが、長期目線で取り組んでいくことも大事である。新たな技術について長期的目線で継続していくことが大切だ」などと述べた。