日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)の大隅英貴社長は、2023年度の事業方針について説明。コネクテッド家電を中心とした家電事業や、業務用空調および再生医療施設向けの空調ソリューション事業への取り組み、Lumadaの展開などについて触れた。また、新たに事業ステートメントを制定したことを公表。「家電事業は、プロダクトだけでなく、ソリューションも含めた提案をしていく。より豊かに暮らすことや、多様化した生活に貢献することで、身近な商材から社会イノベーションを実現していく」との考えを示した。
日立GLSは、日立ブランドの白物家電および空調事業を担当している日立製作所の100%子会社である。
2019年4月に、日立アプライアンスと日立コンシューマ・マーケティングが合併して設立。2021年7月には、海外白物家電事業を行う合弁会社として、トルコのアルチェリクとArcelik Hitachi Home Appliances B.V.(AHHA)を設立している。大隅英貴社長は、2022年4月に就任。2022年度の業績は、売上収益が3,923億円、Adjusted EBITAは355億円となっており、2023年度は増収増益を目指している。
なお、日立ブランドのルームエアコン「白くまくん」は、日立GLSとジョンソンコントロールズのジョイントベンチャーである日立ジョンソンコントロールズ空調が扱っている。
日立GLSのパーパス経営「世界中にハピネスを」
日立GLSでは、2020年度にパーパスを制定。「ひとりひとりに、笑顔のある暮らしを。人と社会にやさしい明日を。私たちは、未来をひらくイノベーションで世界中にハピネスをお届けします」としている。
大隅社長は、「パーパスを実現するために、それぞれの事業がどこに向かうのかという点にわかりにくさがあった。そこで、従業員とともに、事業ステートメントを新たに作った。これが、パーパスの実現に向けた手段になる」と説明する。
新たに制定した事業ステートメントは、ホームソリューション事業では、「変わり続けるライフスタイルに、多様な選択肢を。環境を思いやりながら、心地よい暮らしを。ホームソリューションで、あなたの毎日に便利を超えた豊かさをお届けします」とし、空調ソリューション事業では、「家庭から再生医療施設まで、クリーンな空気を。未来の地球を、もっとグリーンに。空調ソリューションでサステナブルな社会を実現します」としている。
「ホームソリューション事業は、家電が実現することや、家庭のなかで実現しなくてはならないことはまだまだ多いということを前提に、プロダクトだけでなく、ソリューションも含めた提案をしていく姿勢を示した。日立GLSのホームソリューションは、変わり続けるライフスタイルに応えることを目指している。かつては、家事の電動化が価値であったが、いまは、より豊かに暮らすこと、多様化した生活に貢献することが大切であり、これが社会イノベーションになる。身近な商材を通じて社会イノベーションを推進していく」と述べた。
また、「空調ソリューション事業では、部屋の空気を整えるだけでなく、地球の全体の空気の課題にも対応し、サステナブルな社会を実現していく」との方向性を示した。
洗濯機、冷蔵庫、掃除機、今の時代のモノづくり
ホームソリューション事業の最新の取り組みについても説明した。
洗濯乾燥機では、乾燥フィルターをなくし、お手入れの手間を軽減する「らくメンテ」と、シワを伸ばしてキレイに仕上げる「風アイロン」により、家事の手間を省くことができる提案を加速。「ユーザーの声を聞くと、基本性能の強化を求めているだけでなく、日々のフィルター掃除が課題となっていることがわかった。ここを徹底的に省力化することで、月に1回掃除をすることで済むようにした」という。
なお、日立GLSのドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム」は、2006年に第1号機を発売してから、2023年3月時点で累計出荷台数が300万台に達した。
また、冷蔵庫では、スマートフォンアプリで冷蔵室内の食材をチェックできる「冷蔵庫カメラ」を搭載するとともに、大容量ながら、奥行をスリムにし、使いやすさを追求した製品づくりを進めていることを強調した。ここでは、家事スタイルの変化に着目。「家事がシェアされる時代には、料理を作るのはお母さんだけでなく、お父さんをはじめとして、家族が料理を作ることになる。だが、お母さんだけが料理を作っていた時代には、冷蔵庫の中身を、連続性を持って管理できていたが、家族が料理するようになるとそれができなくなる。家事をシェアし、冷蔵庫の中身を共有するには、冷蔵庫カメラが鍵を握る」などと述べた。
スティック掃除機のパワーブーストサイクロンでは、2023年度モデルにおいて、再生プラスチックの利用を促進。質量比で40%以上使用した機種へと一本化し、循環型ものづくりの実現とともに、ユーザーにも地球環境に貢献していることを感じてもらえるようにしたという。
また、コードレススティッククリーナーでは、同社史上最軽量となる標準質量0.97kgを実現したことに触れ、「1000mLの牛乳パックよりも軽い。本体の軽さは、さらに追求し、ほうきやクイックルワイパーなどのように、手軽に掃除できる存在になることを目指す。家事をシェアする時代においては、手軽に家事ができることが大切になる。それを実現する上で、掃除機は軽さが絶対条件となる。軽さは徹底的に追求していく。また、スティック型でありながら、紙パックを採用し、ごみ捨ては2カ月に一度でいいといった使い勝手も追求している」とコメント。「だが、同時に良く吸う機能は犠牲にしない。ここは他社には負けない部分である。」と語った。
さらに、同社の掃除機では、ヘッド部分に、新たに緑色のLEDライトを加えた「ごみくっきりライト」を採用。「緑色はもっとも明るく感じる波長に近く、照らされたごみとごみの影の明暗の差がでる。ゴミが感動するぐらいに良く見え、掃除をした際の達成感にもつながる。このように、日本のメーカーならではの細かいところまで配慮したモノづくりをしていく」と述べた。
洗濯機、冷蔵庫、掃除機のモノづくりに関する大隅社長の発言からもわかるように、日立の家電製品は、顧客の声を反映したり、生活スタイルの変化を捉えたりした商品づくりを進めている。
大隅社長は、「日立GLSは、生活を豊かなものにできる商品づくりを目指している。洗うこと、乾かすことといった機能だけでなく、日々の手入れにもフォーカスし、面倒なことを解決できるようにしたり、空いている3分間で手軽に掃除したりといったことに力を注いでいる。スペック競争や性能競争ではなく、生活の困りごとを解決したり、多様化する生活スタイルに貢献したり、少子高齢化の進展や家事のシェアなどにフォーカスしたモノづくりを進めていく」と、日立GLSの家電事業の基本姿勢を強調した。
2022年度にリリースしたスマホアプリ「ハピネスアップ」も、方向性は同じだ。
大隅社長は、「コネクテッド家電の本質的な価値は、服を洗うとか、ゴミを吸うといった場面ごとのサポートではなく、朝起きてから、夜寝るまでを、家電を通じてサポートすることだと考えている。また、5年、10年という長期間を、生活に寄り添いながら、サポートすることも重要である。そして、生活スタイルの変化に対する解決策も提案していく。その役割をサポートするのがハピネスアップになる。ハピネスアップは、単なるコネクテッド家電のインターフェースではないと考えている」と述べた。
ハピネスアップでは、「今日の洗濯指数」、「今日の買い物指数」、「旬の食材」など家事に役立つ情報を提供。気温や湿度、それによる乾き具合を予測したり、旬な食材の提案や献立の支援などを行ったりしている。また、コネクテッド家電の運転状況に応じて、メンテナンス時期の提案や、毎月1回の安心点検結果がアプリに届く機能も搭載している。洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、ロボット掃除機などのコネクテッド家電に対応しており、2023年7月から発売した炊飯器「ふっくら御膳」の新製品も、ハピネスアップが利用できるようになった。
「コネクテッドの特徴を生かして、遠隔地から家電の状況を確認したり、故障の予兆診断も行えるようにしたい。アプリを通じて、接続率を高めるための取り組みも進めたい」とした。
さらに、2022年に発売した冷蔵庫「Chiiil(チール)」についても言及した。
Chiiilは、10種類の本体カラーを用意し、生活スタイルや好みに合わせて使える新たなコンセプトの製品であり、同社のECサイトを通じたD2C(Direct to Consumer)による販売展開を行っている。
「これまでにないユニークな製品を投入するときには、D2Cチャネルに絞って販売し、ユーザーと密にやり取りし、そこからヒントを得て、尖った商品を磨いていくことが大切だと考えている。販売台数が多い製品ではなく、広告も打っていないが、継続的に売れており、振り切った家電に対するニーズは根強い」とコメント。「Chiiilのような尖った商品やカスタマイズを前提とした商品を、もっとやっていきたい。今後、D2Cにおいては、ラインアップ拡充とデジタルマーケティングの強化を進めいていく」と語った。
日立GLSでは、2022年11月から、家電のレンタルサービスを開始している。これについては、「一定のニーズがあるが、まだ規模は出せていない。日立GLSの家電は付加価値の高い商品が多い。そのため、まずは試してみたいという声がある。レンタルサービスは、そうした用途を想定したものであり、今後、認知度を高め、利用を増やしていきたい」とした。
さらに、資源の有効利用を促進するため、家電製品のリファービッシュ(メーカー再生品)販売を、同社ECサイトを通じて開始している。
「手応えを感じている。傷がついてしまった商品は破棄することが多かったが、環境対策という観点や、モノづくりをしている社員の気持ちを考えても意味がある取り組みだと考えている。品質は保証しており、無駄を減らすという意味では、有効なビジネスになる」と位置づけた。
国内家電市場は、2023年4~6月は前年割れの実績となっているが、7月、8月は需要が戻りつつある。
「いまはコロナ明けにより、旅行や飲食などの外向け支出が増えているが、この振り戻しの時期を見極めたい。また、日本の景気は悪くはないが、物価上昇に賃金上昇が追いついていないとの認識もあり、その点も注意深く見ておきたい」とした。さらに、「前年度第1四半期は上海ロックダウンの影響で、一時的に洗濯機が生産できない状況に陥った。再発防止策として、サプライチェーンの強化を進めており、主要パーツは1カ所に依存しないこと、代替の難しいものは在庫を確保しておくといった手段を取り、なにかが起きても、部品を絶やさないことに取り組んでいる。中国の依存度は高いが、それ以外の国での生産により、最適なサプライチェーン構築を進めるほか、為替や社会情勢を捉えたオプションを持ちながらも、コストバランスを追求したい。なにが起こるかわからないことを前提に、ベターなものを常に探したいと考えている」と語った。
アルチェリクとの協業による海外家電事業の一環として、コスト削減を実現する共通プラットフォームを構築し、日本市場やアジア市場を対象にした共同プロジェクトを進めていることも明らかにした。2024年度には、洗濯機、冷蔵庫の共同開発製品を日本市場に投入する考えも示した。
また、風アイロンなどの日立GLSが持つ独自の技術を、AHHAに提供し、冷蔵庫、洗濯機、掃除機の領域において、付加価値が高い製品づくりを進めていることも明かした。
オフィスや再生医療に、業務用空調ソリューション
一方、空調ソリューションでは、2つの観点から説明した。
ひとつは、オフィスや店舗などを含む業務用空調ソリューションである。
快適性と高い省エネ性を両立した店舗・オフィス用エアコンを、2023年春に発売。Lumadaソリューションである同社独自の「exiida 遠隔監視・予兆診断」に対応した商品としており、遠隔監視による簡易点検をサポート。「故障を早期に発見するデジタルソリューションとして高い評価を得ている」という。また、日立のビル用マルチエアコンに内蔵できる「exiida遠隔監視通信ユニット」の販売も開始した。
「空調分野は、維持や保守、管理が大きな課題であり、同時にビル全体をカーボンニュートラルにしていくという点でも重要な役割を担う。エレベータや空調、EVチャージャーなど、個別の商品を売りに行くのではなく、日立グループ全体でカーボンニュートラルを提案するなかで、空調ソリューションを活用したい」とし、「ZEB(ゼロエミッションビルディング)のコンサルテーションから入り、exiidaによるデジタル商材やコネクテッド機器、メンテナンスの訴求を通じて、省エネ化を推進する、ビルまるごとの提案を行っていく」と語った。これもLumadaの取り組みのひとつになる。
もうひとつは、再生医療ソリューションである。ここでは、米エリクサジェン・セラピューティックスと、細胞療法投与を容易にする小型GMP施設の開発を検討しているほか、台湾での再生医療分野向けに、サイフューズやMetaTechとの協業を発表。由風BIOメディカルなどとの協業においては、最新式の細胞培養加工施設とバリューチェーン統合管理プラットフォームを活用した再生細胞薬の製造、供給を開始したことを紹介した。
「細胞療法は、大規模な施設を1カ所に構築するのではなく、あちこちの施設で手軽に培養できるようにすることが大切である。また、自動化して、品質を一定にすることや、細胞のトレーサビリティを確保することも重要になる。これによって、医療品質も向上していくことができる。日立製作所のインダストリアルデジタルビジネスユニットと協業し、細胞培養に適したCPC(細胞培養加工施設)を提供するなど、オール日立として取り組んでいく」と語った。
日立グループを挙げて取り組む「Lumada」
日立グループにおいては、データを活用して社会課題を解決する「Lumada」を重要な取り組みに位置づけており、将来的にはグループ売上げの過半を占め、全社の利益を創出する中心的役割を果たすと位置づけている。
日立GLSでも、Lumadaの取り組みを加速させており、大隅社長は、「Lumadaによって、家電事業がドライブしているとの手応えがある。また、空調事業においてもLumadaによる成果があがっている」とする。
家電事業においては、PSI管理において、AIを活用したデジタイゼーションを推進していることに触れながら、「家電事業は、気候や天気などに影響され、需要の変化の波も大きい。そこで主要製品については、過去の実績をもとに、生産数量、在庫管理をAIで分析し、作りすぎや在庫過多、欠品を無くし、量販店に適切な量を、適切に届けることができる取り組みを進めている。まだ改良が必要ではあるが、一定の効果が出ている。短いサイクルでPDCAを回すことができている」と自己評価した。
また、「Lumadaを、日立家電メンバーズクラブの会員向けサービスの強化にも活用したい」と語り、「家電を購入してもらった時点がスタートであり、お客様と密につながっていくことが大切である。家族構成をもとにした家電の提案、利用時の様々な情報提供、故障予知による修理提案、買い替え提案などを進めていきたい」とする。
Lumadaでは、デジタルエンジニアリング、システムテングレーション、コネクテッドプロダクト、マネージドサービスの4象限のサイクルを展開することが基本戦略であり、「家電事業においても、この4象限での取り組みを回していくことが大切である。家電のライフサイクル全体を通じて価値を提供していく」とした。
ここでは、顧客接点としては、ハピネスアップが活用されることになるが、その裏側では、Lumadaによるデータ活用が進められる。
「コネクテッド家電は、エッジデバイスとして捉え、集まってくるデータを組み合わせて、生活に使ってもらえることが重要である」とし、「今後は、プロダクトだけでは差別化に限界がある。コネクテッド家電とそれに付帯するサービス群を、Lumadaによって提供し、家を起点としたビジネスに転化していく」と述べた。
空調ソリューションでは、先に触れたexiidaを、Lumadaソリューションのひとつに位置づけている。
大隅社長は、「現時点では、家電事業や空調事業にLumadaを活用しているが、今後は、その一部をサービスとして外部に展開していくことも考えている」と述べ、将来に向けて、日立GLSがLumadaを事業化していく方向性についても示した。
DXの進捗、デジタル活用の現状を報告
今回の説明のなかでは、デジタルを活用したいくつかの取り組みについても説明した。
ひとつめは、メタバース活用バーチャル研修会の展開である。販売店などを対象に、メタバース環境を活用した研修会を実施。この環境を進化させて、2023年8月には、「日立バーチャル商品研修会2023夏」を開催して、メタバース空間上で新製品などを紹介。量販店や地域販売店の担当者が、動画コンテンツを視聴したり、オープンチャットで日立GLSの社員に対して質問できたりするようにした。これは2022年の開催に続き、2回目だ。
「メタバースを活用することで、より多くの方々に参加してもらえることができた。地方の販売店からも参加しやすく、自分のタイミングで、自分の知りたい部分の話を聞くことができるメリットがある」
2023年11月には、メタバースを活用した大規模なオンラインイベントを開催する予定であり、2024年以降も継続的に行っていくことになるという。
デジタルを活用したもうひとつの取り組みは、社内向けに実施している「社長メッセージ動画」である。
2022年12月から開始した社長メッセージ動画は、従業員の忌憚のない意見や、様々な質問に、大隅社長が直接答えるという内容で、自らの体験をもとにアドバイスをしたり、課題に対して、自信の考え方を示したりといったことを行っている。現在、31回分が配信されている。
たとえば、「工場の設備が古くなっているのに、更新されない理由はなにか」という質問に対しては、現状を説明し、あと何年、我慢して欲しいという具体的な時期についても言及。「動画を配信後は、私宛に個別に返事をもらい、トップが現場の課題を理解してくれたことや、将来、更新する計画があるならば、いまは我慢して対応したいといった声ももらった。社員とのコミュニケーションが活発化し、エンゲージメントの向上にも役立っている」とする。
実際、社員からも、「オープンで率直なコミュニケーションができている」、「経営陣の新たなチャレンジとして評価したい」など、好意的な評価が多いという。
社長メッセージ動画を開始した理由として、大隅社長は、「中堅社員や若手社員から、上司にモノを言いにくい状況がある、あるいは、言ったとしても経営層には届かないだろうというあきらめの声があると聞いたのが発端だった。そうした課題があるのならば、社長が、直接、それに答えようと考えた。どんな質問からも逃げないのがモットーである。社長メッセージ動画を開始して以降、現場に行くと、社員からも声をかけてもらいやすくなっている」と笑う。
実は、日立GLSの社員エンゲージメントの指標は、日立グループ全体のなかでも低い方だったという。
「若手のあきらめ感や上意下達が強く、活性感が失われているという課題を感じた。それを打破するために、私自身が、振り切ってやってみようと考えた。若手が声を出しやすくなるきっかけを作り、声を出して実行すると、会社が面白くなるということを実感してもらいたい」
以前に比べると、エンゲージメント、チームワーク、会社への誇りに関する指数が向上しており、とくに、「働きがいのある職場」や「組織や職務の壁を越えた効果的なコラボレーション」に対する肯定回答が増加している。大隅社長も、「社員の意識の変化が、経営の活力になっていることを実感している」と述べた。
このほかにも、紹介形式で社員100人が、それぞれの視点でパーパスに対する思いを語ってもらう「パーパス~100人の視点」を展開。さらに、「パーパスタイム」として、1日に15分間、好きなことができる環境を用意し、モノづくりを行う社員が、デジタルを勉強したり、家電担当の社員が、空調事業に取り組んでみたりといったことが始まっているという。「これも、社内にイノベーションを生み出す取り組みのひとつ」と位置づけている。
さらに、家電や空調、あるいは製造、販売、サービスといった縦割りの組織になっていることを打ち破ることを目指し、「ハピネス屋さんの語り場」と開始。「業種や仕事を超えて、自分のことを語る場にしている。洗濯機の開発者が、そのこだわりを徹底して語ることで、営業がそれを知り、その熱を、販売現場で伝えてくれるといったことにつかながっている。また、ある商品をつくっている人が、別の商品を作っている人のこだわりを知ったり、工場に見学に行ってもらい、その工夫を知るといったことも始めている」という。
縦割り組織を打破し、社内を活性するための取り組みを様々な形で推進しはじめていることがわかる。
生成AI促進の専門組織を新設、「ハピネスアップ」に生成AI活用も
一方、生成AIの取り組みについても説明した。
日立グループ全体では2023年5月に、生成AIの社内外での利用を促進する専門組織として、「Generative AIセンター」を新設。日本マイクロソフトのAzure OpenAI Serviceなどを活用するとともに、社内利用を促進する「Generative AIアシスタントツール」を整備し、日立グループの32万人の社員が、様々な業務で生成AIを利用し、業務の効率化や生産性向上につなげる取り組みを開始している。
日立GLSでは、まだ積極的な活用には至っていないというが、大隅社長は、生成AIの可能性には大きな期待を寄せている。
「生成AIは、様々な場面で利用できると考えている。社内での活用では、家電の問い合わせ内容をデータとして活用し、生成AIによって、人間らしく、やさしく対応するといったことが可能になるだろう。生成AIを活用できる部分を増やすことで、人はより丁寧に接していく部分や、人を笑顔にする部分に時間を使えるようになる」と語った。
また、設計能力の向上や、過去の不具合の向上などにAIを活用して、設計部門にフィードバックし、商品の品質を向上させるといった活用も想定しているという。
さらに、社外向けの用途では、スマホアプリ「ハピネスアップ」に、生成AIを活用することも検討していくという。
「午前7時になると、電気がついて、カーテンが開く、あるいは、室温が25℃以上になったらエアコンの電源を入れるといった画一的な使い方ではなく、それぞれの利用者の生活を理解したり、どんなことを好んでいるのかといったことを理解したり、さらには、サジェスチョン型で提案ができるようにするためには、生成AIが必要になる。利用者が住んでいる地域は、午後から雨が降るので、洗濯機は乾燥までやってしまいましょうといった提案もできるようにしたい」とした。
さらに、「一般消費者に直接商品を利用してもらえるというポジションを生かして、日立グループにおけるサービス領域の実験台としての役割も担いたい。その成果を、Lumadaソリューションとして外販することも可能になる。生成AIの活用は、最初から100点を取りに行くのではなく、アジャイルに、スピード感を持ってやっていくことが大切である。まずは、自分たちで活用して、その効果を刈り取り、次の進化に生かしたい」と語った。
今回の事業方針説明では、大隅社長のリーダーシップのもと、日立GLSの風土や文化を変化させる取り組みが加速していることが示されるとともに、家電事業においては、生活スタイルの多様化に向けた新たなモノづくりを強化していることを浮き彫りにした。また、空調ソリューションでも、デジタルの活用を推進するとともに、再生医療ソリューションにおいては新たな領域への展開を行っていることを明らかにした。
家電市場は低迷するフェーズに入っているが、こうした時期だからこそ、新たな価値を持った商品が生まれやすいともいえるだろう。日立GLSのモノづくりにおける次の進化にも注目したい。