パナソニックグループは、社会や環境への活動へ方針や取り組みをまとめた「サステナビリティデータブック2023」を、2023年8月31日に公開した。

  • パナソニック「サステナビリティ」の歩みは十分か? 社会・国際での認知活動も鍵に

    パナソニックの「サステナビリティデータブック2023」が公開された

パナソニック オペレーショナルエクセレンス 品質・環境本部の楠本正治本部長は、「自社バリューチェーンのCO2削減については、スコープ1、2で、2020年度からの削減量を36万トンとし、大幅に進捗した。スコープ3は、同じ対象範囲で比べると、930万トンの削減になった。今後も削減対象を的確に認識するために、スコープ3の算定範囲や、算定方法を継続的に見直し、精度向上に積極的に取り組んでいく」と述べた。

  • パナソニック オペレーショナルエクセレンス 品質・環境本部の楠本正治本部長

また、「お客様や社会の排出削減に貢献した『削減貢献量』の可視化も進んだ。『削減貢献量』の社会的意義や標準化の必要性の議論を先導するため、今回のデータブックでは、その考え方や取り組み、ガイダンスに沿った先行事例を初めて開示した」としている。

  • 「サステナビリティデータブック」の位置づけ

  • ちなみにこれはサステナビリティデータブック2023の目次。環境や人権から、AI倫理、地域貢献、サイバーセキュリティなど多くの内容が盛り込まれている

パナソニックグループでは、2022年4月に、グループ長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT(PGI)」を発表。2030年までに自社事業に伴うCO2排出量を実質ゼロにするほか、2050年に向けて、現時点の全世界の排出総量である約330億トンの約1%にあたる3億トン以上の削減貢献インパクトを創出する活動に取り組んでいる。

また、2022年7月には、3カ年の環境行動計画である「GREEN IMPACT PLAN (GIP)2024」を発表し、2024年度までに、自社バリューチェーンにおいて1,634万トンのCO2削減量と、CO2ゼロ工場を37工場に拡大する「OWN IMPACT」、既存事業によるCO2削減貢献量で3,830万トンを目指す「CONTRIBUTION IMPACT」、工場廃棄物リサイクル率で99%以上や再生樹脂使用量で9万トン以上、サーキュラーエコノミー型事業モデルを13事業に広げる「サーキュラーエコノミー領域での貢献」の3点に取り組んでいる。

「創業者である松下幸之助は、1932年の第1回創業記念式で、物と心が共に豊かな理想の社会の実現を掲げ、それを250年かけて実現する構想を打ち出した。しかし、気候変動に伴う自然災害などが暮らしに影響を与えており、いまから160年先に、この使命を全うするどころか、地球上で暮らしていくことができるのかという状況になっている。パナソニックグループでは、最優先の経営課題として、事業において地球環境問題の解決に取り組むことを決意している。それがPGIの策定につながっている」と位置づけた。

  • 松下幸之助氏が1932年、最初の創業記念式の場で打ち出した250年構想

今回の「サステナビリティデータブック2023」では、GIP2024の初年度となる2022年度の実績をまとめている。

これによると、自社バリューチェーンのCO2削減量であるOWN IMPACTでは、基準年度としている2020年度と比較すると、2,170万トン増加し、排出量削減の観点では逆行する結果となった。

  • GIP2024の2022年度の実績

だがこれには理由がある。

「2022年度から、冷凍機、ショーケース、ヒートポンプ給湯暖房機、送風機、吸収式冷凍機を加え、対象範囲を広げたことが要因となっている。これらは事業規模が小さい領域であったが、成長事業へと変化してきたことから、新たに算定領域に加えた」という。

新たに算定領域に加えた事業では、ショーケースのハスマンなど、M&Aによって買収した企業も含まれており、これまで反映できていなかった要因のひとつとして、販売システムや環境システムのデータ連携に時間を要したこともあげた。

対象範囲の拡大により、新たに17製品が加わり、1,341万トン増加したという。

さらに、コールドチェーンや空質空調機器の冷媒の漏洩、放出などで1,581万トンを新たに計上した。「この部分は実態を把握することが難しかったため、数値が算定できずに、反映ができていなかった。今後、冷媒の回収を進めたり、温暖化係数の低い自然冷媒を使った排出削減貢献を伝えるためには、現時点で数値化しておく必要があると考えていた。製品使用時の冷媒の漏洩、製品廃棄時の冷媒の放出を数値化することで、算定を精緻化することができた」と述べた。

新たに算定対象に加えた製品追加と、冷媒関連機器の算定精緻化により、2,895万トンが増加しているが、2020年度と同じ対象範囲で比べると939万トンの削減になっているという。対象範囲内での比較では、CO2排出量が大きい照明やエアコン、冷蔵庫、洗濯乾燥機などでの省エネ化が貢献している。

一方、社会へのCO2削減貢献量であるCONTRIBUTION IMPACTでは、3,727万トンとなり、2020年度と比較すると、1,376万トンの貢献増になったという。「2025年度目標の3,830万トンに一気に近づいている」と自己評価した。

また、CO2ゼロ工場は、2022年度までに31拠点で達成。とくにオートモーティブシステムズは全拠点で達成したという。「2024年度の37拠点の目標に対して、順調に進んでいる」と述べた。

  • CO2ゼロ工場の拡大。とくにオートモーティブシステムズは2022年までに全拠点で達成した

サーキュラーエコノミー型事業については、家電リサイクルを中心に実施してきた循環型モノづくりの進化に加えて、シェアリングやリファービッシュなどのサービス事業モデルの変革による取り組みを進めており、2022年度実績で10事業にまで拡大したという。

2022年度に新たに加わったのは、ローソンとの中国におけるコンビニ店舗設備のリファービッシュ事業モデル、賃貸住宅向け家電製品のサブスクリプションおよびリフォーム事業、工場排出物を新製品の部材に活用し、パートナー企業が商品化および販売する工場廃材の活用、単三および単四乾電池の包装を脱プラスチック化し、紙パッケージを採用する4つ事業だ。

  • 循環経済(サーキュラーエコノミー)は、環境省の説明では「資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等を目指すもの」とされており、ポストコロナ時代における新たな競争力の源泉となる可能性を秘めているそうだ

再生樹脂の使用量は年間1万2,400トンとなり、「年間の樹脂使用量の30万トンに対しては、まだこれからである」と述べた。工場廃棄物のリサイクル率は99.0%となっている。

パナソニックグループでは、環境活動において、「削減貢献量」の認知を高める取り組みを行っている。

楠本本部長は、「社会の脱炭素化の実現に向けては、リスクと機会の両面から評価される必要があるが、現時点では、新たな製品やサービスを通じて社会全体の脱炭素化を行うという事業活動の機会を、適切に評価する仕組みが十分ではない」と指摘。「GHGプロトコルのスコープ1、2、3の排出量による評価が、デファクトスタンダードとして広く活用されているが、これはリスク面の評価であり、パナソニックグループが車載電池の事業規模を拡大すると、排出量が増え、ネガティブな企業評価につながるという課題がある。企業によっては、新たな分野に投資しにくくなることにつながり、金融機関にも正しく理解してもらう必要がある」と提言する。

削減貢献量は、製品やサービスを導入しなかった場合と、導入した場合のCO2排出量の差分を指した数値だ。だが、スコープ1、2、3の排出量とは、概念や用途が異なるものであるため、排出量を相殺するものではないという点も留意が必要だ。

  • 削減貢献量は、スコープ1、2、3の排出量とは、概念や用途が異なる

「削減貢献量は、社会全体の脱炭素化を行う事業活動を適切に評価する仕組みとして有力な候補であるが、統一された基準がなく、社会的な認知度も低い。しかし、企業の脱炭素貢献を適切に評価するモノサシとして、削減貢献量は意義があると考えており、同じ志を持つ企業や金融機関、政府、関係機関とともに、グローバルで認知拡大を進めることが大切だと考えている」とした。

パナソニックグループでは、削減貢献量の認知拡大に向けて、IEC(国際電気標準会議)や経済産業省GXリーグ、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)での議論を通じた標準化活動や、国際GX会合、ICMA(国際資本市場協会)、COP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)、CES2023などの国際的イベントで訴求する活動などを進めてきた。

「国際GX会合やCOP27では、課題提起を行い、共感を得たり、コンセンサスを形成するといった成果があがったりしている。また、G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合では、『削減貢献量を認識することに価値がある』と文書に明記された。さらに、G7広島首脳会合では、削減貢献量という言葉は使われなかったが、排出削減に貢献するイノベーションを促すための民間事業者の取り組みを奨励、促進するといった文言が明記された。これは、エポックメイキングな出来事として捉えている。活動は緒についたばかりだが、これからも活動を積極化し、発信を続けていく」と語った。

  • 削減貢献量の意義や価値を発信、標準化の必要性を訴えている

今回の「サステナビリティデータブック2023」においても、削減貢献量について報告。WBCSDやGXリーグのガイダンスに準拠して、削減貢献量の代表事例を自主開示している。

パナソニックグループでは、49事業において、削減貢献量を算出している。

算出している事業は、EV用円筒型充電池、ヒートポンプ給湯暖房など、化石燃料から置き換える「電化」、家庭用エアコンやLED照明など、普及が進んだ電気製品をより省エネ化する「置き換え」、熱交換気システムをはじめとして、単体だけでなくシステムと組み合わせた「ソリューション」、太陽光発電や燃料電池などの創エネ、蓄エネによる「その他」で構成している。

サステナビリティデータブック2023によると、電化では4事業で1,779万トン、置き換えでは34事業で1,100万トン、ソリューションでは4事業で242万トン、その他では7事業で601万トンの削減貢献量となっており、「とくに、EV用円筒形充電池やヒートポンプ給湯暖房が貢献量の伸びを牽引している。ソリューションやデバイス、さらにはその他の事業で、可視化や開示の余地は大きい」とした。