レノボ・ジャパンは、2023年度の教育分野向けビジネスとして、教育現場における教育コンテンツの提供や運用支援に力を注いでいる。GIGAスクール構想によって、約850万台のデバイスが導入され、小中学校では1人1台の環境が整う一方で、それから3年を経過し、現場でのコンテンツ活用の課題などが浮き彫りになっており、それにあわせて、現場を支援するための取り組みを強化しているところだ。また、教育現場において故障するPCが増加していることに対しても、独自のサービスによって対応を開始している。GIGAスクール構想における整備において、トップシェアを誇るレノボ・ジャパンの2023年度の教育分野での取り組みについて聞いた。
調査会社などの調べによると、レノボ・ジャパンは、GIGAスクール構想におけるデバイス導入でトップシェアを獲得している。
2020年度に約850万台が整備されたGIGAスクール構想では、Windows PC、Chromebook、iPadが導入されたが、これらの総計においても、レノボ・ジャパンは4分の1以上のシェアを持ち、トップシェアを獲得している。とくに、Windows PCでは3分の1以上のシェアを持ち、Chromebookでも3割近いシェアを誇っている。
レノボ・ジャパン エンタープライズ事業部教育ビジネス開発部の渡辺守部長は、「2023年度は、教育現場においてデバイスやコンテンツの利活用を高めるための活動、インクルーシブ教育の実現を支援する取り組みに力を注いでいる。さらに、故障するデバイスの増加に対応した仕組みの構築、2025年度から本格化するNext GIGAに向けた準備も、2023年度の重要なテーマになる」と発言。「GIGAスクールにおけるトップシェアメーカーとして、導入だけでなく、運用面の課題や、故障したデバイスのサポートなどにも、責任をもって対応していく」と語った。
デバイスやコンテンツの利活用を高めるために
デバイスやコンテンツの利活用を高めるための活動としては、教育コンテンツの提供と、教員のICTリテラシーを高めるための活動を推進することを掲げている。
レノボ・ジャパンでは、独自の教育コンテンツとして、プログラミング教育ソフト「みんなでプログラミング」を用意。無償版と有償版を提供している。
小中学校向けと高校向けをラインアップしており、いずれも東京書籍の監修のもとにコンテンツを開発。無償利用を含めて、すでに100万ライセンスが利用されているという。
小中学校向け「みんなでプログラミング」では、単元ごとに課題が設定されたオリジナルのブロックプログラミングツールと、本格的なプログラミングにも不可欠となるタイピングスキルを学ぶためのツールを提供。さらに、新学習指導要領に対応するため、データ分析やAIプログラミング、情報モラルといった領域にもコンテンツを拡充しているほか、教員向けの専用機能も実装。授業中に生徒一人ひとりの学習の進捗状況を確認したり、ブロックプラグラミグの問題を作成したりといった機能を提供している。
「小中学校向けの『みんなでプログラミング』では、視覚的にプログラミングを学べるようにしている。OSや端末を問わず、ウェブブラウザで利用でき、学校だけでなく、家庭学習でも利用できる」という。
コンテンツで使用しているキャラクターは、ポケモンなどで実績がある、ありがひとし氏が担当しており、「子供たちが学習コンテンツに親しみやすいようにしている」という。
プログラミングでは79ステージ、タイピングでは7ステージを提供するとともに、22本の動画を用意している。
また、高校向け「みんなでプログラミング」は、「情報Ⅰ」の科目を学べるコンテンツ教材となっており、コンピュータの仕組みやPython入門、アルゴリズムの効率性、モデル化とシミュレーションといった項目を用意。大学入学共通テストを受験する生徒が多い学校での採用が進んでいるという。
高校版では、プログラミングで65ステージ、CBTドリルが410問、CBTテストは章末テストや学年末テストを含めて10種類を用意。動画も18本が提供されている。
一方で、教員のICTリテラシーを高めるための活動も強化している。デバイスや教育コンテンツの利活用を促進するためのウェブセミナーを開催するなど、現場利用に則した形で、教員に対する教育支援体制を敷いているという。
令和の日本型学校教育へ、インクルーシブ教育を支援
もうひとつ重要なのが、インクルーシブ教育の実現を支援する取り組みである。
インクルーシブ教育とは、一般的に障害を持った子供たちに対する教育を指すことが多いが、レノボ・ジャパンでは、あらゆる子供たちに教育を提供する環境づくりのひとつに捉えており、文部科学省が目指している「誰一人取り残すことのない、令和の日本型学校教育の構築」を支援するものと位置づけている。
「教育現場にICTが導入されたことにより、一斉授業から個別学習までの対応が可能になり、学習の習熟度にあわせたきめ細かい学習が可能になる。誰一人取り残さない教育を実現するための取り組みが可能になる」とする。
ここでは、レノボがグローバルで取り組んでいる「ハイブリッドラーニング」がある。これは、どこからでも学べる環境の実現を支援するものだ。
たとえば、教員が遠隔授業を行う際に、簡単に環境が準備できるように、カメラやスピーカー、マイクを含む必要な機能を、オールインワンパッケージで提供できるThink Smartが提案のひとつとなる。
Think Smartは、オフィスの会議室などに設置して利用することを目的に製品化されたものだが、これを学校現場でも利用する提案が、ここにきて加速しているという。
「Think Smartには、教室の広さであれば、十分に集音できるマイクの性能がある。文科省で示されたように、今後、遠隔教育が増加すると見られるなかで、教員に負担をかけずに遠隔教育の設定が可能になる製品として、Think Smartを提案したい」とする。
そして、ハイブリッドラーニングの取り組みにおける新たな提案が、「メタバーススクール」である。現時点では、実証実験の段階だが、メタバース空間に、学ぶための環境を作り上げ、そこに生徒が参加して、学習体験を実現することになる。
山形東高等学校とNTTコミュニケーションズは、2022年12月から、メタバース空間上に模擬国連を構築。実際の国連会議と同様に、生徒が議論や交渉、決議採択をする過程を体験することができる実証実験を行った。ここでも、レノボ・ジャパンが、メタバース空間の企画、構築、運用で支援を行った。
「インクルーシブ教育を実現する上で、テクノロジーの活用は重要な意味を持つ。メタバース空間であれば、気持ちの問題で登校しにくい生徒や、怪我や病気、障害によって登校できない生徒も、アバターによる登校が可能になる。アバターを使用することで、消極的だった生徒が、発言しやすくなったり、活動が積極化したりといった効果が実証されている」とし、「現在、4つの教育委員会と実証実験を進めている。GIGAスクール構想で整備されたデバイスを利用しながら、仮想空間で授業を行うことで、これまでにはない新たな授業が提案できる」と語る。
東京都では、日本語指導および支援が必要な不登校の生徒に対して、オンライン上の仮想空間を活用して、居場所や学びの場を提供する「バーチャル・ラーニング・プラットフォーム(VLP)」を整備する方針を打ち出しており、今後は、こうした取り組みが全国に広がると見られている。
こうした全国各地での様々な動きに対しても、レノボ・ジャパンが支援体制を敷き、支援する姿勢をみせる。「全国の教育委員会に対して、ハイブリッドラーニングの体験会の提案などを行い、インクルーシブ教育の支援に関する取り組みを加速させていく」と意欲をみせている。
「授業を止めない」デバイスの在り方
さらに、レノボ・ジャパンでは、教育現場に導入されたデバイスに対する支援も強化している。
教育現場では、GIGAスクール構想で整備されたデバイスが3年目に入り、故障の増加が課題となっている。授業を止めない形でデバイスが利用できる環境づくりが求められており、それに向けて、修理期間の短縮化や修理予算の確保、予備機の活用や保険の適用など、様々な提案が行われている。
レノボ・ジャパンでは、群馬県太田市のNECパーソナルコンピュータ群馬事業場で行っているGIGAスクール端末専用の修理エリアを設置するとともに、「2nd Map」として、同事業場での修理能力を当初の1.3倍に拡大。さらに、GIGAスクール端末向けの保守に関する専用問い合わせ窓口も設置し、増加する修理台数に対応している。
また、デバイスの故障が、生徒の扱い方に起因していることにも着目し、小中学生向けに「パソコンのあつかいかた」と題した動画を制作。YouTubeを通じて配信し、自由に視聴できるようにしているほか、学校でパソコンを使用する最初の授業で使用することも提案している。
「生徒に対して、使い方をしっかりと教えている学校では故障率が低いという傾向がある。動画では、パソコンはたたかないこと、投げないこと、落とさないこと、ふまないこと、投げないなどを示している。パソコンを大事に扱ってもらうことが、故障を減らすことにつながる」とする。
なお、小中学生向けには、「パソコンのあつかいかた」以外にも、「パソコンかくぶのなまえ」、「パソコンのきほんそうさ」、「パソコンのもちかえりかた」といったコンテンツも用意しており、パソコンの利用方法をわかりやすく説明。これも教員の支援と、故障率の減少につながると見ている。
・各種扱い方動画の例
1. パソコンのあつかいかた(かいていばん)
https://www.youtube.com/watch?v=8DyHP_Wm-Tw
2. パソコンかくぶのなまえ(Win)
https://www.youtube.com/watch?v=6UhgE1ofvX0
2. パソコン かくぶのなまえ(Chrome)
https://www.youtube.com/watch?v=6UhgE1ofvX0
3. パソコンのきほんそうさ(Win)
https://www.youtube.com/watch?v=IjHADaBVdrw
3. パソコンのきほんそうさ(Chrome)
https://www.youtube.com/watch?v=g7AJw2ZFWUg
4. パソコンのもちかえりかた
https://www.youtube.com/watch?v=Y4zk8gUeyqA
5. みんなでプログラミング 紹介
https://www.youtube.com/watch?v=AjDm8rn2Wj4
一方、全国の教育委員会から注目が集まっているのが、「保守用代替機運用サービス」である。
レノボ・ジャパンでは、教育委員会との契約により、一定台数の予備機を確保。群馬事業場に保管し、故障が発生した場合には、基本設定を行い、代替機をすぐに現場に届けることができる。最小契約台数は100台からで、保守契約や保険契約、予備機の購入よりも低予算で対応ができるのが特徴だ。
2022年夏から開始した保守用代替機運用サービスは、これまでに約10自治体が契約。今後、契約する自治体が増えそうだ。
「Next GIGA」は2025年度から本格化
レノボ・ジャパンの2023年度における新たな取り組みのひとつが、2025年度から本格化すると推測されるNext GIGAに向けた準備だ。
GIGAスクール構想によって、2020年度に整備されたデバイスは、2025年度には、更新時期を迎えることになるが、2023年6月16日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針 2023」において、「各地方公共団体による維持・更新に係る持続的な利活用計画の状況を検証しつつ、国策として推進するGIGAスクール構想の1人1台端末について、公教育の必須ツールとして、更新を着実に進める」と明文化されており、Next GIGAにおいても、政府予算のもとでデバイスが整備される方向性が示されている。
現時点では、具体的な整備方法や期間、整備されるデバイスの仕様などは明らかではないが、800万台以上が対象となる更新計画であり、それを納期までに導入できる部材、生産、物流体制の確保が重要になる。Next GIGAは入札案件であるため、納期が遵守されなかった場合にはペナルティが発生するということからも、Next GIGAに向けたサプライチェーンの確立は、今後、PCメーカー各社にとって、最優先課題となるのは明らかだ。
しかも、2025年10月には、Windows 10の延長サポートが終了するため、法人向けPCや、個人向けPCでも、2025年度には特需が発生すると見られている。その分も想定した上で、Next GIGA向けのデバイスを確保する必要がある。
「まだ、準備段階には過ぎないが、いまから動向を見ておく必要がある」と、すでに準備には余念がない。
GIGAスクール構想において、トップシェアメーカーとなったレノボ・ジャパンは、教育コンテンツの充実、運用および修理のサポート体制構築だけでなくNext GIGAの準備もスタートしている。レノボ・ジャパンの2023年度における教育分野への取り組みは、現在、そして未来に向けて、多岐に渡るものになっている。