「レッツノートを研ぎ澄ます」――。

2023年4月1日付で、レットノートやタフブックを担当するモバイルソリューションズ事業部マネージングダイレクターに就任した、パナソニックコネクトの山本清高執行役員ヴァイス・プレジデントは、6月6日に開催したレッツノートの新製品発表会で、こう宣言した。

  • レッツノートを「研ぎ澄ます」 新たな挑戦へ、改めて進化を宣言した背景

    パナソニックコネクトの山本清高執行役員ヴァイス・プレジデントが、レットノートやタフブックを担当するモバイルソリューションズ事業部マネージングダイレクターに就任した

「レッツノートは、丈夫で、軽くて、長もちが特徴である。これらを研ぎ澄まして、持ち運んでも壊れない、長時間稼働するというところに、重きを置くとともに、身体の一部のように持ち運ぶために、1gでも軽くすることに、もう一度挑戦する。モバイルワーカーのビジネスの成功に貢献したいと考えている」と語る。

もちろん、頑丈、軽量、長時間というレッツノートの進化は止まっていたわけではない。しかし、改めて、それらの進化を宣言する背景には、市場環境の大きな変化が見逃せない。

  • 2023年夏の新製品としては、QR/SR/FVの3シリーズが発表されたが、中でも注目は新シリーズとなるモバイルワーカー向けの2in1 PCであるレッツノートの「QR」シリーズ

  • レッツノート QRシリーズの特徴。アフターコロナで増える対面利用の新定番PCとなることを目指す

もともとレッツノートは、モバイルワーカーのためのデバイスとして進化を続け、持ち運んで仕事をすることが多いビジネスマンたちから高い評価を得ていた。「新幹線シェアが高い」と言われるように、新幹線の車内では、レッツノートの利用者が多く、出張が多いビジネスマンにとっては最適なノートPCであった。また、記者会見場でもレッツノートのシェアが高く、大手メディアが、持ち運んで記事を書くことが多い記者用PCとして、相次いでレッツノートを採用している。

しかし、コロナ禍によって、在宅ワークが増加。持ち運びに威力を発揮するレッツノートの特徴である「丈夫で、軽くて、長持ち」といった強みが埋もれやすい市場環境が約3年間続いた。だが、その間も、神戸工場で生産する品質面での安心感や、国内におけるサポートおよび修理体制の構築、ソフトウェアによる使い勝手の進化といった点には評価が集まっていた。

2023年2月からは国内PCメーカーとしては初めてDFCIに対応し、在宅ワークが増えた環境のなかでも、企業のIT管理者やセキュリティ担当者の負担を軽減できるようにしており、これも新たな市場環境に対応したものだったといえる。

そして、2023年5月からは、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類に移行したことで、日本においてもアフターコロナの時代を迎え、それに伴い、ハイブリッドワークの形がさらに変化。レッツノートの主要ターゲットとなるモバイルワーカーたちにも新たな働き方が定着しはじめている。

山本執行役員ヴァイス・プレジデントは、「ZoomやTeamsなどを活用したオンライン接続した在宅ワークに加えて、1人1台がPCを持ち、そのなかでデータを共有し、在宅ワークの人ともつながるオフィスワークでの利用、PCを持ち帰り、自分のカバンの中に常にPCを携行し、いつでも出して仕事ができるモバイルワーク、そして、アフターコロナによりお客様に訪問し、商談を行うリアルの現場での使い方も増えた」とし、「以前のモバイルワーカーは、出張の時や商談の時だけノートPCを持ち歩けばよかったが、いまは、いつも持ち歩くようになった。会社に申請してPCを持ち出すという仕組みではなく、1人1台のPCを常に持ち運ぶことが前提となり、様々な場所でPCを使い、働き方も変わっている。リアルとオンラインの融合によって、PCは仕事のインフラになっている。PCは空気と同じようなもので、無くては困る存在になっている」とする。

  • 営業現場でPCを活用するイメージ。1人1台のPCを常に持ち運ぶことが前提となり、様々な場所でPCを使い、働き方も変わっている

モバイルワーカーが働く場所が増え、使い方が広がったことで、PCに求められる機能や要素も変化している。

「ハイブリッドワークが広がったことで、PCには深刻な問題が発生している」としながら、「持ち歩くシーンが増えたため、落としたり、故障のリスクが増えた。また、傷がついたり、紛失したりといった例もある。そして、モバイル環境においても、ウェブ会議に接続した状態で利用するケースが増え、CPUの稼働率が高く、バッテリー消費が激しいという課題も生まれている。バッテリーが長時間持つことは、これまで以上に重要になっている」

オフィス内の会議でも変化が生まれており、それもPCに求められる要件を変えている。

「従来のオフィス内の会議は、プレゼンテータがPCを使って、資料を投影し、参加者には紙の資料が配布されるというケースが多かった。いまは、参加者全員が1人1台のPCを持ち、資料はPC上で閲覧し、さらに、オフィスの外からも参加者がいるため、それぞれがオンライン会議にもつないで参加している。これまで以上にPCへの負荷が高まっている。バッテリーが持たないため、会議室のなかで、10人、20人が電源を探していたら会議にならない」

ハイブリッドワークの広がりは、PCに対しても、より高い要件を求めることにつながっているわけだ。

  • 働き方の変化で、PCに求められる要件が引きあがっている

山本執行役員ヴァイス・プレジデントは、「モバイルワーカーを支え続けるためには、こうした課題に対処していかなくてはならない。丈夫で、軽くて、長時間使えることは、レッツノートの特徴であるが、もう一度、壊れないこと、1gでも軽量化すること、少しでも長時間持つことに対して、根本から考えなおすことにした。マネージングダイレクターに就いてからは、それらにこだわり、より一層、研ぎ澄ますことを、社内の掛け声にしている」と語った。

  • 「もう一度、壊れないこと、1gでも軽量化すること、少しでも長時間持つことに対して、根本から考えなおすことにした」という山本氏

山本執行役員ヴァイス・プレジデントは、1991年に九州松下電器に入社し、佐賀事業部ソフト開発4課に配属。プリンタやスキャナーなどのWindows対応ドライバの開発のほか、インストーラー、ウェブ管理システムなどのソフトウェア開発に携わってきたという。

「当時は、マイクロソフトのデベロッパーズネットワークに入り、ソフトウェア開発に必要なWindowsに関する質問をしていた技術者だった」と振り返る。

2013年にPSNオフィスプロダクツ事業部ソフトウェア開発部部長に就き、2019年にはパナソニックコネクティッドソリューションズ ビジネスコミュニケーションBUビジネスユニット長に就任。2022年には、パナソニックコネクトの品質・環境・CS担当兼ビジネスコミュニケーションBU担当執行役員に就任。2023年4月に、これまでの事業部長職であったマネージングダイレクターに就任し、同時にゼテス・インダストリーズも担当している。

兼務しているゼテスは、ベルギーに本社を置き、2017年にパナソニックグループが買収。サプライチェーンの最適化ソリューションで実績を持つ。レッツノートを生産する神戸工場においも、ゼテスの入出庫効率化ソリューションを導入し、検品作業にかかる時間を3分の1に短縮するといった効果が出ている。タフブックと組み合わせた「配送見える化ソリューション」などを提案するといったビジネスを加速する上でも、同氏がゼテス事業を兼務していることは効果がありそうだ。

「ゼテスは、タフブックシリーズのタブレットとの組み合わせ提案が特徴になる」と語る。

また、神戸工場では、サプライチェーンマネジメントのBlue Yonderも導入。業務プロセスや調達プロセスの改革に取り組んでいる。ここでは、需要集計から計画作業までのリードタイムの短縮、在庫量の削減、長期的生産計画の対象期間の長期化などの成果が出ているが、「Blue Yonderを活用したS&OP(Sales & Operations Planning)は、もう少し改善が必要である。ここに取り組んでいきたい」と述べた。神戸工場は、Blue Yonderのショーケースと位置づけられている。国内における先進事例のひとつとしても、その取り組みが注目される。

さらに、パナソニックが取り組んでいる環境行動計画「Panasonic GREEN IMPACT」についても言及。「工場では、2022年度のCO2排出量を、2016年度比で32%削減。2024年1月には神戸工場に太陽光パネルを設置する。また、プラ梱包材は、2016年モデルに比べて60%削減し、取扱説明書の簡易化では前年度モデルに比べて90%の削減を達成した。今後、タフブックでは、EPEAT シルバーを取得する予定である」と、環境貢献の取り組みにも余念がない。

ちなみに、山本執行役員ヴァイス・プレジデントの趣味は自動車で、レースに出ていたほどの車好きだという。自動車業界は環境に対して先進的だ。もしかしたら、環境に対して強い関心を持っているのも、自らの趣味が影響しているのかもしれない。

レッツノートは、2022年度実績で、年間出荷台数が前年比2桁増の成長を達成。1996年にレッツノートの事業をスタートして以来、2023年4月には累計出荷で700万台に達したという。

また、モバイルソリューションズ事業部は、レッツノート、タフブック、決済端末の3つの製品で事業を展開。「強いハードウェアで貢献し、それぞれターゲットとした業界でナンバーワンのシェアを獲得している。お客様とともに創り上げた販売実績であり、困りごとはなにかを考えながら開発をしてきた。これからもモバイルワーカーのビジネスの現場に貢献し、お客様のビジネスの成功に寄与していくことになる」と語る。

レッツノートおよびタフブックは、合計での年間出荷で100万台という目標に何度か挑戦してきた経緯がある。2018年度に96万台を達成したのが過去最高の実績だ。ここ数年は、コロナ禍における需要の変化、部品調達の遅れなどが影響したが、2022年度は回復基調にあることを示した格好だ。

今後の国内PC市場の動向をみると、2025年10月には、Windows 10のEOSを迎え、それにあわせて買い替え特需が想定されるほか、GIGAスクール構想によって整備されたデバイスのリプレース、コロナ禍で進展したテレワーク需要で購入されたノートPCの買い替え時期が、2025年度に重なることが想定されている。レットノートおよびタフブックにとっても、年間100万台への再挑戦というタイミングが、再び視野に入ってくる。

山本執行役員ヴァイス・プレジデントは、「レットノートやタフブックは、数字を追わないビジネスモデルであり、100万台には大きなこだわりはない」とするものの、「100万台は、お客様のビジネスに貢献した証として、到達したいと考えている。その観点からいえば、やりたい目標ではある」とする。

そして、「お客様に寄り添い、唯一無二の存在になることで、2024年度のEBITDAマージン率で10%を目指す。お客様にとって無くてはならないものになりたい」と力を込める。

新たに発表したレッツノート QRシリーズは、アフターコロナ時代のハイブリッドワークに最適なPCとして投入された。それに続く、製品群も、どんな形で「研ぎ澄ました」ものになるのかが楽しみだ。