アクセンチュアは、世界10カ国の経営幹部を対象に実施した「トータル・エンタープライズ・リインベンション」に関する調査結果を発表。それに基づき、高成長企業の特徴や、日本企業が抱える課題と解決に向けた提言を行った。
同社では調査結果から、リインベンターズ(再創造企業)と位置づけられる企業は、全体の8%に留まっているが、それらの企業には6つの共通した価値観があることを示した。
また、日本の企業は、リインベンターズが7%となり、グローバル全体と差はなかったが、CEOやCOO、CFO以外のリーダーがリインベンションを推進しているケースが多く、ボトムアップ型になるため、確実性や短期的、成果重視の取り組みに陥りがちだという課題を指摘。「野心と成果に対して、覚悟が低い傾向がある。また、新興テクノロジーについては、『性能』として見えるモノに関心が偏りがちであり、社会を変えるテクノロジーを梃子に『世を席捲する』という発想が乏しい」(アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部テクノロジーストラテジー&アドバイザリーグループ日本統括マネジング・ディレクターの村上隆文氏)と述べた。
だが、その一方で、「日本は、世界最大級の経済規模があり、高密度で、多様な産業集積がある。業際横断型イノベーションを行う素地は十分にある。業界や社会変革の牽引者としての市場ポジションを取ることで、企業価値を高めることができる。そのためには、CEOをはじめとした経営者が変革を主導し、社会変革につながるデジタル活用、共創型の働き方をすることが大切である」(アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループ日本統括兼通信・メディアプラクティス日本統括マネジング・ディレクターの廣瀬隆治氏)と期待を述べた。
「トータル・エンタープライズ・リインベンション」は、アクセンチュアリサーチが、2022年11月に、日本、オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、英国、米国の10カ国、19業界、1,516人の経営幹部を対象に実施した調査で、事業変革やリインベンション戦略に対するアプローチ、具体的な取り組み、成功要因などについて分析している。
アクセンチュアの廣瀬氏は、「アクセンチュアの別の調査によると、2017年からの5年間で、不確実性の度合いは3倍になり、多くの企業にとって、中長期的な見通しが難しくなっている。だが、不確実な時代であっても、不確実性を企業価値向上に取り込めている企業や、持続的、飛躍的に成長する企業がある。これは、GAFAMおよびその周辺企業だけでなく、レガシー企業や非テック企業のなかにもある。どこに違いがあるのか。その要諦をまとめたものになる」と位置づけた。
同社では、トータル・エンタープライズ・リインベンション(TER)を、「従来の事業ドメインに留まらず、新たなフロンティアを探求し続けることで、企業価値を持続的に高める新たな発想の戦略」とし、「業界や社会変革を行っていくために、デジタルコアを中核に据え、飛躍的成長と経営最適化を実現することができる企業を指す。to doではなく、to beであり、単発の施策ではなく、業界や社会変革に挑み続ける企業の在り様である」と定義した。
8%を占めている「リインベンターズ(再創造企業)」は、不確実性を企業価値に取り込むことができており、売上成長をみると、トランスフォーマー(変革途上企業)に比べて10%、オプティマザーズ(部分最適企業)に比べて22%も高い実績が出ているという。ほかにも、財務指標や非財務指標、サステナビリティの成果でも、リインベンターズは、より速い成長を遂げているという。
リインベンターズの企業には、6つの共通した価値観があると指摘する。
それは、企業、産業、社会の未来そのものを変革することを企業戦略に設定する「リインベンションを戦略に設定」、ノンコア事業の切り離しやM&Aによる新たな事業の獲得に加えて、クラウド、データ、AIといった新たなテクノロジーを伸縮自在に経営に活用する「競争優位の源泉としてデジタルコアを確立、強化」、業界内の競合ではなく、テック企業などをベンチマークに据える「社会の潜在価値を具現化し、業界内ベンチマークを超えた成果を探求」、人材のポートフォリオを常に変え続け、チェンジマネジメントを進める「人材戦略と人材のもつ能力がリインベンションを実現」、業界を横断するバリューチェーンや、パートナーを巻き込んで再創造を続ける「リインベンションの取り組みスコープを限定しない」、必要に応じて組織を組成しながら、変革を続ける「絶えずリインベンションが進められる態勢を用意している」の6つだという。
アクセンチュアの村上氏は、「潮流にのり、継続的に企業価値を上げている企業はTech Giantだけに留まらない。ヘルスケア、金融、生活必需品といったトラディショナル業界のプレーヤーも戦い方によっては、高い成長を遂げ、企業価値を高めることができている」とし、3つの企業の事例を紹介した。
米Walmartは、AmazonなどのECサービスの攻勢が加速するなか、「買い物における顧客体験」を軸に、店舗とデジタルの可能性にフォーカスし、顧客起点で、小売店舗の枠組みを超えたビジネスを再構築。ECやヘルスケア、金融などの近接業界への染み出しに取り組んだという。具体的な事例として、モバイル決済のWalmart Pay、サブスク型即日配送サービスのWalmart+、診療所サービスのWalmart Health、広告プラットフォームのWalmart Connect、他の小売店を巻き込んだラストマイル配送プラットフォームのWalmart GoLocalなどをあげ、売上高やEBITDAは右肩上がりで成長している。
「これらの変革を実現できた背景には、トップダウンによるデジタルビジョンの定義と実行に加えて、データ活用に注力し、テクノロジー基盤を成長の起爆剤にしたこと、買収や協業、内製人材の育成によるスピードと質の両立を実現したことがあげられる。設備投資に占めるITおよびEC比率は、2014年の29%から、2019年には68%に拡大。2016年以降、21社を買収し、他社との連携も強化し、毎年数1,000人規模のIT人材を採用している」という。
米Caterpillarは、サービスビジネスの強化を成長戦略の中心に定め、短期間でデジタルソリューションを体系化。景気循環の影響を受けない事業モデルに進化させた。CAT CONNECT SOLUTIONSでは、施工の自動化と、生産から施工、安全管理までを一元的に可視化するとともに、他社製品のモニタリングもサポートするオープンなデータプラットフォームを提供。PARTS.CAT.comでは、正規パーツのECサイトでありながら、ディーラーにも還流することで、パートナービジネスの成長につなげている。「米Walmartと同様に、トップダウンでのデジタルビジョンの定義、実行を行ったほか、クラウドを活用したデジタル施工基盤の確立、全社改革を企図したスピーディな組織構造の転換に取り組んだことが変革を実現する要因になっている」という。
EaaSやロボティクス、リモート監視などのコアな先進技術を相次ぎ買収。Digital Enabled Solutionsを立ち上げて、全社のデジタル人材とデジタル機能を一カ所に集約。CVCにより、エネルギーやデジタル、ロボット、先端材料分野のスタートアップ企業に最大500万ドルを投資しているという。
シンガポールのDBSは、同社の主要市場において、アリババやテンセントなどの中華圏のTech Giantが、金融サービス分野から参入する可能性を早期に見定め、自らの事業をディスラプションする覚悟で、デジタルビジネスへの転換を断行したという。
「Tech Giantが金融参入する際の業界再創造の姿を想定し、自ら破壊者となって取り組み、先行者利益を確保した。トップダウンでの野心的で、社会変革を視野に入れた戦略と、エコシステム型ビジネスへの転換を担保するデジタル基盤の構築、部門や企業のサイロを超えた横断的な取り組みが変革のドライバーとなった」とした。
これらの事例を通じて、アクセンチュアの村上氏は、「トータル・エンタープライズ・リインベンションの要諦は、CEOによる共感を生む野心的なビジョン、業界や社会変革を駆動するデジタルコアの具備、組織や企業を超えた共創型の働き方の3点に集約される」とし、「時代の変遷に応じて、CEOが掲げるべきビジョンも変化しつつあり、従来の業界定義や垣根を超え、そのあり方を再定義することで、潜在価値を刈り取ることが求められている。また、臨機応変に自らを伸縮、変化させ、業界や社会変革を駆動させるためのデジタルコアを具備し、潜在市場にアクセスすることで価値を発露していくことが大切である。そして、イノベーションを巻き起こすリーダーシップやカルチャーを持ち、企業を超えた共創を前提とした働き方が必要になる」と述べた。
不確実性が増す時代において、不透明感は常態化している。だが、そのなかでも成長を遂げている企業がある。トータル・エンタープライズ・リインベンションは、それを示す道標のひとつになる。