アクセンチュアは、生活者の視点から、社会やビジネスに関するトレンドを分析した「Accenture Life Trends2023」を発表した。
同レポートでは、2023年のメタトレンドを、「コントロールとパワー」と定義。さらに、2023年に企業が留意すべきトレンドや、とるべきアクションとして、「I will survive - 不安定な社会環境に適応する生活者たち」、「I’m a believer - コミュニティの力から生まれるブランドの未来」、「As it was - かつての姿ではないワークスタイルのあり方」、「OK, Creativity - AIと共に歩むクリエイティビティ」、「Signed, sealed, delivered - デジタルウォレットと私のデータの行方」の5点をあげた。
アクセンチュア Accenture Song デザインリサーチアソシエイト・ディレクターのレベッカ・ブッシュ氏は、「世界が劇的に変化するなかで、工夫を重ね、どうすることもできない状況をコントロールしようとする試みが様々な形で行われ、安定を生み出そうとしている。また、人々が新たな技術によって、物事をコントロールするチャネルが増えており、バランスが変化し続けている。これによって、人々の生活の在り方だけでなく、ブランドや組織の関係にも影響を及ぼしている。新たな力関係は、企業にとって、かつてないほどの顧客との関係を発展させる機会をもたらすだろう」などと述べた。
なお、5つの項目の英文は、いずれも有名な楽曲にちなんでいるほか、レポートに使われた5つのトレンドを示した75枚の画像は、生成AIのMidjourneyを活用して描かれたという。
人々は不安定な社会環境に適応、企業は変化に備えよ
ひとつめの「I will survive - 不安定な社会環境に適応する生活者たち」では、災害や惨事において、人々が闘争、逃避、集中、凍結という4つの反応を切り替えながら、不安定な状況に適応していることを指摘。これらの反応は、人々が購買するモノやサービス、ブランドや企業に対する印象にも影響を与えるため、企業はこれらの変化に備えなければならないとした。
ブッシュ氏は、「危機が、もう何年も前から人々の生活の一部となっている地域では、急速な適応が見られるが、日本のように安定している地域では適応に時間がかかっている。だが、人は必ず適応する。企業は、人がどのように適応しているか、その方法を常に把握しなければならない」とした。
また、長期的な不安定な状況を示す「Permacrisis(パーマクライシス)」の状況にあること、個人は自分たちの生活を支援していたシステムが破綻し始めているのではないかという疑問を持ち始めていることも指摘。「たとえば、電気料金は安定しているものだと考えられていたが、いまはそうではない。日本では74%の人が、電気料金の上昇に影響を受けていると答え、英国のセラピストの66%が、経済的困難が心理面に悪影響を及ぼしていると回答した。生活費は上昇し、生活の様々な側面に影響を及ぼしている。不安感は、買い物の優先順位づけや、ブランドや組織に対する考え方にも影響する」とした上で、「ここで重要なのは、人々が絶望を感じている事実ではなく、絶望感がどこから来ているのかを理解することである。人々は刻々と考えを変え、考え方が定まることはない。顧客や従業員がどんな状況にあるかを理解しない企業は、今後苦境に立たされるだろう」と述べた。
コミュニティ・ファーストにパワーを与える3つの潮流
2つめの「I’m a believer - コミュニティの力から生まれるブランドの未来」では、不安定な世の中で、人々は自らの居場所を積極的に求めていることや、今後のブランドは、「コミュニティ・ファースト」で構築されるようになると予測。「ブランドに対するロイヤリティや関わり方が再構築される」と述べた。
今回のレポートのインタビュー調査対象者の大半が、この6~9カ月の間に、新しい趣味を試したり、新しいコミュニティに参加したりといった状況にあることに触れながら、「帰属意識を感じられるコミュニティを探し求めたり、自分の趣味を探求したりといった動きが見られている」とする一方で、「コミュニティを特徴づけるのが、プラットフォームを利用した3つの潮流である」とし、「RedditやDiscord、Twitchなどのプラットフォームを活用したコミュニティ」、「トークン保有者限定のアクセス権を付与したトークンゲートなどを活用したWeb3」、「デジタルアートやサイン入りトレーディングカードなどのデジタルコレクティブ」をあげた。
ブッシュ氏は、「3つの潮流は、ブランドと顧客がより深く、より有意義な方法でつながり、帰属意識や所有感を高め、ビジネス成長をもたらす新しいコミュニティの姿となる。トークン化やオンラインコミュニティにより、顧客がブランドに対して何を期待しているのかが、より明確になり、顧客参加型のロイヤリティマーケティングが実現することになる」と述べた。
日本人の凄まじい通勤ストレス、出勤に値する価値を
3つめの「As it was - かつての姿ではないワークスタイルのあり方」においては、リモートワークの進展などにより、オフィスで働くことの恩恵が失われたと、多くの人が感じていることに触れながら、経営層は新しい発想を持ち、論理的で、社員にも有益な計画を立案する必要性を示した。
ブッシュ氏は、「多くの企業が、いまだにオフィスへの復帰に成功しておらず、努力が必要だと語っている」と前置きし、「対面での会議のような分かりやすいものから、ちょっとしたおしゃべりや偶然の出会いまで、オフィスライフが持つ目に見えない価値の喪失が生まれている。具体的には、イノベーションの創出や師弟関係の構築、文化の醸成、差異を受け入れる風土が失われはじめており、喪失がもたらす影響が明らかになりつつある。企業は、既存のオフィスの在り方を最適化し続けるのではなく、職場の在り方を再創造し、有形無形の価値を創造すべきである」とした。
さらに、「日本の従業員にとって、通勤ストレスは凄まじいものであり、もはやコロナ前のワークスタイルに戻る気はなく、新しい現実を受け入れている。日本では91%の人がテレワークを経験し、通勤のストレスが減って良かったと答えており、日本を含む世界の人々の81%が、理想のワークスタイルはオンラインとオフラインのハイブリッド型であると答えている。また、企業も従業員も70%以上が、在宅勤務はその会社で働き続けるモチベーションにつながると回答している」とした。
だが、その一方で、「日本の企業では、従業員の在宅勤務の頻度を下げたいと考えており、グローバルでも、リモートワークで働く人の生産性が高いと確信している管理職はわずか12%しかいない」と指摘。企業側ではリモートワークに対して懐疑的な見方をしていることも示した。
こうしたデータを示しながら、ブッシュ氏は、「企業は、従業員を単なる労働力として捉えるのではなく、人生を生きる人間として捉え、仕事は各人の人生を豊かにするプラットフォームとして機能するものだと考えるべきである。経営層は、初心に戻って、経営層と労働者双方に有益な働き方を論理的に築かなくてはならない。たとえば、企業は通勤に値する価値を提供すべきである」とした。
調査では、出勤に値する価値として、「コラボレーション」が33%、「仲間意識」が24%を占めており、有意義な人間関係を求めていることがわかったという。「いまこそ、企業のビジネスと、従業員にとってなにが有効かを判断する時である」とした。
驚異的なスピードで進化するAI、見合う活用法は?
4つめの「OK, Creativity - AIと共に歩むクリエイティビティ」では、AIが驚異的なスピードで進化。言語や画像、音楽を生み出すことができる生成AIが広がっており、企業は、AIが生成したコンテンツが溢れるなかで、どのように差別化するか、また革新のスピードと、独自性を高めるためにAIをどう活用するかについて検討する必要があるとした。
ブッシュ氏は、「1960年代には、AIは人間のクリエイティビティに近づくことはできないと思われていたが、2022年には、人々のクリエイティビティをパワーアップさせるAIツールが誕生している。私たちがこれまで見てきたイノベーションの波のなかで、最も刺激的なもののひとつである」とし、「AIは、企業向けの隠れた存在から、人々の生活のあらゆる部分に使われる目に見える存在へとシフトする転換点に来ている。また、オープンソースであるため、インターネットに接続するすべての人が、これを用いてイノベーションを起こすことができる。イノベーションのスピードと独自性を高めるために、AIをどう活用するかを考える必要がある」と述べる一方で、「AIに仕事を代替されるのではないかと恐怖を感じる人がいたり、著作権の問題があったりする。品質は十分なのか、偏見がないかといった課題もある」とも指摘した。
デジタルウォレットの普及、個人情報に変革の時
最後の「Signed, sealed, delivered - デジタルウォレットと私のデータの行方」では、デジタルウォレットによって、人々が個人情報を企業と共有するか、または販売するかを判断できるようになるなど、個人情報の扱いが変革の時を迎えているとし、これがブランドにとって大きなメリットを生むことを示した。
ブッシュ氏は、「デジタルウォレットの登場によって、支払い方法や、ポイントカードなどを含むトークンが入った財布を、人々がコントロールできるようになり、個人情報もコントルールしやすくなる」としながら、「日本の顧客では76.9%が、オンラインでの個人情報の登録に不安を感じている。だが、日本の消費者の79%が、自分に合った公共サービスのためなら個人情報を提供すると回答しており、人々は、収集されるデータ量に不安を覚える一方で、提供する個人情報と引き換えにパーソナライズされたサービスを求めている。ここで重要になるのはプライバシーの保護である」とした。
また、「透明性と相互運用性を中核に据えたオープンウォレットの枠組みの基礎ができつつあり、これによって、政府によってトークン化された個人ID、銀行を通じたお金、製品やロイヤリティなどを、まとめてオンライン上で持ち歩くことができるユニバーサルデジタルウォレットシステムが登場することになる。いまは、『ウォレット=支払い』と認識されているが、デジタルウォレットにはそれ以上の役割がある。消費者がデジタルプライバシーの管理を容易にするツールにもなる」と述べた。
企業と生活者に隔たり、企業には変化が必要
こうしたトレンドをもとに、アクセンチュア Accenture Song グロース・ストラテジーマネジング・ディレクターの小林正寿氏は、今後、企業が行うべき取り組みについて説明。「企業は顧客起点を追求しているが、企業が考える生活者の優先事項と、生活者が実際に優先する事項には大きな違いがあり、生活者の理解には隔たりがある。多くの企業が生活者のニーズ変化に追いつけていないのが実態である。こうした状況を打破するためには、顧客視点のビジネスから、ライフ起点のビジネスに転換すべきである」と提案した。
企業の95%は、生活者のニーズの変化が、自社のビジネスが追いつけるスピードを超えているとし、企業に対して変化するニーズにもっと早く対応してほしいという生活者は64%に達しているという。
「顧客を購入者として捉えるだけでなく、多面的な価値を持つ生活者として捉え、変化するニーズや優先順位をリアルタイムで理解する必要がある。柔軟な選択肢を用意し、状況にあわせて最も適した解決策を提供する必要がある。これがライフ起点でのビジネスになる。状況が変化し、ニーズが変わっても、企業と顧客には価値がある関係を維持できる」とした。
ライフ起点のビジネスの実現に向けた変革要素として、「不確実な生活者行動をより深く、より幅広く理解すること」、「不確実な生活者行動の変化に追随できるように企業活動全体を再創造すること」の2点をあげた。
なお、今回公開した「Accenture Life Trends」は、2008年から「Fjord Trends(フィヨルドトレンド)」として、継続的に発行しているもので、今回から名称を変更。世界40カ所以上の拠点で活動するAccenture Songのデザイナーやストラテジスト、技術者、社会学者、人類学者による各地域の知見と調査の結果を集約し、まとめている。
また、Accenture Songは、アクセンチュアがAccenture Interactiveとして各国で展開していたブランドを2022年4月に統合。成長戦略や製品、顧客体験の設計から、テクノロジーを活用した顧客体験のプラットフォームやクリエイティブ、メディア、マーケティング戦略のほか、キャンペーン、コンテンツ、チャネルの編成などを提供。「アイデアを生み出し、形づくるまでの一貫したサービスを提供する世界最大規模のエクスペリエンスエージェンシーである」(アクセンチュア Accenture Song デザインリーダーシップエグゼクティブの番所浩平氏)と位置づけている。
日本では、KDDIが展開する店舗やアプリなどの様々なタッチポイントを横断したコミュニケーション環境の再構築を支援。セブン&アイ・ホールディングスにおいては、セブン-イレブン、ロフト、イトーヨーカ堂、赤ちゃん本舗、デニーズなどを対象にしたロイヤリティプログラムの統合による会員基盤の構築を支援。資生堂では同社が持つ14ブランドを横断したロイヤリティプログラムとしてBeauty Keyを展開。みんなの銀行では銀行サービスの刷新などを支援しているという。