NECは、2023年4月から新たな組織体制をスタートする。
2025中期経営計画における成長事業の戦略実行に集中するための組織体制として、DGDF(デジタルガバメント/デジタルファイナンス)ビジネスユニットを新設。さらに、国内の行政デジタル化に一元的に対応するパブリックビジネスユニット、ナショナルセキュリティ領域に対するエアロスペース・ナショナルセキュリティビジネスユニットも新設。また、NECグループ横断でDX事業の展開に必要な製品、サービスを一元的に企画、開発、提供するデジタルプラットフォームビジネスユニットを新設した。
NEC 代表取締役執行役員常務兼CFOの藤川修氏は、「戦略コンサルティングから、プラットフォーム、デリバリーまで、NECの強みを生かしたエンド・トゥ・エンドのDXオファリングを拡充、強化する。これにNECが持つ業種ごとのノウハウと組み合わせて提供することで、お客様の経営アジェンダ解決への貢献とDX事業の拡大を図る。成長事業を担う組織の明確化、DX事業の製品およびサービス機能一元化し、戦略実行を加速することになる」とした。
ジョブ型人材マネジメント拡大、人的資本経営の取り組み強化
NECでは、2022年4月に、「組織の大括り化」「レイヤー(階層)のフラット化」「組織デザインの柔軟性」「権限委譲と責任の明確化・強化」を核とした事業体制の改革を実施。事業部レベルの組織を市場や製品、サービス、機能といった単位で大括りにし、組織数を約150から約50へと3分の1にまで減らし、CEO(最高経営責任者)から担当者までの職位を8階層から6階層に集約。部門長をはじめとするリーダー層の権限と責任を大幅に強化し、市場環境の変化に応じた柔軟で、迅速なリソース配分や、現場起点での意思決定と実行のスピード向上を実現することに取り組んできた。また、組織長のタイトルとグレード(格付)を分離し、柔軟な運用を行うことでリーダー層への若手の大胆な抜擢を促進している。
今回の新たな組織改革は、こうした取り組みの成果をもとに、成長事業を推進する体制の強化とともに、ジョブ型人材マネジメントの推進、人的資本経営の取り組み強化につながるものになる。
さらに、NECでは、2018年度から、新人事制度を採用してきたが、2023年度には、その最終系として、新報酬制度への移行を進めることになる。
ジョブ型人材マネジメントを拡大し、2023年度には統括部長以上に対象を拡大。2024年度には全社員を対象に新報酬制度を導入することになる。
新報酬制度は、ジョブの市場価値に応じた処遇を行う「Pay for Job」、成果に応じた処遇を行う「Pay for Performance」に基づいたものになり、「新報酬制度の狙いは、事業戦略をタイムリーに進めることであり、それに連動した人事制度を採用する。適時に、適所に、適材を配置することが目的となり、そのためには社内外に関わらず、最近なジョブアサインができる体制に切り替えることが重要である。これを2024年度に、全社員を対象に、現場で実行していくことになる」(NEC 取締役 執行役員常務兼CHRO兼CLCOの松倉肇氏)と述べた。
また、人材の流動性に向けて、社内人材公募制度であるNEC Growth Careersを拡充。従来の社内公募制度では、年に1、2回だけ、ポジションが公開されるだけだったが、現在では、常時、募集ポジションがオファーされており、常時、職務経歴書が登録されているという。また、AIを活用してマッチングを促進。2022年度には約1,300件のオファーに対して、3400件の応募があり、この公募制度が人事異動のなかにも反映されているという。
加えて、従来はトップ人材を明確にせず、公平に教育を行ってきた体制を見直し、12万人の社員のうち、約1%にあたる1,300人をトップタレントとして選抜。そこからとくに有望な人材を、約100人強選出し、次世代リーダーとして育成。強い人材と強い組織を作り上げることを目指しているという。「トップタレントへ集中的に投資し、次世代リーダーを育成することになる。2023年4月の人事では、このなかから、コーポレートSVPになるような人材も生まれている」(NECの松倉氏)という。
スピード経営実現のための改革も進める
一方、NECでは、2023年6月以降、指名委員会等設置会社に移行することになる。
指名委員会等設置会社として、監督と執行の徹底的な分離と、両機能の強化を基軸とする体制へと移行。「取締役会を変えることだけでなく、執行側の体制を大きく見直すことが、今回の改革の主旨である。ガバナンス強化として、リスクマネジメント体制も見直すことで、リスクや基本コスト低減に寄与すると認識している」(NECの松倉氏)と述べた。
取締役会から、執行役に大幅に権限を移譲。1,000億円未満のM&Aは、執行側の意思決定によって、進めることができるようにする。
NECの松倉氏は、「執行役への権限移譲により、質の高い意思決定を行うことや、リスクについても、執行側でマネジメントすることが大前提となる。これにより、スピード経営を実現することができる」述べた。
執行側の機能強化として、意思決定プロセス、全社リスクマネジメント体制を改善。「経営会議(執行役会議)を充実させ、そのもとで、審議機関として、財務委員会、事業戦略会議、重要契約リスク審査会議、投融資会議といったの会議体制を整備。重たい経営判断やリスクについても、執行側で見極められる意思決定プロセスに改善するという。
執行側では、新たに女性2人や、外国籍2人を含む、13人の役員を登用。多様な視点や見地をもとに、2025中期経営計画の戦略実行を強力に推進することになる。さらに、CRO(チーフ・リスク・オフィサー)を新設することで、個々のCxOが見ていたリスクマネジメントを、全社横串で見る体制とし、リスク・コンプライアンス委員会を通じてリスクマネジメントを行える体制を敷く。加えて、事業部門(第1線)、制度主管部門(第2線)、グループ内部監査部門(第3線)によるリスクマネジメント体制を敷くことによって、海外現地法人を含むNECグループ全体で、内部監査を行える体制を充実させるという。
その一方で、取締役会は、業務執行のモニタリングに加えて、経営全体の方向性や将来のNECの姿を定める機能を重視するという。
個々のM&A施策を執行側に権限移譲すると同時に、取締役会では中期経営計画の在り方や事業ポートフォリオの在り方について方向付けを行い、それをもとに執行側で迅速な辞事業運営を行うサイクルを加速することになる。
監督機能の強化に向けて、2023年6月以降は、社内取締役5人、社外取締役7人の体制とし、社外取締役が過半数を占める構成に移行。取締役の属性やスキルの多様性を担保したという。
新たな社外取締役では、元経済産業省事務次官であり、日立製作所の取締役会議長を務め、現在、東京中小企業投資育成の代表取締役社長を務める望月晴文氏、公益社団法人日本監査役協会会長を務め、三井物産CFOおよび監査役を歴任した岡田譲治氏、オムロンの代表取締役社長CEOである山田義仁氏などが就任予定であり、「NECがグローバルの会社を目指すという意味で、グローバル事業の知見が多い人たちに参加をしてもらっている。また、コーポレート・ガバナンスの改革を迅速に推進したいということから、この分野の知見や見識が高い人たちに集まってもらった」(NECの松倉氏)と説明した。
新たな取締役会で審議する重要事項として、「中長期戦略/中期経営計画」、「ガバナンス体制/意思決定プロセスの方針策定」、「資本政策、バランスシート」、「事業ポートフォリオの方針策定」、「大規模M&Aおよび大規模投資」、「NEC Wayを起点とした企業価値向上施策」の6点をあげている。
なお、NECでは、役員の報酬制度の改定にも乗り出す。
執行役および社内取締役が、中期経営計画の実現や、企業価値の伸長にコミットした報酬制度に変えるものになるとしており、役員の賞与については、中計目標と連動したインセンティブ設計とし、EBITDAの額や率、エンゲージメントスコアにコミットした設計に移行。株式報酬についてはTSRをベースに3年間の長期コミットに変更するという。
ESGを「企業と社会のサステナブルな成長を支える基盤」に
一方、NECでは、ESGへの取り組みについて、それぞれの観点から示した。
NECでは、ESGの取り組みを、「企業と社会のサステナブルな成長を支える非財務基盤」と位置づけており、7つのマテリアリティを中心に取り組みを推進。基盤を強固なものにするとともに、その結果を、透明性を高く、情報開示する考えを示している。
7つのマテリアリティとしては、Environment(環境)では、「気候変動(脱炭素)を核とした環境課題への対応」、Social(社会)では「ICTの可能性を最大限に広げるセキュリティ」、「人権尊重を最優先にしたAI提供と利活用(AIと人権)」、多様な人材の育成とカルチャーの変革」をあげ、Governance(企業統治)では、「コーポレート・ガバナンス」、「サプライチェーンサステナビリティ」、「コンプライアンス」をあげている。
だが、NECの藤川氏は、「主要なESGインデックスの評価視点は、リスクマネジメントを起点とするものが多く、機会や成長につながる取り組みを評価する指標としては十分ではない。そこで7つのマテリアリティを。サステナブルな成長を支える非財務基盤としてリスク管理することで、中長期の資本コスト低減を図りながら、知見やノウハウを、2025中期経営計画の成長事業での機会拡大などにつなげていきたい」と述べ、「マテリアリティのひとつに設定した『ICTの可能性を最大限に広げるセキュリティ』では、ゼロトラストセキュリティプラットフォームを構築、運用し、NEC自身を先端セキュリティの実験場とすることで、蓄積した技術を、中期経営計画の成長事業を通じて提供することになる。セキュリティリスク増大という社会課題に貢献することができ、そこからフリーキャッシュフローを生み出すことになる」などと語った。
また、「パーパス経営の実現に向けて、ESGは、リスク、機会の両面で、企業価値に結びつけていくことができるという考え方をベースにしている。NECの強みであるAI技術などのデジタルテクノロジーを活用して、様々な施策の効果検証と改善を重ね、企業価値向上につながる非財務の取り組みの特定を進めていく。さらに、パーパスの実現に向け、2025中期経営計画の成長領域に対しても、ESG視点でのマテリアリティを設定し、経済価値、社会価値の双方を生み出す財務、非財務を統合したマネジメントを推進していく」と語った。
Environment(環境)の取り組みでは、2022年7月にNEC初のサステナビリティリンクボンドを起債し、1,100億円を調達したことや、防災およびメンテナンス事業によるカーボンニュートラルへの貢献として、NECの衛星、センサー、AI技術を活用した防災ソリューションやインフラ保全サービスによって、災害に起因する将来のCO2排出を抑制するといった取り組みを示した。
Social(社会)では、財務インパクト最大化に向けた、非財務施策の継続的改善を進め、財務インパクトの最大化に向けた取り組みを行っているとした。
NECの藤川氏は、「2021年度のESG説明会では、非財務への取り組みが、財務にどう影響しているのかを可視化する分析と、取り組み改善のループを回し続けることで、企業価値向上につながる非財務の取り組みを再測定し、適切な投資を配分したいと伝えた。しかし、非財務の取り組みが財務に対する影響として具体化するには時間差があり、相関関係や因果関係まで導き出せる手法は確立していない」と指摘。「アビームコンサルティングとともに、PBRと非財務データとの相関分析を行い、人的資本については財務への相関が強いことを確認した。また、AIを活用したNECの因果分析ソリューションであるcausal analysisを用いて、組織内における上司の振る舞いと、部下の心理的安全性などについては、改善に結びつく因果関係を確認できた。2022年度もPBR分析と人的資本関連データの因果分析を行っており、PBR分析では外部環境の影響が大きく、再現性が得られにくいことが明らかになる一方で、因果分析については、2025中期経営計画のKPIのひとつであるエンゲージメントスコアを目的にする人的資本関連の取り組みの有効性を確認し、施策の改善につなげることを目指した。その結果、エンゲージメントスコア向上に有効な非財務の取り組みと、スコア向上につながる行動要素を確認できた」などと述べた。
Governance(企業統治)では、コーポレート・ガバナンス改革を推進。2023年4月からの新たな組織体制とともに、2023年6月の株主総会での決議を経て、指名委員会等設置会社への移行を行い、監督と執行の分離と役員報酬制度改定を同時に実行。経営判断のスピードを上げるとともに、質を向上させ、新しいコーポレート・ガバナンス体制を実現すると語った。
NECの松倉氏は、「NECは、コーポレート・ガバナンス改革によって、経営判断の質とスピードを向上させる。NECがグローバルなテクノロジーカンパニーとして発展するには、経営の質とスピードを格段に高める改善する必要があり、この改革は、そのための重要な施策となる。NECは、これまでにも様々な企業改革を進めてきたが、最後のピースとして、コーポレート・ガバナンス改革を実行したい」と述べた。
NECが取り組む「人的資本経営」とは?
さらに、NECが取り組む「人的資本経営」についても説明した。
NECは、2018年度から、人的資本経営に対する投資を進めており、2025中期経営計画では、エンゲージメントスコアで50%の達成を目指している。
NECの松倉氏は、「これが実現できれば、グローバル上位25パーセンタイルに該当する。調査会社によって基準が異なるが、NECでは、厳しい条件設定をしているスコアを用いており、非常にエンゲージしている、ややエンゲージしている社員を含めると、すでに75%に達している。だが、極めて高くエンゲージしている人が集う会社にしたいと考えており、さらなる強化を図る。企業と個人が対等の立場になり、お互いが選び、選ばれる関係になりたいと考えている」などとした。
なお、人的資本経営とエンゲージメントスコアの因果関係の分析のために、NECが持つ最新AI技術を活用。企業文化の定着や、知・経験のD&I、生産性を発揮できる環境が、エンゲージメントスコアの向上に貢献していることを導き出したほか、「今後、エンゲージメントスコアを50%に高めるためには、動的な人材ポートフォリオに向けた施策を加速させる必要があることがわかった。経営戦略と人材戦略の連動と、リスキルや学び直しに対して、組織および個人の両方の視点からの取り組むことがエンゲージメントスコア向上につながる。社員のエンゲージメント向上に努め、人的資本経営の実現を目指す」と述べた。
また、2021年度には、森田隆之社長兼CEOと社員がフランクに対話を行うTown Hall Meetingを、10回開催し、延べ11万8,500人の社員が参加。NECグループ全社員を対象とした創立記念イベントであるNEC Way Dayには、グローバル全体で5万2,000人が参加。3年前から、個人のキャリア形成を支援するワークショップのCareer Design Workshopを開催していることに触れ、「社員一人ひとりが、キャリアについて自ら考えて、自ら行動するモードにマインドセットを切り替えることが重要であり、その動きが促進されている。Career Design Workshopは、当初は50代を対象にしていたものを、40代、30代、30代以下にも対象を広げ、年間5,000人が受講している」などとした。
さらに、社員の多様性についても取り組みを加速。「NECが、グローバルで通用するテクノロジーカンパニーに進化するには、多様性のある環境で意思決定をする必要がある。NECでは、D&Iを経営戦略そのものと位置づけることが重要だと考えている」(NECの松倉氏)とし、障がい者、女性、外国籍、キャリア採用者を大幅に増やしているほか、キャリア採用専門部署の設置により、中途採用を積極推進していることを示した。
現在、女性従業員比率は20.3%(2021年度)、女性管理職比率は8.1%(2022年度)、女性役員比率は9.4%(2022年度)となっているほか、ここ数年は中途採用を2倍ずつ増加させており、2021年度は、新卒採用の600人に対して、中途採用も600人と半々の規模になっているという。今後はダイレクトスカウトなどのダイレクトソーシングにより、役員から担当層まで多様な人材を採用。活躍できる場を提供するという。
NECの松倉氏は、「多様性については、まだまだの状況だといえるが、多様性を高めるための取り組みは、これからも積み上げていきたい。中途採用者には、これまでの経験を生かし、NECのなかで育った人では思いつかないようなアイデアや活動が生まれ、NEC全体が活性化することを期待している」とした。
多様な人たちが働ける環境を構築するために、コミュニケーション・ハブやイノベーション・ハブ、ロケーションフリーといった仕組みを用意。デジタルテクノロジーや制度、空間を活用した働きがいのあるオフィスづくりにも取り組んでいるという。
NECでは、こうした様々な施策を通じて、2025中期経営計画の実現に向けたアクションとして、「トップマネジメントから現場までコミュニケーション強化を継続し、人やカルチャーの変革を集中的に取り組むほか、ジョブ型人材マネジメント施策などにより、動的な人材ポートフォリオを加速させる」(NECの松倉氏)としている。
NECは、2025中期経営計画の実現に向けて大胆な改革に挑んでいるが、それは2023年度も同様といえる。