白物家電において、大きな市場変化が起きているカテゴリーのひとつが掃除機である。5年前には3分の1だったコードレスティック掃除機の市場構成比は、現在では5割を突破。その一方で、かつては市場構成比の約5割を占めていたキャニスター型掃除機は4分の1程度にまで縮小している。こうした劇的な市場変化のなかで、各社はそれぞれの特徴を生かして、新たな市場における存在感を発揮しようとしている。
東芝ライフスタイルもその1社だ。1931年にスティック掃除機の原型ともいえる日本初のアップライト型真空掃除機を発売した実績を持ち、同社の白物家電事業全体を見ても掃除機事業は牽引役としての役割を担ってきた。だが、長年、キャニスタータイプで高い実績を持っていたこともあり、一時期は、市場が急拡大するコードレススティック掃除機分野への参入の遅れが指摘される場面もあった。だが、ここ数年は強い技術力を背景に製品ラインアップを強化。最新モデルでは、業界最軽量となる本体重量1kgを達成した製品も品揃えしてみせた。
東芝ライフスタイル 取締役執行役員 リビングソリューション事業部長の鈴木新吾氏に同社の掃除機事業について聞いた。
東芝ライフスタイルは、2022年9月上旬から、コードレス掃除機の新製品4機種を順次発売した。これにより、従来から発売している下重心タイプ1機種を加えて、コードレススティック掃除機を5機種ラインアップ。その一方で、キャニスター型掃除機では、フィルターレスサイクロン、サイクロン式、紙パック式を揃えている。
そのなかでも、注目を集めているのが10月上旬から販売を開始した「VC-CLW31」である。 延長管は、従来のアルミ素材から変更し、カーボン素材を新たに採用するとともに、制御基板の小型化と、モーターや回路、バッテリーの配置を最適化。トルネオコードレス史上最軽量となる、業界トップの標準質量1.0kgを実現した。従来機種に比べると200gの軽量化を達成。本体部分では670gにまで軽量化している。
「開発当初から、業界最軽量を目指して開発をしてきた。それが1kgであった。ありとあらゆるものを見直し、やっとたどり着いた数値である」とする。
カーボンの特徴は軽量化に最適であるが、強度には課題があるというのが一般的だ。
鈴木取締役執行役員も、「開発段階で、強度が基準に届かないことが判明し、強度試験では延長管が破損するという状態だった」と明かす。「試作と試験を繰り返し、強度を確保できる水準に炭素繊維を積層し、それでいて、軽量化を実現するために最も少ない積層数を導き出した。軽量化と強度を両立し、女性にも、手軽に使ってもらいやすい掃除機を実現した」と自信をみせる。
また、髪の毛などの絡みつきを軽減した「からみレス軽量ヘッド」を新たに開発。ブラシ毛のすき間に、髪の毛などが入り込んでしまうことを抑制するために、ブラシ毛を横糸で編み込み、奥まで入り込むことを防ぐ仕組みを採用した。また、ブラシが回転することで髪の毛を振るい落として吸引。さらに、自走式による軽快な操作の実現とともに、ヘッドの吸込み幅を従来機種よりも20%拡大し、広範囲を一度に掃除できるようにしている。
からみレスブラシは、2023年に発売するキャニスター型掃除機への採用も検討しており、今後、東芝の掃除機における標準機能のひとつになりそうだ。
また、暗い場所でも、ゴミを明るく照らす「ピカッとライト」を、取り外しが可能な付属品として提供。ヘッドを使用しているときだけでなく、すき間ノズルや丸ブラシの使用時にも取り付け可能なため、ヘッドが入らない狭い場所でも明るく照らして、ゴミを見逃さない。
「社内会議のなかで、社員から出てきたアイデアを実用化した。あったらいいなというのが起点であり、開発時点ではどれぐらいの評価を得られるかが心配だった。だが、主要量販店との事前商談では評判が良く、発売後には想像以上の評価を得ている」という。
さらに、着脱が簡単なカートリッジバッテリーを新たに採用。充電は本体に装着した状態だけでなく、バッテリーを外した状態でも可能であり、予備のバッテリーを購入すれば、付け替えて長時間の利用が可能だ。
2022年12月31日までに購入すれば、カートリッジバッテリーを1個プレゼントするキャンペーンも実施中だ。電池の改良によって、満充電までの時間を、従来の約4.5時間から約2.5時間に削減したことも使い勝手を向上させている。年末の大掃除でも安心して長時間利用できる環境が整う。
「内蔵バッテリーでは、劣化した際には販売店やサービスセンターに掃除機本体を送り、交換してもらうことになる。数日間、家に掃除機がない期間が生まれる。しかも、工賃などの負担も生じる。だが、着脱式であれば、バッテリーを注文してもらい、交換すればすむ。カートリッジバッテリーはお客様視点で考えた仕組みであり、東芝のこだわりである」と語る。
一方、東芝ライフスタイルでは、コードレス掃除機の最上位モデルとして、「VC-CLX51」も投入している。
新開発の「からみレス自走ヘッド」を搭載したほか、遠心分離技術により、粉ゴミを分離させる「フィルターレスサイクロン」を採用。目詰まりが発生しやすいサイクロン部のプリーツフィルターをなくしたことで、フィルターを手入れする手間が無く、パワフルな吸引力を99%以上持続することができるという。
また、独自のバーティカルトルネードシステムにより、3つの気流が微細なチリや花粉まで99%以上分離。カップ内を回っている風の流れを変化させるトルネードプレスによって、ゴミを約4分の1まで圧縮。ダストカップには帯電防止加工をしているため、ゴミ捨て時のホコリの舞い上がりや、ダストカップ内のネット部への付着を防ぐことで、ゴミ捨てが楽にできる。ダストカップは分解して丸ごと水洗いが可能であり、清潔に使用できる。
「最軽量のVC-CLW31も、最上位のVC-CLX51も想定通りの売れ行きを示している。最軽量、からみレス、吸引力といった当社が設定した訴求ポイントが、購入理由になっている」と手応えを示す。
東芝ライフスタイルは、2022年4月に大幅な組織改革を行い、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、小型家電の4つの事業体制を再編。冷蔵庫とキッチン家電によるキッチンソリューション事業部、洗濯機と掃除機、アイロンなどによるリビングソリューション事業部、そして、エアコン事業部で構成している。
鈴木取締役執行役員が率いるリビングソリューション事業部では、いくつかの新たな挑戦をはじめている。
ひとつは、洗濯機と掃除機という、性格が異なる製品を扱うチームが、ひとつの組織になったことを活用し、新たなアイデアを創出する場づくりである。
「掃除機の会議に、洗濯機のメンバーが参加したり、その逆を行ったりすることで、それぞれの事業でしか使われていなかった技術や企画のアイデア、営業方法を得ることができるようになっている。洗濯機の専門家ではあっても、掃除機には詳しくないという社員も多い。その結果、一般ユーザーの目線からの提案が出ることが多く、頭を柔らかくするきっかけや、組織の壁を低くすることにもつながっている。今後、なにが生まれてくるかが楽しみ」と笑う。
東芝ライフスタイルでは、2022年12月には、神奈川県川崎市の本社を移転した。
「過去を振り返っても、これまでの本社は多層階で、事業部ごとにフロアが異なっていた。新本社では、すべての事業部がひとつのフロアに入っている。また、これまでにはなかったフリースペースを設置し、社員同士が自由に使えるようになっている。部門を超えたコミュニケーション力が高まると考えており、これによって仕事の質のベースがあがるだろう」と語る。これも新たなモノづくりや提案活動に強化につながると想定している。
東芝ライフスタイルの掃除機は、神奈川県川崎市の本社拠点で商品企画を行い、愛知県瀬戸市の事業所で先行開発および品質管理を行っている。また、親会社である中国マイディア(美的集団)の中国・蘇州の生産拠点には、日本向け掃除機を開発する約30人の技術者が常駐。マイディアの開発チームと連携しながら、開発を進めている。蘇州では、マイディアならではの高品質の大量生産のノウハウと、高い部品調達力を活かして生産。これを、愛知県の事業所で出荷前検査を行ってから、国内市場に出荷する体制だ。さらに、日本の市場から得た要望は川崎、蘇州、愛知のチームと共有し、改善を加えていくことになる。
「中国は、日本とは部屋の環境が異なり、水拭きクリーナーが出荷台数の半分を占めており、日本向け製品には、日本の開発チームのノウハウを活かす場面が多い。今回の最軽量モデルへのカーボンの採用は、数年前から社内的には取り組む方針が打ち出されており、愛知県の事業所で先行開発を行ってきた経験を活かしたものである」とする。
VC-CLW31へのカーボンを採用した実績は、今後、マイディアの製品にも活かすことができ、グローバル展開にもつながりそうだ。
中国での生産は、昨今の海上輸送費の高騰や円安などの影響を受けているが、仮に国内生産をしていても、部品調達の多くが中国であるメーカーが多いため、大きなマイナス要素はないとする。
むしろ、マイディアグループとしての強みを活かすことができた点を強調する。
「ロックダウンによる生産停止、サプライチェーンの混乱は確かにあった。だが、2022年度上期に発生した上海ロックダウンの際には、国内主要各社が洗濯機の品切れを起こしたの対して、東芝ライフスタイルは、予定量の洗濯機をほぼ供給できた。マイディアの部品調達力や、中国国内での搬送能力が優れていたことが、日本国内への安定供給につながった」という
いまは、マイディアの家電製品との部品の共通化を進めており、調達リスクをさらに減らすことができるという。
リビングソリューション事業部における、もうひとつの新たな挑戦は「深堀」である。
一例としてあげられるのが、コードレス掃除機の購入者調査の結果に疑問を投げ、より深堀することで、そこからビジネスチャンスを広げようとしている点だ。
鈴木取締役執行役員は、「2021年の調査では、縦型コードレスの購入重視点として、『本体の軽さ』が初めて1位になった。だが、市場全体で圧倒的なシェアを獲得しているメーカーの製品は、2kg以上の重さがあり、吸引力が強い製品である。また、コードレススティック掃除機は、お客様からは、キャニスター型に比べて価格が高い、コードレスのため使用できる時間が短い、ダストカップの内側のホコリが取れにくいといった不満があがっている。しかし、多くの人が30分以内で掃除が終わっており、標準モードであれば20~30分は連続稼働する。実際には使えているが、途中でバッテリーが切れるのではないかという不安が先行しているのかもしれない」と指摘。その上で、「データに頼るだけでなく、売り場ではなにが起こっているのか、実際の購買行動はどうなっているのかを深堀する必要があると考えている。2023年の商品企画では、そうした点をしっかりと捉えたモノづくりをしていきたい」と語る。
コロナ禍において、家のなかで過ごす時間が増え、手軽に掃除をしたいというニーズが増加。手軽に掃除をしたいために、軽量化のニーズが上昇したことは想定できる。そうしたトレンドは確かにあるだろう。だが、数年間にわたって、調査結果を遡ってみると、常に上位にあるのは「吸引力の強さ」である。軽量化はトレンドであるが、軽量モデルの販売構成比はまだ低い。事前調査では、軽量化が一番でも、購買する際には、軽さよりも、吸引力が勝るという状況が生まれている可能性もあるのだ。「売り場での購買行動ではなにが起こっているのか、そこに着目しておく必要もある」と指摘する。
さらに、鈴木取締役執行役員は、深堀の取り組みを、こんな形でも発揮している。
東芝ライフスタイルでは、量販店に置かれる掃除機の製品カタログの構成を2022年秋から刷新。これまでは、東芝ライフスタイルが得意とするキャニスター型掃除機を紹介するページが半分以上を占めており、市場構成比の半分を占めるコードレススティック掃除機に割くページが少ない状態だった。
「これは、いいものを作ったら売れるという発想。いまは、いいものをどう伝えるのかが重要になる。市場が求めている製品を、いかにわかりやすく、東芝の特徴とともに紹介するかという発想が欠けていた。市場トレンドをしっかりと捉えて、そこを深堀していく内容に変えた」という。
そして、こうも語る。
「市場をしっかりと捉えるという基礎づくりが大切である。なにが求められているのかといった真因を探り、製品を出しただけで終わるのではなく、お客様の困っていることをどう解決できるのか、なぜ東芝はそこに着目したのかといったこともしっかり伝えていくことが必要である。ユーザーセントリックの立場で提案していく意識に変えていくところからはじめている」とする。
製品を買ってもらって終わりではなく、使ってもらい、良かったと言われる製品を作り、顧客体験価値を提供。その声を製品企画や開発部門にフィードバックし、さらに進化を遂げるというサイクルにつなげたいという。
「ブラシヘッドや、ダストカップも常に改良を進めている。お客様に喜んでいただけることを考えていきたい。諦めずにどん欲に挑戦をしていく姿勢は変わらない。東芝らしいところを維持しながら、市場動向を捉え、それを深堀し、製品のなかに新たな要素やアイデアを盛り込みたい」とする。
そして、軽量化へのさらなる挑戦も進めるという。「今後、軽量化を進めるには、素材や部品の進化だけでなく、バッテリーの進化がポイントになるだろう。バッテリーの小型軽量化、効率化により、長時間化できれば、900g、800gという壁にも挑戦できる」
東芝ライフスタイルの掃除機事業は、2023年も引き続き、意欲的な挑戦が続きそうだ。