日立グループ最大の年次イベント「Hitachi Social Innovation Forum 2022 JAPAN」において、GlobalLogicのニテッシュ・バンガ社長兼CEOが、「デザインとエンジニアリングでビジネスを変革するLumadaの最前線」と題した講演を行った。

  • 日立グループのGlobalLogic社、新社長が語ったデジタル変革とLumada成長戦略

    講演するGlobalLogicのニテッシュ・バンガ社長兼CEO。2022年10月に就任したばかりだが、日本での勤務経験もあり、「日本の文化や伝統、仕事のやり方を知っている」と話す

バンガCEOは、2022年10月に、GlobalLogicの社長兼CEOに就任したばかりだ。2022年4月に設立したGlobalLogic Japanの社長兼CEOも兼務する。かつては、日本に在住し、約10年間に渡って勤務した経験もあり、日本のビジネスにも詳しい。

バンガ社長兼CEO自身も、「日本の文化や伝統、仕事のやり方を知っており、言葉も少しわかる」と自己紹介する。

GlobalLogicは、日立が2021年7月に買収した企業で、その立ち位置を「デザイン主導のデジタルエンジニアリング企業であり、デジタル変革のグローバルリーダーである」(バンガ社長兼CEO)とする。

設立は2000年9月で、米カリフォルニア州サンノゼに本社を置き、世界15カ国で2万8,000人以上の従業員を擁し、70以上のプライベートブランドカスタマーラボ、39のエンジニアリングセンター、9つのデザインスタジオを持つ。

  • 日立が2021年7月に買収したGlobalLogic社。設立は2000年9月で、米カリフォルニア州サンノゼに本社を置く

全世界のアクティブな顧客数は500社以上。フォーチュン500社にも多くの顧客がいる。

2022年3月期の売上高は12億8,000万ドル、年間1,800以上ものプロダクトをリリースしているという。

  • GlobalLogicの概要

「GlobalLogicは、Chip-to-Cloud(チップからクラウドまで)に対応できるデジタルエンジニアリングサービス企業であり、高度なソフトウェアエンジニアリング技術やエクスペリエンスデザイン力、多様な業界に関する専門知識を有している。通信や金融サービス、自動車、ヘルスケア・ライフサイエンス、テクノロジー、メディア・エンターテインメント、製造など、幅広い産業において実績を持つ」と前置きし、「もし、マクドナルドのハンバーガーをKIOSK端末から購入したことがあれば、それはGlobalLogicのデザインを使用した経験があるということだ。また、映画のストリーミングをiPadやスマホで視聴したり、eコマースで商品やチケットを購入した際もGlobalLogicのテクノロジーを活用している。ボルボ、日産、フォード、BMWのインフォテイメントシステムもGlobalLogicが関わっている。1日の生活のどこかで、GlobalLogicがデザインしたり、エンジニアリングしたり、顧客と一緒に実現したプロダクトに接しているはずだ」と語る。

  • デジタルは人々の生活に深く影響しており、GlobalLogicはその幅広い産業に実績を持つ

日立製作所では、データを活用し、社会課題や顧客の課題を解決するLumadaを成長戦略の柱に据えている。

日立製作所の小島啓二社長兼CEOは、「2024中期経営計画は、成長へのモードシフトである」とし、「成長戦略の中心はLumadaである。そして、最大の成長エンジンはデジタルエンジニアリングのGlobalLogicである」と語る。

Lumadaは、デザイン思考によって、顧客の経営課題を理解し、そこからITやOT、プロダクトで課題解決の方法を導き出す「デジタルエンジニアリング」、データを収集し、分析するIoTシステムを構築。デジタルツイン化する「システムインテグレーション」、ネットにつながる製品を導入し、遠隔化や自動化で運用コストを削減する「コネクテッドブロダクト」、予兆診断などにより、保守コストを低減し、次の課題に取り組む「マネージドサービス」の4つの事業で構成する。

  • Lumadaを構成する「デジタルエンジニアリング」「システムインテグレーション」「コネクテッドブロダクト」「マネージドサービス」の4つの事業

GlobalLogicは、このなかで、デジタルエンジニアリングの部分を担当することになる。

バンガ社長兼CEOは、「GlobalLogicのデジタルエンシバリアリングに、日立グループのシステムインテグレーション、コネクテッドプロダクト、マネージドサービスを組み合わせることで、GlobalLogicと日立によるエンド・トゥ・エンドのサイクルが完成する。GlobalLogicは、Lumadaのエコシステムに深く関わっている。Lumadaの成長サイクルを実現し、顧客のデジタル革新のジャーニーを支援することができる」と、日立グループにおけるGlobalLogicのポジションを示す。

GlobalLogicは、日立による買収以前には、日本における実績はほとんどなかった。

そこで、2022年1月1日にGlobalLogic Japanを設立。日本での展開を本格化している。

バンガ社長兼CEOは、「日本法人の設立は、日立による買収が完了した2021年7月から考えていた」としながら、「GlobalLogicはデジタルエンジニアリングを実現するための手法を数多く持っている。だが、日本の働き方は違い、日本の市場は特殊である。それを前提にGlobalLogicの能力をどう生かすかを考えた。GlobalLogicが持つデジタルエンジニアリングの手法を、日本の文脈に入れることが重要であり、日本の顧客がデジタル変革をうまく展開できるように支援するための準備をしてきた。GlobalLogicの能力を世界各国から持ち込みながら、日本の市場にあわせた形で展開する」と語る。

  • 2022年1月1日にGlobalLogic Japanを設立

そして、「GlobalLogic Japanが大切にするのは、GlobalLogicが持つスピード感とオープンな透明性、コーディネーションやサポート力、グローバルの知見や経験を集約し、価値を提供することである。そこに、日立が持つ日本での経験値を加えていく。これによって、日本の企業のデジタル変革の道のりを支援することができる。そして、日立のグループ企業の事業も変革し、新たなデザインができるようになる」とする。

  • GlobalLogic Japanが日本の顧客を深く理解することで、グローバルのGlobalLogicが持つデジタルエンジニアリングの手法を最適なかたちで展開できるようにする

GlobalLogic Japanは、すでに日立のLumada Innovation Hub Tokyoとの協創を開始。「顧客のためにソリューションを提供し、新たなアイデアやビジネスの創造を行っている。次世代のアイデアを協創し、デジタル変革を実現し、ソフトウェア定義による製品を提案している。Lumadaの資産、ソリューション、能力のすべては、完全にGlobalLogic Japanのサービス提供のなかに織り込まれている。統合された日立のエコシステムの一員として、GlobalLogicの能力のすべてを、日立の力と掛け合わせ、包括的な変革を日本の顧客に届けることができる体制が整った」とする。

  • GlobalLogic JapanとLumada Innovation Hub Tokyoの協創がスタート

今回の講演では、「なぜ変革が必要なのか」、「なぜデジタルを活用した変革が必要なのか」、「どのように変革するのか」という3点について触れた。

バンガ社長兼CEOは、「変化はリスクを伴うものであり、日本は失敗を恐れ、リスクを嫌う傾向が強い。だが、いまは変化をしなくてはならない時期である。それは3つの事実から理解できる」と述べる。

  • 「いまは変化をしなくてはならない時期である」と説くバンガ社長兼CEO

ここでは、地政学的リスク、人材不足の発生、サプライチェーンの混乱、顧客の期待の変化、気候変動といった「不確実な時代を迎えていること」、モノの所有からサービス消費への転換、ハイブリッドワークの浸透、シェアリングエコノミーの浸透などによって「意識や行動の変化が、デジタルの新たな流れを作っていること」、サステナビリティやサービタイゼーションといった新たな分野、Web 3.0やメタバース、NFTなどの新たな技術に代表される「新しい分野やテクノロジーの登場」をあげた。

「ビジネス変革をしなくてはならない時期に入り、そのためにはデジタルを活用しなくてはならない。変化は難しく、リスクが伴う。しかし、変化をする企業は、変化をしない企業よりも優位になる」とする。

  • 「不確実な時代を迎えていること」

  • 「意識や行動の変化が、デジタルの新たな流れを作っていること」

  • 「新しい分野やテクノロジーの登場」

Uberやairbnbなどのデジタルを活用した新たな企業によるディスラプションや、ブロックチェーン技術や、デジタルを活用したトラック&トレースによるサプライチェーンの強靭化、サービスを中心に製品を提供し、収益をあげる新たなビジネスモデルであるサービタイゼーション、世界的な課題となっているサステナビリティへの対応といったものは、すべてデジタルが不可欠となっている。

その上で、「いま、デジタルを活用した変化をしなければならないと信じるのであれば、次はどうやって変化するのかがテーマになる」と語る。

バンガ社長兼CEOが掲げたのが、「ソフトウェアデファインド」、「クラウドとデータの活用」、「デザインによるイノベーション」、「新しい収益モデル」の4点である。

「あらゆるものをソフトウェアで定義することが大切である。いまや自動車は車輪がついたコンピュータであり、ソフトウェアによって定義されている。これは、どの産業においても共通であり、これがデジタル変革のための第1歩になる。また、あらゆるところから発生するデータを利活用する必要があり、そのためにはクラウドが必要になる。また、イノベーションはデザインからスタートする。日本はシンプルで機能的で、美意識に富んだデザインをする点では優れている。外側から、その内面にあるものを知ってもらうためにはデザインは大切である。それらが揃うとエコシステムが構築され、新たな収益モデルが生まれることになる。新たな収益モデルの確立に至ることがデジタル変革の終着点になる。デジタル変革は差別化であり、成長であり、企業を前進させることができる。この4つのステップを踏むことが変革するためには必要である」と述べた。

  • どうやって変化するのか? バンガ社長兼CEOは、4つの要素を挙げた

バンガ社長兼CEOは、4つの要素について、より詳しく述べた。

「ソフトウェアデファインド」については、これまでのモノづくりでは、製品をサポートするのがソフトウェアの役割であったが、いまでは製品そのものとしての役割を果たしたり、製品の主要な要素になったりしていることを指摘。「すべてのものをソフトウェアで定義する時代がやってきている。その結果、製品をリリースする速度があがり、メンテナンスも速くでき、製品を強靭化できる。新たな機能もアジャイルに、エアー(ネットワーク)で提供できる。ソフトウェア定義にすることで、企業を前進させることができる」と語り、「ソフトウェアの効果を最大限に発揮するには、これまでは別だったソフトウェアの組織を、統合していかなくてはならない」と提案した。

「クラウドとデータの活用」に関しては、クラウドを活用するだけでなく、クラウドネイティブアプリケーションを活用する重要性を強調。また、「データセンターをまたがり、クラウドをまたがり、エッジをまたがる活用を前提とすること、データを活用し、インサイトによって事業の活性化することが大切である」とコメント。「いまは、非構造化データに対するインテリジェンスがより求められている。また、データドリフトといわれるように、データウェアハウスやデータレイクに蓄積されたデータは、刻々と変わり、そこから導き出される結果も変わる。そうした変化にも対応していかなくてはならない」と述べた。

3つめの「デザインによるイノベーション」では、「デザインは見た目のことを指しているのではなく、どんなエクスペリエンスを提案するのか、どんな機能を搭載しているのか、どんなスケジュールでデザインするのか、そして、ビジネスデザインはどうするのかといったことも含まれる。これらを推進する上では、顧客の声を聞くことが大切である。また、デザインは人を中心に据えたものでなくてはならない。そして、実世界に則したソリューションでなくてはいけない」などと述べた。

最後の「新しい収益モデル」については、製品にソフトウェアなどをバンドルして利用するもの、保険などの付加価値サービスの提供によって収益性を高めるもの、さらにデジタルを組み合わせて製品をサービス化して提供するPaaS(Product as a Service)といった仕組みがあることに触れ、「これらの仕組みらよって、エコシステムやアライアンスを促進し、デジタルによって新たな収益モデルを構築できる。デジタルによって、DaaS(Data as a Service)を構築できる。成長と差別化を実現できる」などと述べた。

講演では、「なぜ、変革をするにはGlobalLogicが適しているのか」という点にも触れ、GlobalLogicが、エンド・トゥ・エンドのDXプロバイダーであること、チップからクラウドまでを展開し、とくにクラウドの専門性を有していること、デジタル変革の前提となるソフトウェア定義の知見を持ち、それを実現する際の組み込みの経験を多く持つこと、アプリケーションを開発するデザインの能力を持っていることなどを示した。

  • GlobalLogicの豊富なリソース

また、GlobalLogicのデジタルエンジニアリングのプロセスは、デザイン、エンジニアリング、データサイエンスを組み合わせたものであり、「GlobalLogicは、プロダクトがどういうものになるべきか、どういう体験を提供すべきか、どういうビジネスモデルにすべきかをデザインし、それをエンジニアリングと組み合わせて、実現可能なものにしていくことができる。また、データを解析し、次世代の洞察を実現し、それを通じて価値を提供することができる。デザイン、エンジニアリング、データサイエンスの3つが連携して機能するのがGlobalLogicの特徴である」と語る。

  • デザイン、エンジニアリング、データサイエンスの3つが連携して機能するのがGlobalLogicの特徴

さらに、バンガ社長兼CEOは、「GlobalLogicはアジャイルな手法を用いて開発をしている企業である。デジタル変革は、要件定義をして、構築して、2年後に実現するというウォーターホールモデルでは実現できない。速く失敗し、学習し、修復し、リリースを繰り返すというやり方が必要である。GlobalLogicは、フィードバックを得て、改善を繰り返すというやり方を取っている。デジタル変革の最後の姿は誰もわからない。また、次世代の製品やサービスがどうなるのかといったこともわからない。だからこそ、アジャイルの手法を取らなくてはならない」とした。

ここに、デジタル変革において、GlobalLogicが適している理由があると語る。

最後に、バンガ社長兼CEOは、「デジタル変革は、キャンバスと一緒である。素晴らしいらしいものを一緒に描いていきたい」と語り、講演を締めくくった。