パナソニックグループは、社員一人ひとりのウェルビーイングの実現に向けて、働く時間や働く場所の選択肢を拡大する取り組みを開始した。他社雇用型の社外副業を可能にするほか、1日の最低労働時間を撤廃し、働き方次第で週休3日も可能となる仕組みだ。また、通勤圏外の実家や自宅でのリモートワークも可能となる。2022年10月1日から、持ち株会社であるパナソニックホールディングスと、財務や人事、情報システム部門などで構成されるパナソニックオペレーショナルエクセレンスで試行導入し、今後、各事業会社で段階的に検討、実施していく。パナソニックグループの新たな働き方の取り組みを追った。
松下幸之助の経営理念、人的資本経営と環境の変化
今回の取り組みについて、パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCHROの三島茂樹氏は、「パナソニックグループは、創業者である松下幸之助の経営理念に沿って、人材を重要な資本として捉える人的資本経営の考え方を大切にしている。だが、環境が変化し、価値観が多様化するなかで、人的資本経営を基本とした施策は変化しなくてはならない。今回の働き方の選択肢を拡大するのは、個人と組織の視点から成果の最大化を目指すという狙いがある」とする。
個人の視点からは、働く時間と働く場所の選択肢を拡大することで、ウェルビーイングにつなげるという。また、組織の視点では、各事業の状況や社員が携わるフィールドに応じて、対面とリモートでの働き方のバランスを取り、最適化することで、生産性の向上につなげることを目指すという。
取り組みには「いまは事情があってフルに働くことが難しくても、担当の仕事に挑戦しつづけたいという社員や、もっとスキルを高めて挑戦がしたい社員、社外で挑戦して視野を広げて、いまの仕事に活かしたい社員といったように、一人ひとりの挑戦意欲を後押しし、誰もが諦めることなく、キャリアをつないでいってもらいたいという思いを込めている」と語る。
今回発表した新たな働き方は、自律したキャリア形成に向けて挑戦したい社員や、ライフイベントとキャリアを両立したい社員などを対象に、きめ細かく対応し、働き方の選択肢を拡大し、提案できるものになると位置づける。
パナソニックグループが示す4つの事例
パナソニックグループでは、具体的に4つの事例を示している。
ひとつめは、週4日勤務で、他社の副業に挑戦するというものだ。
製造現場で働く社員が、副業やボランティア、自己学習のためのキャリア開発サポート勤務制度を活用することで、4日間は工場で8時間勤務し、1日を他社の製造現場の改善活動のアドバイザーとして活動。土日の休日を確保しながら、モノづくりの知見を広げることができる。勤務している製造拠点には、3カ月前に申請を行う仕組みとしており、工場側では、その期間に勤務シフトへの対応などを図ることになる。
2つめは、週3日間は通勤圏内のオフィスで働きながら、休日を週3日に増やし、1日を地方の実家で副業に挑むという働き方だ。これは、自分が持っている資格を活かしたいという社員に適した仕組みだといえる。たとえば、大阪のオフィスでは3日間勤務し、1日あたりの勤務時間を増やすことで所定労働時間を確保。週2日間を福岡の実家で過ごし、1日はリモート勤務、もう1日は副業が行える。例えば中小企業診断士の資格がある社員の場合には、週1日、地元の友人が経営する企業の支援ができるというけだ。
3つめのケースは、実家での介護が必要な社員などが、通勤圏外である実家から、週4日間のフルリモートワークの勤務を行うというもので、同社が用意したワーク&ライフサポート勤務制度を利用することで実現できる。介護のためにキャリアをあきらめずに仕事が継続できるというわだ。
4つめのケースは、パートナーの転勤に帯同したいという場合に、通勤圏外の自宅から、残業なしでのフレックス勤務およびフルリモート勤務ができるというものだ。転職したり、働くことをあきらめたりといったことがなくなるほか、新生活が安定するまでは、残業なしで余裕を持って働きたいといった要望にも対応できるという。
フルリモートワークの活用によって、通勤圏外も働く場所として選べるようになり、単身赴任の解消や回避、希望しないキャリアの選択を回避することもできるという。また、遠隔地からの入社などが必要な社員の採用にもつながる。なお、通勤圏外からリモートワークを行っている際に、オフィスへの出社が必要になった場合にも交通費は支給する。
これらはパナソニックホールディングスがモデルケースとして示したものであり、制度設計は、各事業会社が行うことになる。
フルリモートワークに関しても、すべての職種では実現できなかったり、事業会社の状況や、事業所や製造拠点ごとの考え方や運用にも左右されたりすることになる。
先行して試行するパナソニックホールディングスとパナソニックオペレーショナルエクセレンスでは、1日の最低労働時間を撤廃し、働く時間や曜日を柔軟に設定できるようにしたほか、副業やボランティアを可能にし、月間所定労働時間を維持したい人と短縮したい人がそれぞれの要望にあわせて、残業なしのフレックス勤務の選択、週休3日あるいは週休4日も選択できるようにしている。
さらに、出生時育児休業では、法定では産後8週間以内に4週間の休暇が取れることになっているが、パナソニックグループでは、事業会社ごとの制度として、休暇中の無給を有給にしたり、1年以内に別途20日間の有給休暇が取得できるようにしている。
パナソニック オペレーショナルエクセレンス エンプロイーサクセスセンターの菊川万友所長は、「二重雇用による副業を可能にしたのは、電機大手のなかでは先駆けになる。自社では得られない経験を得たいという社員を後押しし、働きがいや生きがいにつながることを期待している。また、この成果をパナソニックグループに還元してもらうことを期待している。さらに、副業を通じて、自分の価値を知ったり、会社のいいところや悪いところも感じられたりといった効果も期待している」と述べた。
10月1日からの試行開始後、10月13日までの約2週間で23件の問い合わせがあり、副業に関するものが多いという。
「物と心が共に豊かな理想の社会」のための働き方
パナソニックグループでは、新たな制度の成果については、従業員意識調査(EOS=Employee Opinion Survey)により、可視化し、評価していくことになるという。なお、パナソニックグループで実施しているEOSは、グループ全体での共通項目が約80問、それ以外に事業会社の特有項目で構成されており、事業会社ごとや国別、性別といった様々な属性などからも細かく分析し、比較しているという。
パナソニックグループでは、社員一人ひとりのウェルビーイングを実現するために、安全、安心、健康な職場づくりの推進する「安全・安心・健康に、はたらく」、自発的な挑戦意欲と自律したキャリア形成を支援する「やりがいを持って、はたらく」、Diversity, Equity & Inclusion(DEI)の推進による「個性を活かしあって、はたらく」の3つの軸で、取り組みを進めているという。
パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCHROの三島茂樹氏は、「一人ひとりが心身ともに健康で、挑戦の機会を通じて、幸せと働きがいを感じている状態が、パナソニックグループが考える社員のウェルビーイングである」と前置きし、「パナソニックが目指している『物と心が共に豊かな理想の社会』の実現のためには、個々の事業の競争力強化が重要であり、その手段が社員稼業と衆知経営に支えられた自主責任経営となる。そこでは社員一人ひとりが卓越した自主責任感に基づき、積極果敢に挑戦し、言うべきことが言える風土を実現し、知恵を出し合うことが常態化していなくてはならない。この前提となるのが社員のウェルビーイングである」と語る。その上で、「パナソニックグループは、暮らしの場面でも、仕事の場面でも、お客様一人ひとりが快適、安心で、心身ともに健康で幸せな状態(ウェルビーイング)である社会の実現を目指している。そのためには、グローバルで24万人の多様な個性と能力を持つ社員が、ウェルビーイングであることが企業としての責務である。『物と心が共に豊かな理想の社会』のスタートラインである」とする。
「安全・安心・健康に、はたらく」では、安全・安心の職場環境整備、人権の尊重とコンプライアンス、健康イニシアティブ(健康で活力ある人づくり)の推進の3点をあげる。
パナソニックグループでは、2001年から社員と家族の健康づくりを推進する「健康パナソニック活動」を実施。加齢に伴う健康リスクの抑制などの取り組みに加えて、働きがいとの相乗効果によってパフォーマンスが向上し、活躍を促進することができることに着目し、人事姿勢と連動させながら、健康習慣の定着を図ることにも取り組んできた。
「今後も健康投資を加速し、健康イニシアティブとして取り組みを推進する。これまでの健康パナソニック活動は、労使、健保が連動し、専門スタッフを中心とした活動であったため、健康に関心が高い一部の社員が参加するものの、職場全体の活動としては定着しきれていなかった。経営トップの発信を強化し、各事業会社において経営活動の一環として、職場の実態に則した具体的な取り組みを展開し、全世界の社員が主体的に参加できるようにする」と述べた。同社では、「パナソニックグループ健康メッセージ」を発信することも新たに発表している。
2つめの「やりがいを持って、はたらく」では、公募によるグループ内人材交流などによる仕事を通じた挑戦の後押しと、副業や能力開発の機会創出や、働く時間および働く場所の選択肢の拡大による自己実現の機会創出を行い、自発的な挑戦意欲と、自律したキャリア形成を支援する。「ひれは、人が生きる経営の考え方そのものであり、事業競争力の強化につながることになる」とした。
そして、「個性を活かしあって、はたらく」においては、Diversity, Equity & Inclusionを推進。経営トップが参加するグループDEI推進委員会を四半期に一度開催し、DE&Iをトップコミットメントとしてグループ全体に浸透。アクセシブルマップの作成により、障害の有無に関わらず、すべての社員が必要な情報や必要な施設にアクセスでき、交流できる環境を構築し、インクルーシブな職場環境づくりを進める。また、育児や介護を含めたワーク・ライフ・バランスの支援も行う。「様々な事情やニーズを持つ社員のサポートを行う。育児や介護に関わる社員のワーク・ライフ・バランスの支援のほか、障害、LGBTQ、高年齢者、ジェンダーなど多角的に視野から取り組む」という。
今回の働く時間や働く場所の選択肢を拡大する取り組みは、パナソニックグループ社員の安定したウェルビーイングの実現に向けたものである。
三島氏は、「すべての社員に対して、挑戦する際に生まれるハードルを取り除くことに取り組んでいる。社員がキャリアをつないでいくことに対して、また、働き方のきめ細かなニーズにも柔軟に対応していくことになる」とする。
この制度が定着し、社員のウェルビーイングを実現し、それが最終的な業績向上につなげることができるのか。その成果は、長期的視点で評価されることになる。