ヤマハ発動機は、産業用ドローンおよび無人ヘリコプターで構成する産業用無人航空機事業について説明。2024年には、国内農業用ドローン市場においてシェア30%の獲得を目指す計画を明らかにした。また、国産農業用ドローンの「YMR-II」と、自動飛行機能を搭載した農業用途の産業用無人ヘリコプター「FAZER R AP」を発表した。
YMR-IIは、国際競争力強化技術開発プロジェクトによるハイスペックドローン開発コンソーシアムを通じて製品化。農業用ドローンとして、日本の標準機体となることを目指す。機体の基本要素は他社でも利用が可能な基盤技術として開発を進めており、これらの技術は国内ドローン産業の国際競争力向上に貢献できるとしている。
ヤマハ発動機では、産業用無人航空機として、農業用途向けに産業用無人ヘリコプターと、産業用マルチローター(ドローン)を用意。農薬散布や肥料散布、種子散布などに活用されている。水稲、麦、豆類などの大面積散布だけでなく、最近では各種野菜を対象にした小面積散布の増加への対応や、果樹の散布や松の防除といった難しい散布にも対応している。
ヤマハ発動機 ソリューション事業本部UMS事業推進部の倉石晃事業推進部長は、「日本では、約100万haが航空機による防除となっている。かつては有人機による散布が中心であったが、これが無人機に変わり、2020年には45%の水田で無人機が利用されている。最近ではドローンが使用されるようになり、これにより、2021年には無人機の比率が一気に約5ポイント上昇した。今後も、10ポイント増、15ポイント増といったように、無人機の比率が急速に高まっていくことになる。自動化が進み、農家が簡単に散布できるようになり、大容量の散布ができるドローンが登場。無人ヘリとドローンを組み合わせて適材適所で使い分ける用途も増えるだろう」と予測した。
無人ヘリでは、大面積でのエリア一斉防除が中心となり、手動飛行が主な使い方となるが、これに対してドローンでは、小面積での適期防除の利用が中心で、農家が自ら飛行させる場合が多く、自動飛行機能が重視されるという違いがある。しかし、現在の無人ヘリとドローンでの二極化した使い方は、融合していくと予測している。
また、ヤマハ発動機は、農業以外の用途として、2000年に自動航行型の産業用無人ヘリコプターを開発し、物流、計測用途での活用を提案。火山監視などの研究分野のほか、海外では災害予防、害虫や害獣駆除などの用途でも利用されているという。日本でも、航空機と無人航空機を組み合わせて、採れたての鮮魚を無人航空機で運び、そこから遠い消費地まで航空機で運ぶといった実証実験が始まっているという。
ヤマハ発動機では、約40年間の設計製造ノウハウの蓄積と、30年以上に渡って築いた顧客との安心の運用体制を生かすとともに、省力化や安心安全のための自動機能、無人ヘリやドローンの飛行管理ソフトの活用などにより、「ヘリとドローンが適材適所で利用されるような運用を目指す」とする。また、「国産技術の採用や、脱炭素や環境対応に向けたサプライチェーンの取り組みもしっかりと進めている。最小限の肥料で、収量を高め、同時に農作業の省人化も進めていく」とし、「今回の新製品では、無人ヘリにおいては、いままでにない無人化技術を採用した。また、ドローンには求められる汎用性の強化とともに、情報セキュリティにおいても強化した」と述べた。
新製品の産業用マルチローターのYMR-IIは、自動飛行機能を標準搭載したのが特徴であり、2023年春から発売する。
小容量であり、フライト時間は短いが、コンパクト設計と低騒音設計を実現。小回りがきくことが特徴だ。収納時には従来機の約2分の1に小型化できるため、移送が簡単であり、小さな圃場や、住宅地の近くにある水稲や畑での散布にも適している。
初心者でも運用が簡単な新型自動飛行用アプリケーション「agFMS-IIm」による自動航行および自動離着陸機能を搭載。6枚ローター(回転翼)のレイアウトと、ボックスフレーム構造の採用により、高い飛行安定性を実現している。
「事前にRTK(Real Time Kinematic)-GNSS方式を用いて地図を測量しておけば、agFMS-IImアプリの利用で、いつでも簡単に効率的な散布ルートの作成ができ、自動飛行散布が可能になる」という。
ヤマハ発動機では、スマート農業支援プラットフォーム「YSAP(Yamaha Motor Smart Agriculture Platform)」を提供しており、これとも連動。飛行ログをアップロードすることができる。YSAPでは、スマホやPCを通じて農薬散布や施肥作業のデータ管理や運行管理ができるため、同じ圃場に散布する場合には、次年度からは測量が不要になる。
また、通信の暗号化やユニークIDによるペアリングなどにより、農業生産現場で得られたノウハウの流出を防いだり、機体の乗っ取りなどから守る高い情報セキュリティ機能を採用している。さらに、ワンタッチでアームの開閉が可能な新機構やカセット式散布タンクの採用、丸洗い可能な防水性能などにより、効率的な作業や管理を可能にしている。今後、粒剤散布装置や4Kカメラ、障害物センサー、追加散布ポンプなどのオプションを揃え、多様化するニーズに対応する。メーカー希望小売価格は185万9,000円。従来製品に比べて約15%の低価格化を図っている。
ヤマハ発動機 ソリューション事業本部UMS事業推進部営業部の杉浦弘明部長は、「国内の農業ドローン市場は、年間3,000台規模が想定されている。2023年度は400台、2024年度は800台の販売を計画し、市場シェア30%の獲得を目指す」とした。
産業用無人ヘリコプター「FAZER R AP」は、32Lの大容量搭載が可能であり、1回のフライトで約4haの散布ができる。大きな圃場が多い水稲散布に適しているという。
新型自動飛行用アプリケーション「agFMS-IIh」を採用。高精度な直線長距離散布による大規模圃場での多量散布にも対応。自動飛行時にボタン操作で作動する自動離着陸機能や、利便性の高いリモートエンジンスタート機能も搭載している。
高度な操縦技術が求められる無人ヘリコプターに自動飛行機能を追加することで、操縦者の負担を軽減するとともに、農薬や肥料などの散布作業の効率化や散布品質の均一化にも貢献する。
前方と後方にあるレーダーで、約15m前から、電柱や電線、建物、木、鉄塔などの障害物を検知し、衝突のおそれがある場合には、ワーニングランプ通知機能により、警告とブレーキをかける制御機能が作動する。
FAZER R APは、2023年春以降の発売を予定しており、今後、価格も発表する。
なお、2022年6月からの航空法改正により、100g以上の無人航空機は、機体登録とともに、リモートIDを搭載することが義務付けられており、YMR-IIおよびFAZER R APでは、いずれもリモートIDを標準搭載している。また、2022年10月の航空法改正にも対応する準備を進めているという。
一方、農林水産省では、「みどりの食料システム戦略」に取り組んでおり、2022年9月15日から、「みどりの食料システム法」の本格運用を開始。税制特例などの支援措置などが受けられようになる。
同戦略では、「資材・エネルギー調達における脱輸入、脱炭素化、環境負荷軽減の推進」、「イノベーションなどによる持続的生産体制の構築」、「機械の電化、水素化など、資材のグリーン化」、「環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の促進」に取り組む考えを示しており、ドローンやAIの活用が推進されることになる。
ヤマハ発動機の倉石事業推進部長は、「みどりの食料システム戦略において、無人航空機に求められる役割は、農作業の省人化や省力化であり、ここにぴたっと当てはまるのが今回の製品である。国産の安心安全な無人航空機が求められていることや、無人航空機の脱炭素や環境対応にも貢献する」などとした。
また、ヤマハ発動機では、農林水産省の補助事業である「国際競争力強化技術開発プロジェクト」に参加。安心安全なハイスペックドローンの開発と、利用技術の開発に取り組んでいる。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)とともに、ハイスペックドローン開発コンソーシアムを設立。代表機関として同コンソーシムアを運営している。今回発表した散布ドローンの発売により、スマート農業の実現を支援し、収量を高め、化学肥料の使用を最小化することを目指すという。肥料の削減は、コスト削減にも直結する。
ヤマハ発動機の杉浦部長は、「今回発表した新製品は、いずれも農林水産省の政策に対応する機体を目指して開発したものであり、みどりの食料システム戦略では、スマート技術によるピンポイント農薬散布や、散布作業の効率化、操縦者の負担軽減に寄与する自動航行機能を搭載している。国際競争力強化技術開発プロジェクトに関しては、ハイスペックドローン開発コンソーシアムを通じて開発したのが、YMR-IIなる」と述べた。
ヤマハ発動機は、長期ビジョンとして、「ART for Human Possibilities」、「人はもっと幸せになれる」を掲げ、ロボティクス技術を活用し、社会課題に対してヤマハらしく取り組んでいく姿勢を打ち出している。その社会課題のひとつが農業人口の減少や高齢化であり、産業用無人航空機により解決を図る考えを示している。
また、2022年2月に発表した2024年度最終年度とする中期経営計画において、新規事業および成長事業を、戦略事業領域に位置づけており、新規事業のひとつに「農業自動化」を位置づけている。