ベネッセコーポレーションは、VRゴーグルを活用した新たな学習法として「ハイリコム学習」を、2022年10月から提供を開始する。小中学生の学習意欲を応援する「勉強が好きなキミ、はじまる」キャンペーンの第1弾となるもので、まずは小学校6年生向けの「進研ゼミ中学準備講座」で採用する。

ハイリコム学習は、スマートフォンを本体内にセットして利用するベネッセ独自の「VR studyゴーグル」と、専用VRアプリを提供。没入感がある体験型の学習を実現しているのが特徴だ。

  • 変わる子供の学習環境、進研ゼミが「VR」導入で意欲低下の課題に挑む

    VRゴーグルを活用した「ハイリコム学習」がスタート

  • ベネッセ独自の「VR studyゴーグル」

ベネッセコーポレーション 校外学習カンパニー副カンパニー長の成島由美氏は、「コロナ禍により、学習のペースが乱れ、学習意欲低下の課題を抱える子供たちが多い。学習意欲低下を子供たちのせいにせず、いまある技術を駆使し、難しい時代を生き抜く子供たちに、学ぶ楽しさや、わかる楽しさを届けたいと考えた」とし、「億単位で広がっているスマホを使うことができる独自の教具を家庭に配布し、体験を通じて、理解が難しい単元も理解できるようになる。こうした取り組みは日本で初めてだと考えている。」と語った。

  • ベネッセコーポレーション 校外学習カンパニー副カンパニー長の成島由美氏

ハイリコム学習で利用する学習コンテンツは10分以内で構成しており、酔いにつながる演出を避けたカメラワークで制作しているという。小児眼科の専門家などの指導を受け、11歳以上の子供が安全に使用できるように考慮したレンズ設計のほか、メガネをかけたままでも装着ができる。小学生が利用しやすいように軽量化も図っており、本体重量は500g以下、本体サイズは縦210mm×横170mm×厚さ110mm。正面部分の色は、ブルー、ピンク、ブラックを用意している。万が一、VR酔いしたり、目が疲れた場合にも、ゴーグルをすぐに外せるようにベルトはない。

  • 小学生が利用しやすいように軽量化されていたり、ゴーグルをすぐに外せるようにベルトがなかったり、特別な仕様になっている

「学習内容が大きく変わり、子どもの苦手ができやすい中学校に進学するタイミングに役立ててほしいという想いから、まずは小学6年生向けの進研ゼミ中学準備講座で、新しい学習法を提供することにした」という。また、「宇宙といった実際には見えない抽象的な単元や、英文法などの難しいルールについても、VRコンテンツで学習することにより、子供たちは体感して覚えることができる。皆既日食のような不思議な現象も理解しやすい。ニューヨークを旅しながら英文法を学んだり、360度動画によって、関ケ原の戦いの場にも入り込めたりするコンテンツも用意する」という。

  • 例えばVR体験によって、天体の見え方を仕組みから理解しやすくなる

2023年夏までは、新規コンテンツを毎月1~2科目配信する予定だという。

「進研ゼミ中学準備講座」は、月額5,830円で受講でき、VR studyゴーグルは受講費内で提供する。

「子供たちは新たなメディアやデジタルテクノロジーに高い関心を持っている。VRコンテンツを制作、監修できる専門家が増え、月謝のなかで提供できるようになった点もサービス化に踏み出すことができた要因である」としたものの、「営業ありきでは考えていない。VRゴーグルの利用者目標は設定していない」などと述べた。

ベネッセでは、単元理解を促すタブレット学習の「AI Navi」、約1,000冊の関連書籍で学びを深める電子図書館「まなびライブリラリー」と、今回のVR studyゴーグルを組み合わせることで、理解する、深める、体感するといった学習を推進できるという。

なお、「勉強が好きなキミ、はじまる」キャンペーンでは、今後も、人気コンテンツとタイアップした教材や新サービスなど、子どもたちの学習意欲向上を応援する取り組みを行うとしている。

ベネッセコーポレーションの成島氏は、新卒でベネッセに入社し、25年間勤務したのち、学校での学びを体験するために、2022年3月末までの5年間、私立の中高一貫女子校である大妻中学高等学校で校長を務めた。校長時代には、1人1台のタブレット導入を行い、とくにSTEAM教育とグローバル教育に力を入れ、全員がプログラミング言語であるPythonを習得。着任当時は7:3だった文理選択を5:5まで変化させたという。

「学校現場の経験から、子供たちは、大人からの刺激を純粋に吸収し、驚くほど変わるということがわかった。デジタルによる新しい映像技術や教具を用いて、紙や2次元写真では難しい重要単元の理解度や学習意欲の向上に挑戦したい」と述べた。

ベネッセホールディングスでは、企業理念である「Benesse=よく生きる」をベースに、サステナビリティビジョンとして、「『よく生きる』を社会へ 『よく生きる』を未来へ」を掲げている。

ベネッセホールディングス 専務執行役員CDXO兼Digital Innovation Partners本部長の橋本英知氏は、「ベネッセグループの各社は、人を軸にしながら社会課題を解決することを目指して事業を行っている。人の成長支援をしていくという思いは共通だが、顧客もビジネスモデルも異なる多様な事業を展開しているため、デジタル活用の進展度は事業ごとに大きく異なる。もちろん、デジタルテクノロジーは、サービスを高めるための手段として使いこなさなくてはならないが、だが、利便性を高めたり、満足してもらえたりするものを出し続けるためであれば、アナログやデジタルに関わらず、様々な技術を利用したい」とした。

  • ベネッセホールディングス 専務執行役員CDXO兼Digital Innovation Partners本部長の橋本英知氏

一方、少子化の動きや多様な学びの重要性の高まり、所得格差が教育格差につながる可能性が指摘されるなど、教育事業を取り巻く環境が変化している。また、コロナ禍によって生まれてきた課題もある。小学生、中学生、高校生だけでなく、社会人やシニア、幼児など、幅広い層における学習に対する意欲も変化してきている。

橋本専務執行役員は、「学力や学習意欲に合わせた個別の対応や、多様な学びの支援の実現が必要になっている。デジタルを活用することで、ベネッセが歴史をかけて培ったアセットをさらに高めていきたい」とする。

ベネッセでは、赤ペン先生が約9,000人、グループ塾の講師は約8,000人、進研ゼミのOB、OGによるゼミサポーターを約1万3,000人擁しており、約200万人の進研ゼミ会員の学習履歴、約1,000万人の見込み顧客、年間約900万人の進研模試などへの延べ受験者数がある。一方で、デジタルの取り組みとしては、小中学校生向けに累計500万台以上のタブレットを出荷。学校分野においては、タブレット学習用ソフトのミライシードを約9,000校の小中学校に導入しているほか、統合型校務支援システムのEDUCOMは、1万校以上の小中学校に採用。学校のICT化をサポートする教育プラットフォームのClassiは、100万人以上の高校生が利用している。さらに、オンライン教育プラットフォームのUdemy Businessは、国内800社以上の企業のほか、大学、自治体でも導入されているという。

「既存サービスで圧倒的なNo.1シェアであることを生かし、デジタルサービス利用者を一気に拡大していく。デジタルを活用したUX改革によって顧客満足度を向上するほか、データ利活用による収益性向上、圧倒的な規模を活かしたプラットフォームビジネスの展開を進める」としている。

たとえば、赤ペン先生サービスのデジタル化によって、郵送方式では、採点結果が子供のもとに戻るまでに約2週間かかっていたものが、タブレットからの操作で提出でき、すぐに採点ができるほか、保護者も取り組み状況をスマホで確認できる。赤ペン先生は、答案の結果だけでなく、デジタルレッスンの正答率や取り組み状況をもとにしたアドバイスも可能になっているという。

タブレット会員の提出率は2.7倍に向上し、添削コストは10%以上減少。「提出率と生産性の双方が大きく向上している」という。

  • 赤ペン先生サービスのデジタル化の事例

その一方で、デジタルのデメリットについても検証を進めており、「タブレットになって子供が書きにくくなるのではないかといった点や、赤ペン先生は手書きの消しあとまで答案を見てアドバイスをしていたといったことができなくなる点、赤ペン先生の手書きによる温かみは残るのかといった点も考えた。紙の書き心地は再現できなくても、書くことを増やすようにコンテンツを制作したり、赤ペン先生もタブレットで手書きをしたりといったことで対応している。デジタルだからすべてがいいとは思っていない。使ってもらった感想をもとに迅速に改善したい」とした。

調査によると、コロナ禍において、子供の学習意欲が大幅に低下し、やる気がわかないという生徒は、2019年45.1%から、2021年には9.2ポイント増加して54.3%になっており、小学校高学年や中学生でとくに増加しているという。

しかし、「わかるようになった」、「楽しくなった」ということを感じている生徒は学習意欲が上昇しているという結果もある。ベネッセホールディングスの橋本専務執行役員は、「わかる、楽しいといった機会を提供しないと、学習意欲が低下し、今後の新たな社会課題になる」と指摘。「子供のやる気を引き出すこと目的に、商品やサービスのDXを推進していくことが大切だ」とした。

  • コロナ禍で子供の学習意欲の大幅低下が見られた。「わかる」ことの意欲への関連性に着目する必要がある

ベネッセコーポレーションの成島氏も、「進研ゼミは子供のやる気を引き出すサービスへと進化させることに注力した。学習データをもとにした最先端の学習サポートや、最新のデジタル技術を生かして、子供たちがワクワクし、学びに没入することができるこれまでにない教材の開発を進める。今後は、子供の学習を応援し、やる気を引き出す人気コンテンツとタイアップした教材の導入についても発表したい」と語った。