NECは、「DG/DF(デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス)」、「グローバル5G」、「コアDX」を、成長3事業に位置づけている。そのなかで、グローバル5G事業の取り組みについて説明を行った。
グローバル5G事業は、オープン化によって推進されているモバイルネットワーク分野の産業構造変革のタイミングを捉え、通信事業者を対象に、5G事業をグローバル展開するものであり、Open RAN市場において先行している日本での実績をもとに、O-RU(基地局)によるグローバル市場への参入を果たし、さらに、ソフトウェアとサービス領域に事業領域を拡大し、収益性の高い成長を目指している。
グローバル5G事業の2021年度の売上収益は前年比253億円増の670億円の実績となったが、2022年度は、当初の売上収益1,100億円の計画を見直し、820億円へと大きく下方修正している。だが、「2025中期経営計画」の最終年度となる2025年度の見通しは当初計画からは変更なく、売上収益1,900億円、調整後営業利益率10%を目指している。
NEC執行役員常務 ネットワークサービスBU担当の河村厚男氏は、「Open RANのリーディングベンダーとして市場を牽引し、2025年度まで10~15件の顧客を獲得することで、中期経営計画を達成したい」と意欲をみせた。まずは、2023年度の黒字化を目指すことになる。
NECでは、現在の状況を、Open RANの導入とネットワークの構築フェーズと捉え、2022年度までは積極的な投資を推進。O-RUを中心としたハードウェアビジネスでの市場参入および顧客ベースの拡大を進めている。また、2023年度から2025年度までを投資回収期と位置づけ、先行しているO-RUによるハードウェアビジネスに加えて、CU/DUや5GC、SMOといったソフトウェアや、システムインテグレーションによるサービスビジネスを重畳。自動化や運用効率化、ネットワークリソースの最適化など、高付加価値ソリューションによる収益向上を目指す。また、ソフトウェアライセンスおよびリカーリングビジネスの拡大にも取り組む。
「2023年度からは投資回収による利益成長を実現させる。現在は、国内で実績があるO-RAN Alliance準拠のO-RU(基地局)を中心に顧客を獲得し、並行してソフトウェアプロダクトを拡充するための積極的な投資を実施している。5Gの本格展開は2023年度以降と見ており、基地局を制御するCU/DUや、インテリジェントな運用を可能にするSMO、ソフトウェアを管理、制御するRIC(RANインテリジェント・コントローラー)、ハードウェアとソフトウェアを組み上げるSI力を含めて、5Gネットワークを構成するために必要なソリューションをNECが統合的に提供することで、ソフトウェアやサービス領域に軸足を置いたビジネスを実現し、高い利益率を達成する計画である」と述べた。2025年度には、売上高のO-RUが過半数を占めるものの、約4割はソフトウェア、サービスになると想定している。
調査によると、現在、主要な通信事業者の85%がOpen RANを導入する意向を示しているほか、商用稼働や購買段階といった具体的な活動を推進している通信事業者が13%に到達。ラボ所有やトライアル中の通信事業者は35%を占めており、今後1~2年で商用化が急速に進展する可能性がある。
「商用化の呼び水になるのが、グローバルでの商用稼働実績を積み重ねることである。その点では、2022年度の欧州での商用稼働に向けた貢献が鍵になる」とする。
Open RAN基地局のグローバルでの需要は2025年まで年平均成長率30%以上で拡大すると見られ、Open RANの市場構成比も30%に達すると予測されている。通信基地局全体の市場規模は、3兆5,000億円から4兆円前後の規模を見込んでおり、このうち、Open RAN基地局は1兆円前後を占めることになる。NECはこの市場において、15~20%のシェアを獲得する計画だ。
「Open RAN市場全体をみると、すでに、日本をはじめ、欧州、米国、中国、オーストラリア、インドなど、20カ国以上で、36事業者が37件のトライアルおよび商用構築を実施している。欧州のボーダフォンやテレフォニカでは、2030年までに20~30%をOpen RAN化する予定であり、米国では政府主導のRip &Replaceを契機としたOpen RAN化が推進され、インドでも2022年7月に、5Gの周波数のオークションが実施され、政府によるOpen RANラボが開設されている。こうした商機を確実に掴み、実績をあげ、Open RANベンダーとしてのポジションを確立していく」と述べた。
日本では、NTTドコモと楽天モバイルが、Open RAN市場を牽引。政府のデジタル田園都市構想の実現に向けた5Gの導入促進税制施策などもあり、5G投資が継続している。また、海外では一部通信事業者でOpen RANの検証の遅れがあるものの、Open RANの商用構築が広がっており、通信事業者の関心が高いことを背景に、実証や検証の支援による市場停滞の解消および需要喚起を図る考えだ。
「2G、3G、4Gなどの設備を持つ既存事業者を指すBrownfieldでは、Open RANの導入には、まだ慎重な姿勢が見られる。一部顧客で投資シフトが見られ始めているが、4Gよりは緩やかな立ち上がりになっている。欧州のBrownfieldでの商用、トライアル実績を積み重ね、Open RANの実効性を証明し、需要喚起を図りたい。また、楽天モバイルやDish Networkといった新規参入事業者であるGreenfieldは、既存ネットワークがないため、すべてのシステムをOpen RANで推進するアプローチが可能であり、積極的な導入が進んでいる」と、Open RANを取り巻く市場環境を説明した。
だが、NECは、2022年度のグローバル5G事業の計画を下方修正している。
その理由について、河村執行役員常務は、「2022年度第1四半期に、部材逼迫などの影響もあり、国内5G需要の一部が2023年度にシフトしたこと、海外では、上期に見込んでいた受注の期ずれがあったことが要因である」と説明。「期ずれはあるものの、欧州での受注は好調に推移しており、全体としての投資意欲に変化はない。2022年度はリスクを加味した保守的な数字としているが、国内では、戦略的部材確保による確実なデリバリーにより、第2四半期以降は回復する見込みであるほか、顧客の安心感を獲得するためのアップサイドの施策を展開し、業績の巻き返しを図る。また、海外でも予算以上の受注拡大に努め、業績改善につなげる。Open RANの導入意向が高い顧客に経営資源を集中し、商用化に進めるための活動を推進する。そのため、2025年度の計画は変更しない。2023年度の黒字化の計画にも変更はない」と述べた。
NEC 執行役員 サービスプロバイダソリューション事業部長の帯刀繭子氏も、「2022年度は端境期ともいえる。2022年度に、通信事業者が『これは行ける』と、トライアルに満足してもらえれば、2023年度以降、大規模な商用化案件が立ち上がってくる。実績を積み上げるための正念場である」と位置づけた。
現在、商用案件として、NTTドコモ、楽天モバイル、テレフォニカ、ボーダフォン、ドイツテレコムの5件を獲得しており、9月8日にはOrangeが5Gスタンドアローン検証ネットワークとして、Open RANを構築したことを新たに発表した。また、トライアル案件はこれを含めて23件に達している。また、プロスペクト(見込み)案件は30件に達している。
河村執行役員常務は、「NECとともにOpen RANの市場を形成し、継続的に事業をしたいという通信事業者が増え、パイプラインは拡大している。欧州では、Open RAN MoUグループの5社のうち、4社と商用、トライアルを実施している。システムインテグレータとしてシステム全体を設計し、マルチベンダーでのOpen RANの実現にも貢献している。今後、1顧客あたりのビジネスは毎年数10億円~数100億円規模を見込んでいる。2022年度は商談獲得の確度を高める活動を進めており、2025年度までに大小含めて10~15件の顧客を獲得し、中期経営計画を達成したい」と意気込みをみせた。
NECでは、2022年度は、3つの重点施策に取り組む考えを示した。
ひとつめは、「Open RANの商用システムの構築により、さらなる市場形成を牽引しつつ、ポートフォリオの強化により提供価値の拡大を推進」することである。
SI体制を拡充し、Brownfield顧客のOpen RAN商用ネットワーク構築を支援。また、市場ニーズに合わせて、ローバンド領域にもO-RUの製品ポートフォリオを拡充。欧州市場での展開を強化するとともに、高品質維持と安定供給により、日本市場での事業拡大を図るという。さらに、QUAD市場におけるセキュアなOpen RANの展開を推進する考えも示した。
2点目は、「顧客エンゲージメントにより、それぞれの領域を強化」することだ。製品ポートフォリオの拡充として、O-RUでは、各国の周波数に合わせて18機種を用意。顧客ニーズの多様化に対応するほか、CU/DUではインテルやクアルコムとの連携を強化し、2022年度末には仮想化RANの本格的な拡販を開始する考えを示した。この取り組みは、ネットワークの上位領域に参入するための足掛かりになるという。また、商用品質を確保しながら、マルチベンダー環境を実現するRAN SIでは、欧州での実績をもとに横展開を図るほか、国内では大規模ネットワークでの実績をもとにした事業展開を強化。パブリッククラウド連携による機能強化などを進める5GC(5G Core network)の展開、通信事業者との協業による運用の自動化や効率化機能の開発を進めるSMO(Service Management and Orchestration)を強化する。
そして、3点目は、「5G技術を兼ね備えたリソースをグローバルで拡充し、さらなる体制強化を実施」することだ。2022年1月には米Blue Danube Systemsを買収し、5G基地局の設計、開発リソースを獲得。2022年7月にはアイルランドのAspire Technologyを買収し、Open RANを推進するためのSIリソースを獲得している。欧州、北米、インドを中心に5G技術を兼ね備えたリソースの拡充と体制強化を進めていくという。
河村執行役員常務は、「2022年度も戦略投資を進めながら、欧州を中心とした商用システム構築による市場形成と提供価値のさらなる拡大や、顧客エンゲージメントの深化、ポートフォリオの拡充、それらを達成するための体制強化を実行していく」と述べた。
2030年度に向けてOpen RANの構成比は増加すると想定しており、15~20%のシェアを維持し、事業規模を拡大させていく考えだ。
Open RANを中軸に据えたNECのグローバル5G事業は、4G市場では後手に回っていた状況を一変し、5G市場での牽引役を担うポジションを獲得できる可能性がある。日本の企業が5G市場で強い存在感を発揮するという観点からも、NECのグローバル5G事業の取り組みが注目される。