NECは、オールオプティカルネットワーク(光通信)市場の創出に向けて事業を強化する方針を発表。2027年度にオープン光伝送市場においてシェア25%を獲得し、オールオプティカルネットワーク事業のリーディングカンパニーを目指すと宣言した。また、「NECの光伝送技術、光伝送製品、光ネットワーク管理のノウハウを活かし、NTTが推進するIOWN (Innovative Optical & Wireless Network)構想の実現に向けて貢献する」(NEC ネットワークソリューション事業部門 フォトニックシステム開発統括部統括部長の佐藤壮氏)とも語った。

  • NECがオープン光伝送市場で狙うリーダーの地位と、その意義

    NEC ネットワークソリューション事業部門 フォトニックシステム開発統括部統括部長の佐藤壮氏

事業強化に向けた第1弾製品として、光伝送装置のオープン仕様であるOpen ROADMおよびTIP Pheonixプロジェクトに準拠したオープン光トランスポート装置「SpectralWave WXシリーズ」を、2022年10月1日から出荷する。同仕様に準拠した製品は、NECとしては初となる。また、NTTが推進しているIOWN Global ForumのOpen APNアーキテクチャー(Rel.1)にも準拠している。

オールオプティカルネットワークの肝要

オールオプティカルネットワークは、ネットワークから端末までのすべての通信を、光ベースの技術で構築するものであり、デジタルツインの実現や、新サービスや新たな産業の創出、グリーン化をはじめとする社会課題の解決を支える次世代インフラとして注目されている。

「オールオプティカルネットワーク化することで、距離を感じさせない超リアルコミュニケーションを提供する社会基盤の構築、カーボンニュートラル社会に向けた高効率化や省電力化の実現が可能になる」という。

従来のネットワーク製品は、ひとつの筐体にすべての機能を搭載し、ワンストップで提供するものであった。だが、オールオプティカルネットワークでは、オープン化を前提とし、機能を分離したディスアグリゲーション型とすることで、各コンポーネントを組み合わせて、最適なシステムインテグレーションが可能になるのが特徴だ。

「マルチベンダー化によるベンダーロックインからの解放や、オペレータの要件に応じたネットワーク設計の最適化が可能になり、同時に、最新技術や最新機能を搭載した製品の導入がタイムリーに行えるようになる。さらに、異なるベンダーの製品で構成されたネットワーク全体を、共通のコントローラで統合監視し、制御できるというメリットもある」とする。

今回、NECが発表した「SpectralWave WXシリーズ」も、機能を分離したディスアグリゲーション型で提供するものになる。

  • 「SpectralWave WXシリーズ」の概要

「WX-Dシリーズ」は、Open ROADMに準拠した多方路、高性能Degree。中継伝送路に接続し、伝送距離に応じて光の増幅を行う装置で、複数のWX-Dシリーズを組み合わせることで多方路への切り替えができ、メッシュ、リング、リニアなどの様々なトポロジへの対応が可能になる。

「WX-Sシリーズ」は、Open ROADM準拠のCDC対応高性能SRG。送信時は複数の光の波長を集め、受信時はひとつの光の波長を分ける装置で、行き先が分岐する場合は波長を取り出すこともできる。柔軟なネットワーク設計を可能にするCDC機能に対応したAdd/Drop機能(波長を加えたり取り出す機能)を搭載している。

「WX-Tシリーズ」は、ホワイトボックストランスポンダー製品で、外部接続装置から受信した電気信号を光信号に変換したり、外部装置へ電気信号を送信する場合は光信号から電気信号へ変換したりすることができる。変換の際、波長の多重化をするために、適正な信号フォーマット、信号レベル、信号光波長に変換できるという。ハードウェアとソフトウェアを完全に分離しており、GoldstoneをベースにNECが開発したNOSを搭載している。

「WX-Aシリーズ」は、WX-Tシリーズと同様に、電気信号と光信号の変換や光スイッチを行う装置で、センター装置とリモート装置を用意。センターサイトからリモートサイトへ遠隔操作によって、光信号の波長を変換することが可能になっている。

  • WX-Dシリーズ

  • WX-Sシリーズ

  • WX-Aシリーズ

これらの「SpectralWave WXシリーズ」は、IOWN Global Forumで検討が進められているOpen APN(Open All-Photonics Network)で定義されたAPN-T、APN-G、APN-Iの各機能ブロックをつなぐ最新の構成を、製品の配置変更によって実現できるのが特徴だ。例えば光信号の折り返しをする際、一般的にはAPN-T、APN-G、APN-Iの各機能ブロックの製品をすべてつなぐ必要があるが、顧客のニーズにあわせて、APN-TとAPN-Gの2製品をつなぐ構成で光の方向を変更した折り返しが可能になる。これにより、柔軟で、経済的なネットワーク構築ができる。

新しいネットワークのトランスフォーメーション

NECでは、2022年6月から、「Truly Open, Truly Trusted」というメッセージを発信しており、今回発表した製品や、今後発表するオールオプティカルネットワーク製品も、この考え方に基づいたものだと位置づける。

  • 「Truly Open, Truly Trusted」というメッセージを発信

「Truly Open, Truly Trusted」では、「イノベーションを加速させる」「社会インパクトを最大化させる」「All Share Benefitの世界を実現する」といった3要素で構成する「Truly Open」と、「信頼に裏打ちされた技術」「技術を正しいことに使う姿勢」「ミッションクリティカルを支える力」による「Truly Trusted」で構成しており、「不確実な時代において、NECがパーパスを実現するために、大切にするキーワードになる」(NECの森田隆之社長兼CEO)と位置づけている。

  • NEC 代表取締役 執行役員社長兼CEOの森田隆之氏

オールオプティカルネットワークでは、「Truly Open」については、「ロックイン構造の排除によるイノベーションの加速」、「オープンな共創により、強みをかけあわせ、社会価値を最大化」、「最適なネットワークの提供による利益の享受」をあげる。

NECの佐藤統括部長は、「企業やニーズの多様性を受け止めて、イノベーションを加速していくことが大切である。様々な企業の強みを掛け合わせることで、社会価値を最大ができると考えている。オープン化した製品を組み合わせることで、社会、顧客、NECが利益を享受できる」とする。

また、「Truly Trusted」では「システム構築、運用の強みを活かし、高信頼な環境を構築」、「超大容量、超低遅延、セキュアな社会基盤構築に貢献」、「社会課題の解消に向けて省電力によるグリーン化を推進」をあげ、「NECの強みを活かすことで、オールオプティカルネットワークにおいても高信頼なネットワーク環境を構築することができる」と自信をみせる。

  • Truly OpenとTruly Trustedについて

その一方で、NECの佐藤統括部長は、「Beyond 5GやIoT、デジタル化が進むと、これまでとはまったく異なる新たな製品やサービスが出現することになる。新たな製品やサービスに、通信インフラを適応させるためには、ネットワークのトランスフォーメーションが始まることになる。新しいネットワークで求められるのは、サービスに応じて、大容量、低遅延、多接続のほか、セキュリティやロバスト性についても、高いパフォーマンスが必要であるという点だ。さらには、地球環境問題の観点からも、ネットワーク全体の省電力化に向けた取り組みが不可欠となる」と指摘する。

  • ネットワークのトランスフォーメーションが始まる

たとえば、2030年においては、Beyond 5Gサービスが一般化すると、超リアルタイムや高精細画像配信などが増加。また、分散型クラウドコンピューティングが進み、メガデータセンターから、エッジデータセンターやMECへと直接サービスの提供場所がシフト。エッジデータセンター間をシームレスにつなぐために、大容量化、広域化、メッシュ化が進展すると予測される。さらに、昨今の大規模災害による影響から通信インフラの安全性、信頼性に対する重要度が高まり、ここでもコアネットワークだけでなく、第3経路の確保などが進み、これもメッシュ化が進展する要因になると見ている。

「メッシュ化が進み、光ネットワークが複雑化すると、ネットワーク管理も人手作業では限界となり、人では考えられないレベルにネットワークトポロジに到達する。その結果、AI活用領域が増え、ネットワーク全体の自動化も進むだろう。また、大容量化や広域化、メッシュ化に適用するために光伝送方式が急速に高度化し、光デバイスはシリコンフォトニクス技術をベースとした光トランシーバの集積化、小型化、省電力化が進むことになる」と予測する。

  • 2030年、ネットワークはどう変わるのか?

さらに、これまで以上にオープン化が進展すると指摘し、「階層構造や非連携、シングルベンダーによって個々に管理するネットワーク環境から、今後はオープン化が前提となり、各種サービスの要件に追従するためにも、コンピューティングとネットワーキングが連携し、いずれもオンデマンドで提供される時代になってくる」とコメント。ベンダーロックインを排除し、適切な機能分離により、ネットワーク構築の投資を最適化する動きが加速するほか、機器調達先の多様化によるサプライチェーンリスクの軽減などによるレジリエンスの向上、様々な企業が自社の強みを発揮できる領域への参入および共創によるイノベーションの加速、マルチベンダー環境でのオペレーション業務変革によるサービス提供の迅速化、高信頼性の実現が可能になるとした。

  • オープン化により変わる将来

  • オープン化&オールオプティカルネットワークによる提供価値

こうした動きを捉えながら、NECではオープン化にも積極的に取り組んでおり、AT&Tが中心となっているOpen ROADM、トランスポンダー関連のオープン化などを進めているTelecom Infra Project、光トランシーバに関するオープン化などを進めているThe Optical Internetworking Forum、そして、NTTが進めているIOWN Global Forumにも参画。IOWN Global Forumでは、オールフォトニクスネットワーク、エッジコンピューティングや無線分散コンピューティングから構成される新たなコミュニケーション基盤の実現を促進しているという。

「IOWN Global Forumモデルによって、オールオプティカルネットワークを様々なサービスにつなぐことができる。APN-Gでは波長の経路を自由に変えられることができ、MFH(モバイルフロントホール)のシェアリングに有効であるためvRAN環境でのBCP対策、負荷対策にも貢献できる。また、地域に閉じたサービスや地域に特化したサービスの提供、高画質や高音質、リアルタイム、双方向による臨場感あふれるサービス体験を広域で提供することも可能になる。さらに、サービスごとのネットワークスライシング、AI活用による障害箇所特定予兆検知および運用の自動化などを実現し、ネットワークコントローラによって統合的に管理できる環境も実現できる」とする。

NTTとの提携、グローバル展開も視野

NECとNTTは、2020年6月に、資本戦略的提携を発表しており、IOWN構想の実現に向けた光技術および無線技術を活用したICT製品の共同研究開発、グローバル展開を視野に入れたオープンアーキテクチャの普及促進、IOWN構想の実現などに共同で取り組んでいる。また、NTTがNECに約645億円を出資し、4.8%の株式を取得。NECの第3位の株主となっている。

  • NTTと提携、IOWN構想の実現に貢献

NECが先ごろ開催したオンラインイベント「NEC Visionary Week 2022」では、NECの森田隆之社長兼CEOとNTTの島田明社長が、「NTTとNECが見据える将来のICTとそれを取り巻く世界」と題して対談を行った。

  • NTT 代表取締役社長 社長執行役員の島田明氏

NECの森田社長は、「現在、NECとNTTは、Beyond 5Gをはじめとした7つのワーキングチームを構成し、共同研究開発を進めている。ORECによる無線アクセスネットワーク機器も近いうちに実用レベルの製品として提供できる」などと発言。「Truly Open, Truly Trustedなインフラを、日本および世界のために作って、発信していく。また、オープンなエコシステムを通じて、大きなイノベーションにつなげたい」と語った。

また、NTTの島田社長は、「IOWNを通じて、エンド・トゥ・エンドを光で結ぶオートルフォトニクスネットワークを推進し、大容量、高速化、安定化を図っていく。これは、2025年の大阪・関西万博を目指して商用化を進めていく計画である。オートルフォトニクスネットワークの実現に向けては、NECに光デバイスの開発に取り組んでもらっている。一方、宇宙の衛星同士を高速、大容量で結ぶ通信においても、光と同じ技術によってつなぐことに挑戦したい。これはブレイクスルーの技術分野であり、ここでもNECと一緒に取り組んでいきたい」などと述べた。

NECでは、2027年度にオープン光伝送市場においてシェア25%を獲得を目指す方針を掲げた。

NECの佐藤統括部長は、「オールオプティカルネットワークは、Truly Open, Truly Trusted のもとに、オープン化を推進。IOWN構想の実現に貢献する」と前置きし、「オープン光伝送市場では、まずはルーターやスイッチが先行することになり、2027年度には、光伝送市場のうち、オープン化市場は20%~30%を占めることになるだろう。そのなかで、25%のシェアを獲得したい」と意気込む。

「25%のシェアを獲得することで、オープン化の市場においてリーダーのポジションを取ることができる。オープン化するとシェアは徐々に減少する傾向がある。その際にも、オープン化市場を拡大することで全体の市場規模が拡大すれば、事業を拡大できる。当面はオープン化市場を立ち上げていくことが前提となる。オープン化に向けて汗をかく時間がある程度必要になる」と語る。さらに、「国内市場では、オープン化へのマイグレーションが重要であり、移行コストをいかに引き下げるかが鍵になるだろう。また、海外市場ではトランスポンダー製品を先行させるなど部分的にオープン化を進め、ステップを踏みながら、最終的にはオールオプティカルネットワークに移行させたい。まずは海外で事業化に向けた展開を進める。2026年度には一定の事業規模と収益を目指したい」と語る。

  • 標準化の取り組みとしてグローバルなコミュニティに参画

NECは、オールオプティカルネットワークの領域において、市場創出とオープンエコシステム確立に向けた取り組みを推進するのと同時に、製品開発と事業化を推進し、新たな市場でのシェア獲得を目指すことになる。NECは、オールオプティカルネットワークという新たな市場において、優位なポジションにあるのは確かだ。今後に打ち出す様々な一手によって、そのポジションをどこまで高めることができるのが楽しみだ。