2019年のパソコン市場は、好調な1年になりそうだ。

というのも、パソコンを取り巻く環境には、3つの大きな出来事が追い風となって吹くからだ。

Windows 7終了ではXP終了問題の教訓が活きる

1つは、2020年1月14日にWindows 7の延長サポートが終了し、新たなOS環境に移行するための特需が顕在化する点だ。特に今年の後半以降は、この需要がより一層、伸びてくると見られている。

  • Windows 7のサポート終了が迫る。XPでは混乱もあったが今回はスムーズ?

日本マイクロソフトは国内で、Windows 7の延長サポートが終了する2年前の2017年1月から新たな環境への移行に向けたプロモーション活動を積極化していた。過去、Windows XPのサポート終了時に発生した「不要な特需」(日本マイクロソフト・平野拓也社長)の轍を踏まないため、前倒しで移行を行ってもらうための仕掛けをしてきたわけだ。その取り組みの成果が順当に表れ、大手企業では既に95%がWindows 10に向けた移行を開始しており、また自治体の97%がWindows 7のサポート終了時期を認知しているというデータも出ている。

Windows XPでは、延長サポート終了直前に需要が集中しまったことが不味かった。期間内に新たな環境へ移行することが優先されたため、予算の関係上、普及価格帯の性能が充分ではないパソコンを導入したり、そもそも品不足の影響で、新たなパソコンが導入できなかったりした。市場全体でも、サポート終了後になっても2カ月間にわたって、前年実績を上回る台数のパソコンが出荷されるといった「問題」が起きていた。

本来ならば、生産性やビジネスモデルなどを考慮し、時間をかけて導入機種を検討するべきだったところが、単なる準備不足というつまらない理由で後回しになってしまったという反省がある。

極端に需要が集中して、業界全体がその対応に追われるという状況に陥らないためにも、ここまで認知度をあげてきた日本マイクロソフトの取り組んできた現状は、評価される結果だといえるだろう。

だが、その一方で、中小企業のサポート終了に対する認知度が57%と、まだ低いままに留まっているというデータもある。

日本マイクロソフトでは、2020年1月の延長サポート終了時には、Windows 10の利用率を90%にまで高める方針を打ち出しているが、2019年前半までに中小企業および地方都市における認知度をどこまで高めることができるか、そして、2019年10月の消費増税前の時点で、Windows 10の利用率をどこまで高めることができるかが、この目標を達成するための道標になっている。

同社では、中小企業向けのキャラバンを日本各地で開催している最中であるほか、早期導入企業向けのキャッシュバックキャンペーン(すでに終了)や、新たなIT環境の整備に向けた公的支援制度に関する情報提供および申請支援なども積極化させることで、新たな環境への移行を促進していく考えだ。

2つめは、2019年10月に予定されている消費増税の影響だ。

2014年4月に消費税率が8%に引き上げられたとき、パソコンには空前ともいえる駆け込み需要が発生した。Windows XPの延長サポート終了と時期が重なり、2013年度は、国内パソコン市場としては、過去最高の出荷台数を記録した。

今回の消費増税のタイミングも、Windows 7のサポート終了時期と近いため、この2つの需要が重なりあうことが想定される。

2019年10月の消費税率10%への引き上げは、前回同様に、パソコンの駆け込み需要に拍車をかけることになるだろう。

中国を締め出した米国基準の採用も追い風?

そして3つめは、2019年4月からスタートする防衛省および防衛装備庁における新防衛調達基準の試行導入の影響だ。

対象となるのは、防衛省と取引がある約9,000社の企業。あまり話題にはなってはいないが、大事なのはここからで、この試行導入をきっかけに、将来的には政府調達の新たなルールが生まれる可能性がある。

実は、ここで採用される新防衛調達基準は、米国政府が採用している「NIST SP800-171」に準拠したものである。

米国の中国締め出しの影響は日本にも

このNIST SP800-171は、米国政府機関が調達するIT関連製品や技術を、開発および製造、販売する企業に対して、一定のセキュリティ基準に準拠するように求めるガイドラインであり、14分野109項目にわたる具体的なセキュリティ要件を示し、米国政府機関が使用する機器などをハッキングされにくいよう環境整備し、取引先からの情報漏えいを阻止することを目指している。米国政府による中国ファーウェイ製品の締め出しが世界中に激震を与えているが、この基本的な考え方もNIST SP800-171がベースになっている。

米国では、政府調達に関わるあらゆる企業がこのルールに準拠することになっており、開発や生産に関わるパートナー会社はもちろん、それらの企業の孫請け、孫孫請けといった企業、さらには政府に納める製品の物流会社や管理会社なども同様に、このガイドライン準拠の対象になっている。

日本ではここまでの徹底はしていないが、防衛装備庁では、「調達に関しては、一般企業を含むサプライチェーン全体において、機微な情報を守る必要がある。そのためには、防衛調達における契約企業に適用されるセキュリティ基準を、同盟国である米国の新たな基準と同程度まで強化する必要がある」と説明。サプライチェーンに関わる多くの企業が対象になることを示唆している。

2019年4月からの防衛省での試行導入を経て、その後の本格導入、そして政府全体の調達基準にもこの仕組みが採用されるようになると、NIST SP800-171に準拠した仕様のパソコンなどを利用する必要があり、日本国内のあらゆる企業で使用されているITシステムが見直される可能性も出てくる。それによって、パソコンの買い替え需要なども発生することになるだろう。

専門家は、「将来的には、NIST SP800-171のガイドラインを満たしていなければ、政府入札だけに留まらず、企業間の様々な取引からも除外される可能性がある。どんなITシステムを使っているかが、取引を左右することになり、それは多くの企業経営にも影響するだろう」と警笛を鳴らす。

そのほかにも、パソコン市場では、2020年の小学校でのプログラミング教育の必修化に向けた子供向けパソコン需要の喚起、5月1日からの新元号施行に伴う、ITシステムの改修による新たな需要の創出のほか、2020年の東京オリンピック/パラリンピックに向けた景気上昇も追い風になりそうだ。

不安はインテルの生産能力、ほぼ通年続くCPU不足

一方で、パソコン市場を取り巻く環境のなかで、懸念すべき出来事が1つある。

それは、米インテルのCPU(中央演算処理装置)の供給不足の問題だ。

  • 米インテルのCPU供給が旺盛な需要に追い付いていない

2018年夏頃から、インテル製CPUの供給が需要に追いつかず、それに伴い、業界全体でパソコンの生産にも遅れが出るようになった。

同社ではその理由について、パソコンやデータセンター向けサーバー製品の需要が予想を上回り、生産が追いついていないことをあげている。

実際、米インテルの最新四半期(2018年7~9月)の業績を見ても、ノートPC向けCPUの売上高は前年同期比13%増、デスクトップPC向けも前年同期比9%増と高い伸びを示している。明確に需要が拡大しており、そこに供給が追いつかないという現状が裏付けられる。

米インテルは生産能力の増強に向け、当初計画の設備投資に加えて、新たに10億ドルの追加投資を行う方針だ。米国とアイルランド、イスラエルの工場おいて、特に供給不足となっている14nmの生産プロセスによるCPUの生産能力を増強する。

だが同社によると、その効果が出るのは2019年のクリスマス商戦を待たなくてはならない。つまり、2019年のほぼ通年を通じて、CPUの供給問題は発生するという見方もできる。

日本は他国に比べ、Windows 7から新たなOS環境へと移行するパソコンの台数が多い。その上、固有の事情として2019年10月の消費増税前の駆け込み需要が見込まれる。CPUの潤沢な供給を2019年のクリスマス商戦まで待たなくてはならないということになれば、駆け込み需要や、新OS移行にも支障が出ることになる。CPU不足の問題は、日本の特需に水を差す可能性があるのだ。

日本は単価が高いパソコンの販売比率が高いため、外資系パソコンメーカーの場合、部品が品不足になったときには、収益性の高い日本市場向けパソコンに優先的に回すとことが一般的ともいわれる。それでも世界的に旺盛な需要によって調達量に限りがあれば、日本での需要に対応しきれないという事態に陥りかねない。

インテルに対抗する立場にある米AMD(Advanced Micro Devices)は、新型CPUの「Ryzen」が注目を集めており、絶好のビジネスチャンスが巡ってきたともいえるが、インテルとAMDではそもそもの企業規模が大きく違い、供給をカバーするにも限界がある。

  • インテルに対抗する立場で、新型CPU「Ryzen」が好評のAMD社はチャンスだが…

2019年に見込まれる旺盛なパソコン需要に対応しきれるだけのCPUが、国内パソコン市場に供給できるかどうかは、業界全体にとって悩ましい問題となる。