パナソニックグループなどが推進する大阪府吹田市のSuitaサスティナブル・スマートタウン(Suita SST)が、2022年4月29日に、街びらきを迎える。

  • 創業来の理想実現へ、パナソニックのスマートタウンが具現化するもの

    大阪府吹田市のSuitaサスティナブル・スマートタウン(Suita SST)

サスティナブル・スマートタウンプロジェクトは、パナソニックグループの工場敷地跡などを利用して、再開発したもので、地域の特色や課題を踏まえた街づくりを行い、街びらき後も共創を継続し、進化するまちづくりを進めるスマートタウンだ。これまでに住宅中心郊外型スマートタウンを目指した2014年の神奈川県藤沢市のFujisawa SST、次世代都市型スマートタウンを目指した2018年の神奈川県横浜市のTsunashima SSTを展開。今回のSuita SSTは、3カ所目となり、関西では初めての展開となる。ここでは、多世代住居健康スマートタウンの実現を目指すという。

  • 今回で3カ所目となるパナソニックのスマートタウン

街びらきを前に、2022年4月8日に、現地の様子を公開した。駆けつけたパナソニックホールディングスの楠見雄規社長兼グループCEOは、「地域や居住者、パートナー企業とともに、社会課題を解決し、豊かに暮らすことができる街づくりを行う。また、蓄積したノウハウによって、関西エリアの発展に寄与したい。新しい形での地域貢献ができる」と説明した。

  • パナソニックホールディングスの楠見雄規社長兼グループCEO

誰もが幸せに生きられる社会の実現を目指す街づくり

Suita SSTは、1938年以来、かつてパナソニックの傘下にあったシントーがポンプ生産の拠点として利用していた約2万3,400平方メートルの跡地に、総戸数362戸のファミリー向け分譲マンションやシニア向け分譲マンション、単身者共同住宅のほか、サービス付き高齢者向け住宅や認知症高齢者グループホーム、在宅介護施設、学習塾、認可保育所などのウェルネス複合施設、地域の人が利用できる交流公園、複合商業施設などで構成する。

吹田との掛けあわせにもなる「Suitable」(適切、ふさわしいの意味)を用いた「Suitable Town for Fine Tomorrows」をコンセプトに、異業種企業が相互に連携した分野横断での様々な取り組みを通じて、社会のあるべき姿を提案するまちづくりを実現。とくに、カーボンニュートラルが当たり前の社会や、誰もが幸せに生きられるウェルビーイング社会の実現を目指すという。

また、Suita サスティナブル・スマートタウン協議会(Suita SST協議会)には、パナソニック オペレーショナルエクセレンスのほか、大阪ガスや関西電力、学研ホールディングス、綜合警備保障、JR西日本、NTT西日本など15社が参画。吹田市もアドバイザーの立場で参加しており、共同での街づくりを進めてきた。

  • パートナーとともに共同での街づくりを進めてきた

Suita SST協議会は、4月29日の街びらき以降の運営フェーズにも関わり、先進的な実証を継続的に実施するという。

パナソニックホールディングスの宮部義幸副社長は、「住みたい、訪れたい、携わりたいと言われる街づくりを推進する。永続的、一体的な街の運営を目指す」とした。

  • パナソニックホールディングスの宮部義幸副社長

Suita SSTでは、エネルギー、ウェネルス、セキュリティ、モビリティ、コミュニティの5つのスマートサービスによって、「Suitable Town for Fine Tomorrows」のコンセプトを実現するという。

  • 各分野の先端技術をもつパートナーとともに、5つのスマートサービスを提供する

企業連携でエネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネス、コミュニティ

エネルギー分野では、エリア一括受電と再生可能エネルギー、非化石証書などの活用によって、商業施設や住宅施設を含む街全体の消費電力を、実質再生可能エネルギー100%で賄う日本初の「再エネ100タウン」を実現するのが特徴だ。さらに、太陽光や蓄電池、EV、先進ガス機器などを活用して、レジリエンスの向上を図るという。

具体的には、関西電力による再エネ100タウンにより、街で消費する電力を再エネ電源、卒FIT電源などを活用した100%再エネで賄うほか、関西電力と大阪ガスによるエネルギーレジリエンス対策により、先進機器を活用して非常時の共用エネルギーの供給を確保する。さらに、大阪ガスではシェアリングエネファームのコンセプトも提案。エネファームを複数の住戸で共同利用する新たなビジネスモデルも導入するという。また、吹田市とともに、水道スマートメーターの設置と水道使用量の見える化の実証も行うことになる。

  • 関西電力による再エネ100タウン

関西電力の森本孝社長は、「関西電力は、2050年までのカーボンニュートラルを目指し、顧客や社会のゼロカーボン化に力を尽くしている。Suita SSTは、その実現に向けた大きな一歩となる。街づくりにあたっては、グループが持つ知見や技術力を総動員し、再生可能エネルギーを最大限に活用し、いざというときも機能し続ける街をコンセプトに先進的な取り組みを行っている。再エネ100タウンは、日本初となる画期的な取り組みである。また、自然災害などの非常時には、外部の電源に頼ることなく、街のなかにあるEVや蓄電池などを活用し、街全体でエネルギーマネジメントが行え、一定期間、エネルギー需給を確保でき、レジリエンスの面でも安心できる街づくりを目指した。環境性、防災性に優れた持続可能な街として、一度は訪れたい、いつまでも住み続けたいと思ってもらえるような街にしたい」と述べた。

  • 関西電力の森本孝社長

セキュリティ分野では、AIや4K搭載の高性能タウンカメラを設置し、転倒や滞留、車椅子や白杖などの画像解析を備えたシステムで街全体を見守り、取得したデータを分析して、高度な画像解析技術を活用した先進のタウンセキュリティを導入するという。

ここでは、i-PROの機能拡張ソフトウェアであるAI-VMD(AI Video Motion Detection)を活用。「侵入」「滞留」「方向」「ラインクロス」「妨害」を検知してデータを取得。それを活用して、データ分析を行い、対策などにつなげるという。

  • 高度な画像解析技術を活用した先進のタウンセキュリティを導入

モビリティでは、誰もがずっと活動的に暮らせる社会を目指し、EVを中心としたモビリティシェアの提供や、吹田市の国内交流都市との連携における公共交通利用の促進などを行う。プライムライフテクノロジーズによるEVやPHVのカーシェア、吹田市のシェアサイクルモデル実証連動に加えて、JR西日本では、第二のふるさと施策として、吹田市と姉妹都市連携を行っている新潟県妙高市、滋賀県高島市、福井県若狭町と広域での人の交流を後押しするという。

  • 「第二のふるさと」施策として、交流都市連携を後押しする

JR西日本 理事 近畿統括本部 京都支社長の若菜真丈氏は、「JR西日本では、鉄道と様々なサービスを組み合わせた『鉄道のある暮らし』を提案している。都市圏に住みながら、地方で暮らしを楽しみ、地方とのつながりを持ってもらうものであり、Suita SSTでの取り組みがその第1弾となる。Suita SSTの居住者同士の交流を促進したり、ワークショップの開催などにより沿線自治体に愛着を持ってもらったり、ツアーを通じて地方ならではの自然に触れてもらったりすることになる。街の『関係人口』を創出し、新たなライフスタイルを提案したい」などとした。

  • JR関西 理事 近畿統括本部 京都支社長の若菜真丈氏

また、ウェルネス分野では、子どもから高齢者まで、それぞれの世代を支援する教育サービスや医療福祉サービスを提供。IoTを活用した高齢者の認知機能低下の検知にも取り組むほか、健康まちづくりを支えるために、エビデンスに基づく健康まちづくりコードを策定したという。

ここでは、学研ホールディングスが、センシング技術と人的ケアプログラムにより、認知機能低下の早期検知と予防緩和に取り組むほか、興和がスマートフォンを通じて、食事や運動、睡眠といった日々の健康データを一括管理し、パーソナルヘルスデータに基づく健康増進や維持をサポート。竹中工務店は健康に配慮した建築デザインによる空間設計を実現する「健築」コードを策定し、住めば健康になる健康まちづくりを実現するという。

  • 学研ホールディングスによるウェルネス分野の取り組み例

パナソニックホールディングスの宮部副社長は、「サービス付き高齢者向け住宅では、エアコンの見守りセンサー、家電リモコンの操作記録などから、日常行動の変化を把握して、認知機能の低下を検知し、学研ホールディングスによる最適なケアサービスを提供する。また、スマホによって管理するパーソナルヘルスデータをもとに、近隣のクリニックや薬局と連携し、最適な健康管理サポートを提供する」という。

学研ホールディングスの宮原博昭社長は、「神奈川県藤沢市のFujisawa SSTから取り組んできた8年の実績をもとに、Suita SSTの街づくりにも貢献していくことになる。たとえば、学童保育と高齢者ディサービスを同じ場所で行うことで、新たな交流が進めるといったことでも成果をあげてきた。今後は、多世代向けとしてコワーキングスペースを作り、リカレント教育やリスキリングの場も提供し、高齢者の健康管理にも万全を期していきたい。多世代が交流し、学ぶ場を提供していく」などと述べた。

  • 学研ホールディングスの宮原博昭社長

コミュニティ分野では、多世代が交流するために、街の中心部に交流公園であるSuita Suitable squareを設置したり、発信・共創拠点であるSuita SST baseを開設したりといった取り組みのほか、タウンマネジメント組織である一般社団法人Suita SSTタウンマネジメントが街のコミュニティ醸成を継続的に図っていくという。

  • 街の中心部には交流公園であるSuita Suitable squareを設置

パナソニックホームズの井上二郎社長は、「Suita SSTにおいて、初めてタウンマネジメント事業に取り組むことになる。従来の街づくり事業は、完成後には住まいのアフターサービスは行うものの、デベロッパーが街全体の運営に携わるケースは限られていた。だが、人口減少や高齢化が進むなかで、新規開発事業の推進だけでは限界がある。運営フェーズに入ったあとも、居住者や事業者に満足を提供しつづけることがサスティナブルな街づくりにつながる。これが、今後のデベロッパーとしての使命だと考えている。タウンポータルを活用した街の情報発信、街の共有部分の管理運営、防災や防犯、環境維持の活動、住民向けサービスの提供、新規ビジネスやサービス導入に向けた企業連携を通じて、Suita SSTおよび周辺地域の活性化を図り、永続的な付加価値向上を目指す」と述べた。

  • パナソニックホームズの井上二郎社長

また、阪急オアシスの永田靖人社長は、「食と健康を軸とした新たなショッピングセンターをSuita SSTに出店する。健、学、医、食の観点から、世代別提案型テナントとの融合し、連携をしていく。売り場では顧客の食に関する関心事のコーナー化などを行い、スマホを活用した健康増進アプリとの連動、データ活用連携などを行い、リアルとデジタルを融合した健康増進サポートを実現する」と語った。

  • 阪急オアシスの永田靖人社長

さらに、Suita SSTのまちづくりを通じて、吹田市などが近隣の吹田操車場跡地で進める北大阪健康医療都市(健都)との相互連携を図り、超高齢社会を迎える日本の社会課題解決やSDGsの達成、Society5.0の実現、万博をはじめとした関西におけるプロジェクトへ貢献を目指すという。

吹田市の後藤圭二市長は、「健都の事業の滲みだしが、Suita SSTである。吹田市は、健康寿命の延伸への取り組みを進めており、Suita SSTと調和した取り組みへと発展させる。吹田市は成熟した街であり、どちらかというと成長、活力、地域創生という言葉とはあまり縁がない。吹田市のクオリティは、より幸せに長生きをすることである。吹田市は平均寿命が長い。人生100年を4つの楽章に例えると、50~75歳の第3楽章がとても大事である。ここの期間をしっかりと幸せに過ごすことで、第4楽章を迎えることができる。そうした街を目指したい。その具体的な取り組みがSuita SSTになる」などとした。

  • 吹田市の後藤圭二市長

健都にある国立循環器病研究センターの大津欣也理事長は、「新たな隣人として、Suita SSTを歓迎する。健都は住民を巻き込んだ健康、医療の街づくりを目指している。国立循環器病研究センターは産学連携、地域連携に力を注ぎ、オープンイノベシーョンにも取り組んでいる。脳卒中などの循環器の病気は予防が大切であり、病気を患った場合には、そのあとに介護やリハビリの時期がある。ここでの中心は自宅になる。関係を強化して、新たなイノベーションを生みたい」と述べた。

  • 国立循環器病研究センターの大津欣也理事長

新体制となったパナソニックを象徴する取り組みになるか

このようにSuita SSTは、様々なパートナー企業との連携によって、新たな街づくりを進め、発展する街を目指しているのが特徴だ。

パナソニックホールディングスの楠見社長兼グループCEOは、「パナソニックグループは、物と心が共に豊かな理想の社会の実現に向けて事業の幅を広げてきた。地球環境問題の解決への貢献と、快適で安心で、心身ともに健康で幸せな状態を、暮らしと仕事において実現することを目指しており、新たなブランドスローガンとして、『幸せの、チカラに。』を発信した。サスティナブル・スマートタウンは、これを実現するものになる」と前置きし、「くらし起点の発想で街づくりを考え、分野横断のサービスやソリューションを実現し、多様なバートナー企業や住む人たち、産官学との共創により、技術やアイデアを持ち寄って、社会や地域の課題解決を目指し、生活する人の視点で街づくりを進めていく。大切なのは、街びらきのあとも、共創を継続し、持続的に街が進化することで地域の価値を高めていくことである」と語る。

また、パソナニックホールディングスの宮部副社長は、「関西に基盤を置いているパナソニックが、初めて関西の地において展開するサスティナブル・スマートタウンである。また、2025年の関西万博の開催など、関西地区のインフラを更新する時期に展開する意義は大きい。注目を集める関西地域の盛り上げにも貢献したい。これまでのSSTよりも、さらに進化したまちづくりを展開するとともに、Suita SSTで培ったノウハウを活用し、共創イノベーションによって社会課題を解決し、進化し続ける街づくりにつなげたい」とした。

  • 関西に基盤を置いているパナソニックが、初めて関西の地において展開する「サスティナブル・スマートタウン」

パナソニックグループは、2022年4月1日付で、持ち株会社制へと移行。独立した事業会社により、自主責任経営を推進する体制を敷いた。

そのなかで、楠見社長兼グループCEOが、パナソニックグループが目指す姿として打ち出したのが、創業者が掲げた『物と心がともに豊かな理想の社会』の実現であり、いま取り組むべきことは、地球環境問題の解決と、人々のウェルビーイングの実現としている。

「この貢献において、誰にも負けない立派な仕事をすることで、お役立ちを果たし、いただく収益を社会に戻すとともに、社員に還元し、さらにお役立ちに向けて投資するサイクルを回し続けることが、競争力強化につながる」とする。

Suita SSTは、パナソニックグループが、その姿勢を具現化できるかどうかを示す、ひとつの指針になるのかもしれない。