パナソニックグループは、2022年4月1日、持ち株会社制へと移行した。
パナソニックホールディングスを持ち株会社とし、その傘下に独立法人として7つの事業会社と、専門的な機能を持つ新会社の体制へと再編。さらに、経営指標として、2022年度~2024年度までの累積営業キャッシュフローで2兆円、累積営業利益で1兆5,000億円、2024年度のROE10%以上を目標に掲げた。また、新たなブランドスローガンとして、「幸せの、チカラに。」を発表した。
パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOは、「新たな事業体制は事業会社が主役であり、パナソニックグループでは、事業会社制と呼ぶ。各事業会社が社会やお客様と向き合い、自主責任経営を徹底し、競争力強化を加速する」とした。
経営指標については、「将来の社会へのお役立ちに向けた十分な投資を行うため、キャッシュ創出力を推し量る指標として、累計営業キャッシュフローの目標を設定した。累積営業利益については、いままでの実績に比べると、意欲的な目標に見えるかもしれない。また、ウクライナ情勢などによって発生する可能性がある大幅な原材料費の高騰などについても十分に盛り込めているわけではない。だが、原価力にはまだ改善の余地がある。目線をここまであげて改善につぐ改善をやっていく。この目標の達成には事業の競争力強化が欠かせない。競争力強化によって得られたキャッシュを積み上げていく」と語った。
原価力改善の余力の事例として、中国・北東アジア社において、この2年間で、家電商品の原価を20%以上低減し、競争が激しい中国市場においても利益を出しながら、価格で戦っていける商品を生み出した例をあげ、「この事例からも、グループとしてコスト力や収益力を高める余地があるという手触り感を得ている。空質空調分野を中心とした新パナソニック、Blue Yonderやアビオニクスを持つパナソニックコネクト、デバイス領域を担当するパナソニックインダストリーでの利益成長が大きいだろう」とした。
さらに、「経営指標の数字は、事業会社からの積み上げによるものであるが、非常に意欲的なKGIをあげる事業会社もあった。その点は調整をしている。基本はトップラインを伸ばすことが前提になっている。営業利益率などは目標にしたくないと考えているが、キャピタルアロケーションは重要であり、その点から目標にするのが営業キャッシュフローになった」などと述べた。
また、投資戦略については、「前提となっているのは、事業会社が自ら稼いだキャッシュをもとに、あるべき姿に向け、自ら投資を行い、各事業領域でさらなる成長を目指すという仕組み。その上で、グループとしても戦略的に投資をしていく」とし、事業会社の投資とは別枠で、グループによる投資として、2024年度までの3年間で、成長領域に4,000億円、技術基盤に2,000億円の合計6,000億円の投資を計画している。
4,000億円を計画しているグループによる成長領域への投資では、「車載電池」、「サプライチェーンソフトウェア」、「空質空調」の3つが中心となる。
車載電池では、容量、安全性、コスト力の徹底強化を図るために投資を実施。高容量の46径セル(4680セル)を業界最速で事業化する目標を打ち出し、すでに和歌山工場での高生産性ラインの実証を開始。2023年度に量産化する予定だ。「量産化については、様々な憶測報道があるが、なにも決定していることはない。まずは和歌山工場で、競争力を獲得できることをしっかりと見極めることが先決である。この車載電池を量産する際には、どんな投資をするのか、4,000億円で足りない場合にはどうするのか、さまざまな形で資本戦略を考えていく必要がある」などとした。また、車載電池では、完全コバルトフリーを実現する技術を確立しており、時期を見て量産実用化に乗り出す考えも示した。
サプライチェーンソフトウェアでは、サプライチェーン分野における豊富なソリューションパッケージを提供するとともに、現場の各種データの収集、蓄積、分析を活用して、業務プロセスの最適化、サプライチェーン全体の最適化、顧客の経営効率の向上に貢献。買収したBlue YonderのAI精度を高め、ソフトウェアソリューションの進化を図るという。
「労働人口の減少により、製造、物流の現場での人手不足が課題となっており、さらなる効率化や標準化の要求が高まっている。また、サプライチェーン全体が自律的に改善するサイクルを回せるソリューションが必要になっている。いま求められているのは、それぞれの現場にいる人が特別な知識を持たずに、サプライチェーン全体の無駄と滞留を無くすソリューションである。これにより、使用エネルギーの削減につなげ、環境負荷軽減にも貢献できる」とした。
3つめの空質空調では、ナノイーXやジアイーノ、調湿技術などの独自テクノロジーに投資し、空質と空調を融合した連携システムの開発により、快適性と省エネルギー性の両立を目指すという。さらに、販売体制やエンジニアリング体制、サービス基盤の整備、連携商材の拡充を目指した投資を、欧州、中国、日本を中心に行っていくとした。
「新型コロナウイルス感染症など、菌やウイルスの不安を解消するニーズが高まっている。また、世界で消費される電力の多くが空調機器であることを踏まえると、地球環境に配慮しながら、快適に暮らすために、パナソニックグループが貢献できる領域は大きい。100年を超える研究で培った知恵と技術、顧客接点力を結集し、空気から未来を変えていく」と述べた。
また、グローバルでの地域特性にあわせて投資についても触れ、中国では、環境、健康、養老、清潔の視点で、「くらしのベストパートナー」の実現に向けて、チャイナコストとスピードを磨き上げ、これをアジア全域に展開。車載およびFAは製品の企画から販売に至るまでの現地化を推進するという。北米では、Blue Yonderを軸に、「ビジネスおよびテクノロジーのイノベーションの中心地である北米でソフトウェアをいち早く磨き上げ、顧客のサプライチェーンの清流化を進める」としたほか、航空機の燃費軽減を加速するためにアビオニクスの軽量化を推進するという。欧州では、環境分野の規格化などが進む市場であることを捉えながら、環境配慮の観点で需要が増大するAir to Waterをはじめとした欧州市場に適合した空質空調融合システムの展開を図るとした。
3年間で2,000億円を計画している技術基盤への投資では、「水素エネルギー」と「CPS(Cyber Physical System)」をあげている。
水素エネルギーでは、同社が進める高効率燃料電池を活用した家庭用燃料電池のエネファームや、純水素型燃料電池のH2 KIBOUにより、電力分野の脱炭素化に貢献。各家庭や工場、各種施設に設置した分散型電源や蓄電池、電動車などをつなぐエネルギーマネジメント技術を確立して、電力の有効活用と社会のクリーンエネルギー化に貢献するという。
「太陽光発電などの不安定な再生可能エネルギーを使いこなすために、水素エネルギーの実用化に向けた取り組みを加速させる。業界トップレベルの高効率電極を用いて、水素の製造および水素発電を高効率化する技術開発を進め、電力系統の安定化に貢献する」と述べた。
CPSでは、現実世界とサイバー空間を結びつけ、社会課題の解決を図る取り組みと位置づけ、北米で2021年9月からサービスを開始したYohanaを例にあげて、「パナソニックの商品、サービスを通じて、くらしの理解を深め、AIやソフトウェア技術などを活用し、体験価値を向上させていく」としたほか、「人を正しく理解するために、生体センシング・感情認識技術を用い、人の状態をサイバー空間上でモデル化することで、実空間の課題を可視化し、最適解を提供することができる。この技術をオフィスやくらし空間などに幅広く展開していく」と述べた。
そのほか、環境や、くらしと仕事のウェルビーイングに貢献する共通技術基盤を強化。新技術の探索のためにスタートアップ企業への投資も行っていくという。
一方、新たな中長期戦略の基本的に考え方についても説明した。
楠見グループCEOは、これまでの取り組みを振り返り、「2019年度から2021年度までは、構造的赤字事業の解消と経営体質の徹底強化を進めてきた。その結果、新型コロナウイルスなどの大きな外部環境の変化はあったが、キャッシュ創出力の改善が着実に進んだ。今後の収益力をさらに向上させていくために、2021年度と2022年度は、競争力強化の2年間として経営を進めているが、1年目を振り返ると、競争力強化の一歩を踏み出すことはできたものの、自主責任経営の定着は道半ばであり、2022年度はこれを再徹底していかなくてはならない。DXや現場革新も進み始めているが、1年目にすべての目標に到達したというわけではない。誰よりも早いサイクルで、高い目標に向けた改善が行われ、そのための課題が社員の間で共有化されといったことが、目指すゴールとすれば、そこに向かっては着実に進んでいる状況にある」とする一方、「3年後にKGIのすべてを満たせば、90点、100点という点数が付けられるだろうが、及第点の最低ラインである60点をクリアするには、改善、改革のスピードがどこにも負けず、スピーディーに向上、発展する風土を作ることが必要であると考えている」とした。
また、パナソニックグループの課題としては、「戦略構築における長期視点やお客様視点の徹底」と、「変化対応力とスピードを卓越したレベルに引き上げること」の2点をあげた。
楠見グループCEOは、「これまでの3年間は、売上げや利益、営業利益率が中期計画の中心になり、それを達成することが目的化していた」と指摘。「変化が速い時代だからこそ、長期視点で大きな社会変革を想定し、その変革のなかでお客様にとってのベストはなにかを見据え、その姿からバックキャストして、戦略の解像度をあげていく必要がある。中長期戦略では、2030年に引き起こされる社会変革を考え、社会と共感を得ながら、実現のスピードとスケールにおいて、競合に負けない競争力を獲得することが必要である。変化対応力とスピード向上では、事業のあらゆる現場において、無駄や滞留、手戻りを撲滅し、すべての社員が『正味付加価値』のある仕事に集中し、一人ひとりが活きる仕組みと風土づくりが必要になる」とし、「これらの課題認識に基づいて、新中長期戦略を策定している。長期視点の経営に変えていく考えだ」と述べた。
楠見グループCEOは、就任以降、創業者である松下幸之助氏の言葉を用いることが多いが、今回の説明会で示したパナソニックグループが目指す姿についても、その言葉を引用してみせた。
「パナソニックグループが目指す姿は、創業者が掲げた『物と心がともに豊かな理想の社会』の実現であり、いま取り組むべきことは、地球環境問題の解決と、人々のウェルビーイングの実現である。この貢献において、誰にも負けない立派な仕事をすることで、お役立ちを果たし、いただく収益を社会に戻すとともに、社員に還元し、さらにお役立ちに向けて投資するサイクルを回し続けることが、競争力強化につながる。競争力強化とは、目先の利益や現状の延長線上ではなく、長期視点で構築した戦略と、事業のあらやる現場で無駄や滞留を撲滅し、事業のスピードを高めるオペレーション力によって実現するものであり、その強い競争力を獲得するために経営基本方針の実践を徹底する」などと述べた。
楠見グループCEOが、事業会社の競争力を高めるためのグループ共通の重点施策としてあげたのが、「一人ひとりが活きる経営」と、「オペレーション力の徹底強化」である。
一人ひとりが活きる経営では、「競争力強化の主体は社員である。挑戦を願う社員の声を傾聴し、個性が最大限に活きる環境づくりを推進する。そのためには、様々な個性を持つ社員が公平に挑戦できる機会を提供し、多様な働き方の実現を支援していく」とし、ジョブ型人財マネジメントの導入やスキル向上支援の継続的実施に加え、昇格選考における過度な負担も廃止する。また、事業会社ごとに人事制度や人財育成体系を最適化し、各事業におけるプロフェッショナル人財の育成を支援。公募制度の条件緩和などにより、グループ全体としての人材交流プログラムを活性化し、挑戦の機会を増やすという。
また、オペレーション力の徹底強化では、社内DXへの取り組みである「Panasonic Transformation(PX)」を推進。IT変革だけでなく、働き方やビジネスプロセスの変革にも乗り出す。働き方改革では、ミドルマネジメント層の業務負担を軽減するために、部下の勤怠管理など、正味付加価値を生まない仕事を、ITを使って削減および効率化。ビジネスプロセスの変革では、事業会社ごとの競争力強化と、グループ共通でメリットを生むテーマを、開発設計、製造、販売、調達などの領域から抽出し、変革に着手しているという。
PXでは、2024年度までの3年間で1,240億円を投資し、150テーマにおいて、事業会社の競争力強化を支援するという。
さらに、現場革新にも取り組む。2022年4月に、オペレーション戦略部を設置し、事業会社ごとに専任の「伝承師」を任命して、あらゆる現場での無駄取り活動を推進。Blue Yonderをさらに進化させて、実需起点でのPSIを自動立案するほか、画像認識AIの活用により、作業動線などから、無駄を分析して可視化。改善を図るという。「2024年度には、すべての拠点において、デジタル技術を活かした、たゆまぬ改善活動が常態化している体制にしたい」と述べた。
環境戦略についても新たな指標を発表した。
パナソニックグループでは、2021年5月に、2030年には全事業会社においてCO2排出実質ゼロをコミットしたほか、2022年1月のCES 2022のプレスカンファレンスでは、グループ長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を発表。2050年に向けて、自社バリューチェーン全体で1億1,000万トンのCO2排出量に見合うCO2削減の責務を果たすことに加えて、社会へのCO2削減貢献量を拡大することを打ち出していた。
今回の説明では、2050年に向けた削減インパクトに向けた具体的な数値目標として、現時点の全世界CO2総排出量の約1%にあたる3億トン以上の削減インパクトを目指すことを発表した。
ここでは、自社バリューチェーン全体のCO2排出量の1億1,000万トンの削減に加えて、車載電池に環境車の普及、サプライチェーンソフトウェア、空調空質といった既存事業領域での1億トンの削減貢献インパクト、水素エネルギー領域などの新技術、新規事業を創出することで社会のエネルギー変革に1億トンの削減貢献インパクトを盛り込んだ。
「供給される電力が再生可能エネルギーに転換すれば、それでいいというわけではない。できるだけ早くCO2排出量を削減しなくてはならない。もっとCO2排出に目を向けた設定が必要であると考えた。そうした考えから、新たな目標を設定した」と説明した。
一方、パナソニックグループの新たなブランドスローガンも発表した。
2013年に制定した「A Better Life, A Better World」から、新たに「幸せの、チカラに。」へと変更し、「変化する世界のなかでも、お客様に寄り添い持続可能な『幸せ』を生みだす『チカラ』であり続けたいというグループの存在意義を表現したもの」としている。
楠見グループCEOは、「A Better Life, A Better Worldは、綱領にある『社会生活の改善と向上を図り、世界文化の発展に寄与せんことを期す』と謳われているものを表現しており、松下幸之助が生涯を通して追い求め続けた『物心一如の繁栄』をわかりやすくしたものである」と前置きしながら、「だが、スローガンや綱領の意図するところをきちんと理解しないまま、お客様に寄り添うことなく、自分の目線の『Better』を、プロダクトアウト的に提供する事例も散見された。そこで、『物心一如の繁栄』によって、人生の幸福の安定に貢献するのがパナソニックの使命であることを、いつも思い起こせるように、新たなスローガンを掲げた。社員一人ひとりが、お客様一人ひとりの幸せに寄り添って欲しいという私の思いも含まれている。2030年の目指すべき姿に向けて、パナソニックグループのすべての事業会社が、お客様一人ひとりの幸せのチカラになることを誓い、お役立ちを果たしていく」と語った。