日本マイクロソフトは、サステナビリティに関する取り組みについて説明した。
マイクロソフトは、2030年までにカーボンネガティブを実現し、2050年までには、同社が1975年の創業以来、直接的な排出と、電力消費による間接的に排出してきたCO2の環境への影響を完全に排除することを表明している。また、気候変動対策のための基金も設立している。
さらに、カーボンネガティブのほかにも、廃棄物、水、生態系におけるコミットメントを発表しており、これに向けた取り組みも開始しているところだ。
日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 業務執行役員 金融イノベーション本部長の藤井達人氏は、「マイクロソフトだけでできることは限られている。また、あらゆる企業や団体が、サステナブルに関する目標を達成できるように支援をしていく必要もある。マイクロソフトが得た知見をもとにITソリューションなどを開発し、提供していくことになる。さらに、企業や社会が目標を達成するための政策提言も行っている。従業員の意識の向上にも取り組んでおり、それらの活動を通じて、環境課題に対する技術ソリューションを提供するリーディングプラットフォームプロバイダーになることを目指す」とした。
米マイクロソフト本社では、Microsoft Research在籍のLucas Joppa氏が2018年からChief Environment Officerに就任。「環境とコンピューティングの研究を行ってきた専門家であり、科学的な研究成果に基づいて、マイクロソフトの現状分析とコミットメント達成に向けた効率的な手段を考え、サステナブルに関する各種施策を進めている」という。
カーボンについては、2020 年代半ばまでにスコープ1およびスコープ2の排出をほぼゼロに削減し、2030 年までにスコープ3の排出を半減し、カーボンネガティブを実現。さらに、2050年までにこれまで排出したCO2よりも多くのCO2を除去することになる。
「カーボンネガティブの実現に向けては、直接排出の削減だけでなく、カーボンフリーエネルギーへの置換、バリューチェーン排出量の削減といった取り組みも行っていくことになる。野心的な目標を掲げている」とする。
また、マイクロソフトでは、気候イノベーションファンドを設立し、2020年から4年間に渡り、気候変動対策分野に10億ドルの投資を計画。すでに5億ドル弱の投資が完了しているという。CO2の削減技術や除去技術、より広い気候変動重点野に対応するソリューションの開発を支援している。「持続可能な航空燃料の開発や、空気中から二酸化炭素を捕捉し、地中に埋めるといったプロジェクトにも投資している。テクノロジーにより、長期間に渡り、確実に炭素固定ができる仕組みを、低コストで実現するために、気候イノベーションファンドを活用していくことになる」という。
さらに、2022年2月には、Carbon Callに参加したことを発表。世界中の科学組織や企業、慈善団体、政府間組織による集団での活動と投資、リソースを集結させ、信頼性が高く最新状態のデータや科学にアクセスできるようにし、それらのデータが透明性を持って、複数の炭素計測システム間で容易に交換できるようにすることを目指す。
水については、ウォーターポジティブを掲げ、使用する水の量を上回る量のきれいな水を創出することを目指している。データセンターにおける冷却用の水の浪費を削減したり、オフィスにおける水利用の削減、再生水利用の促進などにも取り組む。また、敷地内にきれいな水を生む設備の設置も行う。さらに、水データのデジタル化、Water.orgやWRCメンバーとの提携、水戦略ファンドに1,000万ドルを投資する計画も発表している。
「人の生活に欠かせないの水であり、世界中でも水を巡る問題も発生している。水の問題にも前向きに取り組んでいくことになる」とした。
廃棄物では、2030年までに廃棄物をゼロにする目標を掲げている。また、サーキュラーセンター(循環センター)の開設によるサーバーとコンポーネントの再利用の拡大、使い捨てのプラスチックの職掌、SurfaceやXboxを中心にした完全リサイクルが可能な製品およびパッケージングへの移行、廃棄物ゼロのオペレーションの推進などに取り組む。ここでは、2025年までにサーバーと部品の再利用率を90%に高めるほか、循環型経済に向けて3,000万ドルの投資を行うことも発表している。
生態系については、2025年までに、マイクロソフトが使用している面積を上回る土地を保護。AI for Earthプログラムを展開したり、地球規模の環境を調査するために必要なデータ、API、開発環境を提供する新たなクラウドサービスであるPlanetary Computerの構築、配備を加速する考えを示している。
AI for Earthプログラムは、2017年に発表したものであり、地球環境の問題解決に取り組むプロジェクトに助成金を出したり、テクノロジーによる支援を行ったりするものだ。農業、水、生物多様性、気候変動の4つの領域に注力し、政府や学術機関、NPO、革新的プロジェクトを持つ企業に所属する人などを支援している。
また、Planetary Computerでは、地球環境を維持、改善していくために必要とされるクラウドツールを開発するための基盤を提供。Planetary Computerにサインアップすると、リモートセンシングデータ、気象・気候データ、土地被覆データ、衛星画像データなどにアクセスでき、それらのデータを活用してアプリケーションを開発する環境や、開発したアプリケーションをホスティングする環境も提供される。
「生態系を保持し、改善するためには様々なデータが必要とされているが、それらが研究者や開発者が、手軽に使える状態にはない。Planetary Computerは、こうした課題を解決する新たなクラウドサービスになる。現時点では、正式版ではなく、プレビュー版として提供しており、利用者は限られている。それでも約4,000人がサインアップしている」という。
先ごろ、マイクロソフトが発表した「2021 Environmental Sustainability Report」では、2021年のサステナビリティに対する進捗状況について公表。カーボンについては、同社2021年度および2022年度において、250万トンのCO2除去に成功。水では、2021年度に130万立方mの水補充プロジェクトに投資。廃棄物では5カ所のサーキュラーセンターの設置計画を発表。生態系では、2021年度に1万7,000エーカー以上の土地を保護する契約を結んだという。
そのほか、本社キャンパス内の建屋の建て替えの際には、Azure IoTや分析、AIを活用したスマートビルディング化による電力と水の消費量の削減につなげ、その成果をホワイトペーパーとして公開したり、ハイブリッドワークの導入により、業務に伴う移動を減らすことでカーボンを削減。事業部門ごとのCO2排出量(1トンあたり15ドル)に応じてプールする社内炭素税の設定のほか、マイクロソフトからテクノロジーを提供することで、サプライヤーを含めたCO2排出量の削減や、吸収量に関する透明性の向上を行ったりという取り組みがあるという。
藤井氏は、「こうしたマイクロソフトのサステナビリティへの取り組みは、すでにお客様にも価値として提供することができている。マイクロソフトのクラウドサービスを利用することで、自ら運営していたオンプレミス環境と比べると、温室効果ガスは最大98%削減が可能であり、エネルギーの消費効率も93%効率化できる。グリーンIT基準への準拠、再利用可能なツールの提供も行っている」という。
温室効果ガスの排出量は、データセンターの建設方法やサーバーの搬入方法、稼働から廃棄までのプロセス、サーバーの設計変更、液浸による冷却方法の採用、データセンターとユーザーの通信回線などを含めた取り組みによって、最大98%の削減が可能になっているという。
また、「サステナブルに配慮した製品を使用するユーザーが増えることで、利用者の意識も向上する。こうした製品もアピールしていきたい」と述べた。
マイクロソフトでは、テクノロジー製品としては初めて海洋プラスチックを素材に利用し、マウス外装に重量比で20%配合した「Microsoft Ocean Plasticマウス」を製品化。日本でも発売している。
一方、2022年上期には、Microsoft Cloud for Sustainabilityの提供を開始することを明らかにした。マイクロソフトクラウドの上で、サステナビリティの管理を向上させる専用クラウドであり、現在はプレビュー版を提供している。
企業の各拠点からCO2排出量に関連するデータをAPI接続して、自動で収集。膨大なデータをもとにAIで分析し、インサイトを提示して、それに基づいたアクションを起こしたり、サステナビリティに関する経営戦略への取り組みを加速させたりといったことができるという。
また、クラウド利用時のCO2排出量を可視化するクラウドサービスのMicrosoft Emissions Impact Dashboardを提供している。Microsoft AzureやMicrosoft 365を利用した際に、関連するCO2排出量を測定するためのPower BIアプリケーションで、ユーザー企業が、自社のCO2排出量のレポートに活用できるという。「オンプレミスのデータセンターから、Azureのデータセンターに移行した際の節約量を概算値で提示する機能も追加した。無償で提供しており、クラウドのCO2排出量を可視化できる」とした。
今回の説明では、ユーザー企業におけるサステナビリティに貢献する事例も紹介した。
欧州のFloweでは、グリーンデジタルバンクを構築。ユーザーは再生樹木でできたデビットカードを有料で入手したり、買い物をするごとにどれぐらいCO2が発生しているのかを明細書に表示。CO2排出量の少ない店舗で物品を購入するように意識を変えたり、アプリから植樹をしたりといったことができるという。構想段階からマイクロソフトが関わったという。
また、オランダのRabobankでは、マイクロソフトや小規模農家との協力により、カーボンクレジット市場を創出。農地に木を植えて、成長した際の炭素固定にあわせたカーボンクレジットを発行。マーケットプレイスを通じて、大企業が購入することで、小規模農家は農業以外から収入を得ることができる。マイクロソフトはクラウドサービスの提供とともに、植樹した木の成長をリモートセンシングで管理するといった技術を提供しているという。
日本では、セブン銀行がEmissions Impact Dashboard for Azureを活用して、CO2排出量の可視化や分析を通して、実効的な取り組みを開始。東京大学では、CO2の回収、貯留に不可欠な物理、化学過程をシミュレーションするニューラルネットワークベースのモデルを開発。三井住友フィナンシャルグループでは、先ごろ発表したマイクロソフトとの戦略的提携のなかで、Microsoft Azure を活用したグリーンファイナンスや、サステナブルファイナンスのソリューション支援で協力していくことを明らかにしている。
「日本においても、サステナビリティを推進するための支援が具体的に始まっている。マイクロソフトでは、業界別クラウドを推進しているが、Microsoft Cloud for Sustainabilityは業界を横断した利用が可能なクラウドであり、最も信頼でき、包括的で、サステナブルなクラウドであるMicrosoft Cloudの上で稼働している。マイクロソフトの知見を活用してもらうことで、あらゆる企業のサステナビリティの活動に貢献できる」とした。
2022年は、サステナブルに関する様々なソリューションが数多く登場することになり、多くのユーザー企業の関心もそこに集まることになる。サステナブルな世界の実現に向けて、テクノロジーがどう貢献するのか。マイクロソフトの取り組みはその先端にあるといえる。