NECは、「NEC 2030VISION」の実現に向けたソートリーダーシップ活動の強化について説明。2022年4月1日付で、NEC社内に、同活動の専任組織としてソートリーダーシップ部を新設するとともに、NECグループのシンクタンクである国際社会経済研究所には、ソートリーダーシップ推進部を新設。「未来の共感」創りを目的にした社会への提言機能を持たせる。

さらに、国際社会経済研究所の新理事長に、シンクタンク・ソフィアバンクの藤沢久美代表を招聘し、常勤の理事長に就任することも発表した。

  • NECが「未来の共感」のために進めるソートリーダーシップ活動とは?

    NECがソートリーダーシップ活動についての説明会を開催した

NEC 2030VISIONは、2030年に暮らす人々が求める社会の姿をまとめ、NECが未来を切り拓く企業であり続けるための方向性を示すと同時に、NECがパーパス(存在意義)に掲げる「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指すこと」を、具現化するものと位置づけている。

NECでは、ソートリーダーシップの起点を「NEC 2030VISION」とし、NECの森田隆之社長兼CEOは、「NEC 2030VISIONは、環境、社会、暮らしという3つの観点から価値創造を目指しており、NEC 2030VISIONをきっかけに様々なステークホルダーと『未来の共感』を創り、テクノロジーの力を最大限に活用して目指す未来を実現することで、持続可能な社会の創造、SDGsの達成に貢献していく」などとこれまでに発言してきた。

  • 環境、社会、暮らしという3つの観点から価値創造を目指す「NEC 2030VISION」

よりよい未来を実現するためには、経済成長とサステナビリティを両軸としたベクトルを社会全体で共有していく必要があることや、そのためにはテクノロジーの活用の仕方や、ルールに関する合意形成が不可欠であり、ソートリーダーシップ活動を通じて、学術団体やシンクタンクと連携し、社会への働きかけを進めていることを示しながら、現在、同社が推進している2025中期経営計画においても、「未来の共感」創りを重要な取り組みのひとつであることを示している。

5つのテーマで課題解決を主導するソートリーダーシップ

今回の発表は、NECが、ソートリーダーシップ活動を通じて、「共感できる未来の姿」を発信し、ステークホルダーとともにイニシアティブを創り、市場関係者を募り、社会実証や社会実装を進め、将来の市場形成を目指す姿勢を明らかにしたものといえる。

NEC 2030VISION およびソートリーダーシップ活動の責任者であるNEC 取締役 執行役員副社長の石黒憲彦氏は、「様々なステークホルダーと未来の共感をともに創り、デジタルの力で、その未来を実現することで、サステナブルの社会の創造、SDGsの達成に貢献したい」と述べた。

  • NEC 取締役 執行役員副社長の石黒憲彦氏

具体的には、NECが、Environment、City、Communication、Business、Lifeの5つのテーマにおいて、社会実装していくためにソートリーダーシップ活動を開始。これらのテーマの実現に向けて、パブリックセクターや市民、企業、スタートアップ、アカデミア、財団などのステークホルダーによる協力体制の構築を進める。

  • Environment、City、Communication、Business、Lifeの5つのテーマでソートリーダーシップ活動を開始

NECの石黒副社長は、「5つのテーマにおいては、カーボンニュトラルやデータ駆動型都市運営、Beyond 5G、デジタルガバメント、ヘルスケアなどの事業を推進することになるが、これらは関係する多様なステークホルダーが多数存在し、NECだけで市場が形成できるものではない。事業テーマごとに各論化した将来事業ビジョンを描き、共感を得て、仲間づくりをすること、初めて実現できる。技術やアイデアを社会に実装していくためには、将来に向けた共通のビジョンを持ち、社会への道筋を示す羅針盤に納得してもらわなくてはならない。この社会実装への道筋がソートになる」と説明。「NECのソートリーダーシップ活動とは、将来ビジョンと社会実装に向けた道筋を描き、パートナー、ステークホルダーとともに未来を語りあい、未来への共感を育むエコシステム、社会実装のための座組みを形成し、社会イノベーションを起こし、将来の市場を共創する活動になる」と述べた。

活動については、2025年に向けて、「共感できる未来の姿の構想」、「発信力の強化、仲間づくり」、「市場の巻き込み、構想価値実証」、「エコシステム形成」、「社会システム実装、事業ベース創出」といった段階を踏むことになる。

  • 社会実装に向けたロードマップ

すでに開始している取り組みとして、大阪大学との連携により、NEC Beyond 5G協働研究所を設置し、Beyond 5G領域の社会実装までを見据えた成果の創出、ビジョン形成、社会コンセンサスの醸成を目指しているほか、東京大学大学院工学系研究科とは、社会実装や人材育成を目指してBeyond 5G価値共創社会連携講座を開始。和歌山県白浜町との地域活性化IoTデジタルプラットフォーム先行実証では、顔認証技術を活用して、南紀白浜 IoTおもてなしサービスとして、本人認証のウェルカムサービス、手ぶら決済、キーレスドア開錠などを実現している。

また、NECのフェローやマネージングエグゼクティブが執筆した書籍を通じて、最新テクノロジーやDXに関する情報を発信。「将来市民におくるスマートシティ」をテーマにした対談冊子の発行や、「行政のデジタル化」に関するホワイトペーパーも発行している。

「対談冊子では、スマートシティの実装には都市経営の視点が不可欠であり、データ駆動型の都市運営を通じて、データに基づき、一定の住民合意を得ながら、戦略的な投資を行い、コストを削減していくことの重要性を指摘している。また、市民の意見にタイムリーに応えられるレシポンシブルな都市づくりについても、富山市、高松市とのスマートシティの取り組みを通じて手応えを感じている。さらに、行政のデジタル化においては、デジタルの力でウェルビーイングな社会の実現を目指すために、日本のデジタルガバメントが追求すべき5つのコンセプトを提言。子会社であるデンマークのKMDの経験から、必要な人に必要なサービスを行政が提供できることが大切であることなどを示している」という。

さらに、社会像の実現に向けたパートナーとのイニシアティブとして、産業横断エコシステム型新事業開発において、多種多様な140以上の企業、団体が参加する産業横断イノベーション研究会「API Economy Initiative」のほか、日本発の共創型R&D事業に取り組む「BIRD INITIATIVE」、東京大学との文理融合研究によるAI倫理の強化などの取り組みをあげた。

  • すでに開始している具体的な取り組みの事例

活動を強力に推進するための専門組織も新設

2022年4月1日付で、NEC社内に設置する専任組織のソートリーダーシップ部は、経営企画部門のなかに置かれ、インテリジェンスやコミュニケーション、サステナビリティといったパーパス経営に必要な要素を統合。さらに、R&D部門との連携により、AIや生体認証、量子、通信などの分野において、アカデミア連携、文理融合領域の共創、先端技術領域の社会実証を進める。

一方、NECグループのシンクタンクである国際社会経済研究所では、ソートリーダーシップ推進部を新設し、数人規模でスタート。「未来の共感」創りを目的にした社会への提言機能を持たせ、事業拡大にあわせて人員を倍増させる計画だ。

そして前述の通り、国際社会経済研究所の新理事長に、シンクタンク・ソフィアバンクの藤沢久美代表を招聘する。

  • 国際社会経済研究所の新理事長に就任する藤沢久美氏

NECの石黒副社長は、「国際社会経済研究所は、人事、組織の両面で抜本的拡充を図る。藤沢新理事長には、シンクタンク機能の強化、共創活動に力を発揮してもらうことになる。外部有識者のネットワークづくりへの貢献にも期待したい。また、社長に就任した松木俊哉氏は、NECと赤十字国際委員会による紛争地における人道問題の解決に日本の技術を活用するための共同プロジェクトの責任者であったほか、発展途上国開発に貢献する活動を行っており、日本の技術による世界への貢献を通じて、ソートリーダーシップ活動を展開し、NECと国際機関とのパートナーシップを通じて、技術の社会実装を後押しすることになる。さらに、国際社会経済研究所に新設するソートリーダーシップ推進部は事業に対して中立的な立場を生かしながら、政府、アカデミア、国際機関、NPO、NGOなどの外部機関との連携を深め、外部有識者ネットワークとの結節点となり、グローバルの社会知を集約する役割を担いたい」としている。

  • ソートリーダーシップ活動を強力に推進するための組織へ

2022年4月1日付で国際社会経済研究所の新理事長に就任する藤沢久美氏は、「理事長への就任は、NECという会社そのものへの共感、ソートリーダーシップ活動への共感がきっかけになっている」とし、「NECの業績が厳しかった2010年頃に、ビジョンやパーパスを作り上げる様子を端から見てきた経緯があり、いよいよ土台ができ、次のステージに向かい始めたことに感動している。そのNECとの縁がうれしい。また、私自身、ビジョンを提示して、様々なステークホルダーと一緒になって世界を変える取り組みをしてきたが、石黒副社長が、経済産業省時代にオープンイノベーションに取り組み、そのときの本を参考に取り組んできた経緯がある。NECという大きな組織とともに、一緒な仕事ができることにワクワクが止まらない。さらに、国際機関と一緒に活動し、責任者を務めた松木社長から、学ぶことができる機会も得られる。研究所のメンバーにも素晴らしい人がいる。世界の課題を解決するシンクタンクを一緒に作りたい。この活動が、NECの成長、日本の成長につながることに向けて尽力したい」と述べた。

  • IISEの取り組むソートリーダーシップ活動

今後の成長、未来を描き多くの人の共感を得ることが不可欠

今回、NECがソートリーダーシップへの取り組みを発表した背景には、今後のNECの成長には、未来の共感を得ることこそが、重要な要素だと位置づけている点がある。

NECの森田社長兼CEOは、かつてのインタビューのなかで以下のように語っていた。

「NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造する会社であることをパーパスに盛り込んでいるが、これを実現するためには、社会との共創や、社員を含む多くの人たちとの共創が必要である。共創してもらうには、NECが目指す未来に対して共感してもらわなくてはならない。そのためには、NECと一緒に共創すると、どんないいことがあるのかといったことも示さなくてはならない。もし、NECの未来に共感できないのであれば、NECの顔認証技術がいくら優れていても、NECには任せたくないということになってしまう。しかし、NECが描いている未来に共感ができれば、そこに参加してくれる人や組織、社会が増え、一緒にやる機会も増加し、個人それぞれの自己実現に貢献できるかもしれない。NECが描いている未来は何か、ということを提示し、それを発信し、そこに共感を得てもらうことが大事である。とくに、NECが事業を行っている社会価値創造という領域は、未来の共感こそが、重要である。未来の共感を創ることがNECの責務であり、それによって新たな価値創造に貢献できる」としていた。

NECが、ソートリーダーシップに力を注ぎ、未来の姿を描き、共感を得ることは、NECの技術や製品、サービスを、世界で広く活用してもらうという点でも、回り道ではなく、最初に取り組むべき大切な要素であるとの考え方がベースにある。

NECの石黒副社長は、「ソートリーダーシップの成果については、スマートシティの採択数や、主要事業におけるブランド認知度などで推し量ることになる」と語るように、評価はやはり事業軸から見ることになる。

NECの事業成長と、未来の共感を創るソートリーダーシップは、表裏一体の取り組みだといえる。